2014年8月27日水曜日

奈良時代遺跡密度データを補正する

シリーズ 花見川地峡の利用・開発史
第1部 縄文弥生時代の交通 その19

1 奈良時代遺跡密度図の異常に気がつく
これまで「ふさの国文化財ナビゲーション」(千葉県教育委員会)から遺跡統計データをダウンロードして旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代の市町村別遺跡密度図を作成して考察してきました。

ダウンロードしたデータ(CSVファイル)の情報内容には全く手を加えていません。エクセルでカウントできるようにするため書式上の不備について若干の調整をしただけです。

これまでは順調でした。

奈良時代遺跡密度図もこれまでと同じ方法で作成しました。

作成した図を見て、素人ながら異常であることに気がつきました。

奈良時代の「歴史の濃さ」の特徴が浮かび上がってきません。

異常に感じるのは、佐倉市が最低ランク(平均以下)になっているからかもしれません。
これまでの全時代で佐倉市は最高ランク(平均の倍以上)でした。
印旛沼南岸が千葉県原始・古代の突出したキーエリアであることは間違いありません。

ダウンロードデータで作成した密度図

この異常密度図を見て、古墳時代までとはちがって、奈良時代以降になると次のような現象があるのではないかと密かに検討しました。

●異常密度図の密かなる検討
「奈良時代以降になると、人の生活活動空間が現代のそれと重なる率がきわめて高くなる。従って当時の生活痕跡がその時代から現代に至る間にほとんど上書きされてしまい残らない。そのため、残った遺跡の密度をみても当時の生活活動の濃さの特徴は表現されない。」

要するに奈良時代以降の遺跡密度は「歴史の濃さ」を知るツールにはならないかもしれないと考えました。

平安時代遺跡密度をつくると、その考えでよいかどうか判断できる可能性があります。

奈良時代の検討はさておいて、平安時代遺跡密度図を早速つくってみました。

異常奈良時代密度図を各時代密度図と一緒に並べると次のようになりました。

異常奈良時代密度図を各時代密度図と一緒に並べた図

この比較図をみて、古墳時代まではもとより、平安時代遺跡密度図からも当時の人の活動との関連が大変良く読み取れることがわかりました。

奈良時代だけ異常です。奈良時代以降は密度図の意味が変化するというような苦し紛れの発想は棄却されました。

元データに異常があることがはっきりしました。

2 データ異常の原因
「ふさの国文化財ナビゲーション」(千葉県教育委員会)における時代区分は次のようになっています。

・時代別…旧石器、縄文時代、弥生時代、古墳時代、飛鳥時代、奈良時代、平安時代、古代、鎌倉時代、室町時代、安土桃山時代、中世、江戸時代、明治時代、大正時代、昭和時代、近代

このブログでは今、次の時代を考察しています。
・時代別…旧石器、縄文時代、弥生時代、古墳時代、飛鳥時代、奈良時代、平安時代、古代

この時代区分のうち、飛鳥時代はデータ数が6件だけで、ほとんど利用されておらず、また全て古墳時代あるいは奈良時代とも重複しているので、検討対象から外しました。

古代についてはデータ数が約2500と多いのですが、全て古墳時代、奈良時代、平安時代の全てあるいは1つか2つと重複していますので、特段扱う必要はないと考えていました。
たとえば、「古代(古墳[後期]、奈良、平安)」という記述になっていて、「古代」だけの時代表記は全くありません。

「古代(古墳[後期]、奈良、平安)」と記載されたデータは古墳、奈良、平安の各検索データにも重複して収録されます。

しかし、不審な佐倉市の古代データを見ると、「古代(古墳、平安)」とか「古代(古墳[後期]、平安)」という時代表記データが100件以上あることが判りました。

古墳時代の遺物、平安時代の遺物が見つかったからこのように記述されたのだと思います。
おそらくこの時代記述方法がデータ異常の原因であると直感しました。

「古墳、平安」と言い切るのではなく、「古代(古墳、平安)」と記述したということは、その頃というあいまいな情報であることを示そうとしているのだと思います。

「古代(古墳、平安)」と書いた人は、古墳時代から平安時代にあった遺跡だと表現したいのだと思います。

もし、「古墳時代にあった生活活動が奈良時代には一旦廃絶して、平安時代になると再興した」ということを表現しようするなら、古代などあいまいな言葉をつかわないで、「古墳、平安」と言い切ればよいだけです。

つまり、紙ベースのデータで「古代(古墳、平安)」と記述し、奈良時代も当然含むとの背景を有する情報が、電子化して検索すると、データの背景とか余韻がなくなり、字義通りの結果になってしまうということが、データ異常の原因であると考えました。

奈良時代とは西暦710年~794年の85年間を指します。
この85年間の時代を特定できる遺物は無いけれど、古墳時代と平安時代の遺物が出る遺跡は沢山あります。

そのような遺跡の時代表記を多くの自治体では「古墳、奈良、平安」と表記している場合が多いようです。
一方佐倉市、酒々井町、柏市、流山市などでは「古代(古墳、平安)」と表記する場合が多いようです。

このような時代表記の混乱がデータ異常の原因らしいとわかりました。

なお、もし、厳密に奈良時代85年間であることを特定できる遺物が出土したものだけを奈良時代遺跡とすると定義して、それが厳格に運用されれば、データ数は少なくなりますが、密度データとしては使えるものになると思います。

3 データ補正
データ異常の原因が大体わかりましたので、次のような手順でデータ補正をしました。

ア 「古代(古墳、平安)」遺跡数カウント
古代検索データから「古代(古墳、平安)」関連データを抽出して市町村別にカウントする。

イ ダウンロード奈良時代遺跡数カウント
ダウンロードした奈良時代検索データから遺跡数を市町村別にカウントする。

ウ ア+イによる補正データの作成
アのデータとイのデータを市町村別にプラスしてその結果を奈良時代遺跡数の補正データとする。

4 奈良時代遺跡密度図の補正
上記補正データによりいつもと同じ手順で奈良時代遺跡密度図(補正図)を作成しました。

千葉県全体の埋蔵文化財(奈良時代)箇所数は3983箇所で、全埋蔵文化財箇所数19905の約20.0%にあたります。
箇所数が多い自治体は成田市314、市原市308、香取市293、旭市206、山武市192、印西市179、千葉市179、南房総市175、佐倉市161などとなっています。箇所数が少ない自治体は浦安市0、九十九里町2、一宮町2、習志野市3、勝浦市8などとなっています。

埋蔵文化財(奈良時代)3983箇所を千葉県面積5156.62km2で割ると平均埋蔵文化財(奈良時代)密度7.7箇所/10km2が算出されます。

そこで密度情報を単純化してわかりやすくするために、平均値の値とその倍数を使って、次のような分級をして分布図を作成しました。

●埋蔵文化財(奈良時代)密度の分級
分級A 15.4~ 箇所/10km2
分級B 7.7~15.3 箇所/10km2
分級C ~7.6 箇所/10km2

なお、千葉市の情報は区別に示しています。

奈良時代遺跡密度図(補正図)

他の時代密度図と並べて表示すると次のようになり、異常さを除去して補正が適切に行われたことがわかります。

各時代の遺跡密度図を並べて表示する

密度図の内容の検討は次記事で行います。

0 件のコメント:

コメントを投稿