2015年7月25日土曜日

文書表現「カトリ」と発音表現「カントリ」の差異に着目する

小字地名データベース作成活用プロジェクト 24

2015.07.23記事「香取に関する超空想」で「香取」(カトリ)の語源が「狩り鳥」(カリトリ)にあるのではないかと考察(空想)しました。

直観的検討ではありますが、自分では結果としての蓋然性はかなり高いと考えています。

さて、「角川日本地名大辞典 12千葉県」の「かとりぐん 香取郡」の項で次のような記述があります。

「かとりぐん 香取郡
古代~近代の郡名。下総国のうち。「和名抄」下総国十一郡の1つで,「加止里」と訓。利根川下流南岸の一帯に位置する。「鹿取」(類聚符宣抄)・「許托」(正倉院文書)・「幟取」(日本書紀)などとも書く。香取神宮の所在郡。江戸期は「かんとり」と称した。」
「角川日本地名大辞典 12千葉県」より引用

当て字では「カトリ」と読む字をあてていることは確実です。

しかし、「江戸期は「かんとり」と称した。」という記述は何を意味するのでしょうか?

私は当て字表現(文書表現)は「カトリ」と読ませる表現であるけれども、実際の地名の発音は現地では「カントリ」であったと考えます。

同じく「角川日本地名大辞典 12千葉県」の「かとり 香取<佐原市> [中世]香取村」の項で次のような記述があります。

「室町期,文安6年9月21日付香取孫六憲秀売券・同日付憲長添状には「町屋敷一間の坪者,香取下町のしき」「かんとりまちのしき,まこ四郎やしき」などとあり,神宮周囲に町場が形成されていたことが知られる(要害家文書/香取文書纂)。」
「角川日本地名大辞典 12千葉県」より引用

室町期文書に発音を文字にしたひらがなで「かんとり」が出てきます。香取の発音は「カントリ」であったことがわかります。

つまり、文書表現は「カトリ」と読ませる表現になっているけれども、現地発音は「カントリ」であったということです。

2015.07.22記事「市川市香取について」で書いたように、14世紀香取神宮の河関が所在した市川市大字香取、小字香取は「カンドリ」という発音が伝わってきています。

これも香取の現地発音は「カントリ」(あるいは「カンドリ」)であったことを示す有力な材料になります。

この差異が存在するということ自体が重要な発見であると思います。

さらに、この差異は地名の出自・変化を考える上で大変貴重な情報を提供するものと考えます。

この場で大論文を書くわけにもいかないので、この差異が生れた経緯・意味の要点をメモしておきます。

●室町期の文書やその頃生まれた市川市地名「カントリ」「カンドリ」、江戸期の発音「カントリ」は、元々の地名原義「狩り鳥」(カリトリ)に由来する発音であると考えます。「カリトリ」がなまって現代にまで伝わってきているということです。

●先住民を殲滅して(狩り鳥して)その記念の地に香取神宮・鹿嶋神宮を建てたという国の始まりに関わる重要な地名を文書にする時(当て字をつくる時)、当時のインテリは先住民を鳥に見立て、その鳥を狩ったという直接行為(一種の野蛮行為)の粗野な表現をオブラートにくるんだのだと思います。

現地では「カリトリ」から転じて「カントリ」「カンドリ」などという発音であることを知りながら、きれいな音である「カトリ」と読ませる当て字をしたものと考えます。

つまり、文書上の読みは「カトリ」に変化し、鳥(=先住民)を狩るという粗野な直接表現を薄めることができたのです。

●現在では文書上の表現「カトリ」が呼び名ともなってしまったのですが、市川市には化石的地名として原義「狩り鳥」に由来する「カンドリ」が残っています。

香取神宮と市川市香取
Google earthから引用追記

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萱田地区遺跡検討を進めているのですが、思いのほか資料(発掘調査報告書)閲覧にてこずり、データ整理に時間がかかっています。図書館から借りだして自分の机の上に置ければその後の作業は流れ作業になるのですが、どうしても図書館の外に持ち出せない資料(※)があり、四苦八苦してその図書の情報を得ています。思い通りに作業が進みません。

※千葉県立中央図書館、千葉市立中央図書館、八千代市立中央図書館が保有していて全て帯出禁になっている萱田地区遺跡の報告書
「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅・都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター」、「同 図版編」、「同 図面編」

そんな状況がありますので、たまたま埋め草記事で書いた地名「香取」に関する考察をくどいですが、またまた書きました。

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