2022年10月29日土曜日

貝層形成前地形3Dモデル復元の技術メモ

 A technical memo for reconstructing the 3D model of the topography before the shell formation


I created a 3D model of the pre-formation topography of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, and made notes of the technical points so that I can immediately respond to similar work in the future.


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の3Dモデルを作成しましたが、今後類似作業が生まれても即座に対応できるように技術要点をメモしました。

2022.10.29記事「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

1 地形モデル作成の概要

等高線図や断面図などの紙資料から地形3Dモデルを作成する方法のうち、2つの方法をこれまで使ってきました。

・QGIS(GRASS機能)を使った方法

・Blender(アドオンBsurfaces GPL Edition機能)を使った方法

今回はBlender(アドオンBsurfaces GPL Edition機能)を使いました。

作業の概要は次の通りです。

ア 地形断面線作成(illustrator作業)

イ 地形断面線の3D空間プロット(Blender作業)

ウ 地形モデル作成(BlenderアドオンBsurfaces GPL Edition機能)

エ 地形モデル活用(3DF Zephyr Liteで動画作成とSketchfab投稿)

なお、QGIS(GRASS機能)をつかった同対象作業を次の記事でメモしています。

2021.06.13記事「有吉北貝塚北斜面貝層 基底面高度分布図3Dモデルの作成

2 地形断面図作成(illustrator作業)

平面図、貝層断面図をillustratorで並べて、手作業で地形断面線を作成しました。


illustrator作業の様子

地形断面線は30本作成しました。情報のない部分は想定で等高線を描き資料を補足しました。

3 地形断面線の3D空間プロット(Blender作業)


地形断面線を3D空間にプロットした様子

illustrator作業結果をBlenderの3D空間に配置し、それをベジェ曲線(アドオンBezier Toolkit)でトレースしました。実作業は点をクリックすることにより線を結ぶだけです。作業は作業しやすい通常画面(「layout」画面)で行いました。

この時重要な注意点はトレースの方向を全ての断面線で同じにすることです。左からトレースした断面線と右からトレースした断面線が混じると最終結果がねじれて失敗します。

作成した断面線は座標機能で正確にプロットしました。

4 地形モデル作成(BlenderアドオンBsurfaces GPL Edition機能)

4-1 画面切り替え

地形断面線(ベジェ曲線)が並んだ画面を2DAnimation画面に切り替えて作業します。

4-2 グリースペンシルのオブジェクト作成

並んだ地形断面線を端から1つずつ順番に指定して、全部を指定します。この時、ボックス選択で全部を一括して指定すると最終結果で必ず失敗するので注意が必要です。

全部指定してから「オブジェクト→統合」により一つのオブジェクトに統合します。

次に「オブジェクト→変換→グリースペンシル」で統合したオブジェクトをグリースペンシルに変換します。

4-3 地形モデル生成

次にグリースペンシルが選択された状態でサイドバー→編集→Bsurfacesの画面をひらき、その中の「Initialize(Add BSurface mesh)」をクリックします。

さらに(下の)Guide strokesのグリースペンシルをクリックするとその下に枠ができてスポイトが表示されます。そのスポイトをつまんでアウトライナー(オブジェクト一覧表示)のグリースペンシルをクリックします。

最後にすぐ下の「Add Surface」をクリックします。この操作で画面に地形モデルが生成します。


サイドバー「編集」のBsurfaces画面

4-4 地形モデル調整

地形モデルが生成した直後に、画面左下に生まれる小窓「Bsurfaces add surface」でモデルの精細さを調整します。「クロス」、「追従」に数値を入力します。(この例はクロス75、追従5です。)

5 マテリアル・テクスチャの追加、UV展開

5-1 画面切り替え

画面を作業がしやすいlayoutに切り替えます。

5-2 マテリアル・テクスチャの追加

地形モデルに好みのマテリアル・テクスチャを追加します。

5-3 UV展開

地形モデルをUV展開します。

ここまでの作業で断面線由来の地形モデルが生成し、他のソフトでも利用できる状態になりました。


完成した地形モデル

6 感想

・Bsurfaces機能の操作上のクセには翻弄されましたが、ナントカカントカ使えるになりました。地形に限らず、3D空間に複数の線分があればそれを結ぶ曲面が生成出来るのですから便利です。

・今回の作業では断面線の間隔は2mです。従って幅2mより小さい地形特徴は表現されない可能性があります。仕方がないことです。等高線で表現する地形でも等高線間隔より小さい地形特徴が表現されない可能性があることと同じです。


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

 Topographic reconstruction model of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound before the formation of the shell layer


A 3D model was used to reconstruct the pre-formation topography of the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound.

It can be used to test the hypothesis that topographical features constrain shell midden activities (shell layer formation and relic dumping) and are factors that determine the distribution of relics.

Topographic reconstruction was done with Blender's Bsurfaces function from the shell layer cross section and contour line information.


有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形を3Dモデルで復元しました。

地形の特徴が貝塚活動(貝層形成・遺物投棄)を制約して、遺物分布規定要因になっているという仮説検証に使えそうです。

地形復元は貝層断面図と等高線情報から、BlenderのBsurfaces機能で行ったものです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル

貝層断面図と等高線情報からBlenderのBsurfaces機能で作成

平面縮尺:垂直縮尺=1:1

平面図、貝層断面図(塗色)は有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

Topographic reconstruction model of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound before the formation of the shell layer

Created with Blender's Bsurfaces function from shell layer cross-section and contour line information

Planar Scale: Vertical Scale = 1:1

The ground plan and cross-section of the shell layer (painted) are quoted from the Ariyoshi Kita Shell Mound Excavation Report.


