2015年5月15日金曜日

八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字検討 その5

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.131 八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字検討 その5

八千代市白幡前遺跡出土墨書土器文字の詳細検討を続けています。この記事は2Cゾーン検討のつづきです。

2Cゾーン出土文字の最大の特徴である大と一の組文字について、それが大一(タイイツ)星であることがわかりました。

大一(タイイツ)星とは「北天を運行する一星。天帝神として、兵乱・禍災・生死などをつかさどるとされる。陰陽道ではとくに重要視され、その八方遊行の方角を求めて吉凶を占うのを、太一占の法という。太一。」(『精選版 日本国語大辞典』 小学館)であり、北極星そのものを指すとされています。

寺院と中央貴族接待施設が存在する2Aゾーンに隣接した2Cゾーンが陰陽寮施設である可能性が出てきました。

白旗前遺跡は蝦夷戦争において都と戦地陸奥国を継ぐという戦略的重要性のある軍事兵站・輸送基地であると考えています。

その軍事基地に戦争勝利を祈願する宗教施設である仏教寺院と、呪術・占術という技術で戦争勝利に寄与する陰陽師の双方が存在していた可能性が出てきました。

予期せぬ展開です。注意深く検討を進めます

2Cゾーンにおける大一(タイイツ)以外の文字の検討を進めます。

●磨の意味
磨の主要な意味として、「刃物などをとぐ。といで鋭利にする。」(『精選版 日本国語大辞典』 小学館)があります。

これが祈願の内容だと考えます。武器を研いで戦いに勝利するという祈願・祈祷です。

百戦練磨(「たびたび戦ったり、経験を積んだりして、錬りみがき、鍛えあげられること。」『精選版 日本国語大辞典』 小学館)の祈願・祈祷がこの「磨」文字の背後に観察できると考えます。

●満の意味
○○(願い事)が不足が無く叶う、願い事でいっぱいになるという祈願の言葉だと思います。満願ということです。

万(万事)と同じような意味の文字と考えます。

●家の意味
1Bゾーンで「堤家」が出ていて、「家屋、住居としての建造物が火災・暴風雨・雪害等から安全であることを祈願したものと考えます。墨書土器に盛ったお供え物を家に見立てて、災害神に提出し、その代わりに本物の家屋の安全を確保したのだと思います。」と思考しました。

「家」は同様の家屋安全・繁栄祈願と考えます。

●田生の意味
田は水田と考えます。生は1Aゾーンで多出し、そこでは戦死の反意語としての命の意味で考えました。

田生(タイキ)は1Bゾーンで出た「牧万」(高津馬牧の万事がうまくいきますように)と同じように、「水田に命(あるいは生気・勢い)が充ちて豊作でありますように」という雰囲気の祈願語であると考えます。

2Bゾーンで「草田(クサダ、カヤタ)」が出ましたが祈願内容は同じです。「草田(クサダ、カヤタ)」ではなかなか稲が育たない現場の苦労から出た祈願語ですが、「田生」は理念的に「水田に命を!」という非現場サイドの祈願語と考えます。

●式の意味
式(シキ)は式神(シキガミ、シキジン)であると考えます。

しき【式】
⑦式神(しきがみ)の略。
『広辞苑 第六版』 岩波書店

しき‐がみ【式神・識神】
〖名〗 陰陽道で、陰陽師が使役するという鬼神。陰陽師の命令に従って変幻自在、不思議な術をなすという。式の神。しきじん。しき。〔新猿楽記(1061‐65頃)〕
※宇治拾遺(1221頃)一一「供なる童は、式神をつかひて来たるなめりかし」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

