縄文土器学習 562
この記事は2021.03.07記事「加曽利EⅠ式土器細分類の学習」につづく記事です。
埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類がどのような指標で行われているのか、その専門分野の様子を知るために埼玉編年資料と3Dモデル観察した加曽利貝塚博物館企画展展示土器11器との対応を検討しています。
この記事では埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類指標を体系的に整理し、その体系に従って11土器を細分類しました。このような作業を行うことによって埼玉編年土器細分類の実体を感覚的に理解することが出来ると考えました。
1 埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標の体系的整理
埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標を、機械的になりますが、次に体系的に整理してみました。
…………………
1 器形種別
1-1 キャリパー形土器
1-2 キャリパー形土器以外
2 主要文様帯の位置
2-1 口縁部
2-2 口縁部以外
3 口縁部文様帯
3-1 文様要素
●「S」(ヨコ)字文
3-1-1 「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文
3-1-1-1 通常の「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文【Ⅸa期A類(1)】
3-1-1-2 「S」(ヨコ)字状文が大きく発達 「C」字文、十字文は「S](ヨコ)字文に取り込まれ連続的になる。【Ⅸb期A類(1)】
3-1-1-3 末端が小さく渦を巻く「S」字文を描く【Ⅹ期D類(4)】
●区画文
3-1-2 小突起状隆帯による区画【Ⅸa期B類(2)】
3-1-3 隆帯による区画文 区画は把手や突起と連続する【Ⅸb期B類(2)】
3-1-4 4単位の区画文【Ⅸb期D類(4)】
3-1-5 区画文【Ⅹ期B類(2)】
●区画文と「X」字文
3-1-5 小突起を中心に4単位区画と「X」字文【Ⅸa期C類(3)】
●区画文と「S](ヨコ)字状文
3-1-6 区画文と「S](ヨコ)字状文が絡み合っている【Ⅸb期C類(3)】
●渦巻文
3-1-7 隆帯による渦巻文
3-1-7-1 通常の「隆帯による渦巻文」【Ⅸa期D類(4)】
3-1-7-2 口縁部文様帯全体に隆帯の渦巻文」を持つ【Ⅸb期E類(5)】
3-1-7-3 口縁部と胴部に細隆線による渦巻文を描く【Ⅹ期F類(6)】
●区画文と渦巻文
3-1-8 細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く
3-1-8-1 通常の「細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く」【Ⅸa期E類(5)】
3-1-8-2 連結渦巻文と区画文【Ⅹ期A類(1)】
3-1-9 橋状把手により区画、渦巻文を配する【Ⅹ期C類(3)】
●クランク文
3-1-10 クランク文
3-1-10-1 縦長のクランク文【Ⅸa期F類(6)】
3-1-10-2 横位に連続しているクランク文【Ⅸb期G類(7)】
3-1-10-3 横長で連続的なクランク文【Ⅹ期H類(8)】
●曲線文
3-1-11 隆帯による曲線文と眼鏡状突起
3-1-11-1 通常の「隆帯による曲線文」【Ⅸa期G類(7)】【Ⅸb期F類(6)】
3-1-11-2 曲線が弱い「隆帯による曲線文」【Ⅹ期G類(9)】
●棒状沈線文
3-1-12 棒状沈線文【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】
4 口唇部
4-1 通常口唇部
4-2 2重口唇部【Ⅸa期C類(3)】
5 頸部
5-1 頸部無文帯なし
5-2 頸部無文帯あり
5-2-1 通常の頸部無文帯
5-2-2 隆帯がくずれ頸部無文帯が広い【Ⅹ期E類(5)】
6 地文
6-1 撚糸文
6-2 縄文
7 分布域
7-1 西部
7-2 東部
…………………
2 埼玉編年と11土器の対応
埼玉編年土器細分類指標と11土器3Dモデル観察を対応させ、11土器がどのように埼玉編年の細分類に対応するのか検討しました。
埼玉編年(1982)1群土器細分類と観察土器事例の対応
この結果を画像で表現すると次のようになります。
加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応(仮案2)
3 感想
3-1 文様要素の指標は限られている
代表的文様要素は「S」字文、区画文、渦巻文、クランク文、曲線文、棒状沈線文であり、それらの組合わせにより加曽利EⅠ式土器の細分類のほとんどが決まることを知りました。
3-2 文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではない
土器現物だけの情報では埼玉編年土器細分類の一つに特定できない場合が多いことが判りました。例えば棒状沈線文のある土器は【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】のどれかに対応することになります。しかし、その土器の層位や共伴出土物から時期(Ⅸa期か、Ⅸb期か、Ⅹ期か)がわからなければ、文様の様子だけからでは、細分類を特定できません。
作業してはじめてこのような事情がわかりました。
このことから、埼玉編年の土器細分類プロセスは、最初に土器を時期で大分けして、その各時期毎に文様要素等の指標で細区分した分類です。
ですから、文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではないものも含まれているということです。
土器細分類を時期とより正確に対応させるためには、さらに踏み込んだ新たな詳細指標による精細な分類が求められます。
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