2021年7月30日金曜日

イボキサゴ模様の平面展開

 2021.07.29記事「イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作)」で作成した3DモデルをGigaMesh Software Frameworkに投入して表面模様を平面に展開してみました。

1 表面模様の平面展開

1-1 GigaMesh Software Frameworkにおける軸の設定

イボキサゴ観察記録3Dモデル(試作)をGigaMesh Software Frameworkに投入して円錐体と見立てて軸を設定しまし。


GigaMesh Software Frameworkで円錐体と見立てて設定した軸

1-2 円錐体表面への投影と展開

模様を円錐体表面に投影して平面に展開しました。


GigaMesh Software Frameworkによる円錐体表面投影展開

1-3 円柱表面への投影と展開

模様を円柱表面に投影して平面に展開しました。


GigaMesh Software Frameworkによる円柱表面投影展開

1-4 上からのオルソ投影

GigaMesh Software Frameworkで上からのオルソ投影図を取得しました。


GigaMesh Software Frameworkによる上からのオルソ投影図

1-5 側面のオルソ投影

GigaMesh Software Frameworkで側面のオルソ投影図を取得しました。


GigaMesh Software Frameworkによる側面のオルソ投影図

1-6 参考 斜め撮影写真


参考 斜め撮影写真

1-7 メモ

イボキサゴの3Dモデルを円錐体と見立ててGigaMesh Software Frameworkで扱うことが可能であることが確認できました。

現時点ではイボキサゴの3Dモデルはきわめて不十分なものです。しかし今後自分の技術習得が進み完成度の高い3Dモデルができるようになれば、GigaMesh Software Frameworkによる展開図がより訴求力のつよい表現になる可能性があります。イボキサゴの模様や色は全ての個体で異なっているので、そのバリエーションを様々な展開図で示すことにより、イボキサゴに対する興味を深めることが可能になると思います。

千葉県貝塚学習、有吉北貝塚学習ではイボキサゴの意義学習がとても重要であると考えます。イボキサゴは縄文時代にそのルーツが特定できた、(日本和食の真髄である)「旨味」の原点でもあります。

イボキサゴの完成度の高い3Dモデル作成と、GigaMesh Software Framework等を使った訴求力ある表現技法の習得を急ぐことにします。

2 イボキサゴ(底面)観察記録3Dモデル

イボキサゴ(底面)観察記録3Dモデルを試作しました。


イボキサゴ(底面)観察記録3Dモデル(試作)の画面


イボキサゴ(底面)観察記録3Dモデル(試作)の画面


2021年7月29日木曜日

イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作)

 イボキサゴ単体の観察記録3Dモデルを作成しました。これまで使ってきたズームレンズではイボキサゴ単体の3Dモデルは画角の中で小さすぎて出来ませんでした。そこで接写可能な高倍率レンズを使いイボキサゴ単体の観察記録3Dモデルを試作してみました。出来はとても満足できるものではありませんが、学習技術習得活動の1ステップとして記録としておきます。

1 イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作)

イボキサゴ 観察記録3Dモデル(試作)

2021.07.10木更津干潟で採取

2021.07.29撮影


撮影写真の例


撮影写真の例


撮影写真の例


イボキサゴのサイズ

写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.006 processing 224 images


観察記録3Dモデルの動画

2 感想

長径1.7㎝ほどのイボキサゴですが、3Dモデルで拡大して観察すると思っていた以上に彫りの深い形状をしていて、小さな列状突起もあります。3Dモデルにより写真では得られない立体細部を体感的に観察できます。