2Cゾーンが陰陽師活動ゾーンであるとする考えの駄目を押す出土文字です。

式神について詳しい検討は追って行いたいと思います。

式(シキ)と書いて式神(シキガミ)を使って(式神を陰陽師が操作して)行う祈祷を表現しているものと考えます。

陰陽師の技術とは、すなわち式神を操るなどの技術だと思います。

●神万の意味
これまで出てきた□+万は次の通りです。

1Bゾーン 牧万 (検討 牧は高津馬牧を指していると考えて間違いありません。白幡前遺跡1Bゾーンには基地司令部があり、高津馬牧はその傘下にあったと想像しています。1Bゾーンに詰める高津馬牧関係者、あるいは高津馬牧担当将官が高津馬牧の全て(万事)が成功的に進捗して、基地機能向上に貢献することを祈願したものと考えます。)

2Aゾーン 生万 (検討 生は命で、万は万事の意味で、全ての危険・災厄から逃れて命を保つことを祈願したのだと思います。生万でセイバンと読むのだと思います。)

両方とも□+万の□(牧、生)を良くする(発展させる、安全を保つなど)対象物(祈願対象物)として考えました。

神万も同じように考えたいと思います。

陰陽師の祈祷ですから、神を良くする(良い神を招き、悪い神を退散させる)という神自体を操作対象物とした祈願・祈祷であったのだと思います。恐らくそうした神の操作技術が陰陽師という職業に求められたプロパー技術であったのだと思います。

例えば、○○(戦争勝利とか、干ばつ回避とか、病気快癒とか)の祈願の際、その祈願の前提条件をつくるために、神万(ジンバン、シンバン)という祈願を行い、悪神を退散させ、善神・福神を招くということが行われたと考えます。

●酒真利の意味
正確には□酒真利であり、酒の上に1字以上の文字があります。

真利はマリと読み、次の鋺・椀のことだと思います。

まり【鋺・椀】
〖名〗 古く、水・酒などを盛った器。もい。
※書紀(720)允恭元年一二月(図書寮本訓)「大中姫(ひめ)の捧(ささ)げたる鋺(マリ)の水、溢(あふ)れて腕(たふさ)に凝(こ)れり」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

この椀(マリ)に注いだ(○○の)酒を神にお供えして、△△について祈願します、という意味だと思われます。

●新家古の意味
古い家を新しくしたい(してほしい)という祈願だと考えます。繁栄祈願です。

●□□天□の意味
天はアマあるいはアメと読み、神々のいる天という意味で使っているのではないかと想像します。
神との関わりで天が使われて、何かを祈願したのだと思います。

●厨の意味
厨(クリヤ)の3つの意味のどれかの繁栄・安定等を祈願したものと考えます。

くり‐や【厨・庖・厨家】
〖名〗
① 飲食物を調理する所。台所。
※書紀(720)大化二年正月(北野本訓)「一人を以て廝(クリヤ)に充てよ」
② 「⇨くりやびと(厨人)」の略。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「くりや、ざふし合はせて五人ばかり、別当、預どもつきたり」
③ もてなすこと。饗応。
※小右記‐長徳三年(997)一〇月一日「有厨御贄、一献左大臣、不令献者飲」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館

一言で言えば、「家」と同じような繁栄祈願です。

●盛の意味
盛(セイ)は○○が勢いよく栄えるということの祈願語で、これまで出てきた次のような祈願語と同類であると考えます。

2Aゾーン 上(アガリ)(検討 官人が身分や位が上にあがることを祈願した。)
2Aゾーン 安(ヤスマル)(検討 苦痛がおさまる、病気がなおるなどの祈願をしたのだと思います。)
2Aゾーン 長(チョウ)(検討 長寿の意味であると考えます。延命を願ったのだと思います。)

●大の意味
大(ダイ)も○○が大きなってほしいという祈願語であると考えます。

●万の意味
万(バン)もすべて○○になってほしいという祈願語であると考えます。万事の万。

●井の意味
井は水を汲みとる場所であり、水の不自由回避の祈願であると考えます。

●大家の意味
1Bゾーンで出てきた大寺(オオデラ 寺院が大きくなるように祈願する。)と同じく、家(建物)が大きくなるように祈願したと思います。

八千代市白幡前遺跡2Cゾーンに出土中心をもつ墨書土器文字の実例


0 件のコメント:

コメントを投稿