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2020年6月30日火曜日

国宝土偶「縄文のビーナス」と子どもへの投資

縄文土器学習 417

2020.06.28記事「国宝土偶「縄文のビーナス」の下腹部陰刻」、2020.06.29記事「国宝土偶「縄文のビーナス」女の一生の意味」に引き続いて、「縄文のビーナス」が副葬品であるか、製作者や所有者はだれか、国宝土偶「仮面の女神」との比較などについて考察してみました。

1 「縄文のビーナス」は副葬品か
小形土壙(径79㎝×70㎝、深さ18.5㎝)の壁際に横たわって「縄文のビーナス」が出土しました。

出土状況
鵜飼幸雄著「国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生 棚畑遺跡」(2010、新泉社)から引用
子どもを埋葬した土坑墓の副葬品として「縄文のビーナス」を捉えてよいようです。

2 製作者や所有者はだれか
鵜飼幸雄著「国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生 棚畑遺跡」(2010、新泉社)では、この土偶は北環状集落の時代つまり中期中葉Ⅰ(貉沢式期)に作られ、その土偶が集落内で長らく伝世し、南環状集落の時代つまり中期中葉Ⅲ(藤内式期)以降に埋納されたと想定しています。

棚畑遺跡の土器編年
鵜飼幸雄著「国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生 棚畑遺跡」(2010、新泉社)から引用

棚畑遺跡の集落全体図
鵜飼幸雄著「国宝土偶「縄文ビーナス」の誕生 棚畑遺跡」(2010、新泉社)から引用

この想定に従えば、「縄文のビーナス」は北環状集落のリーダー家であるとき作られ、代々リーダー家を重要祭具として伝世し、南環状集落に移動した後も同じ家族がリーダー家であったことが想定されます。そしてある時母系社会において跡継ぎになるべき女の子が死亡し、その女の子埋葬の副葬品として「縄文のビーナス」が埋納されたと考えることができます。
跡継ぎになるべき女の子が将来担うであろうリーダーシップの大きさに匹敵するだけの価値あるものとして「縄文のビーナス」が存在したのだと思います。
代々伝世してきた集落重要祭具「縄文のビーナス」を女の子亡骸と一緒に埋納することに集落民一同異議は無かったということです。
それだけ死んだ女の子に期待されていたリーダーシップが大きかったということです。
ここに死んだ女の子が属する家族が他の集落家族と異なる特別な人々だった可能性を推測することができるのだと思います。特別な家柄が存在するという、社会階層化の一端が浮かび上がったということです。
棚畑遺跡集落のリーダー家は「縄文のビーナス」を副葬品として死んだ女の子に持たせました。これは「子どもへの投資」として考えることができます。女の子はあの世に行って「縄文のビーナス」を所持していて、良い家柄の人として上位のポジションを得ることができます。「縄文のビーナス」副葬は財力や権力の世襲を暗示しています。

「縄文のビーナス」を実際に製作した技能者は集落リーダー家の人間とは限らないと想像します。近郷集落で土偶作成技術が特段に秀でた技能者(芸術家)を財力で招へいしたかもしれません。

3 国宝土偶「仮面の女神」との比較

国宝土偶「縄文のビーナス」と国宝土偶「仮面の女神」
ともに3Dモデルから作成した正面オルソ投影画像

ア 類似性
・大型土偶(高さ「縄文のビーナス」27㎝、「仮面の女神」34㎝)
・造形物として完成度が高い
・破壊が少ない(「縄文のビーナス」は破壊なし)
・少女埋葬と推定される土壙から出土(副葬品)
・横たわった出土状況を呈する
・八ヶ岳山麓近隣遺跡から出土(棚畑遺跡と中ッ原遺跡の直線距離は3.9㎞)

棚畑遺跡と中ッ原遺跡の位置

イ 差異性
・作成年代(「縄文のビーナス」は中期中葉初頭、「仮面の女神」は後期前半)
・土偶モチーフ(「縄文のビーナス」は女の一生、「仮面の女神」は集団見合い(成女式)※)
・類似土偶の存在(「縄文のビーナス」は類似土偶少ない、「仮面の女神」は類似土偶多い)
※2020.03.20記事「国宝土偶「仮面の女神」注記付き3Dモデルと想像的解釈」参照

