2019年6月27日木曜日

同心円状擦痕・擦跡の観察について

縄文土器学習 164

2019.06.24記事「稲荷台式土器の炉設置状況推測」に関連する私のTwitter発言polieco archeさんから多数のコメントをいただき同心円状擦痕と炉穴に関する興味・問題意識を深めることができました。polieco archeさんに感謝します。
この記事ではpolieco archeさんコメントを触媒にして自分の脳裏に浮かんだ事柄などをメモします。

1 同心円状擦痕が出来た場所について
・同心円状擦痕が出来たのは住居内炉(灰床炉)であると単純にかんがえていたのですが、炉穴かもしれないという指摘を受けました。土器を使って煮炊きする可能性のある場所のイメージを最初に作る必要があります。
・土器を使った煮炊きが住居内に限定されるということは、考えてみるとありえないように感じます。天気がよければ室内食よりも野外食の方が多かったかもしれません。

2 炉内堆積物の確認
・灰床炉と呼ばれる炉の内部に堆積している「灰」のなかに擦痕が出来るような砂など固い固形物があるか、いつか確認する必要があります。
・土器を炉の中にグリグリ回しながら押し込んだ時にできる擦痕とそれに対応する固形物の大きさ等の関係を実証的に知っておく必要があります。

3 同心円状擦痕観察データの蓄積の有用性
同心円状擦痕観察データが土器の使用状況とか使われた炉の状況の推察に有用である可能性があります。同心円状擦痕観察データを蓄積してデータベース化して多数データを分析すれば、これまで視界に入らなかった新たな情報が見つかるかもしれません。
例えば、「小石を使った調理跡(炉跡)出土数と同心円状擦痕観察土器数に相関がある」ことがわかれば、擦痕土器が出土すれば小石調理場の存在が推測できる、とか。

4 擦痕類似模様の観察
擦痕(固いものでこすられて器面が線状に削られた跡)とまでは言えないが、こすられて模様がついた土器があります。このような跡を擦跡と呼ぶことにします。2019.0623記事「稲荷原式土器 観察記録3Dモデル」で観察した稲荷原式土器にはこの擦跡が観察できます。

稲荷原式土器の底部同心円状擦跡

稲荷原式土器
土器表面に付いたススが擦られて線状に脱落した跡およびその延長の土器表面の色が白くなっている模様です。
器面が削られているわけではありませんが砂等で擦られた跡であり、擦痕と一緒に検討すべき事象であると考えます。
擦跡→虚弱な擦痕→規模の大きな擦痕を分類すればその成因(関連炉の状況)が見えてくるかもしれません。

5 擦痕・擦跡観察用写真撮影について
擦痕・擦跡を観察するためには撮影写真を拡大して、顕微鏡観察のような状況になります。そのような拡大に堪えられる写真が意外と少ないことに気が付きました。土器展示施設の照明の関係で野外と較べるシャッタースピードが遅くなり、それに比例して微細な手振れが生れるためです。一般の用途では問題にならない手振れがこの場面では問題になります。
展示土器の擦痕・擦跡の観察データを本格的にとるためにはより高解像度のカメラ使用、手振れ防止技術向上、(可能ならば)簡易照明具の利用などの検討が必要だと考えました。

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