2021年4月19日月曜日

加曽利EⅡ式深鉢(No.15)(市川市今島田貝塚) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 583

この記事では加曽利貝塚博物館R2企画展「あれもE…」で展示された加曽利EⅡ式土器(No.15)を3Dモデルで観察します。この土器は連弧文土器といわれるものです。

1 加曽利EⅡ式深鉢(No.15)(市川市今島田貝塚) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(No.15)(市川市今島田貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.02.09

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 59 images


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3 メモ

・土器は2段に分かれ、上段に3本1組沈線による先の尖った波状連弧文が2つ、下段には上に先の丸い波状連弧文、下に先の尖った波状連弧文が描かれています。最下段の連弧文は土器使用による表面摩滅により消えかかっています。


土器の文様

・連弧文が比較的しっかりと描かれているので、連弧文土器衰退期よりも前の時期につくられたと想像します。

・土器の形状がズングリムックリしていて、加曽利EⅢ式土器意匠充填系土器に見られるものと似ています。

・最上部波状連弧文の波頭部一つ置きに、沈線による渦巻文が描かれています。


2021年4月18日日曜日

加曽利EⅡ式深鉢(No.32)(松戸市子和清水貝塚) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 582

この記事では加曽利貝塚博物館R2企画展「あれもE…」で展示された加曽利EⅡ式土器(No.32)を3Dモデルで観察します。磨消懸垂文のある加曽利EⅡ式土器です。

1 加曽利EⅡ式深鉢(No.32)(松戸市子和清水貝塚) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(No.32)(松戸市子和清水貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 65 images


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3 メモ

No.32土器は胴部に磨消懸垂文があり、口縁部の渦巻文が整然とよく巻かれているので有吉北貝塚土器分類でいえば第10群に該当すると考えます。


有吉北貝塚中期土器分類

埼玉編年(1982)の土器分類でいえばⅫa期1群B類(口縁部文様帯が渦巻文主導形のもの。渦巻文と三角形区画文とが組み合わさって口縁部文様帯が構成され、胴部に磨消懸垂文を持つもの。)に該当すると考えます。

4 縄文と沈線の施文順序

No.32土器では縄文が施文された後、沈線が施文されたことが沈線の縁の縄文がめくりあがっていることから明瞭です。


No.32土器の沈線縁の縄文盛り上がりの様子

後代の称名寺式土器では逆に沈線が施文されてから縄文が施文されます。


称名寺式土器の沈線縁の縄文の様子

縄文と沈線の施文順序の違いは縄文と沈線のどちらが図になるか(主題となるか)という違いです。つまり単純な技術的順序変化ではなく、意味論的に重要な変化がそこにあると看取できます。

空想的ですが、次の思考をメモします。

加曽利EⅡ式土器(No.32)…縄文が地、沈線・磨消垂下文が図→沈線・磨消垂下文がより重要→集落間の縄張りを確定させ確実に土地を確保することが重要課題であった。(背景:人口急増)

称名寺式土器…縄文が図、沈線が地→縄文がより重要→土地(自然)から恵を得ることが重要課題となった。(背景:人口急減、社会の破綻)

・縄文と沈線の施文順序に関する問題指摘は2019.02.16加納実先生講演で教えていただきました。2019.02.17記事「加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」学習メモ


2021年4月17日土曜日

加曽利EⅡ式深鉢(No.68)(鎌ヶ谷市大堀込遺跡) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 581

加曽利EⅡ式土器の学習を始めました。この記事では加曽利貝塚博物館R2企画展「あれもE…」で展示された加曽利EⅡ式土器(No.68)を3Dモデルで観察します。

1 加曽利EⅡ式深鉢(No.68)(鎌ヶ谷市大堀込遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(No.68)(鎌ヶ谷市大堀込遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.02.09

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 53 images


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3 メモ

胴部を観察すると3本1組の沈線が直と蛇行で交互に垂下しています。そこに磨消はありません。


垂下沈線の観察

従ってこの加曽利EⅡ式土器は有吉北貝塚発掘調査報告書の分類での第9群土器に該当します。埼玉編年(1982)でのⅪ期土器になり、詳細にはⅪ期1群土器B類(口縁部文様帯が楕円区画と渦巻文で構成されるもの。胴部懸垂文は、隆帯や沈線が使用される。)に該当するものと考えます。


