2025年10月20日月曜日

貝層3D空間における石器種別分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Stone Tool Types in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I created 3D distribution models for seven stone tool types, including arrowheads, and based on these, created planar and elevational orthogonal projections. Comparing the stone tool types, arrowheads were primarily distributed at the upper slope, while chipped stone axes were primarily distributed at the lower slope. This difference is intriguing. It turns out that comparative analysis of artifact type distribution is highly valuable.


石鏃など7つの石器種別の分布3Dモデルを作成し、それに基づいて平面オルソ投影図と立面オルソ投影図を作成しました。石器種別を比較すると、石鏃は斜面上部にメイン分布域があり、打製石斧は斜面下部にメイン分布域があり、その違いに興味が湧きます。遺物種分布を比較分析する価値が大きいことが判明しました。

1 石器種別データ

遺物台帳を悉皆的に電子化したデータに基づく有吉北貝塚北斜面貝層遺物データベースでは石器・石出土が2425件あります。この内一括出土などはグリッド内平面座標がないため、これらを除いて3D座標が揃った石器・石は2045件です。さらに発掘調査報告書で石器種別が記載されているのは795件です。この795件の石器・石種別データについて、主なものについて3D空間分布を観察することにします。

●発掘調査報告書に記載された石器・石種別件数

打製石斧 106

石錐 7

石製品 11

石皿 30

軽石製品 38

楔形 62

磨製石斧 44

oef 3

礫 32

礫器 1

石核原石 19

石鏃 145

磨石類 122

叩石 1

砥石 3

砥石状砂岩 156

urf 15

2 主な石器種別分布

出土件数の多いものを中心に主な石器種別3D分布を平面図と立面図で表現しました。石鏃は3Dモデルとその動画も付けました。

2-1 石鏃

有吉北貝塚北斜面貝層石鏃分布3Dモデル

石鏃件数(発掘調査報告書記載件数):145

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


有吉北貝塚北斜面貝層石鏃分布動画


石鏃分布

2-2 打製石斧


打製石斧分布

2-3 磨製石斧


磨製石斧分布

2-4 石皿


石皿分布

2-5 磨石類


磨石類分布

2-6 楔形


楔形分布

2-7 砥石状砂岩


砥石状砂岩分布

3 メモ

分布図を総観的に見て、次の感想を持ちました。

・石鏃分布と打製石斧分布を見ると、石鏃分布の方が打製石斧分布より、より斜面上部に分布していることが判ります。石鏃は斜面のより上部で投棄(埋納)され、打製石斧はガリー流路谷底付近で投棄されたものが多いようです。石鏃は狩猟道具であり、男の活動の象徴的道具である意味があります。打製石斧は土の掘削道具であり、ガリー谷底における何らかの掘削作業に関わったのかもしれません。石鏃と打製石斧の分布比較から興味ある事象のヒントが生まれました。

・磨製石斧分布と打製石斧分布をくらべると、打製石斧のほうが斜面下部や谷底により多く分布していることが判ります。

・石皿の分布は平面でみるとガリー谷(貝層分布域)の上流と下流で分布数がほとんど同じですが、磨石類は上流で多く、下流で少なくなっています。石皿と磨石が調理道具として一緒に使われていたと想像すると、二つの分布は類似すると考えられますが、違っているので興味が湧きます。

・砥石状砂岩の分布が貝層分布と近似しています。ガリー流路の泥層から出土していません。骨・歯分布が貝層分布と近似する現象は理解できますが、砥石状砂岩の分布がなぜこのようになるのか、今後詳しく検討することにします。砥石状砂岩の用途が何であったか、自分が知らないので、この興味ある分布の意味が判らないのかもしれません。

4 分布の統計分析について

11月ごろから、遺物種別分布の比較統計分析を次の項目で行う予定です。

●遺物種別分布の類縁性統計分析 試行

1 基本的な空間統計指標による分布比較

・平均最近隣距離(ANN)

・実際のANNとランダム分布した場合のANNを比較(集中しているかどうかだけの比較)

2 密度分布解析

・立体的カーネル密度推定(遺物数の異なる2つの密度推定を比較できるようにする)その密度の違い、分布の違いを分析する。

・類似度直接評価(空間重なり度、どれだけ動かせば一致するか)

・空間的自己相関(局所集中の存在の比較)

3 多数種別のデータ(例ANNとか相互の種別近隣距離平均とか)を統計分析して、遺物種をクラスタリング(類型区分)する。分布形状や密集度が類似する遺物種をグループに分ける。


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