2020年10月12日月曜日

称名寺式土器透視で観察できる円弧状模様の意味

 縄文土器学習 483

2020.10.09記事「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)透視観察 その2」で称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデルを掲載しました。土器を透視できるとうたったのですが、肉眼では観察できない模様の透視が出来ていて、われながら驚きましたので、メモします。

1 円弧状模様


高密度点群画像とテクスチャ画像

高密度点群画像では明瞭な円弧状模様が観察できます。円弧の上は点が粗、下の点は密です。

一方テクスチャ画像をみると円弧模様はほとんどわかりません。(高密度点群画像を見ない人で円弧模様を見つけることができる人はいないのではないかと確信します。)

2 円弧状模様の意味

最初は、この円弧状模様が幾何学的であるので、土器復元調整のために現代技術に関わってつけられたものではないかと考えました。

しかし、画像を分析すると、次のような解釈に至りました。縄文人が土器製作途中につけた模様です。


円弧線(赤線)による高密度点群の密度変化の解釈

・土器概成後口縁部付近の内外面仕上げを丁寧に行うために、内面粘土を棒で上から円弧を描くように薄く削り取ったのだと思います。

・薄く削り取った部分の内外面調整を仕上げとして特に丁寧に行ったのだと思います。

・この土器は沈線がとても深く、それだけに仕上げが大切であったのだとおもいます。

Bは概成土器の内面であり、微細な起伏が密のため高密度点群が多くなっていると考えます。

Aは丁寧に仕上げた部分であり、一度棒で削っていますから、微細な起伏が粗のため高密度点群が少くなっています。

矢印はBが削り取られた跡を示しています。

3 感想

・3Dモデル分析で高密度点群データも有用であることがわかりました。比喩ではなく、真の透視ができます。

・おそらくAの部分とBの部分では手触り感覚が違うと想像します。Bの部分の方がよりザラザラすると思います。いつか触らせてもらうことをお願いすることにします。


2020年10月11日日曜日

アリソガイ(373図15)観察

縄文貝製品学習 21 

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用しながら行っています。この記事では5点目として373図15を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)373図15表面 観察記録3Dモデル

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)373図15表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、L、殻長118.0㎜、殻高97.5㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 23 images


撮影の様子


参考 裏面


実測図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・この貝殻には生物付着痕などあり、道具として使い始めた時の表面は荒れた状態だったようです。

・腹縁部左右端に擦痕が観察され、その部分は顕著な削剥部になっています。

・貝殻の中央部にも広く削剥部が認められます。

・腹縁部は削れて新鮮な断面が観察できます。腹縁部断面を硬いモノに擦りつけていたことが確認できます。腹縁部の後退は表面削剥により進んだのではなく、腹縁部断面が削れて進んだように観察できます。

・表面の削剥されていない場所を中心にして、ミクロな溝の底に茶色物質がこびりついています。貝殻裏側には特に茶色が濃い場所が見られます。

3 感想

・この貝殻も2020.10.08記事「アリソガイを獣皮タンニンなめしに使った可能性」で検討した372図13と同じように茶色色素を含む液体を何度も浴びています。

・獣皮タンニンなめしにおいて、この貝殻を使ってタンニン溶液を獣皮に塗布したのかもしれません。あるいはタンニン溶液でぬれた皮をこの貝殻で擦ったのかもしれません。

・腹縁部断面が削り取られて新鮮な断面を現出しています。断面がギザギザしているので石製品など硬いモノを擦ったようです。

・アリソガイ製ヘラ状貝製品の用途について考えをまとめるのはまだ早いと思いますが、これまで5点観察して、多様な機能が1つの貝殻に備わっていたような印象を受けます。単機能の専門道具というよりも、幾つかの機能を有する専門道具であるように感じます。(腹縁部両端の強い擦り、表面中央部の擦り、腹縁部の硬いモノを対象とした擦り、茶色液体(タンニン溶液?)の塗布)


皿形ミニチュア土器の観察

 縄文土器学習 482

2020年8月末まで加曽利貝塚博物館で開催されていた「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」で展示されていた皿形ミニチュア土器を3Dモデルで観察します。

1 縄文後~晩期皿形ミニチュア土器(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文後~晩期皿形ミニチュア土器(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

発掘調査報告書記載:口径(8.2)×7.1㎝、器高2.1㎝、皿形、2個の穿孔(焼成前)