参考 有吉北貝塚中期土器分類

有吉北貝塚出土加曽利EⅡ式土器学習の開始

 縄文土器学習 580

有吉北貝塚出土土器学習を継続していますが、加曽利EⅠ式土器学習が一応終わりましたので、加曽利EⅡ式土器学習を開始することにします。有吉北貝塚に土器学習のメインは加曽利EⅡ式土器ですから、いよいよ学習の本番になるということです。この記事では加曽利EⅡ式土器の概要と学習の仕方をメモします。

1 有吉北貝塚における加曽利EⅡ式土器分類概要

有吉北貝塚では加曽利EⅡ式土器を次のように3つに分類しています。


有吉北貝塚における加曽利EⅡ式土器分類

第9群土器…胴部磨消懸垂文成立以前の加曽利EⅡ式

第10群土器…胴部磨消懸垂文成立以後の加曽利EⅡ式で、連弧文土器が盛行する段階

第11群土器…連弧文土器が衰退し、キャリパー形土器が盛行する段階の加曽利EⅡ式

2 埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

有吉北貝塚発掘調査報告書における土器群分類は埼玉編年に準拠しています。埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類は次のように対応します。


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応(加曽利EⅡ式期)


参考 加曽利貝塚博物館企画展配布資料抜粋

3 加曽利EⅡ式土器学習方法

有吉北貝塚加曽利EⅡ式土器学習を次のようなステップで行うことにします。

ア 埼玉編年における土器群分類の理解

埼玉編年土器群細分をカードにして最初に学習します。

イ 加曽利貝塚博物館企画展(あれもE…)展示加曽利EⅡ式土器の観察

加曽利貝塚博物館企画展(あれもE…)展示加曽利EⅡ式土器の観察記録3Dモデルを使って観察し、土器分類についての理解を深めます。


3Dモデル作成済の加曽利EⅡ式土器14器

ウ 発掘調査報告書実測図・写真による観察

発掘調査報告書掲載実測図・写真により代表土器をカードにして観察します。(竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別)

エ 第9群、第10群、第11群の分布検討

第9群、第10群、第11群の分布について竪穴住居と土坑、北斜面貝層について検討します。

……………………………………………………………………


参考 有吉北貝塚中期土器分類


参考 有吉北貝塚発掘調査報告書掲載の縄文中期土器編年表

(埼玉のⅫはⅫaの、ⅩⅢはⅫbの、ⅩⅣはⅩⅢの、ⅩⅤはⅩⅣのミスプリのようです。)

2021年4月15日木曜日

方言漢字

 今朝(2021.04.15)の日経文化欄に「垳・鮓…方言漢字知ってる?」(昼間良次)という論説が掲載されています。方言漢字という概念に興味が深まりました。地名に関して6年程にメイン趣味活動として熱中したことがありますが、その楽しさが、「方言漢字」という概念を引き金にして、鮮やかに蘇りましたので、メモしておきます。


昼間良次著「垳・鮓…方言漢字知ってる?」2021.04.15日経朝刊

1 方言漢字

昼間良次さんは「実は漢字にも、限られた範囲で使われる字や音訓が存在しており、地域性を持つ「方言漢字」は全国に千ほどある。」と述べられています。そして、埼玉県八潮市の大字「垳(がけ)」などの希少な例を説明されています。

2 千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例

以前「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)の付録「小字一覧 8万余)をデータベース化しました。しかし、最新Windows環境で拾えない漢字が多数出ました。地名ですからその小地域で使われている漢字ですが、一般的に普及している漢字ではありません。今思うと、その漢字は「方言漢字」そのものです。


千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例

3 〓(へん「山」+つくり「票」)