「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層の貝層形成前地形の復元モデル」動画

2 メモ


貝層形成前地形の主な特徴

・北斜面貝層はガリー谷地形を埋めるかたちで発達しています。

・ガリー谷頭は集落が立地する台地面に迫っていますが、台地面を直接侵食していません。

・ガリー谷頭急斜面の上から貝及び土器等が盛んに投棄された様子が貝層断面図及び遺物3D分布図から判ります。

・ガリー谷頭急斜面直下にガリー流路狭窄部が存在しています。この地形組合わせから、ガリー谷頭急斜面直下にささやかな水場が存在していたと考えることが出来そうです。

・この狭窄部から加曽利EⅡ式土器大型破片や他の遺物が密集して出土しています。

・狭窄部より下流では谷地形左岸(西岸)側に砂層が堆積しています。左岸砂層堆積域の上流側ではその上部が急斜面となっています。下流側では高度も低くなり、砂層上部の斜面は低くなります。


砂層堆積の様子(砂層は貝層形成前に上流から運搬されてきて堆積したものです。)

・この地形の様子から低い斜面から人々は谷に入り込んだことを想定できます。この付近にガリー流路狭窄部と並ぶ遺物集中がみられることと整合します。

・ガリー谷地形は堆積物で塞がれています。流路は脇に逃げています。この様子から谷地形下流部は湿地的環境が存在していたと考えることが出来そうです。

地形復元方法の技術(Blender、Bsurfaces機能)は別記事でメモします。


2022年10月25日火曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound

Distribution of weights of pottery fragment, shell blades, and arrowheads


Creating a map of the distribution of weights of pottery fragment, shell blades, and arrowheads on the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Shell Mound clearly expresses the different characteristics of each, making it a very enjoyable learning experience. It was observed that the stone blade dumping sites were limited to two steep slopes.


有吉北貝塚北斜面貝層の土器片錘・貝刃・石鏃の分布図を作成するとそれぞれ異なる特徴があからさまに表現されて、とても楽しい学習になっています。石刃投棄場所は2ヶ所の急斜面に局限されていたように観察しました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布

North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound

Distribution of weights of pottery fragment(brown), shell blades(purple), and arrowheads(green)


「有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層 土器片錘・貝刃・石鏃の分布」動画

2 メモ

詳しい検討はこれからですが、次のような特徴が浮かび上がってきています。

・土器片錘は貝層が分布する範囲のほとんどの場所から出土しています。分布から土器片錘を特定の場所に投棄するというような活動は存在しないようです。不用土器片錘を貝殻投棄の際に随時一緒に投棄していたと考えました。土器片錘は石鏃などと比較すると素材入手に困ることもなく、いつでも入手かのうであり、モノとしての価値は低くかったと考えられます。谷頭部や斜面で捨てられた土器片錘が重力や水流で流路付近に集まって下流方向に一部流れ出ている様子が観察できます。

・ハマグリ製貝刃の分布は土器片錘とくらべると狭くなっています。また集中出土する場所が不規則に分布しています。今後詳しく検討しますが、ハマグリ製貝刃分布はハマグリ分布と同期しているように見受けられます。ハマグリ漁で大きなハマグリを見つけた時、手持ちの貝刃と交換していたと考えられますから、捨てられるハマグリ製貝刃はハマグリ貝といっしょに捨てられることが多かったと考えます。

・石鏃は谷頭部急斜面の1ヶ所と下流斜面の1ヶ所の特段に集中するところがあり、この付近が石鏃投棄場所として限定されていたと想像します。谷頭部急斜面は「斜面葬」の場所で、下流斜面も埋葬関連祭事が執り行われた場所です。石鏃という貴重品は祭事空間で主に投棄(埋納)されたと考えます。投棄(埋納)された石鏃は重力と流水の影響で流路付近に集まって下流に方向に移動していったと考えます。


2022年10月22日土曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 装飾品分布とその考察

 Ariyoshi Kita Shell Mound North Slope Shell Layer  Accessory distribution and consideration


Looking at the distribution of ornaments on the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, it is similar to the distribution of wild boar jawbones, and they are concentrated in two places. A Cone shell waist ornament worn by a leader of a large shell midden village was excavated from the downstream concentrated area. I thought that the ritual related to the slope funeral was held in this place.


有吉北貝塚北斜面貝層の装飾品分布を見るとイノシシ顎骨分布と似ていて、2ヶ所に集中します。谷地形出口付近集中域からは大型貝塚集落リーダーが装着するイモガイ製腰飾が出土しています。斜面葬祭事がこの場所で行われていたと考えました。

1 散乱人骨等分布と装飾品分布

これまで作成した出土物分布図を並べて観察しました。

1-1 加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布(平面図投影)


加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布(平面図投影)

1-2 散乱人骨データ数分布(1~48)


散乱人骨データ数分布(1~48)

散乱人骨データは谷頭部急斜面の一区画に集中しています。この急斜面で「斜面葬」が盛んにい行われていたと考えられます。

1-3 イノシシ上下顎骨データ数分布(1~8)


イノシシ上下顎骨データ数分布(1~8)

谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に集中分布します。この2ヶ所でイノシシ解体とイノシシを食する行事があったと考えます。

1-4 装飾品分布

1-4-1 貝製品(装飾品他)データ数分布(1~4)


貝製品(装飾品他)データ数分布(1~4)

イノシシ上下顎骨と同じように谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に集中分布します。ただし、谷出口付近の集中がより顕著です。また谷出口付近からイモガイ製腰飾が出土しています。


イモガイ製腰飾出土状況写真

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用・加色


イモガイ製腰飾

千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」2022.01.04撮影


イモガイ製腰飾

千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」2022.01.04撮影

このイモガイ製腰飾は中期大型貝塚集落の男性リーダーが着装したものであることが展示で説明されています。

集落リーダーが着装したイモガイ製腰飾が出土した様子から、谷出口付近の貝製品装飾品多出ゾーンは斜面葬に関わるメイン祭事が行われたゾーンであると想像します。この付近は斜面葬が行われる場所からあまり離れていない場所で、なおかつ多人数が集まれる場所になります。


谷頭部直下域から出土したイタボガキ製貝輪(及び磨製石斧)

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用・加色

1-4-2 骨角歯牙製品(装飾品)データ数分布(1~3)


骨角歯牙製品(装飾品)データ数分布(1~3)

貝製品(装飾品他)と同じように谷頭部直下域と谷出口域の2ヶ所に主に分布します。

1-4-3 石製品(装飾品)データ数分布(1)


石製品(装飾品)データ数分布(1)

北斜面貝層から出土した石製品(装飾品)は2点です。

2 有吉北貝塚北斜面貝層における特徴的活動空間(作業仮説)


特徴的活動空間(作業仮説)

1-1~1-4の情報から北斜面貝層では斜面埋葬ゾーンと埋葬祭事ゾーン、メイン埋葬祭事ゾーンという3つの特徴的活動空間が機能していたと作業仮説します。

谷頭部急斜面に遺体が土器大破片や貝とともに埋葬され(置かれ)、その後遺体と土器破片は重力と水流により急斜面を流れ下り、混貝土層に埋まっていったものと想像します。一方埋葬に関わる祭事は谷出口付近の比較的広場所で行われたと想像します。イナウが林立する祭壇が設置され、故人ゆかりの品(装飾品)がその場に埋納され貝で覆われたと空想します。またこの祭事でイノシシが解体され食されたと想像します。

3 参考 イモガイ製腰飾(千葉市有吉北貝塚) 観察記録3Dモデル

イモガイ製腰飾(千葉市有吉北貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文時代中期

最大径3.3㎝、最大高1.2㎝

撮影場所:千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2022.01.04

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 201 images

Cone shell waist ornament (Ariyoshi Kita shell mound, Chiba city) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Maximum diameter 3.3 cm, maximum height 1.2 cm

Location: Chiba City Folk Museum “Chiba City Excellent Archaeological Material Exhibition”

Shooting date: 2022.01.04

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 201 images


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置

 Arrangement of Jomon model in 3D space of Ariyoshi Kita shell mound northern slope shell layer


I placed a Jomon model in the 3D space of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. As a result, it became possible to grasp the sense of the vastness of the north slope shell layer space, which had been vague until now, as a realistic sense. One burial activity site and two related ritual sites have emerged.


有吉北貝塚北斜面貝層を構成する地物情報はBlender3D空間の中で整理され存在しています。この3D空間における北斜面貝層の様子を自分の肉体的感覚で把握するために、3D空間内に縄文人モデルを配置してみました。これにより、これまでもやもやしていた北斜面貝層空間の広さ感覚を現実的感覚として捉えることが出来るようになりました。埋葬活動場所1ヶ所と関連祭祀場所2ヶ所が浮かび上がってきました。

1 有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置

有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置


縄文人の身長情報

縄文人モデルは「千葉県の歴史」掲載イラストの押出モデル

赤立方体(0.3m×0.3m×0.3m)は加曽利EⅡ式土器(第10・11群)破片を表現

貝層断面図の凡例:赤…純貝層、緑…混土貝層、黄…混貝土層、茶…土層、青…砂層

白線は谷頭部縁取線及び貝層断面図基底線

Arrangement of Jomon model in 3D space of Ariyoshi Kita shell mound northern slope shell layer

Height information of Jomon people

The Jomon model is an extruded model of the illustration published in "History of Chiba Prefecture"

The red cube (0.3m x 0.3m x 0.3m) expresses Kasori EII type pottery (Group 10 and 11) fragments.

Shell layer cross-section legend: Red: pure shellfish layer, green: mixed shell layer, yellow: mixed shell soil layer, brown: soil layer, blue: sand layer

The white line is the border line of the valley head and the base line of the cross section of the shell layer.