イボキサゴは小さな宝石であるといっても過言ではありません。

3 技術感想

ア 接写により画角内でのイボキサゴの面積を大きくすることにより、小さな対象物ですが3Dモデル作成が出来るようになりました。

イ 撮影ボックス利用による照明環境の改善をしました。

ウ ターンテーブルを利用することにより撮影が簡易に行えるようになりました。

エ 奥行きのある対象物の全てに焦点のあった写真を撮影する技術(道具)を用意する必要を痛感します。

オ この3Dモデルはイボキサゴの上部(表)だけですが、下部(裏)の3Dモデルも作成してその2つを合体させることが次の技術課題です。

2021年7月28日水曜日

混土貝層・混貝土層の成因 その2

 縄文社会消長分析学習 117

2021.07.28記事「混土貝層・混貝土層の成因」のつづきです。有吉北貝塚発掘調査報告書掲載北斜面貝層貝層断面図における貝層区分を統計分析しています。

1 混土率

貝層区分は54ありますが、その混土率を20%刻みで見てみました。


貝層区分における混土率の分布

混土率0%から99%までの推移が滑らかではありません。21~40%が凹み、41~60%が出っ張ります。もし、貝層の全部の出発点が混土率0%であり、それが様々な自然営力で周辺の土と混ざる理想的な過程を仮定するならば、このグラフはもっとなめらかなカーブを描くはずです。混土率41~60%以上のものの中には自然営力で形成されたのではなく、人工的に形成されたものがふくまれているのかもしれません。つまり縄文人が意図的に貝と土を混ぜた可能性について検討することが必要です。

2 破砕率

貝層中の貝殻の破砕率を20%刻みで見てみました。


貝層区分における破砕率の分布

破砕率グラフの推移が滑らかではありません。60~79%が飛び出ています。もし貝殻が使われた後そのまま捨てられて、その破砕率が~19%に収まっていたとします。それが自然営力で破砕され破砕率が大きいものも生まれるに違いありません。そうした状況を考えると、このグラフは大数の法則からしてもっと滑らかになるはずです。しかし、現実には破砕率60~79%が突出します。破砕率60~79%とそれ以上のものについては縄文人が貝殻を意図して破砕して北斜面貝層に持ち込んだ可能性が推定できます。

3 混土貝層・混貝土層の土の色相


混土貝層・混貝土層の土の色相


混土貝層・混貝土層の土の色相

土の色相は黒色土、黒褐色土、暗褐色土の3つがメインとなっています。これらの色相の違いはそれぞれが異なる環境のもとで堆積したという情報を内蔵している可能性があり、分析的に検討する価値があると考えます。特に黒色土についてはその地層が地面であった当時植物が繁茂していた可能性を強く暗示します。また黒色土11のうち9はローム粒を含むと注記されています。また炭化物を含むと注記されているものも2つあります。これらの情報から黒色土は縄文人が意図して破砕貝と(破砕貝に付着する)有機物と土壌(ローム)を混ぜて、植物が繁茂した場所である可能性を仮説することが出来そうです。

4 メモと感想

1~3の思考結果を画像にメモすると次のようになります。


画像メモ

これまで破砕貝と土と混ぜると土が締まり、ガリー侵食防止効果が生まれます。そうした防災上の観点から貝層が形成されたと仮説しています。同時に、黒色土が混土貝層・混貝土層に含まれているということは貝層形成時に、その場所に植物が繁茂していたことを指し示しているといえます。植物が地表をカバーすれば、ガリー侵食は治まりますから、さらに防災上の機能が増します。

同時に、貝塚で繁茂した植物の中に栽培植物があったのか、なかったのか大いに気になるところです。

5 参考

貝層分類別に混土率、混貝率の平均値をもとめると次のようになります。


貝層分類別の混土率・破砕率の平均値

今後の作業で、貝層分類別の情報だけの断面図から混土率や破砕率を使って作業する場合の原単位として使うことにします。


混土貝層・混貝土層の成因

 縄文社会消長分析学習 116

有吉北貝塚北斜面貝層の貝層断面について学習しています。この記事では貝層区分結果を統計的に分析します。

1 貝層区分データが掲載されている貝層断面

北斜面貝層の貝層区分データが掲載されている貝層断面は次の4断面です。


第2断面


第6断面


第11断面


第14断面

貝層区分のうち、貝殻を含有している区分数は第14断面を除く3断面で合計54あります。

2 貝層分類別区分数

54貝層区分を貝層分類(純貝層、混土貝層、混貝土層の分類)別にみると次のグラフになります。


貝層分類別区分数

このグラフから純貝層→混土貝層→混貝土層の順に断面積が大きくなり、従ってその容積も大きくなることが推察できます。今後作業では実際に断面積を計測して、その様子を確かめる予定です。

3 主体となる貝種別区分数

主体となる貝種区分数をまとめると次のようになります。


主体貝種別貝層区分数

ハマグリ→ハマグリ・イボキサゴ→イボキサゴの順になります。貝層区分からみると有吉北貝塚北斜面貝層では主要貝種はハマグリとイボキサゴに絞られます。

4 混土率と破砕率

貝層区分データの多くに混土率と破砕率が掲載されています。そのデータをまとめると次のようになります。


混土率-破砕率

純貝層とは混土率0%、混土貝層は混土率≦50%、混貝土層は混土率>50%と定義されているようです。

また純貝層あるいはそれに近い混土貝層では破砕率は大変低くなっています。この状況を次の図に書き込みました。


混土率-破砕率 書き込み

純貝層あるいはそれに近い混土貝層では破砕率が大変小さく、混土率が大きくなると破砕率はばらけます。破砕率が大きなものも小さなものも存在します。この事象が何を意味するのか、重要な検討課題になると考えます。

