2020年1月25日土曜日

加曽利EⅠ式土器観察その1

縄文土器学習 321

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(平成30年度)と「同(印旛地域編)」(令和元年度 開催中)の展示土器(深鉢等)を全部同じ視点で観察することにします。
2年度にわたる展示土器の数は器台と注口土器を除いて深鉢等が全部で74点です。
加曽利EⅠ式土器 8点
加曽利EⅡ式土器 23点
加曽利EⅢ式土器 33点
加曽利EⅣ式土器 10点
74点の土器を1記事4-5点のペースで観察することにします。

1 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.1加曽利EⅠ式併行期土器(有吉北貝塚)

No.1加曽利EⅠ式併行期土器(有吉北貝塚)

実測図
千葉東南部ニュータウン19 -千葉市有吉北貝塚1(旧石器・縄文時代)-第1分冊(本文)」(平成10年3月、住宅・都市整備公団・財団法人千葉県文化財センター)から引用

器形観察
・口縁部は広がっていてキャリパー形ではありません。
・4つの把手を除くと口縁部は平であり波状ではありません。(EⅠ式の特徴に似ていると感じます。)
段構成観察
・胴部が2本沈線で2分され、上部に渦巻様の沈線模様が描かれています。
文様観察
・口縁部に竹管による刺突文が巡ります。
・底部に稜線を切る刻みがあります。
感想
・キャリパー形ではないことと、縦方向沈線がありませんから加曽利EⅠ式土器とは言えないと理解します。
・成立期段階(勝坂・阿玉台末/加曽利EⅠ式初)土器の1例がこのようなものであると理解します。

2 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.2加曽利EⅠ式前段階土器(荒屋敷貝塚)

No.2加曽利EⅠ式前段階土器(荒屋敷貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・口縁部がラッパ状に広がり、キャリパー形ではありません。
・カーブした大把手と対抗位置に別の把手があるようです。把手を除くと口縁部は平でありEⅠ式の特徴に似ていると感じます。
段構成観察
・頸部と胴部が3本の沈線で2分されています。
文様観察
・口縁部に刻みが巡ります。刻みは一部2重になっています。
・頸部、胴部とも縄文が施されています。
・縦方向沈線はありません。
感想
・器形がキャリパー形ではないことと縦方向沈線がないことから、加曽利EⅠ式前段階土器としているのだと思います。
・成立期段階(勝坂・阿玉台末/加曽利EⅠ式初)土器の1例がこのようなものであると理解します。

3 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.3加曽利EⅠ式大把手小突起対向土器(有吉北貝塚)

No.3加曽利EⅠ式大把手小突起対向土器(有吉北貝塚)

実測図
「千葉東南部ニュータウン19 -千葉市有吉北貝塚1(旧石器・縄文時代)-第1分冊(本文)」(平成10年3月、住宅・都市整備公団・財団法人千葉県文化財センター)から引用

器形観察
・狭い口縁部が内傾していて、形状がキャリパー形に近づきつつあります。(頸部と口縁部が角度をもって接しているのでキャリパー形とは形容できないと考えます。)
・円環を有する大きな把手と対抗位置に小突起があります。把手と小突起を除くと口縁部は平であり、EⅠ式の特徴を備えています。
段構成観察
・口縁部と頸部は刺突文で、頸部と胴部は3本沈線で区切られ、全体が3段構成になっています。
文様観察
・口縁部は沈線で細い区画と列線の模様が描かれています。
・頸部は縄文が全面に施されています。
・胴部は垂下する直線沈線と蛇行沈線が施され、EⅠ式の特徴そのものを備えています。
・発掘調査報告書ではこの土器を「頸部無文帯成立以前の加曽利EⅠ式」土器として分類しています。
感想
・形状がキャリパー形に近づいたことと、縄文を切る懸垂沈線があるので、加曽利EⅠ式土器そのものであると判別できるのだと思います。

4 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.4加曽利EⅠ式口縁部矩形区画文土器(有吉北貝塚)

No.4加曽利EⅠ式口縁部矩形区画文土器(有吉北貝塚)

実測図
「千葉東南部ニュータウン19 -千葉市有吉北貝塚1(旧石器・縄文時代)-第1分冊(本文)」(平成10年3月、住宅・都市整備公団・財団法人千葉県文化財センター)から引用

器形観察
・口縁部が内傾しキャリパー形に近づいています。
・口縁部は平ですが、小突起が一つへばりついています。
段構成観察
・胴部(頸部)と口縁部が隆帯で区切られ、段構成は胴部と口縁部の2段になっています。
文様観察
・口縁部は隆帯による矩形区画文7単位巡らされています。
・胴部には2本一組の沈線7単位が垂下しています。(口縁部区画文とは4単位だけで一致する。…発掘調査報告書による。)
感想
・器形がキャリパー形に近づき、垂下沈線が胴部に巡らされていることから、この土器を加曽利EⅠ式土器であると確認できます。
・口縁部区画文内の縄文の向きと胴部縄文の向きが逆になっていて、それは加曽利E式土器の一般傾向であると理解しています。口縁部意匠が特段重要であることを示唆していると考えます。

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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり





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