2024年11月6日水曜日

有吉北貝塚北斜面貝層のゾーン区分と遺物移動の様子(感想図)

 Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer Zone Division and Relic Movement (Impression Diagram)


I have compiled an impression diagram of the distribution of relics in the Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer, showing the zone division by function and the movement of relics. These impressions are based on the examination of the distribution of relics in the north slope shell layer over the past few years. I will use these impressions (problem awareness) as a springboard to accelerate my learning.


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物分布について、機能によるゾーン区分と遺物移動の様子を感想図としてまとめて見ました。過去数年間の北斜面貝層遺物分布検討に基づく感想です。この感想(問題意識)を踏み台にして学習を加速することにします。

1 有吉北貝塚北斜面貝層のゾーン区分と遺物移動の様子(感想図)


有吉北貝塚北斜面貝層のゾーン区分と遺物移動の様子(感想図)


有吉北貝塚北斜面貝層のゾーン区分と遺物移動の様子(感想図)

2 メモ

2-1 4ゾーン区分

ガリー侵食で形成された急斜面に遺物が投棄、埋納され、人骨が埋葬されたと考えられます。急斜面ですから、遺物は重力と流水の営力で下流に移動します。急斜面における投棄・埋納・埋葬が行われたゾーンを3つに区分しました。

投棄・埋納・埋葬された遺物は間欠的に発生する流水(イメージ:年に1~2回、あるいは数年に1回の大雨で生じる強いガリー水流)で下流にガリー流路に沿って移動します。この流路空間を独立した4番目のゾーンとして考えます。

谷頭ゾーンで投棄された土器片がガリー流路の最下流まで運ばれていることは既に確認してあります。

2-2 谷頭ゾーン

ガリー流路谷頭部に位置していて、遺物投棄・遺物埋納・人骨埋葬が活発に行われ、遺物出土量が特段に多いゾーンです。

2-3 中流ゾーン

尾根によりガリー流路が狭窄した部分の直下域で、遺物投棄量は少なく、埋納や埋葬は顕著ではありません。北斜面貝層ではあまり利用されていないゾーンです。そのため中流ゾーン地先のガリー流路空間では遺物出土量が減少します。

2-4 下流ゾーン

遺物の投棄、埋納が行われていますが、人骨埋葬はほとんど観察できません(散乱人骨出土が低調)。

下流ゾーンには急斜面だけでなく、平坦面が存在していた時期があり、儀礼空間として使われていた可能性が濃厚です。(上流から流されてきたのでなく、この場に埋納されたと想定できる)イモガイ製腰飾などが出土しています。

2-5 ガリー流路ゾーン

間欠的水流により上流から運ばれてきた遺物が出土します。有吉北貝塚出土の最大級土器294番(加曽利EⅡ式土器土器)は谷頭ゾーンから流路ゾーン最下流まで連続的に分布します。また、ガリー流路ゾーンの下流部では、古い土器が出土する層位の方が新土器が出土する層位より上位に位置していて、見かけ上、逆転現象を呈します。これは、時間の経過のなかで、谷頭ゾーンの浸食により古い土器片が流され、下流で新しい土器片堆積層の上に堆積した結果であり、ガリー流路縦断形が平滑化しているなかで生まれた現象であると理解できます。


2024年11月5日火曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 打製石斧分布

 Distribution of chipped stone axes in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound


I created a data on the distribution of chipped stone axes in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound. It is interesting to know where the chipped stone axes were dumped and how they were moved.


