八千代市立郷土博物館常設展に展示されている人面刻書土器(八千代市上谷遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。
1 人面刻書土器(八千代市上谷遺跡) 観察記録3Dモデル
人面刻書土器(八千代市上谷遺跡) 観察記録3Dモデル土師器坏体部外面に人面のヘラ書き
上谷遺跡A204竪穴住居出土
撮影場所:八千代市立郷土博物館
撮影月日:2021.05.13
ガラスショーケース越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 62 images
展示の様子
3Dモデルの動画
2 人面刻書土器の時期
上谷遺跡人面刻書土器出土遺構(A204竪穴住居)近隣の竪穴住居から出土した墨書土器に年号記銘土器(承和二年=835年)があることから、人面刻書土器も9世紀(平安時代初頭)頃の遺物と考えられます。
参考 千葉県出土墨書・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)画面
3 人面刻書のトレース
人面刻書が正面になるように調整した画面を3Dモデルで作成し、人面刻書をトレースしました。
人面刻書土器(八千代市上谷遺跡)の人面トレース
4 人面刻書に関するメモ
・刻書(ヘラ書き)された人面には顔輪郭、眉毛、目、鼻、口が描かれています。
・大きくカーブする眉毛、細くなった目、鼻と口が近づいている様子、口から歯が斜めに見えている様子から、この人面は明らかに笑っています。
・刻書(ヘラ書き)ですから土器焼成前に土器製作工房の工房技能者がこの人面を描いたものです。
・平安時代の房総では集落毎に土器製作を広域に散在する工房に発注して入手していたと考えられています。人面刻書土器は発注者(集落の土器利用者…権力のある集落指導層)が人面刻書を工房に特注したものであると考えることが一つの合理的解釈としてあり得ます。
・「笑う人面」刻書土器を発注しているのですから「笑う人面」は単なる酔狂ではなく、しっかりした意義があると考えることができます。
・「笑う人面」刻書の意義可能性として「笑う盾持人埴輪」と同じ意義を考えることができます。
笑う盾持人埴輪
設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」(2021、吉川弘文館)から引用
笑う盾持人埴輪に関して次の考察をしたことがあります。
「図書(設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」)では、盾をかざした威嚇表現なのに笑っている理由を、天鈿女(あまのうずめ)が笑いで猿田彦の眼力に立ち向かった神話を引き合いに出す、辟邪説で説明しています。
笑いに辟邪の意味があるとすれば、その笑いは攻撃的、破壊的であり、相手に恐怖心を与え、相手の闘争心を萎えさせるものです。
盾持人埴輪は、相手(邪悪で強力な侵入者)よりも、それに立ち向かう自らの方がはるかに武力、知力、気力が優っていて、その自らの圧倒的優越性を相手心理に直接知らせるための手段として笑いを使っているのだと思います。
実際に戦えば相手を確実に圧倒殲滅できることを確信しているので、その確信に一点のくもりもないので、その自らの意識を笑いという手段で相手に直接提示したのだと思います。笑いの本質の一つに相手に対する優位性表現があることは万人が理解しています。
盾持人埴輪は実闘争の前に心理戦、情報戦で勝利している様子を表現していると考えます。
古墳社会における闘争において心理戦、情報戦が行われていた様子をこの盾持人埴輪は伝えていると考えます。」(ブログ「芋づる式読書のメモ」2021.03.10記事「笑う盾持人埴輪」)
・「笑う人面」刻書の意義は辟邪であり、この土器を使うことにより利用者が怨霊・病・死・災害などからわが身を守っていたのだと思います。
5 3Dモデル作成に関するメモ
人面刻書土器展示空間の光線環境が著しく劣悪であり、以前3Dモデル作成にチャレンジしたことがあるのですが、その時は敗退しています。今回土器全体の3Dモデル化ではなく人面部分だけの3Dモデル化を目指してなんとかそれが実現できました。
6 土器底面の刻書
この土器底面にも、3Dモデルで見て判るように、モノが擦れた跡のような刻書が複数ありますが、その意味は判りません。
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