2021年2月26日金曜日

縄文土器の容量計測法

 縄文土器学習 551

縄文土器3Dモデルを作成した際、実寸法を付与できれば、簡易的な方法でその容量を測定出来ますので、その手順をメモします。

1 作成方法の概要

縄文土器を回転体に見立て、容量部分(液体の入る部分)の模擬3Dモデルを作成し、その体積をBlenderで計測します。

2 回転体の素となる断面の作成

土器3Dモデルの正面オルソ投影画面を利用して、土器厚を差し引いた液体が入る部分の断面図を作成します。


オルソ投影画面における断面図の作成


作成した断面図(余白透明なPNGファイル)

3 断面図のWabefront(.obj)ファイル作成

断面図(余白透明なPNGファイル)をPhotoshopに投入し、3D機能で新規3Dオブジェクト作成→深度マップからのメッシュ→平面→作成で3Dモデルを作成します。次に3DモデルをWabefront(.obj)ファイルで書き出します。


PhotoshopでWabefront(.obj)を書き出している様子

4 断面図Wabefront(.obj)ファイルをBlenderに投入

断面図Wabefront(.obj)ファイルをBlenderに投入して、メッシュ数を縮減して扱いやすくします。事例ではメッシュ数を×0.02にしました。また、オブジェクトサイズと単位を確認し、必要に応じてオブジェクトの倍率を調整します。

5 回転体作成と体積計測

断面図オブジェクト(平面メッシュ)を真上からオルソ投影で見下ろす状態で、編集モードでスピン機能で回転体を作り、サイドバーで体積を計測します。


断面から360度回転、72ステップで作成した回転体

体積計測している様子

Nキーでサイドバーを表示し、3Dプリント→体積で体積が表示されます。

6 感想

断面図をBlenderに投入して重心位置を求めてパップス-ギュルダンの定理で体積を計測する方法もあります。2021.02.17記事「パップス-ギュルダンの定理による縄文土器体積の求積

手間数は回転体で体積を計測する方が少なく、また計測誤差が生まれるステップも少ないので、回転体を使う方が効率的でより正確です。また回転体を利用すれば容量模擬3Dモデルという計測証拠を残すことができます。


加曽利EⅠ式深鉢(No.20)(市川市向台貝塚) 観察記録3Dモデル (観察項目検討と詳細観察)

 縄文土器学習 550

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」後半で展示された加曽利EⅠ式深鉢(No.20)(市川市向台貝塚)を3Dモデルで観察しましたのでメモします。この記事では中期縄文土器の自分なりの観察項目をどのように設定すべきかという視点から詳しく観察します。

1 加曽利EⅠ式深鉢(No.20)(市川市向台貝塚) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢(No.20)(市川市向台貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 100 images


展示の様子

展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 テクスチャ


GigaMesh Software Frameworkによる展開 ソリッド

3 観察メモ

3-1 中期縄文土器観察項目

発掘調査報告書や専門論文における中期縄文土器分類に使われている観察項目や指標をとりあえず全て網羅し、同時に自分が興味をもつ項目も加えた土器観察項目を仮に設定して、3Dモデルの観察を順次行い、必要に応じて項目加除等を行います。ある程度観察土器数が蓄積した時に観察項目の意義について検討することにします。この土器について、手始めに次の項目を暫定的に設定して観察することにします。

……………………………………………………………………

1 器形

1-1 基本器形

暫定的にキャリパー形、円筒形、ラッパ形、樽形等分類を使う。

1-2 細部器形

把手の有無やその他の特徴

2 大きさ、容量

2-1 器高

2-2 最大器幅

2-3 口唇部器壁厚

2-4 容量(推定)

3 文様

3-1 文様帯の段区分と主文様帯の位置

3-2 文様帯の特徴

主文様描出の方法(隆帯・沈線など)、地文、施文順序など

4 展示館説明

4-1 型式

4-2 出土遺跡

4-3 その他の説明

5 感想

5-1 型式・分類に関するメモ・感想

5-2 文様意味等に関するメモ・感想

……………………………………………………………………

3-2 観察とメモ

以下の文章は観察記載ですが、●は感想・メモです。

…………………

1 器形

1-1 基本器形

キャリパー形。


オルソ投影画像(正面から)