市原市に漢字〓(へん「山」+つくり「票」)をビョウとかヒョウとか読んでつかう小字があります。


市原市小字の一部

「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)付録「小字一覧」)から引用加筆

「中峠式土器」などで使われる峠(ヒョウ、ビョウ)の仲間の漢字です。地域性豊かな造字であると考えます。方言漢字そのものです。

4 柳田國男による〓(へん「山」+つくり「票」)の説明

柳田國男は「地名の研究」(1935)の中で「峠をヒョウということ」という論説を書いています。この中で漢字「峠」をヒョウと読む起源仮説を詳しく説明しています。要約すれば次のようになります。

「土地境界を定めるために標(ツクシ…標木)を立てる風習が古来からあった。この標を漢音でヒョウと読むようになった。その後標木(ヒョウ)のある場所をヒョウと呼ぶようになった。さらにその後、標木(ヒョウ)のある場所に峠という漢字を当てた。」ということになります。標木が置かれる土地境界付近の地形イメージが峠(とうげ)イメージに合っていたということです。

柳田國男はこの峠をヒョウと読む説明のなかで〓(へん「山」+つくり「票」)について次のように述べています。

「そこで自分は〓(へん「山」+つくり「票」)はすなわち標であろうと考えてみたのである。峠という漢字は和製であろうが、それにヒョウとう音の生ずる理由はなかった。ただ丘陵の峰通りの、通路で横断する地点を村の境としていたために、標とは峠のことと誤解して、しかも普通の標と区別すべく、いつとなく山偏の字を使用したものかと思う。」

〓(へん「山」+つくり「票」)をまさに方言漢字として説明しています。

5 感想

新聞記事で大いに地名学習が刺激されました。

縄文学習の区切りがつくことがあれば、そしてその時まだ余命と健康が残っていれば、地名学習にまた戻りたいと思います。

なお、縄文学習と地名学習はかけ離れているように思えて、実は繋がっている部分もあります。例えば地名「千葉」が実は縄文時代に起源を有する地名かもしれないと密かに妄想しています。

地名「千葉」は縄文語起源 梅原猛仮説

縄文時代から現代までヒトと言葉は継続しているので、縄文時代地名が現代まで伝わっているものがあると考えることはまことに合理的な考えです。

2016.05.25記事「台地開析谷を表現する地名サクの語源」など

2021年4月14日水曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 5

 縄文土器学習 579

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は土坑出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 SK332 1番土器


SK332 1番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は口縁部に隆帯と沈線で渦巻文等を構成し、胴部には垂下する3本一組の沈線が渦巻文や剣先状モチーフを描くものである。」

キャリパー形の土器で主文様帯が口縁部にあり、胴部に垂下沈線があることなどから「正統」な加曽利EⅠ式土器であると理解します。沈線に渦巻文と剣先状モチーフが隣接して存在していますが、これはセットであり、次のSK164 72番土器説明の「有棘渦巻文」であると理解します。「有棘渦巻文」は大木式の影響を受けた文様であると理解します。

2 SK164 72番土器


SK164 72番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「72は細い粘土紐による有棘渦巻文等を口縁部文様帯にもつものである。」

次図のようにクランク文が基本的文様であり、それに有棘渦巻文が付いた文様であると理解します。


クランク文が基本で、それに有棘渦巻文が付属し、さらにクランク文の一部が細区画されたという理解

3 SK321 333番土器


SK321 333番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「333は上部に渦巻文を描いた4単位の把手を持つ波状口縁の深鉢である。図の正面と左側の把手上の渦巻文は、口唇部上を巡る沈線で連携し、それと対になるように裏側と右側のものが連携している。肥厚する口縁部無文帯部には指頭状工具による押圧が加えられ、胴部には地文縄文が施文される。」

器形がキャリパー形ではなく、埼玉編年(1982)でいう第2群土器(折衷土器)の一種であると考えます。SB190 2番土器に似ています。(2021.04.11記事「有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2」参照


参考 SB190 2番土器

4 SK223a 3番土器


SK223a 3番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「3は波頂部に渦巻文の付く波状口縁の深鉢で、口縁部には沈線で2本に分けられた隆帯によるクランク文が巡る。クランク文の先端は渦巻文になっている。明確な頸部無文帯は2本の沈線で胴部文様帯と画され、胴部には蛇行沈線と3本一組の直沈線とを交互に垂下する。」