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 47 images


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 メモ

ア モデルとした実用物原品の想定

このミニチュア土器がモデルとした実用物原品を次のように想定しました。


皿形ミニチュア土器がモデルとした実用物原品の想定

木製あるいは瓢箪底を使ったお玉杓子の玉部分が出土物に該当するのではないかと想定しました。

2穴は玉と木製柄を固定するヒモの通し穴として利用されたと考えます。

柄だけを持って液体をすくうことは力学的に無理なので、柄の役割はお玉を持つときの添えであると考えます。卓球のラケットを握るようにこのお玉杓子を持ち、中指、薬指、小指でお玉の底を支えたと考えます。

イ ミニチュア土器の意義

この皿形ミニチュア土器は竪穴住居跡SI-004から出土し、同じ場所から異形台付土器、石棒、土製耳飾など多量の祭祀系遺物が出土しています。このような状況から皿形ミニチュア土器も祭祀道具として使われたと考えます。

祭祀のなかで液体を汲み取り別の容器に入れる所作が求められたとき、この皿形ミニチュア土器(お玉杓子)を手に取って、その所作の真似をして儀式を進行したのではないだろうかと想像します。

ミニチュアを使って祭祀環境をつくることは現代でも継続しています。


現代の神棚

https://kamidananosato.jp/?mode=f2から引用

現代の家庭内神棚は神殿、灯篭、神鏡、酒・水・塩・米等の容器もすべてミニチュアです。

ミニチュアを使って祭祀環境をつくる点では縄文人も現代人も同じ心性を有していて、それは縄文人の心性が連綿と現代人にまで伝承してきているからだと考えます。


2020年10月10日土曜日

千葉市に存在した縄文大規模落し穴列の紹介(2015年4月検討)

 縄文社会消長分析学習 49

学習に着手した千葉市内野第1遺跡に76基を有する縄文大規模落し穴列が検出されています。その大規模落し穴列を2015年4月にブログ記事にて検討しましたので、紹介します。

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.20記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代大規模落し穴シカ猟

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.18記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代土壙列と地形

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.16記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代遺構の土壙列に注目する

1 千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書記載76基土壙穴列


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列


土壙の形状 例

報告書では次のような説明がされています。(要約)

1号土壙列(北側)は、標高30mから低地部分までの230mにわたって台地を横断する形で計36基が検出されている。さらに数基の存在が考えられる。住居跡等に切られている土壙がある。

2号土壙列は42基が標高20mのラインに沿って約200mに亘り弧状に分布する。住居跡に切られている土壙がある。

土壙は陥穴群と思われ、規模は長軸2m~3m、短軸1m~2m、深さ1~2mで、底面が細くなり断面がV字状をなすもので底面施設はない。土壙間の間隔は、3m~4mであるが、一部が欠落したり、間延びしている部分もあり、一定していない。構築時期については、住居跡との重複関係から古墳時代前期より古いと想定できるが、明確な時期決定はできない。

2 土壙列と地形


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列

土壙列は台地斜面中腹に設置されています。

下段の土壙列の東端は沖積面に埋没しています。土壙列が使われていた時期の河床面は発掘当時の沖積面よりはるか下位に存在していたと考えられます。(近隣他所のボーリング資料例から数m~10m程度河床面が低かった…斜面がそれだけ長大だった…と推定できます。)


土壙列の1960年代都市図プロット図

(1960年代都市図は開発前地形を表現する最初の航測地図です。この地図所管は現在、千葉市都市計画課ではなく千葉市郷土博物館です。千葉市郷土博物館に「閲覧申請」して電子複製を作成しました。)


土壙列の現代地図プロット図

3 土壙列を使った狩猟方法


狩猟装置としての土壙列区分とその狩猟範囲(追い込みのイメージ)

土壙列は落し穴列であり、大規模追い込み猟の装置であると考えました。


土壙列(落し穴列)の工夫の相違

下段の土壙列より上段の土壙列の方が工夫がされているので、上段土壙列の方が新しいと考えました。また沖積面の上昇(斜面の短縮)により下段の土壙列が狩猟装置として機能低下し、それにより上段土壙列が新設されたと考えることもできるかもしれません。

4 感想(2020.10.10)

・落し穴列で大量(?)捕獲したシカは沖積面を流れる勝田川の水で処理され、その場には多量のシカ骨が残されたと推測できます。それらは全て現在沖積面の下深さ10m以上の場所になります。開発によりその沖積面は掘削され遊水地に、あるいは埋め立てられ住宅地になりました。沖積層の深いところに現在も狩猟に関わる遺構や遺物が存在している可能性が濃厚です。

