閲覧した墨書土器13点のうち、底部内面に記銘があるものが2点あります。
底部内面に文字が書いてあるのですから、土器を使う時にその文字を否が応でも見ます。
一方、他の11点は全て外面だけに記銘があり、土器を使う状態で置いた時、底部外面のものは文字は読めなくなりますし、体部外面の文字のものは文字が横位になっていて、読むための配慮がなされていません。
閲覧した白幡前遺跡出土墨書土器の記銘部位
墨書土器を記銘するとき、土器利用時に文字を人に読ませることを意識しているのか、そのような意識は希薄であるのかという大きな違いがあることに気が付きました。
次は史料315番を手に取った時の感想です。
史料315番を手に取って観察した感想
底部内面に「立」が書かれているのですから、酒なり、汁なり、水なり、煮物なりを飲んだとき(食べた時)、その人が「立」を読みます。私は底部内面の「立」は祈願する人(本人)のために書かれたと考えます。
土器を利用する人が飲んだ時(食べた時)に確実にその文字を見て、祈願「立」を想起することができるようにするための仕掛けだと思います。
土器外面に書かれた「立」も正位で、土器利用者が文字を読むことに配慮しています。
「立」(たつ)の意味は以前の記事で次のように検討しています。
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●立の意味
立(タツ)は出発する、出立するという意味で、これから蝦夷戦争の戦地である陸奥国へ向かうという決意を表現していて、その勝利・無事を祈願したものだと思います。「いざ戦わん」という意味だと思います。
○(戦争勝利)、継(基地機能確保)、立(いざ戦わん)という3つの祈願語が1Bゾーンに多数出土することから、この場所に高度に組織されて、恐らく士気も高かったであろう軍事指揮集団が存在していたことがわかります。
2015.05.12記事「八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字検討 その2」
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「立」墨書土器は陸奥国へ出征する将兵グループが使ったもので、出征時の心構えを強化するためのツールであったと考えます。
喩えていえばこの墨書土器は、受験生が「合格」と書いて頭に巻きつける鉢巻のような機能を持っていたと思います。
さて、「「立」という文字の墨書土器は記銘が底部内面にあるものが多い」という統計事象があるのかどうか、確かめたくなりました。
幸い千葉県出土墨書土器・刻書土器データベース(明治大学日本古代学研究所)がありますので、即座に確かめることができます。
幾つかのことばについて確かめると次のようになりました。
白幡前遺跡出土墨書土器の記銘位置「底部内面」の割合
記銘位置「底部内面」のものの全体平均が16.7%ですが、「立」は39.1%で2倍以上あります。
ですから「立」記銘墨書土器は記銘位置「底部内面」の割合が高いといえます。
さらに「立」と一緒に多出する「継」は55.8%に達します
一方「生」は15.2%、「大一」は15.6%で全体の平均値16.7%に近い値です。
○は2.7%で極端に低い値になります。
文字毎に記銘位置「底部内面」の割合が大いに異なることがわかりました。
「立」を使ったのは出征将兵グループ、「継」を使ったのが東国から陸奥国への物資搬送グループであると想定すると、これらのグループは早晩基地を出発して陸奥国へ旅立つグループで、再び東国へ帰還する可能性は高いとはいえず、出発前の心構えを強化する必要が特に高かったグループです。
そのような心構えを強化することが必須のグループが記銘位置「底部内面」の墨書土器を使ったと考えることができます。
「継」は過去に次のように検討しています。
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●継の意味
継(ツグ、ツギ)とは白幡前遺跡(集落)の機能、つまり軍事兵站・輸送基地機能そのもののがしっかり確保されて、蝦夷戦争が成功的に遂行されることを祈願したのだと思います。
囲碁で、断点を補う手を継(ツギ)といいます。直接切れないように補うことです。
白幡前遺跡(集落)の高級将官たちは、この基地が都と陸奥国を継ぐ重要な軍事兵站・輸送基地であることをしっかりと自覚していて、この基地機能が十分発揮されることを祈願したものと考えます。
祈願のレベルが個人の枠を大きく超えていて、国家戦略レベルです。
継と祈願した高級将官は中央官僚レベルと同じ意識です。
2015.05.12記事「八千代市白幡前遺跡 墨書土器の文字検討 その2」
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史料315番の観察により、記銘位置「底部内面」の墨書土器とそうでない墨書土器の違いに興味を持つことができました。今後、その違いを文字毎やゾーン毎に検討して、墨書土器の特性を自分なりに深く把握してみたいと思います。
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