1 土器出土数のおさらい
大膳野南貝塚前期後葉集落の石器出土数分布を土器出土数分布と比較しながら考察するために、最初に土器出土数をおさらいします。
次の分布図は土器・石器出土量(中テン箱数)を示したものです。
大膳野南貝塚 前期後葉 土器・石器出土量(中テン箱数)
土器と石器を合わせたものですが、土器出土量に近似するデータとして利用できると考えます。
J56が特段に多いことが特徴となっています。
土器形式は浮島式土器と諸磯式土器が出土し、どちらかの形式が凌駕する竪穴住居が多いので、その凌駕する土器形式(主体形式)を次の分布図にプロットしました。
この分布図は当初は発掘調査報告書の記述を細かく分析して、文章の表現に忠実に従って作成したのですが(2017.04.02記事「大膳野南貝塚 浮島式土器と諸磯式土器」参照)、その後発掘調査報告書のまとめに形式優位性の記述がありましたので、そのまとめ記述に従い改訂したものです。
大膳野南貝塚 前期後葉 竪穴住居祉 主体土器形式分布
空間的に浮島式土器と諸磯式土器が棲み分けているように観察できます。
土器・石器出土量が多い竪穴住居(J56、J72)は浮島式土器が主体の竪穴住居になります。
なお、参考までに土製品出土竪穴住居を示すと次のようになり、J56、J72竪穴住居が該当します。
大膳野南貝塚 前期後葉 土製品出土竪穴住居
上記の土器関連分布図と対照しながら石器出土分布を考察することにします。
2 石器出土分布
2-1 石器製品合計出土数
次の図は石器製品合計出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 石器製品合計出土数
石器製品合計出土数分布は土器出土量分布と似た分布を示します。
竪穴住居主人が死亡してその竪穴住居が廃絶し、故人の送り祭祀をするときに供えられた土器の量と石器の量はほぼ相関するというイメージを持つことができました。
土器の量が増えれば、石器の量も増えるということになります。
2-2 狩猟関連石器出土数
次の図は尖頭器・石鏃合計出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 尖頭器・石鏃合計出土数
この分布図もJ56、J72が多く土器出土分布と似ています。
2-3 動物加工関連石器出土数
次の図はスクレイパー・石錐・石匙・クサビ形土器合計出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 スクレイパー・石錐・石匙・クサビ形土器合計出土数
この分布図も土器出土量分布とにているように観察できます。
2-4 漁撈関連石器出土数
次の図は軽石製品出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 軽石製品出土数
J58,J22の出土量が多く、その竪穴住居は諸磯式土器が主体の竪穴住居です。
浮島式土器主体の竪穴住居からも軽石製品は出土しています。
2-5 植物採集関連石器出土数
次の図は礫器・磨製石斧・打製石斧合計出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 礫器・磨製石斧・打製石斧合計出土数
石斧の出土数は少ないのですが、浮島式土器竪穴住居から出土していないことが特徴です。
2-6 植物調理加工関連石器出土数
次の図は磨石・敲石・凹石・石皿・スタンプ状石器合計出土数の分布図です。
大膳野南貝塚 前期後葉 磨石・敲石・凹石・石皿・スタンプ状石器合計出土数
これらの石器の出土数の合計は浮島式土器竪穴住居より諸磯式土器竪穴住居の方が倍近く多くなります。
狩猟や動物加工関連石器とは明らかに異なる分布傾向を示します。
3 考察
浮島式土器竪穴住居であるJ56からの石器出土数が特段の多く、次いでJ72が多いことが判りました。
石器出土数では浮島式土器竪穴住居が諸磯式土器竪穴住居を大きく凌駕します。
石器の中で狩猟・動物加工関連石器の占める割合が多いので、浮島式土器竪穴住居が狩猟と関連が深いことがイメージできます。
一方、漁撈・植物採集・植物調理加工関連石器を見ると、諸磯式土器竪穴住居の方が浮島式土器竪穴住居より出土数が多く、狩猟・動物加工関連石器と逆の傾向を読み取ることが出来ました。
興味深い発見です。
浮島式土器竪穴住居と諸磯式土器竪穴住居では生業の重点が異なっていた可能性が浮かび上がりました。
土器、石器の出土量、メイン生業である狩猟関連石器の出土量、祭祀関連土製品の出土などから、浮島式土器竪穴住居が優位であり諸磯式土器竪穴住居が劣位である関係性を観察できます。
その優位-劣位関係が同時代に存在したものであるのか、時間の前後関係であるのか興味が湧きます。
剥片の検討は次の記事で行います。
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参考
大膳野南貝塚 前期後葉集落 石器出土数
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