●キャリパー形の定義があるのかどうか知りませんので、詳しく知りたいと思います。測定器具「キャリパー」の写真を掲載して説明している文章をあちこちで見かけますが、そのイメージだけで流布している用語なのか、もう少し学術的な説明がある用語なのか、自分はまだ判っていません。

加曽利E式土器がキャリパー形になった理由があるはずです。より効率的熱処理ができる炉構造が発明され、それに対応して土器器形が変化したのではないだろかと空想しています。

あるいは煮物で上澄みをすくいとることが必要な食材が新規開発されたり、上澄み除去を必須とする新調理法開発があったのかもしれません。

1-2 細部器形

立体的なS字状文が把手になっています。S字状文は2単位のようです。(背面が同じS字状文であるかは未観察)S字状文の間は平縁のようですが、欠けのため確認できません。

2 大きさ、容量

2-1 器高

40.5㎝。3Dモデルから計測。

2-2 最大器幅

32.0㎝。3Dモデルから計測。

2-3 口唇部器壁厚

約1.5㎝。3Dモデルから計測。


3Dモデルから計測した結果

2-4 容量(推定)

10.9L(土器容量模擬3Dモデルを作成してBlenderで体積計測)


土器容量模擬モデルをBlenderで体積測定している様子

●縄文土器の大きさ、容量データは統計的分析によりその意味を発見することができると考えます。

一般的な見立てとして、中峠式土器→加曽利E式土器で大きさと容量が増大していると想像しています。その理由として海産物などの食材が豊富に入手できるようになったことがあるのではないだろうかと想像しています。

また、加曽利EⅡ式器になると「業務用」と想像されるような巨大な土器が生まれると考えます。家族を越えた集落全体の保存食づくりなどの土器かもしれません。食材を多量に扱えるようになった組織や技術が整備されたからだと空想します。

土器見かけの大きさ(高さとか幅とか)のわずかな差が容量では大きな差になりますので、注意が必要です。。

3 文様

3-1 文様帯の段区分と主文様帯の位置

土器のくびれ部に3本の沈線と2本の隆帯が交互に配置され土器を周回して、土器が口縁部と胴部の2段に区分されます。

●胴部は地上界(自分が住んでいる世界)、口縁部は天上界(天にある地上界と同じような世界で、故人が生活する場所)、口唇部(把手)は天上界のさらに上にあるいわば「神」の領域とのインターフェイス空間と超妄想しています。

3-2 文様帯の特徴

ア 口縁部

土器文様のメインモチーフは口縁部の把手ともいえる立体S字状文とそれに連なるクランク状区画文です。

立体S字状文は2本の隆帯によって構成されるようにイメージしてつくられています。よくみると2本の隆帯は右と左で直接連続していません。また一つの隆帯を沈線で割って2本の隆帯にしています。

立体S字状文の左は土器口縁部に貼り付いていますが、右は円環(孔)となって、内面に渦模様として連続しています。

立体S字状文の間の口唇部は2本隆帯が巡っています。

口縁部クランク文は2本隆帯でつくられ、立体S字状文と連絡するもの、渦巻文に変化するもの、口唇部に連絡するものがあります。

口縁部の地文は縦位沈線です。

●S字状文は河川や湖や吹き出す湧泉をイメージしていると妄想しています。S字状文の起源は勝坂式土器にあると考えますが、今後詳しく辿ってみたいと考えます。

立体S字状文は天空界と「神」の領域のインターフェイスのあり方をイメージしていると妄想しています。

「クランク文」はS字状文の別バージョンで、趣旨は全く同じ(河川や湧泉等のイメージ)であると想像します。「クランク文」は天空界で川が土地を区画している、つまり集落利用空間=縄張りがあって、それにより故人の生活が保障されている様子を描いていると想像します。

