有吉北貝塚北斜面貝層における貝層(地層)層準と出土土器型式の関係を発掘調査報告書データを分析しながら学習しています。
2021.10.05記事「同一貝層断面における土器形式の上下逆転現象」で下の貝層(地層)から出土する土器片の型式が上の貝層(地層)から出土する土器片の型式より新しい例があることを認識しました。地層の新旧と土器形式新旧が見かけ上逆転します。この理由は、北斜面貝層ではガリー侵食が盛んであるとともに貝や土器の投棄も継続して盛んであるため、下流に行くほど上流で侵食された過去貝層(過去の土器が含まれる)が運ばれてきて二次堆積するためであると考えました。この記事ではこの考え方を整理してチャートに表現し、その考え方で第11断面の貝層と土器型式(実際は土器群)の関係を観察してみました。
1 ガリー侵食上流域を持つ貝塚の貝層と出土土器型式の関係(作業仮説)
ガリー侵食上流域を持つ貝塚の貝層と出土土器型式の関係(作業仮説)
貝・土器投棄と侵食が絶えず繰り返されるガリー侵食上流域を持つ貝塚では貝層(地層)にそれが堆積した時期よりも古い型式の土器が含まれることが一般的であると考えます。例えば、出土土器形式で最も新しいものがd型式であった場合、その貝層は「少なくともD期よりも新しい貝層である」といえます。同時に、e型式・f型式土器が見つからなければD期が貝層堆積時期である可能性が強まります。こうした情報から貝層の堆積時期推定をある程度絞り込むことが可能になると考えます。
2 第11断面のケーススタディ
第11断面を対象にして、測線から1m以内で出土した土器片の位置を断面図にプロットしました。
第11断面に土器片をプロットする作業図
第11断面には24の土器片がプロットされました。このプロット図に発掘調査報告書の貝層発達区分(第1段階→第4段階)を記入して示したものが次の図です。
第11断面における土器片の出土場所
浅鉢は時期が特定されていないので、ここでの検討から除外します。(※)
第1段階から出土する土器は浅鉢を除いて第1~6群です。第2段階~第4段階から出土する土器のうち最も新しいものは全て第12群です。
この情報を1で設定した作業仮説で解釈すると、第1段階の貝層は第1~6群(阿玉台式・中峠式)期に形成された可能性を考えることができ、第2段階以降の貝層は全て第12群(加曽利EⅢ式)期に形成されたと考えることができます。
つまり、第11断面では貝層は大きく2分され、集落最初期と集落終末期に形成され、集落終末期(加曽利EⅢ式)に純貝層を含むきわめて活発な貝層形成があったことになります。
追記 2021.10.19
この記事における検討は分析操作結果(出土物断面プロット結果)をそのまま考察しています。実際は出土物は断面測線から最大1m離れていますから、その遺物のみかけの出土層準と実際の出土層準が異なっている場合があり得ます。また各種誤差(発掘調査における遺物位置・高さ計測の精度、作図精度、今回分析作業精度)の問題もあり得ます。これらの問題を克服するためには、1 断面測線により近い遺物に検討対象を絞る、2 全断面のデータを統計的方法で見直して遺物時期と出土層準の関係を再構成するの二つの方法を検討する必要があると考えます。
参考 第11断面の詳細情報
※浅鉢出土について
発掘調査報告書における第1段階範囲設定は再検討が必要であるように感じています。具体的にはガリー流路の部分とそれ以外の谷底を埋める部分では、形成営力が異なり、また時期も異なると推測され、2分することが必要であると考えます。浅鉢はガリー流路から出土していて、第1~6群より新しい可能性があります。今後詳しく検討します。
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