検討は、鏡味完二の著作物を学習することにより地名に関する基礎学習を行うという目的と、千葉県の小字の分析を行い、千葉県の考古歴史の情報をより立体的に知るという本来目的の双方を念頭におきます。
以前WEB古書店から取り寄せておいた次の図書がようやく生きそうです。
●学習に使う鏡味完二の著作物
鏡味完二(1958)「日本地名学地図編」(日本地名学研究所)
鏡味完二(1965)「地名学」(日本地名学研究所)
鏡味完二・鏡味明克(1977)「地名の語源」(角川書店)
鏡味完二(1981)「日本地名学(上)科学編」(東洋書林)
なお、鏡味完二の著作物はその発行から既に40年~60年経っています。その間の科学の進歩は著しいものがあると考えます。
素人ながら、鏡味完二の著作物は最新知識によって大幅に書き換えられなければならないに違いないと思います。
しかし、不思議なことに、私が調べた範囲では鏡味完二が相手にした地名という分野で、それを乗り越えるような著作物にお目にかかっていません。
鏡味完二が体系づけた地名学と称する学問分野は消滅したように感じます。
このような事情からしかたなく鏡味完二の著作物を学習するのですが、それを超えている地名に関する体系的情報が世の中に存在するならば、その最新知識の学習に移行したいと思います。
この記事では地名型イラ・エラについて検討します。
1 鏡味完二のイラ・エラに関する検討
鏡味完二は古い言葉は地名に残るとともに、方言にも残り、その二つの情報を対照させて地名を検討しています。
イラは大分方言で「うろこ」、エラは京都方言で「うつろ」、山口方言で「水辺の穴」で、対象物が若干異なるが、鰓は「うろこ」型をなし、「うつろ」「穴」をなしているので、イラは鱗の意味から洞穴の地名になったと説明しています。
イラ・エラとも洞穴を意味していると考えられます。
その分布は次のようになります。
Ira Eraの分布
注)鏡味完二の地名は全て5万分の1地形図から収集したものですから、大字レベルの地名です。
エラが九州地方中心に分布し、その外圏をイラが囲んでいるので、分布上はエラが古く、イラが新しいとしています。
エラとイラは母音相通の関係にあるとしています。
なお、鏡味完二は日本語が3母音(あ、い、う)から5母音(え、お)に増母したと考えていて、それで多くの地名新旧が判る場合が多いと考えています。
しかし、イラ・エラはその逆であり、5母音を持ったアジアの支族が琉球を経由して入ってきたと考えているようです。
母音の変化などに関する知識は鏡味完二の時代と比べて、現代ではその量が格段に増えているでしょうから、鏡味完二説の検証は素人でもある程度可能かもしれません。
2 イラ・エラの千葉県小字データベース検索
エラは抽出されませんでした。
イラは3件抽出されました。
小字読み「イラ」系統の分布
袖ヶ浦市久保田の以良籠(イラゴ)
鴨川市宮の伊良田(イラタ)
館山市洲崎の以良瀬(イラセ)
の3件です。
いづれも海岸に位置する場所の小字であり、本来洞穴を意味するという鏡味完二の説明に符号します。
鏡味完二はイラ・エラが国語学的に古い言葉であるので、地名として成立した時代が古いと考えているようです。
その古さのイメージを明確に捉えることができませんが、朝鮮などから日本に人々が流入してきたころのようですから、弥生時代や古墳時代のことであり、縄文時代に遡る古さではないようです。
全国的な分布図が出来ている古い地名イラ・エラが千葉県にも3件存在していることがはじめて判ったことになります。
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参考 小字「フイラ」
イラ・エラの検討の中で「フイラ」(吹良、吹羅)という小字が2件あり「フ-イラ」か「フイ-ラ」か検討しました。
その結果、漢字の読みの通り、「フイ-ラ」であり、ホラガイを吹き鳴らした場所という意味であるとかんがえました。
戦争・一揆・修験道活動などでホラガイの吹き鳴らしがあり、それが地名になったものと考えます。
参考 小字読み「フイラ」の分布
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