2021年11月12日金曜日

完形で出土した縄文中期土笛の観察

 長野県上伊那郡箕輪町郷土博物館を訪問した際、開催中特別展に縄文中期土笛が展示されていました。予期しない幸運として縄文土笛実物を観察し、3Dモデル作成用撮影を行うことができました。土偶祭祀などで使われる楽器として土笛に興味をもっている最中の出来事です。この記事では土笛の3Dモデルを作成して観察しました。ところが模様をよく観察すると思わぬ展開が・・・。

1 土笛(縄文時代中期、箕輪町御射山遺跡) 観察記録3Dモデル

土笛(縄文時代中期、箕輪町御射山遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:箕輪町郷土博物館令和3年度特別展「地味だけど推しの資料展」

撮影月日:2021.11.10


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 65 images


3Dモデルの動画

2 観察メモ

2-1 土笛としての機能

この遺物が音を出すための土笛であることは専門家の間で確定しているようです。

「長野県箕輪町から出土した縄文中期後半頃のラグビー・ボール型の土製品や・・・は「土笛」とみなすことができる。」(笠原潔「楽器の考古学」日本音響学会誌62-8、2006)

丸い穴から息を吹き込み、スリットから音がでる仕組みになっています。スリットに指を当ててスリットの幅を調整することで異なる音階を出すことが可能であると考えられます。現在の音楽とは比較にならないほどの素朴なものであるにちがいありませんが、メロディーやリズムを備えた楽曲を奏でていたに違いありません。土偶祭祀などでの音楽演奏に使われたと想像します。

2-2 模様

3Dモデルをくるくる廻しながら子細に観察すると動物を表現しているように見えてきます。

上からみるとスリットの先にある三角形が顔面で右目も表現されています。(左目もあるように見えますが、保護コーティングの下になっています。)また吻(鼻先)もあるように見えますがこれも保護コーティングの下になっています。

横から見ると展示正面とその裏面でともに口と体模様の表現がありますが、その様子が異なります。体の左右で別の動物、あるいは同じ動物の雄雌などの違いを表現しているように見えます。

土笛の音、あるいはそれを奏でる場所、あるいはそれを使う儀式内容などとこの動物が関わっていると考えますが、その詳細は今は判りません。


動物を思わせる模様

あるいはこの土笛は狩猟に使う動物を呼び寄せる笛かもしれません。鹿笛、鳥笛などであり、実用道具の可能性もあり得ます。

一度この土笛の音を聞けば、祭祀用楽器なのか、狩猟用笛なのか見当がつくかもしれません。

3 参考 発掘調査報告書の記述

次の情報は「御射山遺跡 -御射山遺跡第Ⅰ調査報告書-」(昭和54年、箕輪町教育委員会)の主な記述です。

「土笛(第25図5)

第3号住居址覆土中から出土したものである。出土時には長軸に添って二つに割れていた。長形71㎜、胴部最大径39㎜で、胴部中央に径4㎜の穴が一つある。中空で器厚は6~7㎜である。穴の周囲は直線の沈線で不定形の文様が施されている。穴の裏側には二本の沈線で円が描かれているが何を表現しているのかは不明である。土笛の出土例は全国的にみても数はそう多くないと考える。この土笛について石守氏(注)によると2種7形態に分類し、箕輪町福与大原出土のものを「箕輪タイプ」としている。本出土例もほぼこれと同じタイプであり、ラグビーボール状のものである。今回の出土により同じタイプのものがあまり離れていないところから二つ出土したことは意味あることであり、今後使用目的などについて研究したい。」(注1、長野県考古学会誌1980・6、原始古代楽器の考古学的一研究より)


添付図 (残念ですがこの図にはスリットが表現されていません)


図版

4 参考 土笛の読み

展示では土笛(ドテキ)とルビがふってあります。考古学用語では「ドテキ」と読むようです。「汽笛(キテキ)一声新橋を・・・」の歌と同じ読みです。しかしドテキと発音しても即座にそれが土笛と理解できる人は少ないように感じます。自分は当面「ツチブエ」と発音してコミュニケーションすることにします。


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