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」画像


「有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における縄文人モデルの配置」動画

2 メモ


縄文人モデルの配置

2-1 ガリー谷頭部急斜面の様子

a-b-cからガリー谷頭部急斜面の様子を実感できます。aから土器や貝が投げ込まれ、急斜面で混貝土層が生成して、土器と混貝土層が重力と水流により流下した様子を推察できます。

b-cでは散乱人骨が密集していて、b付近に遺体を置いてそれを土器大破片で覆う「斜面葬」が盛んだったと想像します。(aから遺体が投げ込まれたかもしれませんが、その行為はなかなか実感できません。)

2-2 谷頭部直下流路の様子

c-e付近は加曽利EⅡ式土器(第10・11群)の大破片が密集投棄されている場所です。土器破片の接合や土器破片群にみられるインブリケーション構造からcより上流で投棄され、この付近に流れ着いて堆積したものがほとんどであると観察できます。この付近も散乱人骨が多くなっています。

c-e付近はイノシシ顎骨出土が多く、イノシシを解体した場所であると考えられます。この付近は地形的にみてささやかな泉があったかもしれません。少しでも水があれば動物解体には好都合です。また、「斜面葬」の直下に当たる場所ですから、埋葬に関わる祭祀がこの場所で営まれ、それに対応するイノシシ食が祭祀の一環としたあったのかもしれません。なお、この場所は狭く、大人数は集まれません。

2-3 ガリー地形出口付近

g-h-iではa-b-cやd-e-fと比べて谷地形がなだらかです。また谷底流路部分も少し拡がっています。この付近は地形的に見て湿地やささやかな水面があったかもしれません。

h付近ではイノシシ顎骨出土が集中しています。水の便が良かったこともイノシシ解体が行われた要因としてあげられます。同時に、拡がった空間を利用して、b-cで行われる埋葬に関連する祭祀がこの場所で行われ、それに関連するイノシシ食があったのかもしれません。この場所ならc-eと比べて大人数が集まれます。


参考 散乱人骨データ数分布とイノシシ上・下顎骨データ数分布


2022年10月20日木曜日

イノシシ顎骨分布と散乱人骨分布

 Boar Jaw Bone Distribution and Scattered Human Bone Distribution


I simultaneously observed the distribution of scattered human bones and wild boar jaw bones (natural bones) in the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Kaizuka. Since the scattered human bone concentration area and the boar jaw bone concentration area are continuous, it may be related from the viewpoint of burial and its rituals.


有吉北貝塚北斜面貝層では、散乱人骨が谷頭急斜面に集中分布するという際立った特徴が判りました。その特徴をイノシシ顎骨(自然骨)分布と比較することにより、より深く把握しました。散乱人骨集中域とイノシシ顎骨集中域は連続するので、埋葬とその祭祀で関連するのかもしれません。

1 散乱人骨データ数分布


散乱人骨データ数分布

灰色:データ数1~9

濃灰色:データ数10~39

黒色:データ数40~48

2 イノシシ上・下顎骨データ数分布


イノシシ上・下顎骨データ数分布

灰色:データ数1

濃灰色:データ数2~3

黒色:データ数4~8

3 メモ


散乱人骨データ数分布とイノシシ上・下顎骨データ数分布

・有吉北貝塚発掘調査報告書で掲載されている動物自然骨分布データはイノシシ顎骨データだけです。

・散乱人骨分布とイノシシ顎骨分布はその集中域特徴が全く異なります。この違いは人骨は埋葬そのもののに起因して分布するのに対して、イノシシ顎骨分布は人骨埋葬そのものには関わらない活動に起因するからであると考えることができます。

・散乱人骨分布は「斜面葬」によると考えました。2022.10.19記事「散乱人骨分布と土器分布の相関

・イノシシ顎骨分布が集中する範囲は2ヶ所に分かれ、一カ所(b)は散乱人骨集中域と一部重複して連続的にガリー流路沿いに分布します。もう一カ所はガリー流路下流(c)に存在します。

・b域のイノシシ顎骨集中は「斜面葬」の末端域と重複することから、広義埋葬活動と関係があるかもしれません。埋葬に関わる祭祀でイノシシが解体され食されるなどです。またこの付近は広い谷頭が一点に集中する最下部であり、ささやかな湧泉が存在していた可能性があります。ささやかでも湧泉があれば、イノシシ解体に好都合だったと推測できます。

・c域のイノシシ顎骨集中は、この付近が地形をマクロにみると塞がれた谷地形の出口にあたることから湿地(ささやかな水面)であった可能性が濃厚であることと関係するのかもしれません。ささやかでも水があればイノシシ解体には便利です。


2022年10月19日水曜日

散乱人骨分布と土器分布の相関

 Correlation between scattered bone distribution and pottery distribution


A three-dimensional graph of the scattered bone data number distribution of the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Shell Mound reveals a close correlation with the distribution of concentrated discarded pottery (Kasori EII type pottery). I had an intuition that a completely new development would begin in considering the significance of Kasori EII-style concentrated pottery dumping.I made a working hypothesis of "slope burial".


有吉北貝塚北斜面貝層の散乱人骨データ数分布を立体グラフにしたところ、集中投棄土器分布(加曽利EⅡ式土器)と密接な相関が観察できます。加曽利EⅡ式土器集中投棄の意義を考える上で全く新たな展開が始まると直観しました。「斜面葬」を作業仮説しました。

1 散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布

散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布

散乱人骨データは2m×2mメッシュ内のデータ数を立体グラフで示す。(データ数[1~48]は高さに比例して表示。灰色1~9、濃灰色10~39、黒色40以上)

加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布は出土3D位置を土器片1つずつ0.3m×0.3m×0.3mの赤立方体で示す。

Number distribution of scattered bone data and distribution of Kasori EII pottery (groups 10 and 11)

Scattered bone data shows the number of data in a 2m x 2m mesh in a three-dimensional graph. (The number of data [1 to 48] is displayed in proportion to the height. Gray 1 to 9, dark gray 10 to 39, black 40 or more)

The distribution of Kasori EII type pottery (groups 10 and 11) indicates the excavated 3D position of each pottery fragment with a red cube measuring 0.3m x 0.3m x 0.3m.