口縁部の地文である縦位沈線は雨をイメージしていて、豊かな自然がそこに存在している様子を表現していると妄想します。

イ 胴部

地文としての縦位沈線をそれより太い沈線でえぐって文様を描出しています。

2本沈線が間を置いて2つ垂下し、その間に蛇行沈線が垂下しています。加曽利EⅠ式土器の特徴であると考えます。

2本沈線は区画文として、あるいは渦巻状文として垂下2本沈線から派生しています。2本沈線で区画された場所に蛇行沈線が配置されている場所もあります。

●口縁部では2本隆帯で文様が描出され、胴部では2本沈線で文様が描出されている様子はとても興味深いと考えます。おそらく、立体S字状文(把手)→口縁部文様→胴部文様の順に文様が語るテーマの意義が軽くなると考えます。つまり神→故人→自分達という登場がある物語(神話)がこの土器で語られていて、その意味軽重に応じて、文様づくりの丁寧さが差別化されたと想像します。

2本沈線は元来河川や湧泉等を表現する記号であり、それが土地の区画に役立っている様子を描いていると考えます。蛇行沈線はより具象的に河川を描いています。河川が土地の大きな区間になっています。

地文の縦位沈線は雨のイメージで、豊かな自然を表現していると想像します。

4 展示館説明

4-1 型式

加曽利EⅠ式深鉢。

4-2 出土遺跡

市川市向台貝塚出土。

4-3 その他の説明

なし。

2021年2月23日火曜日

「千葉県内で見つかる縄文遺跡の特徴を時期別にみる パネル3Dモデル」とその原典

 縄文社会消長分析学習 86

現在、有吉北貝塚学習における縄文土器学習の一環で縄文土器3Dモデルの分析的活用を検討し、さらに派生してその学習技術としてのBlender操作習熟に時間を投入するという、いつもの学習カオス状況を楽しんでいます。

有吉北貝塚学習に興味を引き戻す意味も込めて、加曽利貝塚博物館展示パネル「千葉県内で見つかる縄文遺跡の特徴を時期別にみる」の3Dモデルを作成して、中期中葉頃の概念様子をよく見て、感想が頭の中で充満するような時間を作ってみました。

また、このパネルの原典である「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)第2章第2節1(1)貝塚に掲載されている表もパネル3Dモデルにして、こちらもじっくり眺めてみました。

1 千葉県内で見つかる縄文遺跡の特徴を時期別にみる パネル3Dモデル

千葉県内で見つかる縄文遺跡の特徴を時期別にみる パネル3Dモデル

加曽利貝塚博物館展示パネルから引用

撮影月日:2021.02.16

3DF Zephyrv5.019でアップロード


千葉県内で見つかる縄文遺跡の特徴を時期別にみる

加曽利貝塚博物館展示から引用

2 縄文時代の時期区分 パネル3Dモデル

縄文時代の時期区分 パネル3Dモデル

「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)第2章第2節1(1)貝塚から引用

3DF Zephyrv5.019でアップロード


縄文時代の時期区分

「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用


2つのパネル3Dモデルの動画

3 感想

千葉県縄文時代学習の基本となる年表がこれら2つのパネルです。この2つのパネルから生まれる感想、気づき、疑問などは良質な学習思考であると考えます。

パネル3DモデルとしてSketchfabに格納しておくことによっていつでも即座に参照することができます。また拡大縮小などが自由に出来ますので閲覧に便利です。

2021年2月21日日曜日

加曽利EⅠ式深鉢とその器形模造品 3Dモデル

 縄文土器学習 549

加曽利EⅠ式土器の器形模造品3Dモデルを作って見ました。観察記録3Dモデルの「補修」ツールとして使えるかもしれないなどの期待感に基づいています。

1 加曽利EⅠ式深鉢とその器形模造品 3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢とその器形模造品 3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢:加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」展示

https://skfb.ly/6YZMI

器形模造品:加曽利EⅠ式土器断面の回転体(72ステップ)(Blenderスピン機能で作成)