・人の居住と狩猟装置の存在は両立しません。この装置は縄文後晩期集落とは全く無関係であると結論づけることができます。またこの場所にシカの大きな群れが遊動していたという「豊過ぎる状況」や落し穴の盛行時期等から、この落し穴列は縄文早期以前のものであると想像します。


千葉市内野第1遺跡の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 48

2020.10.07記事「縄文社会消長分析学習の方法」に基づいて早速学習テーマの渉猟のための作業を開始します。とりあえず次の発掘調査報告書はこれまでに親しんできているので、その相互比較を行い問題意識を醸成することにします。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

最初の具体的作業は遺物・遺構の種類と数量の大局観的比較をします。

この記事では千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から遺物・遺構の種類と数量を拾ってみました。

1 千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構


千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・堀之内1式期から安行3b式期までがメインの遺跡です。

・遺構は竪穴住居跡125、土壙427、土壙列76などです。土壙列は斜面の落し穴列であり、その時期は不明ですが、縄文早期頃が想定され、遺跡集落とは無関係です。

・土器は堀之内1式から安行3b式まですべての時期で深鉢、鉢、浅鉢、注口土器が出土し、台付鉢や壺もほとんどの時期で出土します。注口土器などは祭祀と関わる土器であると考えます。発掘調査報告書に掲載された土器数のカウントはまだ行っていません。

・特殊土器150には異形台付土器48が含まれていて、ほとんどが祭祀道具であるとみられます。

・土製品を便宜的に祭祀・装飾系と生産系に分けました。祭祀・装飾系には土偶289、耳飾119などが含まれ、豊富です。生産系は有孔円盤形土製品63が含まれ、製糸活動が盛んだったことがわかります。

・石製品51には石棒・石剣26が含まれます。石製品は全て祭祀・装飾品です。

・石器1300はほとんどが生産・生活用具のようです。石鏃102は磨製石斧178や打製石斧192より少なく、狩猟がどれほど行われたのか興味が湧きます。

・骨角貝製品12は大変貧弱です。

・木製品3が出土しています。

・動物遺体はシカ2071、イノシシ626がメインとなっています。焼骨等がかなり出土しているようですが、その調査は特段には行われていないようです。

・貝層はオキアサリ、ハマグリ、シオフキ、イボキサゴなどから構成され、船橋付近の東京湾から運ばれたことが推定されています。

・魚類はコイ・ウナギなどが多く、淡水漁が行われていたようです。

・埋葬された人骨12体が出土しています。動物遺体と一緒に回収されたヒト骨は15をカウントしていて、その解釈に興味を持ちます。

2 他遺跡との比較

今後、千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類、数量情報を他遺跡と比較します。

3 感想

東京湾から魚貝類が運ばれてきていますが、その返礼品が何であったのか、興味が湧きます。

異形台付土器、土偶や耳飾の出土が多く、この集落分だけであるのか、あるいは拠点集落であり近隣集落分も含まれるものであるのか興味が湧きます。

4 1の作業で判った一つの事柄

1の作業でこの遺跡では骨角貝製品が極めて貧弱であることがわかりました。シカやイノシシの下顎を利用した搔器が全く出土していません。この事実から、この遺跡で皮なめしが盛んであったとは到底考えられません。

一方、特殊土器-ミニチュア土器のサンダル状土製品を、皮革製サンダルのミニチュアではないだろうかと以前想定しました。(その後注口付き片口と想定を変更。)もし、1の情報を知っていれば、サンダル状土製品を皮革製品のミニチュアと考えることにはもうすこし慎重な思考をしたかもしれません。

