2021年4月11日日曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2

 縄文土器学習 575

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は竪穴住居出土加曽利EⅠ式土器その2です。

1 SB186 1番土器


SB186 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は4単位の波状口縁を持つ深鉢である。口唇上に巡る沈線が波状部で渦巻文を描く。波頂部からは2本の隆帯が垂下し、口縁部文様帯を形成する上下2段の隆帯とともに矩形区画文を構成している。下段隆帯には口縁の波状部と相互する位置に小突起が付される。」

器形はキャリパー形ではありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。矩形区画文のあり方から勝坂式土器の影響を受けているものだと考えます。

2 SB190 2番土器


SB190 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2は4単位の緩やかな波状口縁を持つ深鉢である。粘土紐を貼りつけた複合口縁部には、沈線による渦巻文が波頂部に描かれ、無文部と胴部文様帯画す2本の沈線からは、蛇行沈線と2本の並行沈線が垂下する。」

器形はキャリパー形ではなく、主文様帯が口縁部にありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。ただし、垂下沈線の存在により加曽利EⅠ式期土器であることが判ります。

3 SB195 2番土器


SB195 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2はA住居跡A炉の炉体。隆帯によって渦巻文、クランク文が描かれる。沈線で分けられた隆帯の外側に沿って沈線が引かれ、胴部には3本1組の沈線によって意匠文が描かれる。」

キャリパー形でクランク文が横長であることから埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器G類に該当すると考えます。

クランク文に剣先状文様が含まれています。大木式土器の影響を受けていると考えます。

4 SB114 1番土器


SB114 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は炉体として使用されていたもので、隆帯によって口縁部文様帯、頸部無文帯が明確に区画された深鉢である。口縁部には沈線によって分けられた隆帯によって横位に渦巻文が描出される。」

この土器は頸部無文帯の存在から、有吉北貝塚土器分類8群土器(埼玉編年(1982)ではⅩ期)の明瞭な例です。

5 感想

・1と2の土器は折衷土器です。これらの土器を一瞥して「〇〇と〇〇の影響を受けている」などとの直観的感想を即座に持つために、今後勝坂式土器・阿玉台式土器・中峠式土器・大木式土器などの学習を深めることにします。

・3の土器に現れるクランク文は関東東部固有の文様のようです。その起源がどこにあるのか、またそれがどのような意味を持つのか、学習を深めることにします。

・4の土器は頸部無文帯の存在から有吉北貝塚土器分類における8群土器に確定されます。なお、有吉北貝塚における頸部無文帯がある土器は出土が少ないようです。埼玉編年(1982)では頸部無文帯の有無はあくまでも確率の問題として扱っていますが、有吉北貝塚では時期決定の確定要因として扱っています。


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