ウ 考察
「仮面の女神」は陰部をことさら強調して露出していることに示されるように、生殖活動を指向している用途で使われたことが直観できます。男女交合が縄文時代の生命復活再生・恵みの豊穣再生産に不可欠な祭祀モチーフであり、その演出道具の一つが土偶であるという認識とよく適合します。
直截的に言えば、「この土偶を祈願道具にして、わが娘の伴侶を早く見つけて、一家をつくれるようにしよう」という現世のご利益にかかわる土偶です。
一方、「縄文のビーナス」は妊娠出産を軸とする女の一生を表現しています。この土偶の用途は「わが娘が幸福な女の一生を送れますように」という祈願になると考えます。
縄文人が今生きているわが娘に「幸福な女の一生を送れますように」と土偶を使って抽象的に祈願することはあり得ないと思います。やはり土偶に託す祈願はあくまでも具体的だと思います。
そういう意味で、「縄文のビーナス」のモチーフが女の一生であるならば、それは死んだわが子に持たせてあの世で良い女の一生が、そして生まれ変わったこの世でも良い女の一生を送れるようにしたのだと思います。
つまり、この「縄文のビーナス」はそのモチーフが抽象的であるという理由から、わが子が死んでから殯期間(数か月とか1年とか)に作って、わが子のミイラを埋葬するときに一緒に持たせた(埋納した)のだと想像することもできます。「縄文のビーナス」の類似土偶が近隣遺跡から出土していないことが、この土偶が長期間伝世していたものではないことを物語っているのかもしれません。

2020年6月28日日曜日

コハクルートとヒスイルート

縄文社会消長分析学習 31

山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)の学習のなかで茅野市棚畑遺跡から銚子産コハク製品と糸魚川産ヒスイ製品が出土していることを知りました。
ブログ「芋づる式読書のメモ」2020.06.27記事「中期の社会構造」参照
コハク製品とヒスイ製品の生産遺跡は限られていますからそれらが棚畑遺跡までやってくる運搬ルートは推定可能であると考えました。さらに、この二つのルートを合わせれば、ヒスイが房総にやってくるルートも浮かび上がることになります。
早速コハクルートとヒスイルートを想定してみました。

1 茅野市棚畑遺跡に至るコハクルートとヒスイルートの想定

茅野市棚畑遺跡に至るコハクルートとヒスイルートの想定
国土地理院3Dモデル(色別標高図+陰影起伏図)
垂直倍率:×9.9
銚子市粟島台遺跡:コハク製品生産遺跡
糸魚川市長者ケ原遺跡:ヒスイ製品生産遺跡
茅野市棚畑遺跡:ヒスイ製品、コハク製品出土遺跡

動画

2 メモ
コハクルートはコハク製品生産遺跡である銚子市粟島台遺跡→加曽利貝塚→堀之内貝塚→東京湾渡海→武蔵野台地の拠点集落→多摩丘陵横断→相模川流域→相模川沿い西進→笹子峠→甲府盆地→釜無川沿い西北進→宮川沿い西北進→茅野市棚畑遺跡(約280㎞)としてイメージできます。
ヒスイルートは糸魚川市長者ケ原遺跡→姫川沿い南進→松本盆地→塩尻峠→諏訪湖→茅野市棚畑遺跡(約130㎞)としてイメージできます。
ヒスイルートとコハクルートを合わせると、ヒスイが房総に運ばれた主要ルート(約410㎞)としてイメージすることができます。
今後、このルート沿いの主要中継集落を調べ、より精細なルートを想定することにします。
なお、コハク製品の移動だけでなく人の移動もあったと考えられます。房総から棚畑遺跡に婿入りが、反対に棚畑遺跡から房総に婿入りがあったかもしれません。房総に満遍なく分布する非在地系土器や長野県から多数出土する加曽利E式土器は間接的文化伝播だけでなく、人の移動(移住)も伴っていたと想像します。
2020.06.21記事「墓制の展開」参照

3 参考

地理院地図画面

地理院地図3Dモデル画面

2019年12月9日月曜日

土偶(国宝縄文のビーナス)(茅野市棚畑遺跡) 観察記録3Dモデル

縄文土器学習 281

茅野市尖石縄文考古館所蔵の土偶(国宝縄文のビーナス)について、観察記録3Dモデルを作成することができました。撮影後何度もモデルづくりにチャレンジして失敗していたのですが、マスカレード機能を知り適用させたところ、見違えるほど立派な出来ばえの3Dモデルとなりました。

縄文中期前半土偶(国宝縄文のビーナス)(茅野市棚畑遺跡) 観察記録3Dモデル
撮影場所:茅野市尖石縄文考古館
撮影月日:2019.09.13
4面ガラス張りショーケース越しに撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 59 images(Masquerade機能利用)

撮影写真の1例

展示説明パネル

感想
3Dモデルからオルソ投影画像をつくりしっかり観察できるようにしました。

オルソ投影画像
3Dモデルをじっくり観察していると、次のような感想が浮かびましたので、メモしておきます。


縄文のビーナスは女の一生を表現している
超モダンな髪形をしていておしゃれなビーナス像ですが、顔は産道から顔を出した嬰児です。顔の周りにしっかりした沈線が描かれていて、産道を暗示しています。
胸の乳房はまだ未成熟な少女の体形を表現していると想像します。
腹は妊娠している様子を示していると思います。
下半身はいつでも出産ができる準備OKの体の様子を表現していると推察できます。
全体として、誕生→成長→妊娠→出産OKという縄文女性の一生を物語る土偶であると考えます。
関連記事 2019.09.27記事「武居幸重著「縄文人の心」に興味津々