2015年12月5日土曜日

地名「柏(カシワ)」語源の訂正

小字地名データベース作成活用プロジェクト 44

2015.11.19記事「古代船着き場を示す「かし」」で地名「柏(カシワ)」の語源を杵場(カシバ)=船着き場であると考えましたが、次のように訂正します。

カシワはカシ+ワと考えます。

カシは杵(カシ)でありもやい杭であると考えます。

ワは河曲(カワワ)や浦和(ウラワ)のワと同じ「川などのまがりくねったあたり」という接尾語であると考えます。

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参考
かし[河岸] 
江戸時代に河川や湖沼の沿岸にできた川船の湊。古代~中世には船をつなぐために水中に立てる杭・棹を〈かし〉といい,牫牱または杵と表記した。船に用意しておき,停泊地で水中に突き立てて用いた(《万葉集》1190)。古代には〈かし〉が一種の呪力を有しており,停泊地の海底に穴をあけて清水を噴出させたり(《肥前国風土記》杵島郡の地名説話),海の向こうから国引きしてきた土地を固め立てたり(《出雲国風土記》)したという〈かし〉立て説話がある。杖の有する同じような呪力は,杖が古代的土地占有のシンボルとして大地に立てられたことに起因するが,〈かし〉も,船に乗って海辺の土地を占定していく際のシンボルであった。中世の特権漁民として有名な賀茂社神人〘じにん〙は〈櫓〘ろ〙棹〘さお〙杵〘かし〙の通路の浜〉に対する漁場占有を主張したが,その際の〈杵〉にも同様の意味が込められている。また,〈海のかし立てを限る〉という中世荘園の境界・四至表示は,〈かし〉の届く水深の水域の領有を示している。以上のように〈かし〉はもと船具を意味したが,船着場に固定された舫杭〘もやいぐい〙も〈かし〉といわれ(〈建久7年造大輪田泊太政官符〉《東大寺文書》),そこから船の荷揚場を〈かし〉というようになったのである。〈かし〉を河岸と表記するようになったのは近世に属する。
保立 道久
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズ

わ【回・曲】
〖名〗 山裾・川・海岸などのまがりくねったあたり。他の語の下に付けて用いることもある。「浦回(うらわ)」「川曲(かわわ)」など。
※永久百首(1116)春「あはれしや焼野にもれし峯のわの村草がくれ雉なく也〈源顕仲〉」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館
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つまり柏(カシワ)は船に積んだもやい杭を打って船を停泊させる、水面が曲がりくねった(いりこんだ)あたりという意味であり、端的に言えば船着き場です。

柏井(カシワイ)はカシ+ワイであり、カシは船に積んだもやい杭、ワイは「水が岸に曲がり入っている所」という意味であり、これも端的に言えば船着き場です。

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参考
わい[字音語素]

いりこんだところ。ものかげ。すみ。/隈隈、界隈/岸隈、厳隈、江隈、山隈、四隈、城隈、水隈、林隈/隈澳/
『国語大辞典』 小学館


●字音
ワイ 
●字義
1くま。 ア 水が岸に曲がり入っている所。 イ山の入りくんだすみ。
2また(股(コ))。またぐら。
3がけ。きし(岸)。
4ふち(淵(エン))。水が深く魚の集まる所。
5かげ。おおわれた所。
●解字
形声。阝(⻕)+畏。音符の畏(イ)は屈に通じ、かがむの意味。山や水などのまがった所の意味を表す。
『新漢語林』 大修館書店
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つまり、地名柏(カシワ)と柏井(カシワイ)は船着き場という意味であり、同義であると考えます。

以上の考察から派生して、日本語のわ【回・曲】とわい【隈】は本来同じ言葉であり、語尾のイが残ったか残らなかったの違いのように感じます。

カシワイの方がより古い用語であるように類推します。

漢字表記「柏」、「柏井」は当て字であり、漢字があてられる前から音としての地名「カシワ」、「カシワイ」が存在していたことは間違いありません。

なお、カシワとカシワイという音としての地名に同じ「柏」という漢字を当てていることは、当て字の仕方に法則性があることを想定させられます。

柏井という地名が遠方(茨城県笠間市、愛知県春日井市、愛知県尾張旭市、高知県高岡郡日高村)にもあることから、直接の影響がない場所でも一斉に同じ当て字をするという現象が存在していることが判ります。

当て字だけでなく、そもそも同じ音の地名(同じ意味の地名)が全国に分布するという事象は、地名の成立プロセスを考える上で意識すべき重要な事象です。

お互いに影響がない場所でも一斉に同じ地名が発生する、あるいは同じ当て字が使われるという現象は生物社会の進化の様子と同じであり、興味を持ちます。

千葉県柏市の「柏」と千葉県千葉市花見川区柏井町、市川市柏井1~4丁目の「柏井」が同義であることが判りました。

参考 杵(かし…船に積んだもやい杭)である可能性が高いと私が考えている出土物


千葉県文化財センター調査報告第500集 印西市西根遺跡 -県道船橋印西線埋蔵文化財調査報告書- より引用

縄文時代~平安時代までミナトであったと考えられる場所(谷津の河道)から出土したもので、報告書では同じく河道から出土した縄文時代の飾り弓とともに上記スケッチが紹介されています。

縄文時代丸木舟に積んでいた杵(もやい杭)であると考えます。

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