有吉北貝塚北斜面貝層の打製石斧分布資料を作成しました。打製石斧がどこで投棄され、どのように移動したのか、興味が深まります。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 打製石斧分布

有吉北貝塚北斜面貝層 打製石斧分布

データ:発掘調査報告書

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3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 打製石斧


打製石斧例 発掘調査報告書から引用

2-2 打製石斧の分布

グリッド別に見て多数の打製石斧が出土しているのはガリー谷下流域です。この事象がガリー谷谷頭で投棄された打製石斧が水流で運ばれてきて、貯まったものであるのか、下流域で投棄されたものが集まったものであるのか、この分布図だけからでは判断できません。次のステップ、つまり貝層分布の詳細と関連付けた打製石斧3D座標で検討すれば、分布の意味が判明するに違いありません。

次の記事で、打製石斧と磨製石斧の分布に相違が見られるのか、検討します。


有吉北貝塚北斜面貝層 楔形石器分布

Distribution of cuneiform stone tools in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound


A distribution map of cuneiform stone tools in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita shell mound was created. They are distributed on both the upstream and downstream sides of the shell layer on the northern slope, and the downstream side is an interesting area where many ritual artifacts have been found, leaving a gap.


有吉北貝塚北斜面貝層の楔形石器の分布図を作成しました。北斜面貝層の上流側と下流側に分かれて分布し、下流側では儀礼的遺物多出域で空白となっていて、興味が生まれます。

 1 有吉北貝塚北斜面貝層 楔形石器分布

有吉北貝塚北斜面貝層 楔形石器分布

データ:発掘調査報告書

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3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 楔形石器


楔形石器の例(南斜面貝層出土例)

発掘調査報告書から引用

発掘調査報告書には北斜面貝層出土の楔形石器の実測図は掲載されていないようです。

2-2 分布の特徴

ガリー谷の上流側(画面左側)と下流側(画面右側)に分かれて分布しているように観察できます。下流側分布は中空部分があり気になります。この中空部分には儀礼的遺物が多出していますから、そこに実用道具の楔形石器が分布しないことは、「棲み分け」みたいな感じを受け分布上の興味が増します。今後の総合的な遺物分布検討が楽しみになります。

3 有吉北貝塚北斜面貝層 OEF分布

発掘調査報告書ではOEFとは楔形石器の形成に伴って作出された剥片のことであると説明されています。遺跡全体で、楔形石器は581点、OEFは1022点出土しています。しかし、北斜面貝層のOEF出土数は9点となっていて、異常です。これは本来の分布特性ではなく、調査における資料掲載もれとか、分類方法の途中変更などに起因している一種のミスであると考えます。

有吉北貝塚北斜面貝層 OEF分布

データ:発掘調査報告書

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像

4 有吉北貝塚北斜面貝層学習の再開における感想

短期集中学習としての千葉市人形塚古墳学習に10月一杯取り組みました。いつもののんべんだらりとしたブログ記事づくりとは違い、特段に学習を集中した結果、予期した以上の進展となり、次のステップまでしばらく活動を区切ることにしました。

そこで、1ヵ月間手を離れていた有吉北貝塚北斜面貝層学習に取り組み始めました。1ヵ月間の休憩の後の学習取組はかなり新鮮な感情でスタートすることができました。これまでは当面の作業が念頭から離れることがなく、作業連続の波に呑まれたような生活でした。しかし、1ヵ月ぶりに北斜面貝層学習に戻ってみると、学習方向がよく見え、学習意欲も強まり、物事の「できる」感が強まっています。

同時に、これまでは考えることなく出来ていた一連の実務作業が、空では思い出せません。作業ステップをもう一度メモして、確認して進めなければできません。これは仕方がないことです。

当面は次の実務作業を継続して、遺物台帳と発掘調査報告書掲載遺物リストを総合したデータベース作成を急ぐことにします。

●報告書掲載遺物リスト(石器関連)のデータベース化(postgreSQL作業)

・OCR作業

・postgreSQL作業

●報告書掲載遺物リスト(石器関連)のBlender棒グラフ作成

・「Excel名寄せ.py」を使ったグリッド別頻度分布資料作成

・「グリッド座標書き込み.py」を使ったグリッド頻度分布表に座標追記。

・Blenderで「CUBE配置90%1ステップ総数.py」を使った作図。

・Blenderで表題を「移動回転スケール変更.py」を使って配置。

2024年11月3日日曜日

千葉市人形塚古墳 当初形状復元模式モデル

 Chiba City Ningyozuka Tomb: Model of the original shape


I have studied the restoration of the original shape of the Ningyozuka Tomb in Chiba City, and based on the results, I have created a model of the restoration. There is an artificial space on the left and an upper terrace on the right, and the shape of the tomb is not completely symmetrical. The top of the front part is higher than the top of the rear circular mound.


