2022年11月11日金曜日

同一土器破片の分布原理に関する思考の変遷

 Changes in Thoughts on the Principle of Distribution of Identical Pottery Fragments


My thoughts on the principle of distribution of the same pottery fragments are greatly disturbed, so I will make a note of that situation. Use this memo as a resource for future thought.


同一土器破片の分布原理に関する自分の思考が激しく動揺していますので、その様子をメモします。このメモを、今後の思考充実のための資料とします。

1 294土器破片分布の様子


294土器情報


294土器破片分布資料


294土器破片3D分布


加曽利EⅡ式(第10・11群)土器3D分布

2 294土器破片分布原理に関する思考ステップ

2-1 思考ステップ1(縄文人ばら撒き仮説)

・2年前から2週間くらい前までの作業仮説

・縄文人が294土器破片を多数を持ち歩き、各所にばら撒いた。

・流水の影響で分布が影響を受けた(拡がった)ことは多少はあるけれども、それは副次的分布要因と判断できる。

・下流で河床勾配に逆らうような分布(下流に行くと分布高度が高くなる現象)がばら撒き説を補強する。

・土器の破壊とそれに伴う破片投棄は別遺跡学習(西根遺跡学習)でも観察している。

2-2 思考ステップ2(谷頭急斜面投棄仮説)

・2週間くらい前から数日前までの作業仮説

・谷頭急斜面の上から谷底に向けて294土器が投棄され、破壊により生まれた土器破片が重力と流水により下流域全域に分布が拡がった。

・河床勾配に逆らうような分布は河床が時間とともに上昇していることで説明できる。(河床が上昇する度に、上流から294土器が運ばれてきた。)

・294土器を含む加曽利EⅡ式(第10・11群)土器の投棄は圧倒的に谷頭急斜面上から行われている。

2-3 思考ステップ3(谷頭急斜面および下流斜面の2ヶ所からの投棄仮説)

・この数日の作業仮説

・土器破片は谷頭急斜面および下流斜面の2ヶ所の斜面上部から投棄されて、その破片が重力と流水により分布を広げた。

・分布図をよく観察すると、分布域が2ヶ所に分かれていて、この考えが妥当であると「感じる」ことができる。

・他の遺物の多くも谷頭急斜面と下流斜面の2ヶ所から投棄されている。

・前期土器のうち4点は北斜面貝層出土破片と南斜面貝層出土破片が接合するので、同一土器破片が別の場所に投棄される確かな事例がある。


参考 前期土器4点が北斜面貝層と南斜面貝層で接合する

3 現在思考(思考ステップ3)の検証

現在思考(思考ステップ3)を検証することとし、まずは加曽利EⅡ式(第10・11群)土器を対象として、個別土器破片分布図を全ての個別土器で作成して、並べて観察してみることにします。




2022年11月2日水曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の地学的考察

 Geological Consideration of the North Slope Shell Formation


I have examined the geological features of the topography in which the North Slope Shell Formation fits. This topography is gully erosion topography, but it seems that the peak season has already ended. Therefore, the Jomon people completely reclaimed this topography by dumping shells. I discarded the working hypothesis that the Jomon people worked to prevent the spread of gully erosion.


有吉北貝塚北斜面貝層が収まる地形の地学的特性を検討しました。既に盛期が終わったガリー侵食地形のようです。そのため、縄文人の数百年間の貝投棄により埋め立てられました。ガリー侵食拡大に対する危機感から貝や土器投棄があったという作業仮説は捨てました。

1 北斜面貝層はガリー侵食地形を埋めて形成された

北斜面貝層の地形は箱形のようにみえる窪地になっています。この窪地地形は、谷頭部が急斜面で、流路に段差が多数存在する特徴から、全体がガリー侵食地形であると考えることができます。


ガリー侵食地形


ガリー侵食地形の特徴である谷頭部急斜面と谷底段差

2 ガリー侵食地形左岸に堆積する砂層は上流部ガリー侵食に起因する堆積物である

貝層形成前に、ガリー侵食地形左岸(断面4~13)に砂層が堆積しています。

発掘調査報告書ではこの砂層を斜面の崩落土砂としています。

しかし、この砂層は次の観察から上流谷頭部のガリー侵食で生産された土砂が流水で運ばれ、主に砂だけが堆積したものであると考えることができます。

1 砂層の層位線角度が低角度であり崖錐のように上から崩落した土砂のようではない。

2 斜面の上から崩落した土砂ならば、ローム層(土層)と成田層(砂層)が塊状に混じった層相(例 断面2の右岸側)になるはずであるが、そうではない。

3 砂層が斜面上部から崩落したものならば、斜面と底部が角度を成す断面形を説明できない。


砂層の分布

3 貝層形成期にはガリー侵食の盛期は終わっていたと考えられる

次の観察結果から、貝層形成期(阿玉台式~加曽利EⅢ式)にはガリー侵食活動の盛期は終わっていて、地形はガリー侵食地形であるけれども、実際の侵食・運搬活動はきわめて虚弱であったと考えることができます。