動画作成用に3DF Zephyr Liteにセットした様子


3Dモデルの動画

2 器形模造品の作り方概要

ア 土器断面図作成

illustratorに加曽利EⅠ式深鉢観察記録3Dモデルのオルソ投影(正面から)図像を取り込み、トレースして土器断面図を作成し透明pngファイルに書き出します。

イ 土器断面図のWabefront(.obj)ファイル作成

Photoshopに透明pngファイルを投入し、3D機能で新規3Dオブジェクト作成→深度マップからのメッシュ→平面→作成で3Dモデルを作成する。次に3DモデルをWabefront(.obj)で書き出します。

ウ 回転体作成

Blenderに土器断面図のWabefront(.obj)ファイルを投入し、スピン機能で回転体を作成します。今回は72ステップで作成しました。(土器断面図の頂点数をデシメートモディファイアーで削減してから回転体を作成すると3Dモデルが軽くなります。)

エ 回転体の色塗り

回転体にテクスチャ(今回は単色)を貼り付けて回転体を完成させます。

3 器形模造品の使い方

ア 観察記録3Dモデルの補修ツール

展示土器観察記録3Dモデルは前面のみの3Dモデルで後面は画像が欠如し、見苦しい状況です。この見苦しい状況を器形模造品でカバーすることが可能であると考えています。


器形模造品を補修ツールとして使った例(イメージ)3Dモデルの動画

この例はやっつけ仕事で作ったもので、時間をかければ効果的な補修が出来る可能性を確認したものです。補修部分を半透明にするなどの工夫もこれから楽しむことにします。

イ 器形の数量的分析材料

実際土器の回転体模造品を作ることにより、テクスチャ(文様)が捨象され、純粋で単純な器形・大きさになるため、器形比較を「キャリパー形」などの感覚的な分類から数量分析する道が開けるかもしれないと夢想します。

また、回転体と実際の土器形状との差異(円に対するゆがみ)を求めれば、一つの指標になり、土器群とか、地域差とかの比較に使えるかもしれません。

ウ 土器断片資料の位置推定・表示ツール

土器断片資料の曲率等から仮想回転体の中に土器断片資料を埋め込む作業を行うことにより、その土器断片の土器における位置を推定する作業が効率化します。また、回転体に埋め込んだ土器断片は展示などの表現技術として使えると考えます。土器断片資料に新しい価値をもたらすかもしれません。

4 感想

今回は実際の土器断面を使った回転体をつくりました。しかし、実際の土器断面は隆帯や沈線での微細な凸凹が生まれます。その凸凹で回転体をつくると違和感のある回転体になってしまいます。隆帯や沈線の凸凹を平均化したような仮想断面(平均断面)を作って、それで回転体をつくる必要があるかもしれません。

回転体を半透明にしたり、質感や色を工夫したいと思います

2021年2月20日土曜日

加曽利博研究講座「連弧文系土器の盛衰と集落動態-北西部地区とその周辺-」を受講する

 縄文土器学習 548

2021年2月20日に加曽利貝塚博物館縄文時代研究講座「連弧文系土器の盛衰と集落動態-北西部地区とその周辺-」(於:千葉市生涯学習センター)を受講することができました。コロナ禍にもかかわらず万全の予防措置の下に開催されたことにまずは感謝です。事前申し込み抽選により参加できました。

船橋市埋蔵文化財調査事務所箱石幸裕先生を講師にとても興味深いお話がありましたのでその概要と感想をメモします。


講演表題

1 講演内容

次のような順番でスライド写真により箱石先生よりいずれも興味深い説明がありました。

ア 連弧文土器の概要説明


代表的連弧文土器

連弧文土器が最も集中するのは武蔵野台地西部である。

イ 連弧文土器の3つのナゾ

・成立のナゾ

連弧文土器は、加曽利E式社会内部の東西対立の中で生まれた説と、加曽利E式社会と曽利式社会との関係の中で生まれた説がある。

・千葉でまとまって連弧文土器が出土するナゾ

有吉北貝塚の北斜面に連弧文土器がまとまって出土する。本場(武蔵野台地西部)の連弧文土器とは少し趣が違う。

・消滅のナゾ

なぜ消滅したのか。

ウ 連弧文土器事例の紹介

10数点の千葉出土連弧文土器事例の詳しい紹介がありました。


紹介連弧文土器の例

エ 連弧文土器の消滅

連弧文土器は200年足らずの存続であり、その消滅と横位連携弧線文土器の出現期が一致する。このことから連弧文土器は加曽利E式土器に呑み込まれ、横位連携弧線文土器に変化していった。