千葉市人形塚古墳の当初形状復元を検討して、その結果により復元模式モデルを作成しました。左側に造出的空間が、右側に上段テラスがあり、古墳形状は完全な対称形になっていません。前方部墳頂の方が後円部墳頂より高くなっています。

1 千葉市人形塚古墳 当初形状復元模式モデル

千葉市人形塚古墳 当初形状復元模式モデル

垂直比率:×3.0


説明図

地図は沼澤豊氏作成「千葉市人形塚古墳企画図」を引用

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3Dモデルの画像


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

千葉市人形塚古墳の当初形状復元を想定して、その模式モデルを作成しました。

左側には旧地表面を利用した造出のような空間があります。

テラスは前方部前面斜面には無いようです。右側には上段テラスがあり、埴輪展示の演出効果を高めています。

盛土は大きく2回に分けて実施され、その場所に小段が残されたようです。

前方部墳頂の方が後円部墳頂より高くなっています。


2024年11月2日土曜日

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE 加曽利E式土器 総括編」の観覧

 Visiting the Kasori Shell Mound Museum special exhibition "This is E, That is E: Kasori E-type pottery, general edition"


I visited the Kasori Shell Mound Museum special exhibition "That is E, That is E: Kasori E-type pottery, general edition" to commemorate the 100th anniversary of the excavation. The pottery exhibits, explanatory panels, and explanatory pamphlets are very comprehensive. This is a rare opportunity for me to learn about Kasori E-type pottery.


発掘100周年を記念する加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE 加曽利E式土器 総括編」を観覧しました。土器展示、説明パネル、解説パンフレットがとても充実しています。自分にとってまたとない加曽利E式土器学習機会到来です。

1 土器展示

7つのショーケースを使って73点の土器が時期順を基本に展示されています。


会場入口


土器展示ショーケース


土器展示ショーケース

2 説明パネル

今回の企画展は過去とくらべて説明パネルの充実度が光っています。


説明パネル例

3 解説パンフレット


解説パンフレット表紙

無料で配布されている解説パンフレットに全展示土器写真とほとんどの説明パネルが掲載されていて、コンパクトな加曽利E式土器百科事典の様相を呈しています。とても充実していて、デザイン印刷もgoodです。

4 感想

今回の訪問は自分にとっては偵察的訪問であり、展示の状況を確認するためのものでした。3Dモデル作成用撮影は加曽利EⅡ式土器1点だけにとどまりました。今回観覧の結果を踏まえて、この企画展を活用した加曽利E式土器学習のイメージが出来上がりましたので、2025年3月2日終了までに数回訪問して、加曽利E式土器学習を深めることにします。

学習は次の手順で行うことにします。

ア 今回展示土器分類毎に展示土器をじっくり観察して、主要なものについて3Dモデルを作成します。

今回展示土器の分類

1 中峠類型

2 加曽利EⅠ式土器

3 加曽利EⅡ式土器

4 他地域影響土器(加曽利EⅡ式期)

4-1 大木系土器

4-2 連弧文土器

4-3 曽利式土器

4-4 折衷する土器

5 加曽利EⅡ~Ⅲ式土器

6 加曽利EⅢ式土器

7 加曽利EⅣ式土器

8 加曽利EⅤ式土器

9 (参考)北白川C式

イ 過去「あれもE…」企画展で作成した3Dモデルを今回土器分類で整理します。

ウ 加曽利EⅡ式土器からEⅢ式土器への移行変化について特段に詳しく観察します。(有吉北貝塚北斜面貝層学習に結びつけるため。)


2024年10月ブログ活動のふりかえり

 Looking back on blog activities in October 2024


I looked back on the activities of the blog "HANAMIGAWA RYUIKI wo ARUKU" in October 2024.