……………………………………………………………………

千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

千葉市内野第1遺跡

  • 遺構
    • 竪穴住居跡 125
      • 柱穴
      • 焼土
      • 獣骨
      • 炭化物
      • 埋甕
    • 土壙 427
    • 土壙列 76
  • 土器
    • 堀之内1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 堀之内2式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B3式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 曽谷式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行1式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3a式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3b式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
  • 遺物
    • 特殊土器 150
      • 異形台付土器 48
      • 蓋形土器 12
      • 手燭形土器 5
      • 舟形土器 4
      • 吊手形土器 12
      • 小形土器 37
      • ミニチュア土器 24
      • 製塩土器 8
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系 559
        • 土偶 389
          • 山形土偶 98
          • ミミズク土偶 74
          • 中空土偶 58
        • 人面付土版 3
        • 土版 34
        • 耳飾 119
        • 動物型土製品 6
        • 脚付土器 1
        • 人面装飾付土器 2
        • 土製垂飾 2
        • 玦状耳飾 1
        • スタンプ形土製品 1
        • アワビ形土製品 1
      • 生産系 353
        • 有孔円盤形土製品 63
        • 有孔円盤形土器片 11
        • 有孔球形土製品 5
        • 有孔円柱形土製品 1
        • 円盤形土製品 1
        • 円盤形土器片 245
        • 円柱形土製品 1
        • 土錘 3
        • 土器片錘 17
        • 焼成粘土塊 7
    • 石製品 51
      • 石棒・石剣 26
      • 独鈷石 4
      • 岩版 1
      • 環状石製品 1
      • 玉類 19
    • 石器 1300
      • 尖頭器 3
      • 石鏃 102
      • 石錐 6
      • 石匙 3
      • 磨製石斧 178
      • 打製石斧 192
      • 磨石 317
      • 敲き石 146
      • 凹石 73
      • 石皿 144
      • 台石 23
      • 砥石 8
      • 円盤形石器 7
      • 石錘 6
      • 軽石製品 367
    • 骨角貝製品 12
      • 骨製品 4
        • かんざし 骨
        • 骨錐又はヤス 鹿又は猪の骨
        • 骨針 猪犬歯
      • 角製品 7
        • 栓状品 鹿角
        • かんざし 鹿角
        • 儀礼用具 鹿角
        • 腰飾り 鹿角
      • 貝製品 1
        • 貝輪 イタボガキ
    • 木製品 3
      • 柄付大皿
      • 堅櫛
      • 容器
    • 動物遺体
      • 破片
        • 哺乳類 7776
          • シカ 2071
          • イノシシ 626
          • ヒト 15
          • サル 12
          • キツネ 5
          • ウサギ 5
          • タヌキ 4
          • イヌ 4
          • アナグマ 3
          • オオカミ 2
          • その他 5029
            • クジラ
        • 貝類 46
          • オキアサリ
          • ツノガイ
        • 魚類
          • クロダイ
        • 鳥類 28
      • 焼骨等
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • オキアサリ
        • ハマグリ
        • シオフキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • コイ
      • ウナギ
      • ホラ
      • ハゼ
      • マイワシ
      • ギバチ
      • クロダイ
      • アジ
    • 人骨 12

2020年10月9日金曜日

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)透視観察 その2

 縄文土器学習 481

2020.09.27記事「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の透視観察が実現」のつづきです。

1 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)高密度点群3Dモデル

加曽利貝塚博物館常設展展示「称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)」の高密度点群3Dモデル

この土器は沈線が深く刻まれ、その部分の器壁厚さが薄いのですが、その様子をこの3Dモデルで透視的に観察することができます。


高密度点群3Dモデルの動画

2 参考 称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル 

撮影場所:加曽利貝塚博物館 

撮影月日:2019.12.27 

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images


2020年10月8日木曜日

アリソガイを獣皮タンニンなめしに使った可能性

 縄文貝製品学習 20

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用しながら行っています。この記事では4点目として372図13を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、R、殻長120.7㎜、殻高93.4㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 19 images

(撮影写真点数が少ないせいか、一部結像できなかったことは残念です。)


撮影の様子


撮影の様子


参考 裏面


実測図


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・擦痕は一部でしか観察できません。恐らく顕微鏡サイズの事象なので、出土個体によって肉眼や写真撮影ではっきり見えるものと見えないものがあるのだと思います。この個体も顕微鏡で観察すれば多数の擦痕を観察することが必ずできると考えます。

・削剥部が腹縁ではない場所に数か所存在しています。この個体では腹縁部がメインの擦り場所とは言い切れないようです。

・中央部腹縁付近に大きな丸い色素沈着部があります。この色素沈着は裏面にまで到達しています。

・貝殻表面の各所に色素沈着があります。擦痕部では小溝の中に色素が沈着しています。貝殻表面に色素が沈着して、それが擦り行為で除去され、小溝の中の色素だけ除去をまぬかれたという様相です。

・裏面には色素が広範囲に残っています。

・腹縁部は擦り行為で薄くなっているということは特段にはないようです。また、裏面を観察すると凸部になっている腹縁部に幅の狭い削剥部が存在します。これらの事象から、腹縁部も表面擦痕や削剥部とは別意味の擦り行為に使われたと推定できます。

3 感想

・大きな色素沈着は、貝殻表面に色素液体を浸けて、その液体を別のモノに塗りつけるような用途に使われ、その使用が長期にわたったため色素が裏面にまで到達したと想定できます。つまり、このアリソガイはハケのような使われ方をされたのだと考えます。