3-1 貝層形成以前の堆積物である砂層(ガリー侵食に起因する砂層)に土層が被り、かつ砂層の侵食が始まっている

ガリー侵食地形左岸(断面4~13)に堆積する砂層は谷頭部ガリー侵食に起因する堆積物であると考えますが、その上部に土層が堆積しています。

土層が堆積するということは砂層が堆積し終わってから、つまりガリー侵食がアクティブで無くなってから地学的時間が経過していることを表現しています。

さらに、この土層が乗る砂層が水流で侵食され小さな谷が出来ている様子も貝層断面図から読み取ることができます。この現象は砂層の上に土層が乗ってから以降、さらに地学的時間が経過していることを表現しています。

砂層上の土層の存在と、砂層地形が侵食されている様子は、谷頭部ガリー侵食による土砂運搬が終わってから地学的に久しいことをを示しています。

3-2 貝層断面に顕著なガリー侵食堆積物がみられない

全ての貝層断面図で、貝層の間に砂層や土層がレンズで挟まる様子は皆無です。谷頭部における土砂生産が活発ならば、下流で混貝土層、混土貝層や純貝層の間にレンズで砂層や土層が観察できるはずです。しかし、その様子は全くありません。

3-3 縄文人による貝層投棄パワーが谷頭部土砂生産作用を上回る

3-3-1 谷頭部が人為的生成物である混貝土層で埋め尽くされている

急斜面で構成されるガリー谷頭部が混貝土層で埋め尽くされています。急斜面上部から貝が投棄され、それに土砂が混じって混貝土層が生成したと考えることができます。つまり谷頭部で「生産」される人為的堆積物の量がガリーにより下流に運搬される量を上回っています。ガリー侵食という自然営力ががきわめて虚弱であることを物語っています。



谷頭部が混貝土層で埋めつくされている様子

3-3-2 自然営力による土砂生産より人為的貝層生成が勝る

ほとんどの貝層断面図で、ガリー流路中央で貝層と土層が明瞭に区分される層相を読み取ることができます。左岸からの縄文人による貝投棄で生成される貝層によって、上流から運ばれてくる土層や砂層が右岸側に押しやられている様子が観察できます。これは縄文人による貝投棄活動パワーが上流谷頭部の土砂生産パワーに敗けていない様子を示しています。この様子から谷頭部土砂生産活動が虚弱であることを確認できます。

4 参考 ガリー浸食地形が現在の谷津地形に対して段丘化している可能性

ガリー浸食地形は台地斜面中腹に位置していて、谷底縦断面形は現在谷津に対して非連続となっています。ガリー侵食地形は現在谷津地形に対して段丘化しています。

ガリー侵食活動の盛期が終わっているので、谷津谷底が下刻してもそれに対応できないで、ガリー侵食地形が斜面中腹に取り残された可能性があります。

斜面中腹に取り残されたガリー侵食地形を縄文人が貝層で埋めました。そのためガリー侵食地形が化石のように残存することになりました。

おそらく氷河期の産物であると想定されるこのガリー侵食地形が貝層形成で奇跡的に丸ごと残存し、それが発掘調査で記録されました。この記録は地形学にとって貴重な情報である可能性があります。


ガリー侵食地形(北斜面貝層)が斜面中腹にある様子

5 学習当初の見立て(作業仮説)の廃棄

有吉北貝塚学習を初めてから長い間次のような見立て(作業仮説)を持っていました。これらの見立て(作業仮説)は学習興味増進という役割をになってきました。しかしガリー侵食地形の地学的考察によりその妥当性が失われました。従って廃棄します。

ア ガリー侵食に対する危機感が縄文人を土器や貝の投棄に駆り立てた

ガリー侵食が集落立地台地面を犯すような状況になり、縄文人が危機感を抱いて土器投棄や混貝土層生成などによりガリー侵食を抑えようとした。現代風に言えば、縄文人が防災工事をした。

イ ガリー侵食地形急拡大は縄文中期気候変動に関連するかもしれない。

ウ ガリー侵食急拡大は縄文中期人口急増による環境変化(樹木伐採で集落周辺がはげ山化したことなど)に起因するかもしれない。



2022年10月29日土曜日

貝層形成前地形3Dモデル復元の技術メモ

 A technical memo for reconstructing the 3D model of the topography before the shell formation


I created a 3D model of the pre-formation topography of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, and made notes of the technical points so that I can immediately respond to similar work in the future.