My activities in October were almost entirely focused on learning about Ningyozuka Kofun in Chiba City. I used a 3D model created from a contour map of the kofun as a tool to carry out my learning. I was lucky to come across Yutaka Numazawa's research into the restoration of kofun design principles. I even reached the point of starting to consider the 3D model of the restoration.


ブログ「花見川流域を歩く」の2024年10月活動をふりかえりました。

10月活動は、千葉市人形塚古墳学習にほぼ終始。古墳等高線図から作成した3Dモデルをツールに学習を展開。沼澤豊さんの古墳設計原理復元研究に出会えラッキー。復元3Dモデルの検討入口まで到達。

1 ブログ「花見川流域を歩く」

・2024年10月の記事数は28です。

・千葉市人形塚古墳等高線図から3Dモデルを作成して、それをツールに沼澤豊さんの古墳設計原理復元研究の学習を深めました。沼澤豊さんの手によって24等分値という当該古墳の基準スケールが明らかになり、それをもって説明された千葉市人形塚古墳形状の歯切れの良さに感動しました。ぐにゃぐにゃの等高線図から24等分値で構成される古墳諸元が抽出される様子は魔法のようです。

・千葉市人形塚古墳から出土した地割線の意義について、空中写真判読や3Dモデル検討から、発掘調査報告書や沼澤豊さんの見解と微妙に異なる結論が得られたプロセスを大いに楽しみました。

・ウズベキスタン関連記事を6編書きました。

・儀礼学習記事を1編書きました。

2 ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」

・早朝散歩記事を2編書きました。

3 2024年10月活動の特徴

3-1 千葉市人形塚古墳学習

千葉市人形塚古墳学習を短期集中で取り組みました。沼澤豊さんの論文「千葉市人形塚古墳のいわゆる地割線について」(2008、千葉県教育振興財団文化財センター「研究連絡誌」)に出会えて、その先端的研究を学習できたことはラッキーでした。幸先のよい学習スタートとなりました。この論文で得た知識(24等分値=当該古墳の基準スケール)を垂直方向にも援用して復元3Dモデルの検討入口まで到達できました。

3-2 他の学習

有吉北貝塚北斜面貝層学習は人形塚古墳学習に席を譲り休みました。

儀礼学習および展示物3Dモデル作成活動を行いました。

4 2024年11月活動の展望

4-1 千葉市人形塚古墳学習

千葉県教育庁森宮分室に許可申請している空中写真閲覧が実現すれば、空中写真分析を行い、古墳形状等の認識を深め、古墳の当初形状復元3Dモデルを作成することにします。短期集中学習をまとめることにします。

4-2 有吉北貝塚北斜面貝層学習

古墳学習で獲得した等高線から地形3Dモデルを作成する技術を利用して、地山等高線図を3Dモデル化して、北斜面貝層の器形状の理解を深めることにします。貝層分布(セクション図情報)の3Dモデル化のあり方について検討します。

4-3 儀礼学習

儀礼学習を継続します。

参考

ブログ「花見川流域を歩く」2024年10月記事 〇は閲覧の多いもの

ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」


2024年10月 Sketchfabに投稿した3Dモデル


2024年10月 YouTubeに投稿した動画


2024年10月 ブログ「花見川流域を歩く」投稿記事に掲載した画像



2024年10月29日火曜日

千葉市人形塚古墳 当初3D形状復元のための検討資料

 Chiba City Ningyozuka Tomb: Study materials for the original 3D shape restoration


In order to restore the original 3D shape of Chiba City's Ningyozuka Tomb, I created a document (conceptual material) in which the information currently known is entered into the 3D model of the excavated tomb. This has deepened my understanding of the 3D shape of the tomb.