・この個体でモノを擦るときには、ハケとしての機能中心部分(円形色素沈着部分)を避けて、別の部分を使ったため、削剥部が表面の各所に及んだと考えます。

・色素を有する液体を他のモノに塗りつけるハケとしての機能がこの個体の役割ですから、この貝殻はいつも色素まみれで、そのため表面裏面の各所に色素が残存したと考えます。

・色素を含んだ液体が何であるかは、残存色素を削り取って分析すれば判るかもしれません。

・これまでの学習積み重ねでは獣皮タンニンなめしにおけるタンニン液である可能性が浮かび上がります。あるいは単純な獣皮染色かもしれません。

・もしこの貝殻からタンニンが検出されれば、縄文時代列島においてタンニンなめしが行われていた物的証拠となります。おそらく列島のみならず人類史的にみて貴重な情報になると思います。


2020年10月7日水曜日

口縁部四角の安行3a式浅鉢

 縄文土器学習 480

8月末まで加曽利貝塚博物館で開催されていた「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」で展示されていた安行3a式浅鉢を3Dモデルで観察します。

1 縄文晩期安行3a式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文晩期安行3a式浅鉢(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 34 images


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 メモ

ア 口縁部四角の意味

口縁部四角の浅鉢は三直貝塚では大変珍しく、2020.10.02記事「背面が丸く自立しない前浦式浅鉢」で観察した口縁部四角浅鉢とともに奉納物を入れる容器で祭祀で使われた祭具だったと想像します。

イ 二つの渦が絡まる文様

胴部には二つの渦が絡まる特徴的な文様が描かれています。二つの渦の上は磨消、下は縄文が施文されています。

発掘調査報告書をめくると、二つの渦が絡まる同じ文様が数多く見つかります。

この文様は2020.09.23記事「縄文後晩期土製耳飾(君津市三直貝塚)20 観察記録3Dモデル」で観察した土製耳飾にも描かれています。


二つの渦が絡まる文様

ウ ハイパス調整画像

この記事の3Dモデルは撮影写真をハイパス調整画像で作成しました。撮影写真とそれをハイパス調整した画像を較べると、撮影写真のピントがぼやけているように感じますが、ピントは正確に合っています。ハイパス調整画像が現実には存在しないクッキリ感を表現しています。


撮影写真とハイパス調整画像


縄文社会消長分析学習の方法

 縄文社会消長分析学習 47

1 活動目標と期間

下総地域付近の縄文中期から後晩期までを対象に、社会消長を詳しく分析学習して、縄文社会消長の様子とその要因を自分なりに詳しく知る活動を行うことにします。

希少な人生残時間の割り振りの関係から次のような時間消費を予定します。

2020年10月~11月 分析学習テーマを絞り込む活動

2021年1月~2022年12月 テーマを絞り込んだ分析学習

2 分析項目

縄文社会の消長の様子とその要因を生き生きと推察するための分析項目として次のような項目が一般論として考えられます。

・遺物(モノ)の種類、量、質→利用→生業、祭祀

・遺物(モノ)の使用痕、傷、破損→利用

・遺物(モノ)の時系列変化→流行、技術発展

・遺物(モノ)と遺物(モノ)の関係(道具の組み合わせ体系)

・遺物(モノ)と遺構との関係(遺物利用や廃棄場面、遺跡内分布)

・遺構の種類、量、質→生業、交流、人口

・遺構と遺構の関係→遺跡の特性

・遺構の分布

・遺物(モノ)の分布

・遺跡の分布→広域社会

・気温変化(氷床データ等)

・植生変化(花粉分析データ等)

・地形変化(第四紀地形発達史データ等)

このような分析項目のうち、自分の学習目標に効果的であり、またその方法自体に興味が深まるものをいくつか選ぶ作業を最初に行うことにします。

分析項目を無意識的に最初から特定する活動スタートは避けることにします。

3 過去学習の有効活用

この3年間ほどの趣味活動は縄文学習がメインであり、様々な学習活動を行ってきました。これらの学習体験が生きるような学習活動を行うことにします。

下総地域という視点でみれば、これまで次の発掘調査報告書について詳しく学習し、深く分析したものもあります。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

