Impressions after reading "Kofun and Haniwa" by Seigo Wada (Iwanami Shinsho)
I finished reading "Kofun and Haniwa" by Seigo Wada (Iwanami Shinsho) with a sense of satisfaction. I am intrigued by the observation that kofun are stage props that use haniwa as items, and that the afterlife is visualized. I learned about the Ama-no-tori-bune faith. I took notes on my impressions after reading the book.
和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)を満足感を持って読了しました。古墳が埴輪をアイテムとして使う舞台装置であり、あの世が可視化されているという指摘に興味が深まります。天鳥船信仰を知りました。読後感をメモしました。
1 和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)
和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)
縄文学習、特に有吉北貝塚北斜面貝層の学習に熱中している私ですが、以前、Twitterで知った和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)を購入して読みだしました。縄文学習で凝り固まった脳細胞を少しでもほぐせるのではないだろうかという算段です。
たいていの購入図書は満足感を得られず途中挫折、読了しても感想文を書く気力は生まれません。しかし、この図書は久しぶりに満足感を持って読了しました。ワクワク感も味わいました。以下感想をメモします。
なお、書籍版を最初購入して外出時の待ち時間に読み進め、そのうちに自宅で大きな画面でじっくり読みたくなり、kindle版も購入しました。
2 全般的感想
2-1 古墳・埴輪百科事典と付録
本書は体裁は新書本ですが、内容は最新の古墳・埴輪百科事典(第一章~第五章)で、古代中国葬制史と日本との関連(第六章、第七章)が付録(副本)として付いている情報セットであると理解しました。本書をキッカケに古墳・埴輪について体系的基礎知識を入手したいと期待していた自分には最適のテキストとなりました。期待通りに体系的基礎知識を入手できました。
2-2 天鳥船(あまのとりふね)信仰
天鳥船(あまのとりふね)信仰について詳しく知り、それの表現舞台が古墳で、小道具が埴輪であることを理解できました。本書から得た情報で自分にとっての最も価値ある情報が天鳥船(あまのとりふね)信仰です。葬制に関する学習対象として、縄文時代の葬制、古墳時代の天鳥船(あまのとりふね)信仰による葬制、仏教式葬制の3つが眼前にそろいました。
2-3 グラフィック図版を楽しむ
図版がとても充実しています。引用図版でもグラフィック図版が多く、あるいは原図をトレースし直していてとても見やすく参考になります。図書版では図版のサイズが小さいのですが、驚くべきことに縮小した図版がどれもつぶれることなく「鮮明」なことです。図版だけみていても楽しくなります。
kindle版図版のスクショを拡大して楽しみ、たびたび感動しました。
2-4 事例紹介が多い
各地事例紹介がとても多く最初は「ついて行けない感」もありましたが、各論点で同じ事例が繰り返し出てくる場合も多く、そのうち事例自体に興味が湧くようになりました。本書に引き込まれたといことです。
2-5 超充実の古代中国葬制史
古代中国葬制史は超充実しています。全く持って逆の「期待外れ」でした。これだけで1冊の新書本になります。縄文学習のなかで、大陸の影響について不当な過小評価があるように感じていますが、弥生・古墳時代になるとこのように大陸との関係がデータで言えるということに感動しました。また、大陸と日本の関係(第七章)はワクワク、ドキドキしながらその興味深い展開を読みました。
3 第一章 古墳の出現とその実態
この章では、古墳の定義や分布、発生、古墳秩序と政治体制、編年・画期、墳丘と付属施設、棺・槨・室、古墳づくりの手順、儀礼などが説明図版を混えて記述されています。古墳に関してほとんど無知識の自分は、この章で基礎知識を体系的に得ることができました。
前方後円墳の部分名称 (和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
棺槨室 (和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
4 第二章 他界としての古墳
この章では、著者が天鳥船(あまのとりふね)信仰と名づける古墳と船の関係について記述されています。前方後円墳の時代では死者の魂は鳥に導かれる船に乗ってあの世(天)に向かうと考えられ、当時の葬列もその様子を擬えていて(著者はその様子をカラー口絵に画いている)、古墳儀礼の筋書や表現もそれに従っていることが記述されています。
自分は古墳と船との間に何らかの関係がありそうだと、かすかな印象を持っていましたが、この章で、天鳥船信仰が古墳儀礼の基軸であることをはじめて知りました。
「残された人びとにとっては、死者の魂を船に乗せて無事他界へと送り届け、そこで死者が安寧に永遠の命を生きるようにすることが、死者の冥福を祈る古墳時代的な形だったのである。そして、このような筋書きのもとに執りおこなわれた葬送儀礼において、古墳は墓であるとともに、その表面に他界を表現した「他界の擬えもの」(模造品)として、儀礼の重要な舞台装置の役割を果たしたものと考えられる。」(和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