「散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布」画像


「散乱人骨データ数分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布」動画

2 メモ

散乱骨(人骨)は北斜面貝層の広域に分布します。貝層で埋葬が行われたことを示していると考えます。

一方、散乱人骨が集中する範囲は限定され、メッシュ番号ではⅡ-10、21、32とその周辺になります。メッシュⅡ-10、21付近は勾配35度程度の急斜面(ガリー侵食地形の谷頭部)になっています。この急斜面では谷頭上部縁から貝が投棄されることにより混貝土層が生成し、また土器も投棄されていることがデータで観察できています。このような荒蕪急斜面に遺体が置かれ埋葬されたか、あるいは(実感を伴った思考になりませんが)ガリー谷頭上縁部から遺体が副葬品とともに投棄されるという埋葬形式が取られたかのどちらかの埋葬があったと考えられます。どちらの形式であっても、重力作用と年に数回程度の大雨で遺体や副葬品は混貝土層とともに下流に流されていくことを前提とする埋葬になります。「斜面葬」とでもいうべき特殊な埋葬であると考えられます。

一方、散乱人骨分布と加曽利EⅡ式土器(第10・11群)分布がほぼ一致することは、土器集中投棄と考えられてきた現象が埋葬と関係するかもしれないという、これまでに報告のない新たな仮説が生まれる可能性があります。荒蕪急斜面で遺体を埋葬するとき、遺体を大型土器破片で覆う埋葬が行われたならば、散乱骨分布と同じ分布で土器破片が残ります。つまり、荒蕪急斜面埋葬で大型土器破片で遺体を覆う埋葬がおこなわれたという作業仮説を立てて今後の分析を行うこととします。


●作業仮説

加曽利EⅡ式期に北斜面貝層空間の谷頭付近荒蕪急斜面で、大型土器破片で遺体を覆う埋葬が盛んに行われた。その埋葬は重力や雨水で遺体・副葬品や大型土器破片が下流に流下して、下流で混貝土層に自然埋設されるいわば「斜面葬」とでもいうべき特殊な埋葬方法であった。


なお、この作業仮説の蓋然性を補強する一情報として、竪穴住居(SB096)から出土した埋葬人骨の頭部が同一土器大破片で挟まれていることをあげることができます。(発掘調査報告書370ページ)なお、この事例に関する講演を聴講して記事に書いたことがあります。2021.03.20記事「加曽利博研究講座「縄文を知る」を聴講する


2022年10月18日火曜日

北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合する意義

The Significance of Joining Pottery Fragments Excavated from the North Slope Shell Layer and Pottery Fragments Excavated from the South Slope Shell Layer


Some early pottery excavated from the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound joins pottery fragments excavated from the shell layer on the south slope. I'm very worried. It may be the result of a specific individual performing consecutive prayers in two places.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土する土器片の分布について学習していますが、前期土器には台地面を越えた南斜面貝層出土土器片と接合するものがあります。気になる事象ですから感想をメモしました。特定個人が2ヶ所で連続祈願行為を行った結果かもしれません。

1 北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合するもの


北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合するもの


北斜面貝層と南斜面貝層の位置

前期遺構は土坑1つと埋設土器1つが検出されています。発掘調査報告書では前期遺構について、「土器の出土量からみて、中期以降の遺跡形成で消滅した遺構が多数あったと考えられた。」と記述されています。

2 メモ

2-1 前期土器の北斜面貝層における分布


早期土器と前期土器の破片出土場所

2022.10.11記事「有吉北貝塚北斜面貝層における早期土器と前期土器の分布」で早期土器と前期土器はその出土場所付近で早期と前期に人々の活動があり、その結果土器破片がその場所付近に持ち込まれたと考えました。その後、阿玉台式以降中期の貝層形成活動によって撹乱を受け、貝層の中に混入したと考えました。

2-2 北斜面貝層出土土器片と南斜面貝層出土土器片が接合する意義

前期には台地面で人々の活動(生活)があり、諸磯式などの前期土器が使われていました。前期の人々が南斜面貝層(当時は顕著な貝層は無かった)と北斜面貝層(当時は顕著な貝層は無かった)に廃用土器破片を投棄したことはその場所から土器片が出土しているので確実です。

廃用土器破片を送り場に持ち込む際、意識して土器破片を2つに分け、一方は北斜面貝層で送り(投棄し)、一方は南斜面貝層で送った(投棄した)という活動が特殊ではなく、普通に行われたことが推定できます。

なぜ2個所の送り場で同じ土器を送ったのか?次の想像が生まれます。

送り場で土器破片を送るとは、土器破片に敬意を表現し、土器に感謝するという意味だけでなく、その行為に付随して、別の祈願行為があったのではないかと考えます。土器破片は現代風に言えば一種のお賽銭みたいな意義をもつようになっていて、土器破片(お賽銭)を投じることで別の何かの祈願をしたと想像します。そして現代でも祈願は多数ヶ所で行われます。四国八十八ヶ所巡りとか七福神巡りなどです。つまり、前期縄文人は廃用土器の破片を台地上でつくり、その一部を北斜面貝層(にその後発展する空間)に持ち込み投棄して、何らかの祈願行為をし、別の一部の破片を南斜面貝層(にその後発展する空間)に持ち込み投棄して、何らかの祈願行為をしたと想像します。 

2022年10月17日月曜日

加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル

 3D distribution of Kasori EII type pottery (10th and 11th group pottery)


I created a 3D distribution model of Kasori EII-type pottery (groups 10 and 11) that were concentrated and dumped in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. I plan to analyze this 3D distribution model by correlating it with the cross section of the shell layer. Just by looking at it, information pops up, and I'm looking forward to the full-scale analysis.