連弧文土器と縄文年表

オ 有吉北貝塚の連弧文土器

有吉北貝塚に環状集落が形成された加曽利EⅡ式期に弧線文土器が多数出土する。


有吉北貝塚資料

カ 連弧文土器消滅期に起こったこと

連弧文土器消滅期頃は社会の大変革期であり、環状集落の解体、住居の小型化、柄鏡形住居の出現などがあり、加曽利E式土器の曽利式への影響が増大した時期である。

2 感想

ア 連弧文土器のイメージが湧く

連弧文土器の文様や器形について詳しい説明があり、これにより自分の中で「連弧文土器とは」というイメージがかなり湧いてきました。加曽利貝塚博物館のこれまでの3回企画展「あれもE・・・」で観察した連弧文土器の説明が含まれていたので、理解が進みました。

イ 連弧文土器と社会消長との関連問題意識

連弧文土器の発生と消滅について社会消長との関連で説明があったので、自分の学習問題意識がとても刺激されました。特に連弧文土器が消滅して横位連携弧線文土器が出現する様子はその背景とともに、詳しく学習したくなります。

ウ 有吉北貝塚学習への刺激

有吉北貝塚の土器学習は加曽利EⅠ式土器の段階ですが、次のステップ加曽利EⅡ式土器学習に連弧文土器が含まれます。その学習がいまから楽しみです。


2021年2月19日金曜日

加曽利EⅠ式深鉢(No.56)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 547

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」前半で展示された加曽利EⅠ式深鉢(No.56)(流山市中野久木谷頭遺跡)を3Dモデルで観察しましたのでメモします。

1 加曽利EⅠ式深鉢(No.56)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢(No.56)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing 82 images


展示の様子


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 テクスチャ


GigaMesh Software Frameworkによる展開 ソリッド

3 メモ

口縁部の2条隆帯による唐草文様風文様(S字状文)は把手の孔を巡る2条隆帯(に擬した文様)と口縁部-胴部を区画する2条隆帯とも合流していて、全部で一つの文様を構成しています。この文様は中峠式土器から継承されてきた基本的な文様です。

2条隆帯は水の挙動を(具体的には土地を巡る川を)表象していて、把手の孔(輪)は水中を上昇する泡あるいは噴水をイメージしていると空想しています。把手は上昇する泡あるいは吹き上がる湧泉であり、地上界と天空界の接続部(インターフェイス)をイメージしているのではないだろうかという空想を楽しんでいます。

中峠式土器では口縁部の地文は縦位沈線でしたが、この土器では加曽利E式土器らしく、縄文に入れ替わっています。


2021年2月17日水曜日

パップス-ギュルダンの定理による縄文土器体積の求積

 縄文土器学習 546

縄文土器学習に土器容量の検討は欠かせませんが、3Dモデルを利用した土器容量の計測法を知りませんので、その実用的計測方法の原理を検討してみました。

1 展示縄文土器の3Dモデルに実寸法を付与する

展示縄文土器の3Dモデルを作成し、それに実寸法を付与する方法は自分レベルでは既にその方法が確立しました。一言でいえばショーケース外側そばにファイバー製折尺を置いて、それとショーケース内土器を含めた3Dモデルを作成します。それで3Dモデルには実寸法が付与されます。

なお、展示土器の説明名札の特定特徴が同一規格なら、それをスケール代わりにできます。つまりある展示土器の名札の寸法がわかれば、それをスケール代用品として利用できますから、他の土器撮影でいちいち折尺を利用することはありません。