また、500以上作成した縄文土器等の3Dモデルも学習データとして活用場面ができればおもしろいことです。

4 学習テーマの渉猟

2021年~2022年に予定している縄文社会消長分析学習の本学習の具体的テーマを2020年10月~12月に絞り込むことにします。

下総縄文社会中期~後晩期の消長を総括的、俯瞰的に知ることは本学習の中で当然行うことですが、それはメインではありません。本学習のメインはかなり絞り込んだテーマ・方法の学習をイメージしています。

その本学習用テーマ・方法を絞り込むために、自分の本当の興味がどこにあるか、そのためのデータ入手や分析技術獲得の可能性について検討したいと思います。

テーマ・方法の渉猟(絞り込み)は3でピックアップした発掘調査報告書を通読・精読する活動を通じて行うことにします。

なお、多数発掘調査報告書の特定データを集成分析する活動が本学習で重要な方法になるに違いないと考えています。

5 学習テーマに関連するかもしれない興味

これまでに興味を持った次のような事象は、学習テーマに関連するかもしれません。

ア 器台と異形台付土器

縄文中期に器台が存在し、後期には出土しません。一方、異形台付土器は中期には存在しませんが、後期には出土します。まるで器台→異形台付土器という交代現象があるように見えます。祭祀の在り方の変化を表現していると想像します。

イ 土偶出土数の後期急増

中期の土偶出土数は大変稀です。一方後期には急増します。祭祀面での変化が観察できます。

ウ 石棒や装身具出土数の後期急増

石棒や装身具の出土数が後期に急増します。土偶と同じで祭祀面での大きな変化が見られます。

エ 加曽利EⅡ式土器のデザイン合理性

加曽利EⅡ式土器は口縁部が平滑なものがほとんどです。前後の時期とくらべて波状口縁部とか把手の存在が少なくなっています。煮沸具としてみると利用上合理的であるように感じることができます。そしてこの時期は人口急増期です。社会の風潮が前後の時期と異なるように感じられます。

オ アリソガイ製ヘラ状貝製品と貝灰

中期有吉北貝塚ではアリソガイ製ヘラ状貝製品が出土します。一方後期遺跡からのヘラ状貝製品出土は少なく、貝灰(漆喰)や骨灰が多量に出土します。アリソガイ製ヘラ状貝製品→貝灰という交代があったかもしれません。



2020年10月6日火曜日

貝殻成長線と擦痕を強調した3Dモデルの作成

 縄文貝製品学習 19

アリソガイの通常撮影写真では貝殻成長線や使用に伴う擦痕の様子を把握するのは困難です。しかし写真をハイパスフィルター処理するとそれまで見えなかった貝殻成長線や擦痕が浮かび上がり観察しやすくなります。

この体験的に知った事象を利用して3Dモデルをつくれば、3Dモデル自身に貝殻成長線や擦痕を浮かび上がらすことができる可能性があります。そこで試してみました。

有吉北貝塚出土372図2のアリソガイ製ヘラ状貝製品をテスト対象としました。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 画像ハイパス調整3Dモデル 

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図2表面 画像ハイパス調整3Dモデル 

縄文中期、L、殻長105.3㎜、殻高77.9㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 35 images

同上 通常写真による3Dモデル


画像ハイパス調整3Dモデルと通常の観察記録3Dモデルの画面比較

2 3Dモデルの動画


画像ハイパス調整3Dモデルの動画


通常写真による動画

3 写真


画像ハイパス調整3Dモデルと通常の観察記録3Dモデルの写真比較

4 テスト成功

元写真をハイパスフィルター調整してぼんやりとした画質をクッキリとさせて、それで3Dモデルを作成すると3Dモデルもクッキリとした画像になることを確認できました。

肉眼では不明瞭な貝殻成長線や擦痕が浮かび上がるのですからグッドです。

5 画像ハイパス調整3Dモデル作成に必要な基礎テクニック

数十枚から100枚以上の写真を1枚1枚Photoshopでハイパスフィルター処理すると膨大な時間がかかるため、この作業はバッチ処理テクニックで対処することが必須です。

6 感想

今後のアリソガイ製ヘラ状貝製品学習では画像ハイパス調整3Dモデルを標準3Dモデルとして活用することにします。

アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察が周回写真撮影により通常の肉眼観察以上の精度と効率でできることがわかりました。

ハイパス調整3Dモデルはアリソガイ製ヘラ状貝製品に限らず縄文土器などの3Dモデルにも有用な技術であるかどか今後確かめることにします。

7 参考 Photoshopハイパスフィルター処理

「カラーが極端に変化している部分で指定した半径内のエッジのディテールを保持し、それ以外の部分についてはエッジのディテールを抑えます。」AdobePhotoshopマニュアルより