5 第三章 埴輪の意味するもの
この章では、まず埴輪の種類と変遷が記述されています。無知識の自分にはとても参考になります。
ついで埴輪の配列とその筋書が記述されています。この記述から埴輪の意義と古墳の飾り立ての様子がとてもよく理解できました。
●埴輪配置の基本形
・後円部頂上の埋葬施設の真上の低い方形壇に…家々(屋敷=王宮)→埴輪群全体の中心
・屋敷を取り囲む方形に…円筒・朝顔(方形埴輪列)→前方部側中央に円筒を置かない隙間例も(入口を示す)
・方形埴輪列の内外に…武器(靫など)、武具(盾、甲など)、威儀の道具(蓋・翳など)
・墳頂部平坦面縁辺、各段の平坦面、時に墳丘裾に…円筒、朝顔が列状に→列の内外に盾を、列の中に木の埴輪を混える場合も
・造出の上に…円筒・朝顔を方形に並べ、その中に家、靫、盾、蓋、水鳥など
・その内外、特に造出とくびれ部との境などに…船、囲
前方後円墳完成予想図 (和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
●埴輪配置の筋書き
「他界への長い船旅を終えた死者の魂は、他界の入口で船を降り(船、水鳥)、浄水で禊をし(囲)、造出で他界に入るための儀礼を行った後、葺石で覆われた墳丘(岩山を想定)を登り、頂上にある防御堅固(武器・武具)で威儀を正した(蓋・翳)屋敷(家々)に住むことになるが、屋敷には日々、海の幸・山の幸が供えられた(小型土器・食物形土製品)。埴輪列は主に飲食物を入れた壺とそれを載せる器台(円筒・朝顔)から構成されていて、他界と現世を分かつ結界としての役割を果たすとともに、他界は飲食物に充ち満ちていることも表していた。
他界である墳丘の頂上と裾部に家々がある場合は、墳頂部の山の家が主たる屋敷で、造出など墳丘裾部の麓の家が入口の建物など従たる施設と使いわけられたものと思われる。
なお、他界の入口に船や水鳥を表現したことは、そこが他界の港(波止場)で、水鳥が先導する船に乗って死者(魂)が無事他界に到着したことを明示するためだったのだろう。類似の表現方法は古代の中国でも見てとることができる。」(和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
この章ではさらに、人物・動物埴輪の系統説明があります。また、埴輪と副葬品の使い分けも説明されています。
6 第四章 古墳の儀礼と社会の統合
この章では古墳づくりの実態(土木工事)と社会組織、儀礼監視者としての視葬者(はぶりのつかさ)、儀礼と流通システム、古墳の秩序などが記述されています。また、ヤマト王権は古墳にかかる儀礼を執行することで、それを人・もの・情報流通システムを動かす原動力としていました。古墳づくりが国づくりで、古墳は造りつづけることに意味があったことが詳しく説明されています。
7 第五章 古墳の変質と横穴式石室
この章では、首長連合体制から中央集権的国家体制に移行する六世紀第2四半期以降の様子が詳しく説明されています。大王墳は巨大な前方後円墳がつくられ、首長墳は徐々に円墳化しました。また埋葬施設は横穴式石室となりました。
横穴式石室では生者が死者の世界の玄室内に入れるので儀礼が大きく変化しました。葬儀参列者は墳丘にのぼる必要がなくなりましたが、埴輪による他界表現は存続しました。
また追葬が可能となり、夫婦合葬も始まりました。
この章では、横穴式石室と黄泉国訪問神話の説明があり、神話は古代中国でつくられ、古墳後期の九州に伝わり、後に列島風に書き換えられた可能性が高いことが説明されています。
8 第六章 古代中国における葬制の変革と展開
この章では古代中国における葬制の変革と展開が詳しく説明されています。
仰韶文化(前5000~前3000年)後期の河南省西水坡四五号墓から、土葬された人骨の左右に貝殻をモザイクに使って龍と虎、あるいは龍に乗る人などを描いた遺構が発見されている様子が紹介されていて、興味が深まります。
貝殻モザイクの龍虎 (和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
さらに、興味深い事例が連続しますが、きりがないので途中省略、後省略して、後漢後期の画像石の図像(宗山1号小祠堂)をメモとして転載引用しておきます。
画像石の図像(宗山1号小祠堂) (和田晴吾著「古墳と埴輪」(岩波新書)から引用)
著者はこの図像で描かれた筋書が、弥生時代の日本に伝わり、乗り物を車馬から船に変更して、天鳥船神話が成立したと述べています。
●筋書…被葬者が車馬行列で他界へ赴き、入口の物見櫓の前で車馬から降り、木に馬を繋ぎ、空の車を置き、二階建ての楼閣の一階で礼拝を受ける。宴席なのか、楼閣の二階には西王母と一群の人が座していて、屋根には鳳凰が留まっている。被葬者は車馬で無事他界に到着し、丁重に迎えいれられたことを示している。
9 第七章 日中葬制の比較と伝播経路
第一章~第五章と第六章をミックスして、時期別に整理して、あらたな材料を加えた内容になっています。本書の総とりまとめになっています。この章はワクワク、ドキドキしながら読書を楽しみました。
10 メモ
次のような問題意識が芽生えましたので、メモしておきます。
ある古墳と出会ったとき、
・古墳の年代や構造(埋葬施設など)を知る。
・埴輪の種類や数、配置を知る。
・古墳に表現された他界世界の様子を、復元的に3D技術を使って可視化する。
・古墳で行われた儀礼を再現的に考察する
・古墳被葬者の所領の広さとか、近隣首長との関係とか、王権との関係とか、社会背景を知る。
・古墳位置選定理由について考察する。(長期間工事にともない、人・もの・情報が集まる支配拠点としての古墳の意義)
・古墳工事の様子について段階を踏んで3D技術を使って復元可視化する。
・近隣古墳との関係について知る。
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