波状口縁の波頂部渦巻文のあり方はSK321 333番土器と似ています。

[文様の意味に関する思考メモ]

・口縁部…天空界

・頸部無文帯…地上界と天空界の間の空(そら)

・胴部…地上界

・波頂部の渦巻文…吹き上がる理想の湧水

・口縁部渦巻文…湧水

・口縁部クランク文…理想の生活領域(理想の縄張り、海と陸の双方の空間を含む縄張り)

・クランク文隆帯を2つに分ける沈線…複数の独立したクランク文が隣接して描画されていることを強調している。

・胴部垂下蛇行沈線…河川

・胴部垂下直沈線(3本一組)…生活領域の区画(隣接集団(集落)との間で取り決められた活動権利区域)(3本の真ん中線…真の区画線、両側の線…隣接集団(集落)が相手領域を犯さないように定めた自主的区画線)

・口縁部と胴部の縄文…区画(生活領域)に存在する自然(植生)をパノラマ遠望的に表象する。

5 感想

・土坑出土土器片は南北斜面貝層出土土器片より大型のものが多いようです。土坑では完形土器や大型土器片を意図的に埋置する行為が多いことと、後年の撹乱が少ないことによると考えます。

・有棘渦巻文というテクニカルタームを知ることが出来ました。魔除け的な効果のある文様だと思いますが、大木式土器学習の中でその起源や意味について学びたいと思います。

・SK223a 3番土器を例に文様の意味に関する思考をまとめました。文様の意味に関する思考(検討、想像)は考古学分野の活動ではなく、神話学(古代心理学)分野の活動であると区別した上で楽しむことにします。


2021年4月13日火曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 4

縄文土器学習 578

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は北斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 北斜面貝層 155番土器


北斜面貝層 155番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「155は南東北の大木様式の資料と思われる。やや括れた頸部に横長の楕円形区画文が廻り、胴部文様帯にはL撚糸文を地文に並行沈線による渦巻状や波状、クランク状の文様が整然と配されている。大木8aであろう。」

クランク文のふるさとが大木式にあるようですから、勝坂式、阿玉台式だけでなく大木式の学習を予定したいと思います。

2 北斜面貝層 166番土器


北斜面貝層 166番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「166はキャリパー形土器の破片資料。地文は撚糸文。波状文が文様帯の上下の隆線に接して三角形区画文になっているもの。」

南斜面貝層260番土器(2021.04.12記事)と類似土器と思いますが、撚糸文であることが気になります。有吉北貝塚では撚糸文と縄文の割合がどの程度であるのか、今後注目して学習することにします。

3 北斜面貝層 171番土器


北斜面貝層 171番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「171はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取されるが、区画が粗雑に扱われている。」

2条の垂下沈線も観察できます。

4 北斜面貝層 176番土器


北斜面貝層 176番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「176はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取される。口縁は平縁を基本とするが、176のように第7群の161や162からの系譜と見られるものも残存する。」

口縁部が波状を呈し、波頂部の口唇に渦巻文を配する加曽利E式土器はS字状文が付されていることが多いと感じています。関東西部に起源を有する文様かもしれません。今後注目して学習することにします。


参考 第7群161、162

5 感想

・北斜面貝層は加曽利EⅡ式期から使われたようなので加曽利EⅠ式土器とそれ以前の土器は加曽利EⅡ式期以降に流れ込んだもののようです。従って破片が多くなっています。

・破片資料からも多くの情報を汲み取ることができることを知りました。

・加曽利EⅠ式土器学習を起点にして、過去に土器様式を遡る学習(勝坂式、阿玉台式、中峠式)、同時代別様式の学習(大木式学習、曽利式学習)、次期様式に進む学習(加曽利EⅡ式、EⅢ式、EⅣ式、称名寺式、連弧文土器)が必須であるという総合的イメージが出来ました。加曽利EⅠ式土器の混沌とした状況のなかで、個別土器理解(類型の直観的感得)が出来ないで苦しんでいますが、加曽利EⅠ式土器だけをいくら観察しても、それだけでは理解がすすまないということが判りつつあることはうれしいことです。 