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の3Dモデルを作成しましたが、今後類似作業が生まれても即座に対応できるように技術要点をメモしました。

2022.10.29記事「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

1 地形モデル作成の概要

等高線図や断面図などの紙資料から地形3Dモデルを作成する方法のうち、2つの方法をこれまで使ってきました。

・QGIS(GRASS機能)を使った方法

・Blender(アドオンBsurfaces GPL Edition機能)を使った方法

今回はBlender(アドオンBsurfaces GPL Edition機能)を使いました。

作業の概要は次の通りです。

ア 地形断面線作成(illustrator作業)

イ 地形断面線の3D空間プロット(Blender作業)

ウ 地形モデル作成(BlenderアドオンBsurfaces GPL Edition機能)

エ 地形モデル活用(3DF Zephyr Liteで動画作成とSketchfab投稿)

なお、QGIS(GRASS機能)をつかった同対象作業を次の記事でメモしています。

2021.06.13記事「有吉北貝塚北斜面貝層 基底面高度分布図3Dモデルの作成

2 地形断面図作成(illustrator作業)

平面図、貝層断面図をillustratorで並べて、手作業で地形断面線を作成しました。


illustrator作業の様子

地形断面線は30本作成しました。情報のない部分は想定で等高線を描き資料を補足しました。

3 地形断面線の3D空間プロット(Blender作業)


地形断面線を3D空間にプロットした様子

illustrator作業結果をBlenderの3D空間に配置し、それをベジェ曲線(アドオンBezier Toolkit)でトレースしました。実作業は点をクリックすることにより線を結ぶだけです。作業は作業しやすい通常画面(「layout」画面)で行いました。

この時重要な注意点はトレースの方向を全ての断面線で同じにすることです。左からトレースした断面線と右からトレースした断面線が混じると最終結果がねじれて失敗します。

作成した断面線は座標機能で正確にプロットしました。

4 地形モデル作成(BlenderアドオンBsurfaces GPL Edition機能)

4-1 画面切り替え

地形断面線(ベジェ曲線)が並んだ画面を2DAnimation画面に切り替えて作業します。

4-2 グリースペンシルのオブジェクト作成

並んだ地形断面線を端から1つずつ順番に指定して、全部を指定します。この時、ボックス選択で全部を一括して指定すると最終結果で必ず失敗するので注意が必要です。

全部指定してから「オブジェクト→統合」により一つのオブジェクトに統合します。

次に「オブジェクト→変換→グリースペンシル」で統合したオブジェクトをグリースペンシルに変換します。

4-3 地形モデル生成

次にグリースペンシルが選択された状態でサイドバー→編集→Bsurfacesの画面をひらき、その中の「Initialize(Add BSurface mesh)」をクリックします。

さらに(下の)Guide strokesのグリースペンシルをクリックするとその下に枠ができてスポイトが表示されます。そのスポイトをつまんでアウトライナー(オブジェクト一覧表示)のグリースペンシルをクリックします。

最後にすぐ下の「Add Surface」をクリックします。この操作で画面に地形モデルが生成します。


サイドバー「編集」のBsurfaces画面

4-4 地形モデル調整

地形モデルが生成した直後に、画面左下に生まれる小窓「Bsurfaces add surface」でモデルの精細さを調整します。「クロス」、「追従」に数値を入力します。(この例はクロス75、追従5です。)

5 マテリアル・テクスチャの追加、UV展開

5-1 画面切り替え

画面を作業がしやすいlayoutに切り替えます。

5-2 マテリアル・テクスチャの追加

地形モデルに好みのマテリアル・テクスチャを追加します。

5-3 UV展開

地形モデルをUV展開します。

ここまでの作業で断面線由来の地形モデルが生成し、他のソフトでも利用できる状態になりました。


完成した地形モデル

6 感想

・Bsurfaces機能の操作上のクセには翻弄されましたが、ナントカカントカ使えるになりました。地形に限らず、3D空間に複数の線分があればそれを結ぶ曲面が生成出来るのですから便利です。

・今回の作業では断面線の間隔は2mです。従って幅2mより小さい地形特徴は表現されない可能性があります。仕方がないことです。等高線で表現する地形でも等高線間隔より小さい地形特徴が表現されない可能性があることと同じです。


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

 Topographic reconstruction model of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound before the formation of the shell layer


A 3D model was used to reconstruct the pre-formation topography of the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound.