自分の問題意識は、食料として利用した後の貝殻をそのまま投棄すれば純貝層が形成されますが、その純貝層が元となり風雨にさらされて、あるいは水流に流されて混土貝層や混貝土層が形成されることはかなり限られていると想定します。むしろ破砕率の大きな混土貝層や混貝土層の多くは縄文人の営為(現代風にいえば土木工事)でつくられたのではないかと考えています。

5 イボキサゴの破砕率が大きいことの理由

貝層区分の説明の中にイボキサゴの破砕率がハマグリなどとくらべて特に高いと注記されているものがあります。


「イボキサゴの破砕が多い」旨特記のあるもの

これまでの検討で、イボキサゴは他の貝と異なり貝が小さいため、実(肉)を取り出しにくいので、貝殻ごと潰してそれに水を入れて比重により貝殻と実を分離した可能性を想像しています。

6 貝層区分の例


第2断面D

混土貝層、混土率20%、破砕率35%


第2断面P2

混土貝層、混土率35%、破砕率50%


第2断面O

混貝土層、混土率60%、破砕率60%


第2断面P

混貝土層、混土率70%、破砕率60%

7 感想

北斜面貝層の混土貝層、混貝土層の成因を解き明かすことが北斜面貝層形成のナゾにせまります。


2021年7月22日木曜日

奈良文化財研究所の文化財総覧WebGISを試用してみる

 奈良文化財研究所の文化財総覧WebGISを試用してみました。きわめて充実したGISシステムであることがわかりました。全国を対象に、検索機能を駆使して奈良文化財研究所が集成所持している考古データベースから必要な情報を抜き出し、分布図にすることができます。背景地図は地理院地図の多くの地図が利用できますからとても便利です。

1 データソース

各種文化財・遺跡DB(奈文研)500269件と遺跡抄録110497件の合計610766件がデータソースとなっています。(2021.07.22)

2 検索項目

次の項目で検索できます。

・データソース

・都道府県

・種別

・時代

・フリーワード(文化財名・遺跡名、主な遺構、主な遺物、特記事項・要約)

3 背景地図

デフォルトでは「地理院地図(単色地図)」100%+「傾斜量図」80%になっています。次の背景地図が使えます。

                地理院地図(標準地図)

                地理院地図(単色地図)

                地理院地図(白地図)

                地理院写真(全国最新写真)

                空中写真・衛星画像(2007年〜)

                簡易空中写真(2004年〜)

                国土画像情報(第4期 : 1988〜1990年撮影)

                空中写真(1961〜1969年)

                空中写真(1945〜1950年)

                色別標高図

                傾斜量図

                活断層図(都市圏活断層図)

                治水地形分類図 初版(1976〜1978年)

                明治期の低湿地

                地質図(産総研地質調査統合センター)

                奈文研空中写真(1955〜1962年)

                遺構図(平城宮跡)

                地形図(平城京跡:1955〜1962年)

                兵庫県CS立体図

(防災関連の背景地図がさらに多数追加されるようです。)

これらの多様な背景地図が使えることにより、文化財情報の分析を効果的に進めることができます。「文化財総覧WebGIS」のGIS機能の主な意味はこの多様な背景地図にあるといえます。例えば「空中写真(1961〜1969年)」を背景地図に使えば、高度成長期開発前の地形と遺跡との関係を見ることができるので便利です。


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」1

4 GIS操作の特徴

ズームが簡単にでき、対象物表示が個別表示及び統計的表示(円グラフ的表示)に変化します。


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」2


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」3(空中写真の範囲がピンクで表示されている)


貝塚分布と背景地図「空中写真(1961〜1969年)」4(空中写真の範囲がピンクで表示されている)

(北海道の貝塚情報はまだとりこまれていないようです。)

回転及び斜め表示ができます。


千葉県回転表示(全遺跡 空中写真・衛星画像(2007~))


千葉県斜め表示(全遺跡 空中写真・衛星画像(2007~))


