2020年10月8日木曜日

アリソガイを獣皮タンニンなめしに使った可能性

 縄文貝製品学習 20

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用しながら行っています。この記事では4点目として372図13を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)372図13表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、R、殻長120.7㎜、殻高93.4㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 19 images

(撮影写真点数が少ないせいか、一部結像できなかったことは残念です。)


撮影の様子


撮影の様子


参考 裏面


実測図


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・擦痕は一部でしか観察できません。恐らく顕微鏡サイズの事象なので、出土個体によって肉眼や写真撮影ではっきり見えるものと見えないものがあるのだと思います。この個体も顕微鏡で観察すれば多数の擦痕を観察することが必ずできると考えます。

・削剥部が腹縁ではない場所に数か所存在しています。この個体では腹縁部がメインの擦り場所とは言い切れないようです。

・中央部腹縁付近に大きな丸い色素沈着部があります。この色素沈着は裏面にまで到達しています。

・貝殻表面の各所に色素沈着があります。擦痕部では小溝の中に色素が沈着しています。貝殻表面に色素が沈着して、それが擦り行為で除去され、小溝の中の色素だけ除去をまぬかれたという様相です。

・裏面には色素が広範囲に残っています。

・腹縁部は擦り行為で薄くなっているということは特段にはないようです。また、裏面を観察すると凸部になっている腹縁部に幅の狭い削剥部が存在します。これらの事象から、腹縁部も表面擦痕や削剥部とは別意味の擦り行為に使われたと推定できます。

3 感想

・大きな色素沈着は、貝殻表面に色素液体を浸けて、その液体を別のモノに塗りつけるような用途に使われ、その使用が長期にわたったため色素が裏面にまで到達したと想定できます。つまり、このアリソガイはハケのような使われ方をされたのだと考えます。

・この個体でモノを擦るときには、ハケとしての機能中心部分(円形色素沈着部分)を避けて、別の部分を使ったため、削剥部が表面の各所に及んだと考えます。

・色素を有する液体を他のモノに塗りつけるハケとしての機能がこの個体の役割ですから、この貝殻はいつも色素まみれで、そのため表面裏面の各所に色素が残存したと考えます。

・色素を含んだ液体が何であるかは、残存色素を削り取って分析すれば判るかもしれません。

・これまでの学習積み重ねでは獣皮タンニンなめしにおけるタンニン液である可能性が浮かび上がります。あるいは単純な獣皮染色かもしれません。

・もしこの貝殻からタンニンが検出されれば、縄文時代列島においてタンニンなめしが行われていた物的証拠となります。おそらく列島のみならず人類史的にみて貴重な情報になると思います。


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