千葉市人形塚古墳の築造当初3D形状を復元するために、現段階で判った事項を出土古墳3Dモデルに記入した資料(概念資料)を作成しました。古墳3D形状認識が一歩深まりました。

1 千葉市人形塚古墳 当初3D形状復元のための検討資料

千葉市人形塚古墳 当初3D形状復元のための検討資料


説明

1 周溝などからの古墳立ち上がり線(35.0m~36.0m)二重になっているところもある。

2 地割線が描画されている整地盛土面の造成範囲(36.5m)古墳平面外形に近似した形で造成されている。

3 テラスの範囲(37.2m)上段テラスとの境は地割線による。武人埴輪などが展示された。

4 上段テラスの範囲(37.5m)馬や馬子埴輪が展示されたテラス。

5 小段(盛土第1ステップ)範囲(38.2m)盛土施工の段階区切に小段が残ったと考えられる。

6 墳頂部(38.2m~40.2m)前方部墳頂部には家形埴輪が展示された。

テクスチャ図面は沼澤豊氏作成「千葉市人形塚古墳企画図」を引用

垂直比率:×3.0

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3Dモデル画像


3Dモデル動画

2 メモ

千葉市人形塚古墳の築造当初の3D形状を復元するために、現段階(2024.10.29)で判った事項を出土古墳3Dモデル(表土、流土を剥がして出土した古墳3D形状…等高線図から3Dモデル化)に記入した資料を作成しました。

1 古墳立ち上がり線

周溝などからの古墳立ち上がり線(35.0m~36.0m)は出土古墳3Dモデル(元は等高線図)から地形を読み取り描画しました。。

2 整地盛土面の造成範囲

地割線が描画されている整地盛土面の造成範囲(36.5m)は斜め空中写真と地割線空中写真を出土古墳3Dモデルおよび等高線図と照らし合わせて判定しました。後円部の整地盛土面の造成範囲は地割線外円推定線にほぼ一致します。地割線が描画されている整地盛土面が古墳平面外形に近似した形で造成されている事実は、地割線を描く前に既に設計諸元に基づき整地盛土工事が行われていたことを物語っていて、地割線描画意義検討に関する重大情報となります。

3 テラス

テラスの範囲(37.2m)上段テラスとの境は地割線によります。武人埴輪などが展示された。後円部のテラス内側線は地割線内円に一致します。

4 上段テラス

上段テラスの範囲(37.5m)馬や馬子埴輪が展示されたテラス。古墳及び埴輪展示を観覧するための主要視点場は横穴式石室付近であると考えられます。この付近からテラスに展示されている埴輪を観覧する時、馬、馬子などの埴輪は遠方になるため、テラスを一段(30cm)高くして見やすくしたと考えられます。埴輪展示の演出(他界観の演出)の詳細(テラスを一段高くした)を地割線に描いたこと自体が、この古墳の特性を物語っています。この古墳は発掘調査報告書で強調されているように、埴輪展示の演出効果を特段に意識しています。

5 小段

小段(盛土第1ステップ)範囲(38.2m)盛土施工の段階区切に小段が残ったと考えられます。小段の線形は地割線により想定しました。盛土を安定させる(排水、圧密沈下)ために墳丘盛土は2段階に行われたと土層断面図から判断されています(発掘調査報告書)。盛土の最初のステップと最後のステップの間に小段(イヌ走り)が形成されたと想定します。等高線図にその残片を観察できます。

6 墳頂部

墳頂部(38.2m~40.2m)前方部墳頂部には家形埴輪が展示されました。前方部墳頂部線形は地割線に基づきます。前方部墳頂部の高さは40.2m、くびれ部の高さは38.2m、後円部墳頂部の高さは39.2mと想定しました。高さ推定の根拠は沼澤豊氏の古墳設計原理復元研究にもとづく24等分値(基準単位)の援用によります。