2012.02.10記事「縄文土器群理解の指標としての大きさ(容量)


実寸法により計測された土器 正面から


実寸法により計測された土器 上から

2 展示土器3Dモデルの計測用疑似モデル作成による体積測定(開発中)

展示土器3Dモデルは背後からの情報、内面情報が欠落しますので、それから土器容量を求めることは出来ません。そこで、展示土器3Dモデルに近似した計測用回転体3Dモデルをつくり、その体積を求めることにします。土器に入る液体の量、つまり容量の計測の前のステップとして土器全体の体積(土器体体積+液体が入る量)を求めることにします。加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡)を例にします。

ア Photoshopによる計測用回転体3Dモデルの作成

実寸法を付与した展示土器3Dモデルのオルソ投影断面(正面から)から断面線をトレースしました。


断面線トレースの様子


断面線トレース結果(左縦線は対照用10㎝線)

断面線をPhotoshopに投入して回転体3Dモデルを作成しました。


Photoshop3Dモデル機能による回転体3Dモデル

この計測用回転体3DモデルをWavefront(.obj)ファイルに書き出します。

イ Blenderによる計測用回転体3Dモデルの計測(開発中)

そのWavefront(.obj)ファイルをBlenderに読み込み、Blenderの体積求積機能(アドオン Mesh:3D Print Toolbox)で体積を求めました。


Blenderで体積を求めた様子

しかし、しかし・・・、体積の値が天文学的数値になっていて、単なる桁間違いや桁設定ミスではななさそうなので、現在暗礁に乗り上げている状況です。Blenderの体積求積は正確に機能しているので、Photoshop作成の計測用回転体3Dモデルに何か問題がありそうです。感覚的には、もう少し試行錯誤を重ねれば、この方法で求積できるに違いないと楽観しています。

3 パップス-ギュルダンの定理による体積測定

パップス-ギュルダンの定理によれば、回転体体積は次の公式で測定できます。

(回転体の体積 V) = (図形 F の重心 G が回転により描く軌跡の長さ) × (図形 F の面積 S)

この方法で縄文土器体積を求積しました。

ア 重心位置計測用3Dモデル作成

Photoshop3Dモデル機能を利用して重心位置計測用3Dモデル(押出)を作成しました。


Photoshopによる重心位置計測用3Dモデルの様子

イ 重心位置と回転軸との距離

この3DモデルをBlenderに投入して重心位置を表示し、その画像から重心位置と回転軸までの距離を求めました。


Blenderによる重心と回転軸との距離計測

重心と回転軸との距離=4.22㎝

これから、重心が回転により描く軌跡の長さ=2×π×4.22㎝となります。

ウ 回転体図形の面積測定

Photoshopに次の図形を投入して計測ログ機能により土器断面図(半裁)の面積を計測しました。


Photoshopにおける土器断面図(半裁)面積測定の様子(左四角形は対照用10㎝×10㎝矩形)

土器断面図(半裁)の面積=237.21㎝2

エ パップス-ギュルダンの定理による体積測定

縄文土器体積(計測用回転体3Dモデル)=2×π×4.22×237.21=6286.44㎝3≒6.29リットル

4 感想

実寸法を付与した展示土器3Dモデルから計測用回転体3Dモデルを作成し、それをBlenderに投入して体積を測定できるようになれば、手間が省け作業が効率化します。

計測用回転体から土器体の厚さ(器壁の厚さ、底の厚さ)を差し引いた回転体をつくれば、土器容器に入れることのできる液体容量を計測することができます。

土器容量の変化が型式によってどのように変化するのか知ることができれば、それを手がかりの一つとして社会の様子をよりクリアに推察することができます。





2021年2月15日月曜日

加曽利EⅠ式深鉢(No.57)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 545

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」前半で展示された加曽利EⅠ式深鉢(No.57)(流山市中野久木谷頭遺跡)を3Dモデルで観察しましたのでメモします。

1 加曽利EⅠ式深鉢(No.57)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢(No.57)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.01.06

