花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.330 養蚕・漆関連墨書文字の解読をふりかえる
1 養蚕・漆関連墨書文字解読の経緯
船尾白幡遺跡の出土物検討を行っている最中に、小字「白幡」の存在をヒントにして、紡錘車・鎌の用途と分布を考察するなかで養蚕活動存在の可能性を感得しました。
2016.03.21記事「船尾白幡遺跡 紡錘車」
2016.03.25記事「船尾白幡遺跡 鉄の道具」
その感得により、墨書土器「小」「子」が蚕(読みはコ)であるという解読ができました。
さらに、蚕飼育が掘立柱建物で行われていた可能性を推察することができました。
2016.03.26記事「船尾白幡遺跡における養蚕を示す墨書文字「子」「小」」
墨書文字「小」「子」の解読(発見的解釈)はこのように行われました。
参考 船尾白幡遺跡 墨書文字「子」「小」出土状況
ひとたび墨書文字「小」「子」が蚕(コ)であることが解読されると、別の墨書土器文字「馬牛子皮身軆」の意味が氷解しました。
2016.03.29記事「墨書土器「馬牛子皮ヵ身軆ヵ」の意味」
参考 墨書土器「馬牛子皮身軆」
そして牧集団が牛馬皮に漆を塗って付加価値を高めた皮製品を作っていた可能性があるという発掘調査報告書の記述をヒントに、芋づる式に、「馬子牛皮身軆」と同じ遺構から出土する別の墨書文字「七知益」の解読も行われ、「七」(シチ)が漆(シチ)、「知」(シル)が汁(シル)、「益」(エキ)が液(エキ)であることが判明しました。
2016.04.04記事「漆業務発展祈願の墨書文字を認識した瞬間」
参考 墨書土器「七知益」
さらに辞書・辞典情報を踏まえて、「知」出土遺構から共伴出土する墨書文字「息」(ソク)が乾漆を意味する当時の技術用語であるソク(〓(土偏に塞)・塞・即・則などと書かれる)であるという解読も行われました。
2016.04.09記事「船尾白幡遺跡で乾漆を示す墨書文字(息)を認識」
参考 船尾白幡遺跡墨書文字「七」「知」「息」と西根遺跡漆関連遺物の出土状況
養蚕に関わる墨書文字「小」「子」と漆に関わる墨書文字「七」「知」「益」「息」の解読が出来たことにより、西根遺跡から出土した馬形・人形が養蚕と関連の深いオシラサマであることが推察できたり、千葉県全域の養蚕や漆活動の特性を知ることができるようになりました。古代社会の様子学習が大いに深まっています。
2016.03.27記事「西根遺跡出土馬形・人形はオシラサマか」
2016.03.28記事「参考 千葉県における墨書文字「子」「小」(=蚕)出土遺跡」
2016.04.06記事「参考 千葉県における漆関連墨書文字分布」
2016.04.10記事「参考 千葉県における漆関連墨書文字分布 その2」
2 墨書文字解読方法について
これまで、このブログでは墨書文字の解釈は主に辞書・辞典情報と照らしあわせて行ってきました。
しかし、鳴神山遺跡、西根遺跡、船尾白幡遺跡ではそれに加え、墨書土器(文字)を遺構別にGISにプロットして、同じくGIS上にプロットした遺物情報、遺構情報と照らし合わせて空間分析しました。さらに時代区分別にも分析しました。
また、地名情報(小字情報)をヒントに取り入れました。
その結果、上記墨書文字を解読できました。
墨書土器の文字情報の解読には出土物情報、遺構情報、地名情報、辞書・辞典情報などを総合的に活用して空間的時代的に分析することが大変有効であるという結論を得ることができました。
今後、各種情報を総合活用してGIS空間分析することにより、養蚕・漆に限らず多様な墨書土器文字を解読することができると考えます。
3 墨書文字情報を活用した遺跡特性把握と遺物・遺構意味の再検討
墨書文字の解読(発見的解釈、蓋然性が高い解釈)が行われることによって、遺跡特性の把握がより的確に行われるようになるとともに、遺物・遺構の意味の再検討を行うことができると考えます。
例えば、船尾白幡遺跡では墨書文字「小」「子」の出土により養蚕が行われていたという遺跡特性が初めて明らかとなりました。
また、掘立柱建物が養蚕施設として建設されたということも明らかになりつつあります。
さらに、蚕飼育は掘立柱建物、繭からの製糸は竪穴住居という空間的分業が明らかになりつつあります。
2016.04.03記事「鳴神山遺跡 絹生産分業体制」
養蚕の「小」「子」あるいは漆の「七」「知」「益」「息」という墨書文字を使って各地の遺跡においてGIS空間分析をおこなえば、その遺跡の特性の新たな側面を知ることができます。
また遺物・遺構意味のこれまでに知られていなかった意味を明らかにすることができると考えます。
養蚕、漆に限らず多様な墨書文字の意味が解読されれば、各地古代遺跡の特性と遺物・遺構の意味がより明らかとなり、古代下総国や房総のこれまで知られていなかった特性をあぶり出すことができます。
4 墨書文字情報と地名(小字)との関連分析
古代の活動が地名(小字)として伝わってきているものがあるので、地名と墨書土器情報を照らし合わせることによって有益な新情報を引き出すことが可能であると考えます。
5 検討効率化のための電子辞書
墨書文字の辞書辞典を使った検討を行うに際し、私の場合次の機器が役立っているのでメモしておきます。
私の場合、この機器が無ければ墨書文字解読作業は遅々たるものになっていると考えます。
外付け電子辞書 DF-X10001(セイコーインスツル株式会社)
2014.11.26記事「外付け電子辞書の活用」
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船尾白幡遺跡の紡錘車、鎌の検討を行っていた時、ひらめくものがあり、墨書文字「小」「子」の解読に進み、さらに墨書文字「七」「知」「益」「息」の解読に進み、その成果を活用して千葉県全体の養蚕や漆業務の検討までしてしまいました。
壮大な寄り道をしていたのです。
このまま養蚕や漆業務の検討を継続すると、自分でも何がなんだかわからなくなるので、この記事で養蚕、漆業務検討は一旦区切り、次の記事から検討途中の船尾白幡遺跡に戻ります。
なお、船尾白幡遺跡の検討を切り上げたら、小字の検討を行います。
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