なお本資料での墳頂部表現は単純模式的ですが、実際の古墳形状は滑らかな線形であったと推定します。


2024年10月26日土曜日

技術資料 千葉市人形塚古墳 前方部地割線の立体空間表示

 Technical data: Chiba City Ningyozuka Tomb - 3D spatial display of the front land division line


The front land division line of Chiba City's Ningyozuka Tomb was displayed in 3D at the height it represents. Now that I know the meaning and height of the land division line, I can create a 3D model of the restored tomb.


千葉市人形塚古墳の前方部地割線を、それが意味する高さに立体表示しました。地割線の意味と高さが判ったので、古墳復元3Dモデル作成が可能になりました。

1 千葉市人形塚古墳の前方部地割線の立体空間表示

千葉市人形塚古墳の前方部地割線の立体空間表示

3Dモデルの垂直比率:×3.0

古墳のテクスチャは沼澤豊氏作成「前方部地割線折返し図」を引用

前方部頂部の高さは40.2mで想定

くびれ部の高さは38.2mで想定

出土物としての地割線は盛土整地面(高さ36.5m)に描かれている。(このモデルでは非表示)

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 前方部地割線について


人形塚古墳 高さの略推定

これまでの検討結果を上図にまとめました。

前方部地割線AとCは墳丘盛土(第1ステップ)のラインを描いていると想定します。その場所は盛土工事の大きな節目の場所であり、地形的には小段(犬走り)が設けられていたと想定します。この地割線は等高線(38.2m)です。

前方部地割線Bは墳丘盛土頂部の左側肩線を描いていると想定します。地割線外円より手前は等高線(40.2m)、それより先は傾斜線(40.2m-38.2m)であると想定します。

前方部地割線Dは、埴輪展示演出効果を高めるために右側だけに設けられた1段高いテラスの肩線を描いていると想定します。

3 感想

後円部と前方部の地割線全ての意味と高さ(想定)の検討がひとまず終わりました。後円部頂部平坦面領域を沼澤豊氏想定(直径4単位)を利用すれば、人形塚古墳の復元3Dモデル諸元がすべて揃ったことになります。早速人形塚古墳の復元3Dモデルを作成して、検討を次のステップに深めることにします。



2024年10月25日金曜日

2枚の空中写真から作成した地形3Dモデル

 3D terrain model created from two aerial photographs


Using VisualSFM and MeshLab (both free software), I created a 3D terrain model from two aerial photographs. Although it is not yet at a practical level, it is impressive that I was able to create a 3D model from two photographs.


VisualSFMとMeshLab(ともにフリーソフト)を利用して、2枚の空中写真から地形3Dモデルを作成しました。実用レベルには到達していませんが、2枚の写真から3Dモデル作成が出来たことは感動的です。

1 2枚の空中写真から作成した地形3Dモデル

2枚の空中写真から作成した地形3Dモデル

未調整


使用空中写真

使用ソフト:VisualSFM、MeshLab

3DF Zephyr v7.531でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

2 感想

3枚以上の写真なら3DF ZephyrやRealityCaptureで3Dモデルを作成することができます。米軍空中写真数枚を3DF Zephyrに投入して戦争直後の千葉市花見川区付近の地形3Dモデルを作成したことがあります。しかし、2枚の空中写真で3Dモデル作成ができるフォトグラメトリソフト(フリーソフトあるいは高額商品でないもの)の存在は知りませんでした。

なにがキッカケであるか、自分でも思い出せませんが、2枚の重なる部分がある空中写真から地形3Dモデルを作成する方法をChatGPTに訊ねました。その結果、今回のVisualSFM、MeshLabを使う方法を教えてもらいました。