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 82 images


展示の様子


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 テクスチャ


GigaMesh Software Frameworkによる展開 分析用加工

3 観察メモ

胴下半は復元されていません。

口縁部が広がったキャリパー形土器です。阿玉台式土器・勝坂式土器・中峠式土器と較べて口縁部が広がる土器が増えたことはデザイン上の好みではなく、炉構造の進化とか、調理の仕方とか、食材の変化とかなどの生業や生活技術の変化に伴って生じた意味深い変化であると想像します。その意味解明がこれからの学習における一つの楽しみになります。

文様帯は口縁部に置かれます。渦を伴う曲動する2条隆帯による文様の起源は水流(川)ではないかと妄想します。区画を意味する太い縦位隆帯が1本あります。

文様帯の地文は縄文です。この部分が縦位沈線で埋められている土器よりは新しいタイプのようです。

胴部は縄文で埋められ、垂下文はありません。

突起状の把手が4単位ついています。把手は天空界との関わりを表現していると空想しています。


2021年2月14日日曜日

20210213地震による常磐自動車道土砂崩れ現場(福島県相馬市)3Dモデル

 1 20210213地震による常磐自動車道土砂崩れ現場(福島県相馬市)

20210213地震による常磐自動車道土砂崩れ現場(福島県相馬市)

20210214早朝実況中継テレビ放映画面から作成


3Dモデルの動画

2 感想

地震被害に遭われた皆様にはお見舞い申し上げます。

深夜から道路応急復旧に尽力されている皆様に感謝します。

常磐自動車道土砂崩れ現場の3Dモデルを観察すると山体ブロックがそのまま移動して道路全体を塞いでいるように見えます。

2021年2月13日土曜日

中峠式土器と加曽利EⅠ式土器の比較

 縄文土器学習544

2021.02.12記事「中峠式土器と加曽利EⅠ式土器」で作成した2つの土器を同縮尺で並べた3Dモデルを使って土器形状や文様の比較をしてみました。

1 土器形状と文様


オルソ投影による「正面から」画像

左…中峠式土器、右…加曽利EⅠ式土器


オルソ投影による「上から」画像

左…中峠式土器、右…加曽利EⅠ式土器

ア 基本土器形状

中峠式土器…キャリパー形(不明瞭)

加曽利EⅠ式土器…キャリパー形(明瞭)

イ 細部形状

中峠式土器…口縁部直径の広がりが小さい(胴が太い)。口唇部が壁として直立している。

加曽利EⅠ式土器…口縁部直径の広がりが大きい(胴がスリムである)。口唇部に顕著な壁はない。

ウ 文様帯の位置

中峠式土器…口縁部

加曽利EⅠ式土器…口縁部

エ 文様帯の特徴

中峠式土器…刻み目が顕著で特段に肉厚な2条蛇行隆帯(S字状文)、渦巻文、交互刺突文、縦位沈線、小突起

加曽利EⅠ式土器…2条蛇行隆帯(S字状文)、縦位沈線

オ 胴部

中峠式土器…縄文で覆われる(地文のみ)

加曽利EⅠ式土器…縄文で覆われる(地文のみ)

2 大きさ


オルソ投影による「正面から」画像


オルソ投影による「上から」画像

土器の高さ及び口縁部直径は加曽利EⅠ式土器の方が値が大きいです。しかし、簡易計測では土器容量(外形による計測)はほとんど同じです。煮沸や調理に使うときには土器満杯に液体を入れないとすれば、有効容量はむしろ中峠式土器の方が大きいかもしれません。土器容量は改めて詳しく計測します。

3 考察メモ

・中峠式土器と加曽利EⅠ式土器は口縁部に同じテーマの文様を配してるキャリパー形土器ですから、土器の「趣旨」「本質」「背景」は大きくは同類としてくくることが可能であると考えます。しかし次の点で異なり、土器の「趣旨」「本質」「背景」の差異に着目します。