全国斜め表示(貝塚、古代以前+古代 空中写真・衛星画像(2007~))

(北海道の貝塚情報はまだとりこまれていないようです。)

5 遺跡情報が超充実

自分が現在学習中の有吉北貝塚を例にとると、千葉県公開情報(ちば情報マップ 埋蔵文化財包蔵地)のテキスト情報とくらべて文化財総覧WebGISのテキスト情報は超充実しています。地元より中央のデータベースの方が充実しているという現象に戸惑います。


ちば情報マップの有吉北貝塚検索画面

テキスト情報

…………………

遺跡名

有吉北貝塚

よみがな

アリヨシキタ

所在地

千葉市緑区有吉町730

種別

包蔵地、集落跡、貝塚、生産

時代

旧石器、縄文(早・前・中・後)、古墳(後)、平安、中世

立地・現状

台地上、台地斜面・造成地、公園

遺構・遺物

点列環状貝塚、住居跡、小竪穴、土坑、斜面貝層、小鍛冶跡、道路状遺構、火葬墓、中世墳墓、土壙墓・溝・旧石器(掻器)、縄文土器(茅山・諸磯・浮島・阿玉台・勝坂・中峠・加曽利E・称名寺)、土師器、須恵器、中近世陶磁器、石器、石製品、土器片錘、骨角器、貝器、鉄製品、和鏡、貝、鳥獣骨、魚骨、人骨

文献

抄59~62、文256.257

備考

S58~62年調査、一部消滅

…………………


文化財総覧WebGISの有吉北貝塚検索画面

テキスト情報

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名称(漢字) 有吉北貝塚

名称(かな) ありよしきたかいづか

RecNo 239771

時代・遺跡種別 集落|貝塚

主な時代 旧石器|縄文|古墳|奈良|平安|中世(細分不明)|近世(細分不明)|不明

遺物概要 県センター報325(古墳-土師器+須恵器+土製品+鉄製品+羽口+鉄滓/中世-銅製品+植物遺存体(炭化種子))。 県センター報324(旧石器-石器/縄文(早期から後期)-縄文土器+石器+土器片錘+骨角歯牙製品+土製品(円盤+耳飾+耳栓)+貝製品)。 県文化財地図、旧石器-掻器/縄文(早期+前期+中期+後期)-縄文土器(茅山式+諸磯式+浮島式+阿玉台式+勝坂式+中峠式+加曽利E式+称名寺式)+石器+石製品+土器片錘+骨角器+貝器+動物遺存体(貝+鳥(骨)+獣(骨)+魚(骨))/古墳後期+平安-土師器+須恵器+鉄製品+和鏡/中世から近世-陶磁器/不詳-人骨。 旧石器2010、旧石器-ナイフ形石器+角錐状石器+槍先形尖頭器+スクレイパー+使用痕のある剥片+石刃ほか。

遺構概要 県センター報325(古墳-竪穴建物97+小鍛冶2+屋外炉6+土坑2+粘土採掘坑1+竪穴1+溝1/奈良から平安-竪穴建物5+火葬墓1/中世-土壙群+ピット群+竪穴5+土壙墓1+地下式壙3+掘立柱建物2+柵列遺構1+溝2/近世-落とし穴9+溝14/時期不明-竪穴建物6)。 県センター報324(旧石器-石器集中6/縄文早期-炉穴25+落とし穴12/縄文前期-土坑1+埋設土器1/縄文中期-竪穴建物168+土坑770+斜面貝層5+埋設土器2/縄文後期-竪穴建物1+土坑2+斜面貝層)。 県文化財地図、集落+貝塚+生産。都川水系。縄文(早期+前期+中期+後期)-点列環状貝塚+斜面貝層/中世-道路+墓/不詳-竪穴(小型)。<立地>台地上+台地斜面。<現況>造成地+公園。<保存状況>一部消滅。 旧石器2010、標高40m。旧石器-石器集中。

その他概要 県台帳865。県抄報昭和59年度・昭和60年度・昭和61年度・昭和62年度。「有吉北貝塚 1」(『千葉東南部ニュータウン』19、1997)。「有吉北貝塚 2」(『千葉東南部ニュータウン』20、1997)。県センター報325-1998.3。県センター報324-1998.3。県文化財地図1999、47-11。日本旧石器学会『日本列島の旧石器時代遺跡』(2010)。