今回の方法は、穴開きが多く、実用的に使えるレベルにはありません。しかし、2枚の写真でフォトグラメトリによる3Dモデル作成ができたことはとても感動的です。数十万円の専門家用ソフトならば2枚の写真から本格的3Dモデル作成が可能であることは体験(※)したことがあります。この分野の興味を持続して情報収集すれば、2枚の空中写真から本格的3Dモデル作成が可能なフリーソフト(あるいは低価格ソフト)に遭遇するのは時間の問題であると楽観視して、楽しみに待つことにします。

※ 2012.12.30記事「地物の3次元モデル化ソフト image master ビギナーズ

3 VisualSFMの使い方 メモ

・次のサイトがダウンロードや使い方の参考になりました。著者のyosiさんに感謝します。

VisualSFMで画像から3次元形状推定する

・VisualSFMのダウンロードはchromeではできませんでしたので、edgeでおこないました。

4 参考 ChatGPT質問・回答

【質問】

重なり合った部分がある2枚の空中写真を右の目で右の写真を、左の目で左の写真をみると、立体的な地形として見ることができます。この原理により2枚の重なった部分のある空中写真からパソコンで地形3Dモデルを作成する方法があれば教えてください。正確性はなくても簡易的にできる方法があれば、それを知りたいです。

【ChatGPT回答】

空中写真から簡易的な3D地形モデルを作成する方法として、ステレオ写真の原理を利用した「ステレオマッチング」という技術があります。この技術では、異なる視点から撮影された2枚の写真の重なり合った部分を比較し、対応する特徴点を検出して距離情報を計算し、立体的なモデルを作り出します。

ここでは、正確性は必要ないとのことなので、専門的なソフトを使わずに、比較的簡易的にできる方法を紹介します。

●必要なツール

VisualSFM(無料の3D再構築ソフトウェア)

Meshlab(3Dモデルの編集や表示ができる無料ソフト)

2枚の空中写真(重なり部分がある)

●手順

VisualSFMのダウンロードとインストール

まず、VisualSFMをダウンロードしてインストールします。これは、2枚の写真からカメラの位置や対象物の3D形状を推定してくれるソフトウェアです。

●写真の読み込み

VisualSFMを開き、空中写真2枚を読み込みます。左目用と右目用の2枚の写真を使用します。

●特徴点の検出とマッチング

読み込んだ写真に対して、自動で特徴点を検出して、同じ位置の特徴点をマッチングします。この作業はVisualSFMが自動的に行います。

●ポイントクラウドの生成

マッチングが完了したら、VisualSFMは3Dのポイントクラウドを生成します。これが簡易的な3Dデータです。

●Meshlabでの表示

ポイントクラウドをMeshlabに読み込むと、3D表示が可能になります。Meshlabを使って、さらにポリゴンメッシュに変換することもできます。

●3Dモデルのエクスポート

Meshlabでモデルをエクスポートして、STLやOBJなどの3Dフォーマットで保存できます。

[補足]

●精度の向上

簡易的な方法では、データが粗い場合が多いため、ステレオ写真の解像度や撮影角度の違いが精度に大きく影響します。より多くの写真を使ったり、角度を工夫したりすると精度が向上します。

●オルソ写真の利用

空中写真がオルソ補正されている(正確な位置情報が付加されている)場合、さらに高度な処理も可能です。

●代替の簡単な方法

オンラインツールの利用

「DroneDeploy」や「Pix4D」などのドローン撮影を利用した3Dモデル作成サービスを利用するのも手です。無料版でも簡易的な3Dモデルの作成が可能です。

これらの方法で、簡易的な3D地形モデルを作成できます。


2024年10月23日水曜日

千葉市人形塚古墳 地割線の第2意義

 The second significance of the land division lines at Ningyozuka Tomb in Chiba City


Among the land division lines at Ningyozuka Tomb in Chiba City, there are some that have no practical use. I believe that this was necessary to pass the on-site inspection of the tomb construction conducted by the undertakers (Haburi no Tsukasa), the overall administrator and organization of the tomb rituals dispatched by the Yamato royal authority.