It can be used to test the hypothesis that topographical features constrain shell midden activities (shell layer formation and relic dumping) and are factors that determine the distribution of relics.

Topographic reconstruction was done with Blender's Bsurfaces function from the shell layer cross section and contour line information.


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形を3Dモデルで復元しました。

地形の特徴が貝塚活動(貝層形成・遺物投棄)を制約して、遺物分布規定要因になっているという仮説検証に使えそうです。

地形復元は貝層断面図と等高線情報から、BlenderのBsurfaces機能で行ったものです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

貝層断面図と等高線情報からBlenderのBsurfaces機能で作成

平面縮尺:垂直縮尺=1:1

平面図、貝層断面図(塗色)は有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

Topographic reconstruction model of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound before the formation of the shell layer

Created with Blender's Bsurfaces function from shell layer cross-section and contour line information

Planar Scale: Vertical Scale = 1:1

The ground plan and cross-section of the shell layer (painted) are quoted from the Ariyoshi Kita Shell Mound Excavation Report.


「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル」動画

2 メモ


貝層形成前地形の主な特徴

・北斜面貝層はガリー谷地形を埋めるかたちで発達しています。

・ガリー谷頭は集落が立地する台地面に迫っていますが、台地面を直接侵食していません。

・ガリー谷頭急斜面の上から貝及び土器等が盛んに投棄された様子が貝層断面図及び遺物3D分布図から判ります。

・ガリー谷頭急斜面直下にガリー流路狭窄部が存在しています。この地形組合わせから、ガリー谷頭急斜面直下にささやかな水場が存在していたと考えることが出来そうです。

・この狭窄部から加曽利EⅡ式土器大型破片や他の遺物が密集して出土しています。

・狭窄部より下流では谷地形左岸(西岸)側に砂層が堆積しています。左岸砂層堆積域の上流側ではその上部が急斜面となっています。下流側では高度も低くなり、砂層上部の斜面は低くなります。


砂層堆積の様子(砂層は貝層形成前に上流から運搬されてきて堆積したものです。)

・この地形の様子から低い斜面から人々は谷に入り込んだことを想定できます。この付近にガリー流路狭窄部と並ぶ遺物集中がみられることと整合します。

・ガリー谷地形は堆積物で塞がれています。流路は脇に逃げています。この様子から谷地形下流部は湿地的環境が存在していたと考えることが出来そうです。

地形復元方法の技術(Blender、Bsurfaces機能)は別記事でメモします。


2022年10月25日火曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound

Distribution of weights of pottery fragment, shell blades, and arrowheads


Creating a map of the distribution of weights of pottery fragment, shell blades, and arrowheads on the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Shell Mound clearly expresses the different characteristics of each, making it a very enjoyable learning experience. It was observed that the stone blade dumping sites were limited to two steep slopes.


有吉北貝塚北斜面貝層の土器片錘・貝刃・石鏃の分布図を作成するとそれぞれ異なる特徴があからさまに表現されて、とても楽しい学習になっています。石刃投棄場所は2ヶ所の急斜面に局限されていたように観察しました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound

Distribution of weights of pottery fragment(brown), shell blades(purple), and arrowheads(green)


「有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布」動画

2 メモ

詳しい検討はこれからですが、次のような特徴が浮かび上がってきています。

・土器片錘は貝層が分布する範囲のほとんどの場所から出土しています。分布から土器片錘を特定の場所に投棄するというような活動は存在しないようです。不用土器片錘を貝殻投棄の際に随時一緒に投棄していたと考えました。土器片錘は石鏃などと比較すると素材入手に困ることもなく、いつでも入手かのうであり、モノとしての価値は低くかったと考えられます。谷頭部や斜面で捨てられた土器片錘が重力や水流で流路付近に集まって下流方向に一部流れ出ている様子が観察できます。

・ハマグリ製貝刃の分布は土器片錘とくらべると狭くなっています。また集中出土する場所が不規則に分布しています。今後詳しく検討しますが、ハマグリ製貝刃分布はハマグリ分布と同期しているように見受けられます。ハマグリ漁で大きなハマグリを見つけた時、手持ちの貝刃と交換していたと考えられますから、捨てられるハマグリ製貝刃はハマグリ貝といっしょに捨てられることが多かったと考えます。

