縄文骨角器学習 3
2020.12.24記事「縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル」、2020.12.27記事「縄文中期箆状腰飾の3Dモデルによる精細観察」に続き、箆状腰飾に関する考察をメモします。
この記事では、大小の気が付いたこと、疑問、想像を箇条書きでメモし、将来の本格思考にそなえるつもりでした。しかし、箆状腰飾と酷似している類似製品を資料の中で「発見」してしまいました。重要情報ですから、とりあえずそれだけを速報します。
1 刺突文様の類似製品
箆状腰飾と強く類似する刺突文様骨角製品が船橋市高根木戸遺跡(縄文中期)から出土しています。
船橋市高根木戸遺跡(縄文中期)出土 刺突文・彫刻骨角製品
金子浩昌・忍沢成視「骨角器の研究 縄文編Ⅱ」(昭和61年、慶友社)から180度回転して引用。
高根木戸遺跡出土骨角製品の出土状況
「船橋市の遺跡 船橋市史資料(二)」から引用
2 有吉南貝塚出土製品と高根木戸遺跡出土製品の対照
縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)と刺突文・彫刻骨角製品(船橋市高根木戸遺跡)の対照
3 考察
ア 形状酷似
二つの製品の形状が酷似しています。
イ 文様酷似
刺突・彫刻文様はほとんど同一と行っても過言ではない類似状況をしています。
「大」字状刺突文様と上下三角噛合陰刻文様を含む刺突と陰刻の上下順番がほとんど同じであることは、この製品を作るときの呪術世界の言葉(呪文・神話)が広域で共有されていたことを証明していると考えます。
なお、「船橋市の遺跡 船橋市史資料(二)」では「点列文様の一部に人を表現していると推定できる部分があり、何か呪術的骨器を思わせる。」と記述しています。「大」字状刺突文様が人を表現しているすれば、この製品の意味考察に大きな影響を及ぼします。
ウ 素材
有吉南貝塚出土製品はイルカ骨製ですが、高根木戸遺跡製品がどの動物の骨であるかの記述は引用書には書かれていません。「船橋の遺跡 船橋市史資料(二)」では「相当大きな動物の骨を利用」と記述されています。高根木戸遺跡製品がイルカや小型クジラの骨製であるとすれば、この製品は漁労の中でもより高度な技術・舟と組織を必要とするイルカ・小型クジラ猟と何らかの関わりを持つと考えることができるかもしれません。
エ 製品が意味するモノ
引用書(縄文編Ⅰ)では線刻と刺突で構成される文様施文は玦状耳飾・髪針・骨刀などに施文されている例を見ると書かれていて、高根木戸遺跡製品を骨刀として捉えているようです。この分類は箆状腰飾が剣であるという自分の印象と整合します。
オ 製品は非装身具として作られて可能性
引用書(縄文編Ⅰ)では「刺突文様は施文すること自体に呪術的な意味が込められているように思われ、身体装着用の加工をもたないものにこれが施されるという傾向がみられ、単なる装身具ではないことを示唆しているように思える」と記述して、刺突文施文骨角器が身体装着用でないものと親和性があると述べています。高根木戸遺跡出土製品には吊下用穿孔はなく、装身具ではありません。
「刺突文施文骨角器が身体装着用でないものと親和性がある」との情報は自分が考える「この箆状腰飾は短剣形祭具として作られ使われ、後に装身具に転用された」という仮説とよく合います。なお、箆状腰飾に吊下用穿孔があるにも関わらず、この製品がつくられた時は装身具ではなかったという説明は別記事で行いますが、最初の穿孔が刺突文様を「切って」いるのです。
4 対照作業で深まった観察
3の対照作業を行う中で、有吉南貝塚製品の上下三角噛合陰刻文様で上から伸びる三角の左線の存在に気が付きました。3Dモデル及び撮影写真でその実在を確認しました。対照作業をする前は、その存在が一見明瞭でなかったために気が付きませんでした。
5 上下三角噛合陰刻文様の意味
下から三角が二つ、上から三角が一つ噛み合うように分布するこの模様は何を意味するのか興味が深まります。現時点では魚眼レンズで山に囲まれた土地を撮影した写真と同じ風景画像を描いたものと空想します。千葉や船橋には山はありませんが、呪術的・神話的に土地(=この世の世界)の姿を魚眼レンズ風に描いたものであると空想します。
この世の世界の上に描かれる「大」字状模様は、この世の世界から超越した人つまり祖先の姿であるのかもしれません。
この骨器は土地と祖先を描いている短剣であり、最後の最後は暴力(短剣)を使ってでも土地を守る決意を表現した祭具であると想像します。
「最後の最後は暴力(短剣)を使ってでも土地を守る」ことが必要な社会情勢が存在していたということでもあります。東京湾沿岸貝塚世界の豊かな土地が中部高地をはじめとする周辺縄文社会から狙われていたのです。
東京湾沿岸縄文中期の土偶の無い貝塚世界は、周囲の土偶を多用する世界から侵入圧力を受けていたと空想します。
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