有吉北貝塚北斜面貝層の加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)破片の3D分布モデルを作成しました。北斜面貝層では加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)が集中投棄されています。この3D分布モデルを貝層断面図などの情報と対応させ分析する予定です。瞥見するだけでいままで気が付かなかった情報が浮かび上がってきているので、本格分析が楽しみです。

1 加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層 加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル

立方体の大きさは0.3m×0.3m×0.3m

白線は谷頭部縁取線及び貝層断面図基底線

3D distribution model of Kasori EII type pottery (10th and 11th group pottery)

The North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound  3D distribution model of Kasori EII type pottery (10th and 11th group pottery)

The size of the cube is 0.3m x 0.3m x 0.3m

The white line is the border line of the valley head and the base line of the cross section of the shell layer.


「加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル」画像


「加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル」画像+貝層断面図


「加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)の3D分布モデル」動画

2 メモ

2-1 これまでに作成した土器破片3D分布モデル

・早期土器・前期土器分布モデル(2D分布モデル)

・阿玉台式土器(第2~5群土器)3D分布モデル

・中峠式土器(第6群土器)3D分布モデル

・加曽利EⅠ式土器(第7・8群土器)3D分布モデル

・加曽利EⅡ式土器(第9群土器)3D分布モデル

・加曽利EⅡ式土器(第10・11群土器)3D分布モデル

・加曽利EⅢ式土器(第12群土器)3D分布モデル

2-2 分析の視点

次のような視点で3D分布モデルを分析し、時期別(土器群別)比較を行います。

・分布の拡がり、密集域

・谷頭部分布の特徴

・想定されるガリー流路流心や流路部における混貝土層-土層境界との関係

・堆積砂層との関係

・(流路部以外の)混貝土層との関係

・斜面貝層との関係

・下流部(ガリー地形下流部)土層との関係

2022年10月16日日曜日

加曽利貝塚博物館主催講座「縄文時代後期の新視点」聴講

 Attending the lecture "New Perspectives in the Late Jomon Period"


Attended the research lecture "New Perspectives in the Late Jomon Period -Changes from the Middle to the Late-" (October 15, 2022) sponsored by the Kasori Shell Mound Museum. I was able to harvest new interests, knowledge, and perspectives through this course. In addition, various impressions were born, so I took notes in detail.


令和4年度加曽利貝塚博物館特別研究講座3「縄文時代後期の新視点 -中葉から後葉への変化-」(2022.10.15、千葉市生涯学習センター)を聴講しました。新しい興味・知識・視点を収穫できるとともに、各種感想が生まれましたので詳しくメモしました。

1 プログラム

次の4先生からの講演があり、最後に質疑応答がありました。

「気候変動と生活世界の変化」…安斎正人先生(元東北芸術工科大学東北文化研究センター教授)

「下総台地の縄文後期集落-なにがどう変化したか-」…西野雅人先生(千葉市埋蔵文化財調査センター所長)

「縄文後期中葉土器群の変遷からみた地域間関係」…西村広経先生(松戸市立博物館学芸員)

「縄文時代後期の儀礼用容器の様相について」…秋田かな子先生(東海大学文学部准教授)


配布資料

とてもレジュメとはいえない35ページに及ぶ立派な論文集です。

2 「気候変動と生活世界の変化」…安斎正人先生(元東北芸術工科大学東北文化研究センター教授)


講演の様子


縄文時代の土器型式編年と気候変動期

配布資料から引用

講演内容は気候変動と考古学的事象との関連の話です。この話題は以前から興味(疑問)をもっているものです。講演では考古学を総合するような思索と具体的事象(4.9現象、4.3ka、3.4現象など)が一つのセットとなる知識体系として提示され、説明されました。自分は考古学における総合的な概念知識も、具体的事象(例 4.9現象…4900年前の寒冷期?)についても、基礎知識・背景知識を持ち合わせていません。従って、先生のお話は十分に咀嚼・納得できませんでした。

以前から「気候が寒くなったから社会が衰退した」式の論法には根本的な疑問を持っています。今回の講演では、残念ながらそうした疑問の解決糸口を見つけることはできませんでした。

3 「下総台地の縄文後期集落-なにがどう変化したか-」…西野雅人先生(千葉市埋蔵文化財調査センター所長)


講演の様子


動物資源利用の比較

講演内容は中期大型貝塚社会、後期前葉に盛行する大型貝塚社会、後期中葉以降の「大型貝塚+内陸低地」社会の様相を時系列的に、要素項目別に、資源利用特徴的に多岐にわたって詳細に説明したものです。興味を刺激する多数の小話題もちりばめられていました。

自分の学習という観点からいうと、次の話に特段の興味が湧きました。

ア 中期大型貝塚社会は40数か所の大型貝塚集落が画一的計画的につくられた。その斉一性のゆえに環境変化に脆弱で、終焉を迎えた。その記憶が地域に残り、後期大型貝塚社会では属地的差異を活かした違いのある集落が形成された。その結果、環境変化に対応できて一斉崩壊はなく、1000年以上継続したものもある。

