2016.05.08記事「「オオヤツ」と「オオサク」の意味の違いと「オオサク」伝承の重大意義」で旧石器時代・縄文時代の狩猟に基づく谷地形把握が小字「オオサク」系統に、弥生時代以降の水田耕作に基づく谷地形把握が小字「オオヤツ」系統に対応するという作業仮説を立てました。
同じ作業仮説を関連小字に投影してみて、不都合がないか、検討してみました。
この記事では「ヤツ」「サク」について検討します。
1 「谷」によるデータベース検索
「谷」について千葉県小字データベースを検索した結果からその読みを分類し、その読みで再びデータベースを検索して、その結果から読み毎の表記を分類しました。
「谷」検索結果と読みによる検索
この検索作業により、「谷」に関連して、「ヤツ」系統、「サク」系統、「タニ」系統の読みがあり、それらの読みは「谷」「作」などの表記とクロスして関連していることが判りました。
「大谷」からスタートして行った、「オオヤツ」「オオサク」の検討とほぼ同じ結果となりました。
2 小字表記「谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ
「谷」を中心とする小字群の統合分離イメージは「大谷」の場合とほぼ同様に、次のように作業仮説として持つことができます。
小字表記「谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ(2016.05.08作業仮説)
3 小字読み「ヤツ」の分布
小字読み「ヤツ」の分布を示します。
小字読み「ヤツ」の分布
上総国付近は密に分布し、下総国付近は粗に分布しています。
その分布特性は「オオヤツ」系統の分布と同じです。
「ヤツ」は、その言葉で地名を表現した最初の時には、地形用語ではなく水田開発可能地としての意味を持っていたと想像します。
参考 小字読み「オオヤツ」の分布
4 小字読み「サク」の分布
小字読み「サク」の分布を表記「作」等と「谷」に分けて示します。
小字読み「サク」の分布
小字読み「サク」の分布は「オオサク」の分布と酷似しています。
読みは「サク」で表記は「谷」の分布域が香取市、多古町、匝瑳市の市町境界付近に集中しています。
この付近に狩猟時代の言葉や文化を伝える人々が少なくとも中世から近世初頭頃までは住んでいたと考えました。
「サク」の意味は狩場利用可能地という意味を帯びた言葉であったと想像します。
参考 小字読み「オオサク」の分布
5 小字読み「タニ」の分布
小字読み「タニ」の分布を示します。
小字読み「タニ」の分布
小字読み「タニ」は下総国付近にまばらに分布し、その様子は小字読み「オオタニ」と酷似しています。
小字読み「タニ」は「サク」から転換したものと考えます。
「タニ」や「オオタニ」が分布する場所は、小字を文字表記する時代には狩猟時代の言葉や文化を伝える人々が住んでいたのですが、その後その人々がいなくなり、つまり「谷」(サク)を伝える人々がいなくなったために、後に住んだ人々が文字表記「谷」を漢字通りに読んで「タニ」になったと考えます。
参考 小字読み「オオタニ」の分布
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