・石鏃は谷頭部急斜面の1ヶ所と下流斜面の1ヶ所の特段に集中するところがあり、この付近が石鏃投棄場所として限定されていたと想像します。谷頭部急斜面は「斜面葬」の場所で、下流斜面も埋葬関連祭事が執り行われた場所です。石鏃という貴重品は祭事空間で主に投棄(埋納)されたと考えます。投棄(埋納)された石鏃は重力と流水の影響で流路付近に集まって下流に方向に移動していったと考えます。


2022年10月22日土曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 装飾品分布とその考察

 Ariyoshi Kita Shell Mound North Slope Shell Layer  Accessory distribution and consideration


Looking at the distribution of ornaments on the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, it is similar to the distribution of wild boar jawbones, and they are concentrated in two places. A Cone shell waist ornament worn by a leader of a large shell midden village was excavated from the downstream concentrated area. I thought that the ritual related to the slope funeral was held in this place.


有吉北貝塚北斜面貝層の装飾品分布を見るとイノシシ顎骨分布と似ていて、2ヶ所に集中します。谷地形出口付近集中域からは大型貝塚集落リーダーが装着するイモガイ製腰飾が出土しています。斜面葬祭事がこの場所で行われていたと考えました。

1 散乱人骨等分布と装飾品分布

これまで作成した出土物分布図を並べて観察しました。

1-1 加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布(平面図投影)


加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布(平面図投影)

1-2 散乱人骨データ数分布(1~48)


散乱人骨データ数分布(1~48)

散乱人骨データは谷頭部急斜面の一区画に集中しています。この急斜面で「斜面葬」が盛んにい行われていたと考えられます。

1-3 イノシシ上下顎骨データ数分布(1~8)


イノシシ上下顎骨データ数分布(1~8)

谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に集中分布します。この2ヶ所でイノシシ解体とイノシシを食する行事があったと考えます。

1-4 装飾品分布

1-4-1 貝製品(装飾品他)データ数分布(1~4)


貝製品(装飾品他)データ数分布(1~4)

イノシシ上下顎骨と同じように谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に集中分布します。ただし、谷出口付近の集中がより顕著です。また谷出口付近からイモガイ製腰飾が出土しています。


イモガイ製腰飾出土状況写真

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用・加色


イモガイ製腰飾

千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」2022.01.04撮影


イモガイ製腰飾

千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」2022.01.04撮影

このイモガイ製腰飾は中期大型貝塚集落の男性リーダーが着装したものであることが展示で説明されています。

集落リーダーが着装したイモガイ製腰飾が出土した様子から、谷出口付近の貝製品装飾品多出ゾーンは斜面葬に関わるメイン祭事が行われたゾーンであると想像します。この付近は斜面葬が行われる場所からあまり離れていない場所で、なおかつ多人数が集まれる場所になります。


谷頭部直下域から出土したイタボガキ製貝輪(及び磨製石斧)

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用・加色

1-4-2 骨角歯牙製品(装飾品)データ数分布(1~3)


骨角歯牙製品(装飾品)データ数分布(1~3)

貝製品(装飾品他)と同じように谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に主に分布します。

1-4-3 石製品(装飾品)データ数分布(1)


石製品(装飾品)データ数分布(1)

北斜面貝層から出土した石製品(装飾品)は2点です。

2 有吉北貝塚北斜面貝層における特徴的活動空間(作業仮説)


特徴的活動空間(作業仮説)

1-1~1-4の情報から北斜面貝層では斜面埋葬ゾーンと埋葬祭事ゾーン、メイン埋葬祭事ゾーンという3つの特徴的活動空間が機能していたと作業仮説します。

谷頭部急斜面に遺体が土器大破片や貝とともに埋葬され(置かれ)、その後遺体と土器破片は重力と水流により急斜面を流れ下り、混貝土層に埋まっていったものと想像します。一方埋葬に関わる祭事は谷出口付近の比較的広場所で行われたと想像します。イナウが林立する祭壇が設置され、故人ゆかりの品(装飾品)がその場に埋納され貝で覆われたと空想します。またこの祭事でイノシシが解体され食されたと想像します。

3 参考 イモガイ製腰飾(千葉市有吉北貝塚) 観察記録3Dモデル

イモガイ製腰飾(千葉市有吉北貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文時代中期

最大径3.3㎝、最大高1.2㎝

撮影場所:千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2022.01.04

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 201 images

Cone shell waist ornament (Ariyoshi Kita shell mound, Chiba city) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Maximum diameter 3.3 cm, maximum height 1.2 cm

Location: Chiba City Folk Museum “Chiba City Excellent Archaeological Material Exhibition”

Shooting date: 2022.01.04

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 201 images


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置

 Arrangement of Jomon model in 3D space of Ariyoshi Kita shell mound northern slope shell layer


I placed a Jomon model in the 3D space of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. As a result, it became possible to grasp the sense of the vastness of the north slope shell layer space, which had been vague until now, as a realistic sense. One burial activity site and two related ritual sites have emerged.