千葉市人形塚古墳地割線の中に実用性がない地割線があります。それはヤマト王権から派遣される古墳儀礼の統括管理者・機関である、視葬者(はぶりのつかさ)が行う古墳築造現場検査に合格するために、必要だったからと考えました。

1 千葉市人形塚古墳の地割線

千葉市人形塚古墳の地割線は、旧地表面に古墳外形の形状範囲で厚さ30cm程度の黒土盛土をして整地し、その整地面に描かれています。


地割線を描くために整地盛土した範囲と地割線

ベース写真は発掘調査報告書から引用

描かれた地割線は後円部では地割線内円e、前方部では地割線外円fと地割線a、b、c、dです。地割線の意義は次のとおり仮説しています。


模式断面図と地割線の位置

これらの地割線は地割線外円fを除いて、これからの古墳築造のために必要な実用的設計線です。しかし、地割線外円fはこれからの古墳築造には不用の線です。対応する造形上の傾斜変換線等がありません。

地割線外円fが示す円形は古墳の大きさを示す最も基本的な設計諸元です。しかしこの設計諸元は古墳外形として盛土整地面造成で使われていて、盛土整地面に描く必要はありません。一言でいえば、地割線外円fは実用性が全くない線です。(なお、地割線外円fと地割線bの交点は前方部墳丘天端の傾斜変換点になるので、重要です。しかし、その交点は地割線外円fを描かなくても得られる情報ですから、わざわざ地割線外円を描く必要はありません。)

2 千葉市人形塚古墳地割線の第2意義

千葉市人形塚古墳地割線に造形上必要性のない線がふくまれている理由を次のように考えました。

2-1 視葬者(はぶりのつかさ)(視喪者)による古墳大きさ検査に必要な情報であるため

古墳の大きさはヤマト王権が埋葬者の貢献度等を考慮してランク付して、最終的に決定されます。千葉市人形塚古墳の大きさ(後円部直径)は径18歩(24.7m)の規格値であると考えられています。(沼澤豊「千葉市人形塚古墳のいわゆる地割線について」(研究連絡誌、2008)による)

視葬者(はぶりのつかさ)(視喪者)[ヤマト王権から派遣される古墳儀礼の統括管理者・機関]あるいはその下部地方機関は、千葉市人形塚古墳の大きさが設定したランクの規格どおりであるか検査していることは間違いありません。書類検査だけでなく現場でその大きさを検査しているに違いありません。古墳外形を盛土整地して、そのうえに地割線を描いた段階で、検査を受ければ、視葬者に古墳の大きさや特徴を詳しく説明することができます。その際、後円部地割線外円を描いておけば、それが古墳直径を示す円の一部であり、検査で距離測定する場合にとても好都合です。後円部地割線外円を描いて置かなければ、現場でこれが古墳直径ですとわかりやすく説明することが困難です。

つまり、地割線外円fは築造工事には不用ですが、ヤマト王権の検査に合格するためには、必須の地割線であったと考えます。

2-2 地鎮祭に参加する要人に現場で古墳特性を理解してもらうため

古墳築造の地鎮祭が地割線が描かれた段階で行われた可能性があります。古墳外形がつくられ、設計主要線が地割線として描かれた段階で工事の成功や安全を祈願して地鎮祭を行い、その後本格的盛土工事に突入したと考えます。その際、地割線外円fを描いておけば、古墳設計概要を参加要人に理解してもらいやすくなります。散供場所の説明もしやすくなります。


地鎮祭の散供場所(空想)

3 感想

地割線の工事のための実用機能を第1意義、視葬者検査に対応するためなどの説明機能を第2意義としました。第2意義のために実用機能のない地割線を描いていることから、また、実用上必要な地割線が全部描かれていないことから、第2意義の役割が考える以上に大きかった可能性があります。