・中峠式土器の文様は肉厚であり、文様構成パーツも豊富であり、土器文様表現に迫力があります。迫力を持って表現する文様に対応して、特定の物語(神話)が存在し、それの物語(神話)が人々の心を捉えていたと想像します。

・それと比較して、加曽利EⅠ式土器では文様はおとなしくなり、文様パーツは最小限になります。土器文様表現が形骸化・形式化しています。文様に対応して先祖から伝わってきている特定の物語(神話)は人々の心に響いているとは言い難いと想像します。加曽利E式土器社会では前後社会と比べて、物語(神話)の役割が相対的に地盤沈下したと考えています。

・土器の形状が胴太で口縁部直径小から胴細で口縁部直径大に変化しています。この変化がどのような要因によるものか、興味が湧きます。炉の構造進化発展に伴い、それに対応した効率化(熱伝導改善)によるものではないかと空想的仮説が浮かび上がります。今後炉の構造変化がどのようにあったのか、学習を深めることにします。土器形状の変化が食材と調理方法の変化に対応しているかもしれないという空想も浮かびます。土器形状の変化は人々ののデザイン上の好みではない要因があり、その要因は突き止めることができると直感します。

・3Dモデルを使った土器容量計測方法の定式化を引き続き検討します。


2021年2月12日金曜日

中峠式土器と加曽利EⅠ式土器

 縄文土器学習 543

2021.02.11記事「加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル」で加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡)と中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡)が文様が似ているにもかかわらず別類型に区分されていることに興味を持ちました。土器遷移現象の本質の一端を見たような気になりました。そこで参考までにその2つの土器を並べた3Dモデルを作成しました。

1 中峠式土器と加曽利EⅠ式土器

中峠式土器と加曽利EⅠ式土器

左:中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

右:加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

同一縮尺の2つの3Dモデルから構成

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.01.06

ガラス面越し撮影

3DF Zephyr Lite及びBlenderで作成


3Dモデルの動画

2 メモ

観察概要は3Dモデルにアノテーションで書き込みました。

次の記事でこの3Dモデルをじっくり観察します。

作成した個別土器3Dモデルを自分の興味に基づいて並べる技術が、見様見真似レベルですが出来るようになりました。学習に役立ちそうです。


2021年2月11日木曜日

加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 542

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」で展示されている加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡)を3Dモデルで観察しましたのでメモします。

1 加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2021.01.06

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 82 images


展示の様子


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 テクスチャ


GigaMesh Software Frameworkによる展開 ソリッド

3 観察メモ

口縁部に2条隆帯蛇行文様(S字状文)とその間を埋める縦位沈線が配され、胴部は地文としての縄文で埋められるという文様パターンは中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡)に似ています。


参考 中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡)展示の様子


中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡)GigaMesh Software Frameworkによる展開

2021.01.23記事「中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡) 観察記録3Dモデル

中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡)には交互刺突文や渦巻文があり、加曽利EⅠ式深鉢(No.37)(野田市東亀山遺跡)にはそれが見られません。また土器の器形が微妙に異なります。このような違いで中峠式と加曽利EⅠ式を区別していると思います。同じ発掘調査での出土ですから共伴出土物や層位の違いでより明確に分類上の差異が存在していると想像します。

2021年2月10日水曜日

加曽利EⅠ式深鉢(No.55)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 541

加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」で展示されている加曽利EⅠ式深鉢(No.55)(流山市中野久木谷頭遺跡)を3Dモデルで観察しましたのでメモします。

1 加曽利EⅠ式深鉢(No.55)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利EⅠ式深鉢(No.55)(流山市中野久木谷頭遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」 

撮影月日:2021.01.06

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 84 images


展示の様子


展示の様子


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 テクスチャ


GigaMesh Software Frameworkによる展開 ソリッド


GigaMesh Software Frameworkによる展開 分析用加工

3 観察メモ

口縁部の区画文の様子は阿玉台式土器口縁部文様とよく似ています。

胴部に存在する蛇行する2状の垂下沈線から、この土器が加曽利EⅠ式土器に分類される決め手であると考えます。