有吉北貝塚北斜面貝層を構成する地物情報はBlender3D空間の中で整理され存在しています。この3D空間における北斜面貝層の様子を自分の肉体的感覚で把握するために、3D空間内に縄文人モデルを配置してみました。これにより、これまでもやもやしていた北斜面貝層空間の広さ感覚を現実的感覚として捉えることが出来るようになりました。埋葬活動場所1ヶ所と関連祭祀場所2ヶ所が浮かび上がってきました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置

有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置


縄文人の身長情報

縄文人モデルは「千葉県の歴史」掲載イラストの押出モデル

赤立方体(0.3m×0.3m×0.3m)は加曽利EⅡ式土器(第10・11群)破片を表現

貝層断面図の凡例:赤…純貝層、緑…混土貝層、黄…混貝土層、茶…土層、青…砂層

白線は谷頭部縁取線及び貝層断面図基底線

Arrangement of Jomon model in 3D space of Ariyoshi Kita shell mound northern slope shell layer

Height information of Jomon people

The Jomon model is an extruded model of the illustration published in "History of Chiba Prefecture"

The red cube (0.3m x 0.3m x 0.3m) expresses Kasori EII type pottery (Group 10 and 11) fragments.

Shell layer cross-section legend: Red: pure shellfish layer, green: mixed shell layer, yellow: mixed shell soil layer, brown: soil layer, blue: sand layer

The white line is the border line of the valley head and the base line of the cross section of the shell layer.


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」動画

2 メモ


縄文人モデルの配置

2-1 ガリー谷頭部急斜面の様子

a-b-cからガリー谷頭部急斜面の様子を実感できます。aから土器や貝が投げ込まれ、急斜面で混貝土層が生成して、土器と混貝土層が重力と水流により流下した様子を推察できます。

b-cでは散乱人骨が密集していて、b付近に遺体を置いてそれを土器大破片で覆う「斜面葬」が盛んだったと想像します。(aから遺体が投げ込まれたかもしれませんが、その行為はなかなか実感できません。)

2-2 谷頭部直下流路の様子

c-e付近は加曽利EⅡ式土器(第10・11群)の大破片が密集投棄されている場所です。土器破片の接合や土器破片群にみられるインブリケーション構造からcより上流で投棄され、この付近に流れ着いて堆積したものがほとんどであると観察できます。この付近も散乱人骨が多くなっています。

c-e付近はイノシシ顎骨出土が多く、イノシシを解体した場所であると考えられます。この付近は地形的にみてささやかな泉があったかもしれません。少しでも水があれば動物解体には好都合です。また、「斜面葬」の直下に当たる場所ですから、埋葬に関わる祭祀がこの場所で営まれ、それに対応するイノシシ食が祭祀の一環としたあったのかもしれません。なお、この場所は狭く、大人数は集まれません。

2-3 ガリー地形出口付近

g-h-iではa-b-cやd-e-fと比べて谷地形がなだらかです。また谷底流路部分も少し拡がっています。この付近は地形的に見て湿地やささやかな水面があったかもしれません。

h付近ではイノシシ顎骨出土が集中しています。水の便が良かったこともイノシシ解体が行われた要因としてあげられます。同時に、拡がった空間を利用して、b-cで行われる埋葬に関連する祭祀がこの場所で行われ、それに関連するイノシシ食があったのかもしれません。この場所ならc-eと比べて大人数が集まれます。


参考 散乱人骨データ数分布とイノシシ上・下顎骨データ数分布


2022年10月20日木曜日

イノシシ顎骨分布と散乱人骨分布

 Boar Jaw Bone Distribution and Scattered Human Bone Distribution


I simultaneously observed the distribution of scattered human bones and wild boar jaw bones (natural bones) in the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Kaizuka. Since the scattered human bone concentration area and the boar jaw bone concentration area are continuous, it may be related from the viewpoint of burial and its rituals.