2021年4月12日月曜日

加曽利EⅡ式土器14器の3Dモデル総集作成

 縄文土器学習 577

今年の2月まで加曽利貝塚博物館で開催された令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」で展示された加曽利E式土器のうち加曽利EⅡ式土器14器について観察記録3Dモデルを作成しましたので、それを並べて総集モデルを作成しました。

1 加曽利EⅡ式土器14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

加曽利EⅡ式土器14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.02.02 2021.02.09

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 

左から

加曽利EⅡ式深鉢(市川市今島田貝塚) No.15 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(船橋市高根木戸遺跡) No.26 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.32 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.33 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.34 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.43 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.44 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式器台(柏市小山台遺跡) No.51 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市小谷貝塚) No.53 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式浅鉢(流山市小谷貝塚) No.54 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市中野久木頭遺跡) No.59 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市中野久木頭遺跡) No.60 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(我孫子市西大久保遺跡) No.66 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(鎌ヶ谷市大堀込遺跡) No.68 観察記録3Dモデル

14器の縮尺は同一

3DF Zephyr v5.019でアップロード

個別3DモデルはSketchfabサイト「arakiminoru」に掲載しています。


Blender画面


3DF Zephyr Lite画面


Sketchfab画面


3Dモデルの動画

2 感想

・これまでに加曽利貝塚博物館R2企画展「あれもE」展示土器のうち加曽利EⅠ式土器11器と中峠式土器14器について同様の総集モデルを作成してあり、自分自身の閲覧にとても便利に利用しています。そこで今回加曽利EⅡ式土器総集モデルを作成し、近々加曽利EⅢ式土器、加曽利EⅣ式土器についても作成します。R2企画展では全部で70器の土器が展示されましたが、そのうち63器の観察記録3Dモデルが揃うことになります。

・技術的に可能ならば63器を全部観察できる総集モデルを作成します。

・観察記録3Dモデルは土器の一部だけを3Dモデル化したものですが、写真では得られないきわめて有用な学習促進ツールです。このツールを使い縄文土器学習を加速することにします。


有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 3

 縄文土器学習 576

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は南斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 南斜面貝層 269番土器


南斜面貝層 269番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「269は隆線によって口縁部ヨコ1次区画され、口縁部文様帯内には両脇に沈線を伴う1条の隆線が波状に横走している。地文は縦回転施文のRL単節縄文で、主文様の抽出以前に施されている。」

キャリパー形土器で、埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器F類に該当すると考えます。


参考 埼玉編年(1982)Ⅸb期1群土器F類

2 南斜面貝層 273番土器


南斜面貝層 273番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「273は出土量が少ないが、本段階に特有の一類型で、ラッパ状に開く器形を呈し、口縁部外側を極端に肥厚させ、その上面を幅狭の口縁部文様帯とするものである。口縁部は3ないし4単位の波状を呈し、胴部が数段に区画されるものが一般的である。本例は口縁部文様帯が1条の横走沈線のみで、胴部は横走隆線と横走沈線(3条)によって区画され、最上段は無文、中断と下段にはRL単節縄文が縦回転施文されて中段には沈線が廻っている。」

曽利式土器の影響を受けた折衷土器というものでしょうか?

埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類の類例として理解しておきます。


参考 埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類

3 南斜面貝層 274番土器


南斜面貝層 274番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「274はキャリパー形土器の破片資料である。把手を有している。口縁部ヨコ1次区画の特徴から7群に含めたが、並行隆線の施文方法や口縁部文様帯内に縦位集合沈線が充填されていること等からみると中峠式に属する可能性がある。」

加曽利貝塚博物館企画展に展示された中峠式土器キャリパー形類似例ではヨコ1次区画隆帯に刻みが入っていて、この土器片は刻みがないので7群土器(加曽利EⅠ式土器)に入れたと理解しておきます。


