今朝(2021.04.15)の日経文化欄に「垳・鮓…方言漢字知ってる?」(昼間良次)という論説が掲載されています。方言漢字という概念に興味が深まりました。地名に関して6年程にメイン趣味活動として熱中したことがありますが、その楽しさが、「方言漢字」という概念を引き金にして、鮮やかに蘇りましたので、メモしておきます。
昼間良次著「垳・鮓…方言漢字知ってる?」2021.04.15日経朝刊
1 方言漢字
昼間良次さんは「実は漢字にも、限られた範囲で使われる字や音訓が存在しており、地域性を持つ「方言漢字」は全国に千ほどある。」と述べられています。そして、埼玉県八潮市の大字「垳(がけ)」などの希少な例を説明されています。
2 千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例
以前「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)の付録「小字一覧 8万余)をデータベース化しました。しかし、最新Windows環境で拾えない漢字が多数出ました。地名ですからその小地域で使われている漢字ですが、一般的に普及している漢字ではありません。今思うと、その漢字は「方言漢字」そのものです。
千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例
3 〓(へん「山」+つくり「票」)
市原市に漢字〓(へん「山」+つくり「票」)をビョウとかヒョウとか読んでつかう小字があります。
市原市小字の一部
「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)付録「小字一覧」)から引用加筆
「中峠式土器」などで使われる峠(ヒョウ、ビョウ)の仲間の漢字です。地域性豊かな造字であると考えます。方言漢字そのものです。
4 柳田國男による〓(へん「山」+つくり「票」)の説明
柳田國男は「地名の研究」(1935)の中で「峠をヒョウということ」という論説を書いています。この中で漢字「峠」をヒョウと読む起源仮説を詳しく説明しています。要約すれば次のようになります。
「土地境界を定めるために標(ツクシ…標木)を立てる風習が古来からあった。この標を漢音でヒョウと読むようになった。その後標木(ヒョウ)のある場所をヒョウと呼ぶようになった。さらにその後、標木(ヒョウ)のある場所に峠という漢字を当てた。」ということになります。標木が置かれる土地境界付近の地形イメージが峠(とうげ)イメージに合っていたということです。
柳田國男はこの峠をヒョウと読む説明のなかで〓(へん「山」+つくり「票」)について次のように述べています。
「そこで自分は〓(へん「山」+つくり「票」)はすなわち標であろうと考えてみたのである。峠という漢字は和製であろうが、それにヒョウとう音の生ずる理由はなかった。ただ丘陵の峰通りの、通路で横断する地点を村の境としていたために、標とは峠のことと誤解して、しかも普通の標と区別すべく、いつとなく山偏の字を使用したものかと思う。」
〓(へん「山」+つくり「票」)をまさに方言漢字として説明しています。
5 感想
新聞記事で大いに地名学習が刺激されました。
縄文学習の区切りがつくことがあれば、そしてその時まだ余命と健康が残っていれば、地名学習にまた戻りたいと思います。
なお、縄文学習と地名学習はかけ離れているように思えて、実は繋がっている部分もあります。例えば地名「千葉」が実は縄文時代に起源を有する地名かもしれないと密かに妄想しています。
縄文時代から現代までヒトと言葉は継続しているので、縄文時代地名が現代まで伝わっているものがあると考えることはまことに合理的な考えです。
2016.05.25記事「台地開析谷を表現する地名サクの語源」など
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