有吉北貝塚北斜面貝層では、散乱人骨が谷頭急斜面に集中分布するという際立った特徴が判りました。その特徴をイノシシ顎骨(自然骨)分布と比較することにより、より深く把握しました。散乱人骨集中域とイノシシ顎骨集中域は連続するので、埋葬とその祭祀で関連するのかもしれません。

1 散乱人骨データ数分布


散乱人骨データ数分布

灰色:データ数1~9

濃灰色:データ数10~39

黒色:データ数40~48

2 イノシシ上・下顎骨データ数分布


イノシシ上・下顎骨データ数分布

灰色:データ数1

濃灰色:データ数2~3

黒色:データ数4~8

3 メモ


散乱人骨データ数分布とイノシシ上・下顎骨データ数分布

・有吉北貝塚発掘調査報告書で掲載されている動物自然骨分布データはイノシシ顎骨データだけです。

・散乱人骨分布とイノシシ顎骨分布はその集中域特徴が全く異なります。この違いは人骨は埋葬そのもののに起因して分布するのに対して、イノシシ顎骨分布は人骨埋葬そのものには関わらない活動に起因するからであると考えることができます。

・散乱人骨分布は「斜面葬」によると考えました。2022.10.19記事「散乱人骨分布と土器分布の相関

・イノシシ顎骨分布が集中する範囲は2ヶ所に分かれ、一カ所(b)は散乱人骨集中域と一部重複して連続的にガリー流路沿いに分布します。もう一カ所はガリー流路下流(c)に存在します。

・b域のイノシシ顎骨集中は「斜面葬」の末端域と重複することから、広義埋葬活動と関係があるかもしれません。埋葬に関わる祭祀でイノシシが解体され食されるなどです。またこの付近は広い谷頭が一点に集中する最下部であり、ささやかな湧泉が存在していた可能性があります。ささやかでも湧泉があれば、イノシシ解体に好都合だったと推測できます。

・c域のイノシシ顎骨集中は、この付近が地形をマクロにみると塞がれた谷地形の出口にあたることから湿地(ささやかな水面)であった可能性が濃厚であることと関係するのかもしれません。ささやかでも水があればイノシシ解体には便利です。


2022年10月19日水曜日

散乱人骨分布と土器分布の相関

 Correlation between scattered bone distribution and pottery distribution


A three-dimensional graph of the scattered bone data number distribution of the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Shell Mound reveals a close correlation with the distribution of concentrated discarded pottery (Kasori EII type pottery). I had an intuition that a completely new development would begin in considering the significance of Kasori EII-style concentrated pottery dumping.I made a working hypothesis of "slope burial".


有吉北貝塚北斜面貝層の散乱人骨データ数分布を立体グラフにしたところ、集中投棄土器分布(加曽利EⅡ式土器)と密接な相関が観察できます。加曽利EⅡ式土器集中投棄の意義を考える上で全く新たな展開が始まると直観しました。「斜面葬」を作業仮説しました。

1 散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布

散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布

散乱人骨データは2m×2mメッシュ内のデータ数を立体グラフで示す。(データ数[1~48]は高さに比例して表示。灰色1~9、濃灰色10~39、黒色40以上)

加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布は出土3D位置を土器片1つずつ0.3m×0.3m×0.3mの赤立方体で示す。

Number distribution of scattered bone data and distribution of Kasori EII pottery (groups 10 and 11)

Scattered bone data shows the number of data in a 2m x 2m mesh in a three-dimensional graph. (The number of data [1 to 48] is displayed in proportion to the height. Gray 1 to 9, dark gray 10 to 39, black 40 or more)

The distribution of Kasori EII type pottery (groups 10 and 11) indicates the excavated 3D position of each pottery fragment with a red cube measuring 0.3m x 0.3m x 0.3m.


「散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布」画像


「散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布」動画

2 メモ

散乱骨(人骨)は北斜面貝層の広域に分布します。貝層で埋葬が行われたことを示していると考えます。

一方、散乱人骨が集中する範囲は限定され、メッシュ番号ではⅡ-10、21、32とその周辺になります。メッシュⅡ-10、21付近は勾配35度程度の急斜面(ガリー侵食地形の谷頭部)になっています。この急斜面では谷頭上部縁から貝が投棄されることにより混貝土層が生成し、また土器も投棄されていることがデータで観察できています。このような荒蕪急斜面に遺体が置かれ埋葬されたか、あるいは(実感を伴った思考になりませんが)ガリー谷頭上縁部から遺体が副葬品とともに投棄されるという埋葬形式が取られたかのどちらかの埋葬があったと考えられます。どちらの形式であっても、重力作用と年に数回程度の大雨で遺体や副葬品は混貝土層とともに下流に流されていくことを前提とする埋葬になります。「斜面葬」とでもいうべき特殊な埋葬であると考えられます。