イ 資源枯渇の心配のないイボキサゴ漁が一つの塩分利用形態としてでんぷん食発展に貢献した。それゆえに大型貝塚が栄えた。ところが、精製塩の登場によりイボキサゴの価値が相対的に低下した。その様子が手賀沼や印旛沼地域社会の発展と大型貝塚社会の停滞に、あるいはヤマトシジミ漁の発展に見ることができる。

ウ 環状盛土、土偶、石棒、土製耳飾などの盛行は晩期前半に顕著になるが、その端緒は加曽利B式期にある。この変化は「資源は変化しないが、社会の選択が変化したように見える」。寒冷化に結びつくかどうかの判断は、環境の異なる広域での検討が必要である。

4 「縄文後期中葉土器群の変遷からみた地域間関係」…西村広経先生(松戸市立博物館学芸員)


講演の様子


まとめ

講演内容は後期中葉の広域土器編年案、加曽利B式斜線文土器の系譜、異形土器の広域分布であり、関東、東北、北海道を含む地域的スケールの大きな話です。ほぼ分布現象だけにターゲットを絞ったコンテンツでした。

結論として、加曽利B2式併行期に次のような事象が起こり、重要な画期であることが話されました。

・北海道・東北で土器群の斉一化が進んだ。

・関東東部で土器様相が変化した。

・関東東西間で地域差が発現した。

・異形土器の出現と広域分布が起こった。

異形台付土器と釣手/香炉形土器の2種を関連するものとして取り上げていることはとても示唆に富むものであると考えました。

5 「縄文時代後期の儀礼用容器の様相について」…秋田かな子先生(東海大学文学部准教授)


講演の様子


まとめにかえて

講演内容は注口土器の利用・意義を知るための専門研究を一般向けに判りやすく解説したという印象を受けるものでした。相手に判らせようという意欲は好印象でした。文様説明で文様のデザインを指で空中に描く様子を見て、戦前大学ではそのような講義があったとの誰かの話を思い出しました。

注口土器が婚姻にかかわる(人材確保にかかわる)ような広域コミュニケーションで使われ、その価値(利用価値)が高いためにコミュニケーション先で模倣制作されたとの情報はとても興味深いものでした。

なお、とても気になる話題がありました。


注口土器という器種の特質

土偶「仮面の女神」の背後首の付近にある突起が注口土器の特徴と似ているという指摘がありました。この突起が注口土器のどの部分に似ているのか直観できないので、追って調べることにします。「仮面の女神」は3Dモデルを作成し、この突起は仮面・帽子を衣服と一体化するための取付器具であると考えています。2020.03.20記事「国宝土偶「仮面の女神」注記付き3Dモデルと想像的解釈

6 質疑応答・感想


質疑応答風景

・コロナ対策で参加者を抽選で絞るとの予定でしたが、急遽広い会場で全員が参加できたようです。加曽利貝塚博物館に感謝します。

・安斎正人先生の「気候変動と考古学事象との関連」という話題と、西野・西村・秋田先生の話題が噛み合っていませんでした。案の定、質疑応答もその進行がちぐはぐとなりました。

安斎正人先生の取組は、世界的に既知である(と安斎先生が考える)気候変動現象を考古学的事象に投影して、考古学的事象を解釈しようとしているように見受けられます。一方、西野・西村・秋田先生の取組は考古学的事象から社会の様子や環境の様子を知ろうとしています。同じ考古学といっても、研究のベクトルが全く異なります。研究のベクトルは違うけれども話はどこかで噛み合い・衝突し・共通点もあるという状況になれば良かったと思います。

・中期大型貝塚社会の成功と失敗の様子が記憶として地域に残り、それが後期大型貝塚社会に活かされたという西野先生の話に興味を持ちました。中期から後期にその記憶がどのように伝わったのか、教えてほしいという質問表を提出しました。質疑応答で、西野先生から、言葉により伝わったと考えるという回答をいただきました。縄文中期・後期の貝塚社会で言葉が発達している様子は、イボキサゴやハマグリは採集されるけれどもダンベイキサゴなどは採集されない様子など発掘情報から、採集対象物に関する語彙が豊富であることが窺え、ひいて言葉の発達が押し測られるとのことでした。

文字という記録媒体のない社会ですから、社会盛衰に関わる重要出来事は、話し言葉で子孫に意識的に伝えていったと考えることができます。当時長命な人が40歳くらいであったとすると、成人であった期間は25年くらいです。4世代くらいは話ことばによる情報伝達が極普通であると考えると、100年間くらいは、話ことばで難なく情報伝達します。文字がなく、話ことばだけで重要事項を伝えることが意識された社会ならば、200年とか300年は情報が伝わった可能性は十分にありそうです。そうした想像から、中期大型貝塚社会の斉一性による成功と失敗の教訓は、言葉による伝承により、後期大型貝塚社会に伝わって活かされたと考えることができそうです。



2022年10月11日火曜日

有吉北貝塚北斜面貝層における早期土器と前期土器の分布

 Distribution of Earliest and Early pottery in the Shell Layer on the North Slope of Ariyoshi Kita Shell Mound


The distribution of earliest and early pottery in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound was determined. The uneven distribution in two places expresses the place of use at that time, and there may have been a wetland or a spring.