中峠式土器例


中峠式土器例

4 南斜面貝層 325番土器


南斜面貝層 325番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「325は器形的にはキャリパー形を呈し内折するように内側が肥厚する口縁部には円筒形で中空の把手が付されている。口縁部文様帯は集合沈線のみで構成されており、その一部が加曽利E様式的な渦巻文状を呈している。頸部には無文帯が存在し、下端に巡る隆線によって胴部縄文施文帯との境界が画されている。口縁部Ⅰ+頸部Ⅱ+胴部Ⅲという文様構成から本群(8群)に含めたもので、口縁部文様帯の特徴から曽利様式系の資料と思われる。」

加曽利EⅠ式が曽利様式の影響を受けてつくられた折衷土器と理解しておきます。

5 感想

・「純粋」の加曽利EⅠ式土器以外の折衷土器が多いことに改めて気が付きました。折衷土器の意義について十分に考える必要性を痛感します。

・過去からの影響(例 中峠式土器の影響)と他の場所で発生し伝播してきた様式の影響(例 曽利式土器の影響)と、そもそもその場所で本流になりつつある生まれ出た加曽利EⅠ式の3つがカオスの状況にあったのが加曽利EⅠ式期であったと理解しておきます。

・中峠式の影響が濃い土器(A)、曽利式の影響が濃い土器(B)、純粋加曽利EⅠ式の土器(C)などの土器群分類と対応する事象があるかどうか興味が湧きます。例えば、A、B、Cの比率は竪穴住居、土坑、南北斜面貝層でほぼ同じなのか、違うのか。竪穴住居毎にみるとどうなのか。共伴出土石器種類構成と関連があるか、ないか。遺構内貝層の存否と関係があるか、ないか。・・・


2021年4月11日日曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2

 縄文土器学習 575

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は竪穴住居出土加曽利EⅠ式土器その2です。

1 SB186 1番土器


SB186 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は4単位の波状口縁を持つ深鉢である。口唇上に巡る沈線が波状部で渦巻文を描く。波頂部からは2本の隆帯が垂下し、口縁部文様帯を形成する上下2段の隆帯とともに矩形区画文を構成している。下段隆帯には口縁の波状部と相互する位置に小突起が付される。」

器形はキャリパー形ではありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。矩形区画文のあり方から勝坂式土器の影響を受けているものだと考えます。

2 SB190 2番土器


SB190 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2は4単位の緩やかな波状口縁を持つ深鉢である。粘土紐を貼りつけた複合口縁部には、沈線による渦巻文が波頂部に描かれ、無文部と胴部文様帯画す2本の沈線からは、蛇行沈線と2本の並行沈線が垂下する。」

器形はキャリパー形ではなく、主文様帯が口縁部にありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。ただし、垂下沈線の存在により加曽利EⅠ式期土器であることが判ります。

3 SB195 2番土器


SB195 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2はA住居跡A炉の炉体。隆帯によって渦巻文、クランク文が描かれる。沈線で分けられた隆帯の外側に沿って沈線が引かれ、胴部には3本1組の沈線によって意匠文が描かれる。」

キャリパー形でクランク文が横長であることから埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器G類に該当すると考えます。

クランク文に剣先状文様が含まれています。大木式土器の影響を受けていると考えます。

4 SB114 1番土器


SB114 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は炉体として使用されていたもので、隆帯によって口縁部文様帯、頸部無文帯が明確に区画された深鉢である。口縁部には沈線によって分けられた隆帯によって横位に渦巻文が描出される。」

この土器は頸部無文帯の存在から、有吉北貝塚土器分類8群土器(埼玉編年(1982)ではⅩ期)の明瞭な例です。

5 感想

・1と2の土器は折衷土器です。これらの土器を一瞥して「〇〇と〇〇の影響を受けている」などとの直観的感想を即座に持つために、今後勝坂式土器・阿玉台式土器・中峠式土器・大木式土器などの学習を深めることにします。

・3の土器に現れるクランク文は関東東部固有の文様のようです。その起源がどこにあるのか、またそれがどのような意味を持つのか、学習を深めることにします。

・4の土器は頸部無文帯の存在から有吉北貝塚土器分類における8群土器に確定されます。なお、有吉北貝塚における頸部無文帯がある土器は出土が少ないようです。埼玉編年(1982)では頸部無文帯の有無はあくまでも確率の問題として扱っていますが、有吉北貝塚では時期決定の確定要因として扱っています。