一方、散乱人骨分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布がほぼ一致することは、土器集中投棄と考えられてきた現象が埋葬と関係するかもしれないという、これまでに報告のない新たな仮説が生まれる可能性があります。荒蕪急斜面で遺体を埋葬するとき、遺体を大型土器破片で覆う埋葬が行われたならば、散乱骨分布と同じ分布で土器破片が残ります。つまり、荒蕪急斜面埋葬で大型土器破片で遺体を覆う埋葬がおこなわれたという作業仮説を立てて今後の分析を行うこととします。


●作業仮説

加曽利EⅡ式期に北斜面貝層空間の谷頭付近荒蕪急斜面で、大型土器破片で遺体を覆う埋葬が盛んに行われた。その埋葬は重力や雨水で遺体・副葬品や大型土器破片が下流に流下して、下流で混貝土層に自然埋設されるいわば「斜面葬」とでもいうべき特殊な埋葬方法であった。


なお、この作業仮説の蓋然性を補強する一情報として、竪穴住居(SB096)から出土した埋葬人骨の頭部が同一土器大破片で挟まれていることをあげることができます。(発掘調査報告書370ページ)なお、この事例に関する講演を聴講して記事に書いたことがあります。2021.03.20記事「加曽利博研究講座「縄文を知る」を聴講する


2022年10月18日火曜日

北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合する意義

The Significance of Joining Pottery Fragments Excavated from the North Slope Shell Layer and Pottery Fragments Excavated from the South Slope Shell Layer


Some early pottery excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound joins pottery fragments excavated from the shell layer on the south slope. I'm very worried. It may be the result of a specific individual performing consecutive prayers in two places.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土する土器片の分布について学習していますが、前期土器には台地面を越えた南斜面貝層出土土器片と接合するものがあります。気になる事象ですから感想をメモしました。特定個人が2ヶ所で連続祈願行為を行った結果かもしれません。

1 北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合するもの


北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合するもの


北斜面貝層と南斜面貝層の位置

前期遺構は土坑1つと埋設土器1つが検出されています。発掘調査報告書では前期遺構について、「土器の出土量からみて、中期以降の遺跡形成で消滅した遺構が多数あったと考えられた。」と記述されています。

2 メモ

2-1 前期土器の北斜面貝層における分布


早期土器と前期土器の破片出土場所

2022.10.11記事「有吉北貝塚北斜面貝層における早期土器と前期土器の分布」で早期土器と前期土器はその出土場所付近で早期と前期に人々の活動があり、その結果土器破片がその場所付近に持ち込まれたと考えました。その後、阿玉台式以降中期の貝層形成活動によって撹乱を受け、貝層の中に混入したと考えました。

2-2 北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合する意義

前期には台地面で人々の活動(生活)があり、諸磯式などの前期土器が使われていました。前期の人々が南斜面貝層(当時は顕著な貝層は無かった)と北斜面貝層(当時は顕著な貝層は無かった)に廃用土器破片を投棄したことはその場所から土器片が出土しているので確実です。

廃用土器破片を送り場に持ち込む際、意識して土器破片を2つに分け、一方は北斜面貝層で送り(投棄し)、一方は南斜面貝層で送った(投棄した)という活動が特殊ではなく、普通に行われたことが推定できます。

なぜ2個所の送り場で同じ土器を送ったのか?次の想像が生まれます。

送り場で土器破片を送るとは、土器破片に敬意を表現し、土器に感謝するという意味だけでなく、その行為に付随して、別の祈願行為があったのではないかと考えます。土器破片は現代風に言えば一種のお賽銭みたいな意義をもつようになっていて、土器破片(お賽銭)を投じることで別の何かの祈願をしたと想像します。そして現代でも祈願は多数ヶ所で行われます。四国八十八ヶ所巡りとか七福神巡りなどです。つまり、前期縄文人は廃用土器の破片を台地上でつくり、その一部を北斜面貝層(にその後発展する空間)に持ち込み投棄して、何らかの祈願行為をし、別の一部の破片を南斜面貝層(にその後発展する空間)に持ち込み投棄して、何らかの祈願行為をしたと想像します。