有吉北貝塚北斜面貝層における早期土器と前期土器の分布を把握しました。2ヶ所に偏在分布している様子は当時の利用場所を表現していて、湿地や湧泉があったのかもしれません。

1 早期土器と前期土器の分布


早期土器と前期土器の破片出土場所


早期土器と前期土器の破片出土場所 Blender画面

2 メモ

・早期土器と前期土器は出土平面位置をメッシュ(2m×2m)番号で知ることができます。標高は記載されていません。

・早期土器と前期土器の分布は2ヶ所に偏在していることが特徴です。その偏在性について、早期土器と前期土器が同期しています。

・早期土器と前期土器が偏在分布していて、貝層全体の分布と異なる様子から、早期土器と前期土器は阿玉台式期~加曽利EⅢ式期の貝層形成活動にともなって持ち込まれたものでないことが判ります。

・早期土器と前期土器の出土層位の詳細は不明ですが、一部推定できるものは土層や混貝土層出土のものが多く、阿玉台式期から加曽利EⅢ式期の活動で撹乱を受けた地層・貝層出土が大半であると推測します。

・早期土器と前期土器は偏在出土した場所付近で人々の活動があり、その結果土器が投棄され、その土器破片が貝層形成活動で生まれた地層・貝層に混入したものと想定します。

・早期と前期の活動とはこの場がガリー流路谷底であることから、水辺に関わる活動であると想定します。湿地・池あるいは湧泉があったのかもしれません。




2022年10月10日月曜日

阿玉台式土器と中峠式土器の3D分布

 3D distribution of Atamadai-style and Nakabyo-style pottery


I observed the 3D distribution of Atamadai-style and Nakabyo-style pottery on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. It can be confirmed that the shell layer formation started from the Atamadai period. It seems that there was a water field used during the Nakabyo period, apart from the formation of the shell layer.


有吉北貝塚北斜面貝層の阿玉台式土器と中峠式土器の3D分布を観察しました。阿玉台式期から貝層形成が始まったことが確認できます。中峠式期には貝層形成とは別に水場利用があったようです。

1 阿玉台式土器(青)と中峠式土器(白)の3D分布

有吉北貝塚北斜面貝層 阿玉台式土器(青)と中峠式土器(白)の3D分布

青立方体:阿玉台式土器の破片

白立方体:中峠式土器の破片

立方体の大きさは0.3m×0.3m×0.3m

白線は谷頭部縁取線及び貝層断面図基底線


阿玉台式土器 中峠式土器 破片分布立面投影図

The North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound  3D distribution of Atamadai-style pottery (blue) and Nakabyo-style pottery (white)

Blue cube: Fragment of Atamadai-style pottery

White Cube: Fragment of Nakabyo-style Pottery

The size of the cube is 0.3m x 0.3m x 0.3m

The white line is the border line of the valley head and the base line of the cross section of the shell layer.


「阿玉台式土器(青)と中峠式土器(白)の3D分布」画像

2 メモ

2-1 阿玉台式期から北斜面貝層が利用されている

北斜面貝層から出土した土器数を発掘調査報告書掲載土器数を指標として比較すると次のようになります。


発掘調査報告書掲載時期別土器数

このグラフから阿玉台式期から北斜面貝層が利用されていた様子を読み取ることができます。

2-2 阿玉台式期にガリー谷頭から土器が投棄されている

ガリー谷頭部旧斜面に阿玉台式期土器破片が分布していることから、ガリー谷頭最上部から阿玉台式土器が投棄されていたことが判明します。それらの土器は混貝土層から出土していますから、土器投棄は貝投棄に随伴して行われていたことが判ります。


谷頭部急斜面の阿玉台式土器分布

2-3 阿玉台式土器投棄が後代の混入ではない証拠

阿玉台式土器が後代(例 土器が集中大量に投棄された加曽利EⅡ式期)の混入でない証拠として、貝層断面図3付近の土器出土層位をあげることができます。


貝層断面図3の20土器(阿玉台式)と275土器(加曽利EⅡ式)の出土層位


貝層断面図3の20土器(阿玉台式)と275土器(加曽利EⅡ式)の出土位置、高さの関係

275土器(加曽利EⅡ式土器)は加曽利EⅡ式土器が集中大量投棄された層位を示しています。その層位より確実に下位で谷底付近の混貝土層から20土器(阿玉台式)が出土しています。この情報から、阿玉台式土器が加曽利EⅡ式土器が集中大量投棄されたときの混入物でないことが証明されます。

なお、北斜面貝層は縄文時代以降の撹乱が全くない貝層であることが判っています。

2-4 北斜面貝層北部(ガリー侵食谷出口付近)における中峠式土器の2グループ

北斜面貝層北部(ガリー侵食谷出口付近)において中峠式土器が集中しています。次図に示す通り、この付近の中峠式土器(阿玉台式土器も極少数混じる)はガリー流路運搬作用で上流から流下してきて貝層内に堆積したグループと斜面貝層形成以前の地表に投棄されて土層から出土するグループに分けることができます。


中峠式土器(阿玉台式も極少数含む)の2グループ


貝層形成とかかわらない中峠式土器投棄の様子

土層から出土する中峠式土器は中峠式期に貝投棄とは関係しない活動で投棄されたものであると考えることができます。当時この付近が水場であったことが想定されますから、水場に関連する何らかの活動があったのかもしれません。