発掘概要 千葉県東南部地区区画整理事業。 県文化財地図、1983年から1987年調査。

都道府県コード 12

所在地コード 12105

所在地 千葉県千葉市緑区有吉町730/731/おゆみ野2丁目ほか

世界測地系東経 1401028.2

日本測地系東経 1401030.8

世界測地系北緯 353341.7

日本測地系北緯 353325.4

…………………

文化財総覧WebGISは文献情報がとても充実しているといえます。自分は、今後遺跡の基礎資料を得る作業では、最初に文化財総覧WebGISを利用することになります。

6 使えない機能

文化財総覧WebGISを試用してみて、次の機能は装備されていないようです。

●データベースダウンロード機能

検索した情報のダウンロードはその内容及び位置情報ともにダウンロードできません。従って地理院地図とかQGISとかで分布情報を再利用することは困難です。

(個別遺跡の位置情報を得たり、テキスト情報をコピーすることはできます。)

●情報追記機能

地理院地図では情報追記ができますが、文化財総覧WebGISでは出来ません。

7 参考


文化財総覧WebGISの紹介新聞記事(日経2021.07.21夕刊)


2021年7月21日水曜日

切手de考古学

 1 切手の博物館企画展「切手de考古学」

以前、Twitter坂下貴則【日本人の考古学】さんのツイートで知った「世界各国考古学切手800点展示」の企画展「切手de考古学」(切手の博物館)の観覧の機会を得ることができました。


企画展の看板


切手の博物館入り口から(正面が企画展会場)

切手という媒体で世界の考古学遺物や関連事象などを見る機会はいままでほとんどありません。800という多数切手が体系的に整理されているので、とても見ごたえのある企画展です。自分にとってはとても珍しいものをみて得をした感じです。新鮮な印象を心に持てるので若返ったような感じを得ることができました。web検索では世界の遺物・遺跡をかなりみたことがあります。また旅行で実際に訪問し実見した類似遺物・遺跡もかなりあります。しかし、切手という極小空間にその情報が収まるとまた別の印象をうけるので不思議です。

残念ですが写真撮影不可で展示の様子は記憶に刻み込むしかありません。またA4で4ページの解説資料は配布されていますが、図録はありません。


企画展配布資料の一部

なお、切手の博物館ホームページには解説動画が3本掲載されていて、展示の様子雰囲気を知り、短い解説を聞くことができます。

2 成果の消失は残念

係の人にお話を聞くと、博物館学芸員と職員の方々が収集してある何十万もの切手のなかからいわば人海戦術で考古学関連切手を探し出し、その解説を学芸員の方が文献等を調べて書いたとのことです。考古学関係との特段のコラボレーションは無いとのことです。展示期間(~8月1日)を過ぎると企画展「切手de考古学」の成果が世の中から消失してしまうので、もったいないことです。いくら切手原本はストックブックの奥深くに再び収納されるとはいっても、考古学という軸で実行されたコレクションの存在は無になります。もったいないことであると感じました。

3 考古学関連切手の購入

売店で世界の考古学関連切手が販売されていたので購入しました。購入切手に描かれた遺物・遺跡をみると、訪問して実見した遺物・遺跡はますます興味が深まりますし、まだいったことのない遺跡や実見していない遺物はいつかは見たいという気持ちが高まります。


メキシコ チチェン・イッツア ピラミッドなど

この遺跡は訪問したことがあるので、この切手を一つのネタにして、近々ブログ「世界の風景を楽しむ」の記事を書くことにします。


フランス ラスコー洞窟

以前ラスコー展が日本で開かれたと思うのですが、見逃しています。


ナミビア トゥウェイフルフォンテーンの岩石線画群(無額面切手)

ナミビアの岩石壁画のある岩体についてはブログ「世界の風景を楽しむ」で何回も記事にしています。ブログ記事に書いてそれで満足するのではなく、やはり1度は実際に足を運んで、砂漠、岩体、壁画をこの目でみたいと思います。


国連 アルゼンチンの世界遺産リオ・ビントゥラスのクエバ・デ・ラス・マノス

多くの手の跡が残された洞窟壁画です。最近TV旅行番組でも見ました。多くが左手で、利き手の右手で顔料を持っていたようです。この遺跡はぜひとも人生残時間内に訪問したいです。

4 感想

考古学関連切手を購入してみると、自分の考古学習・考古趣味を強く刺激したことを実感できました。おそらく考古遺物収集の代償行為なのだと思います。

出土土偶や土器そのものの収集は不可能です。しかし興味があるので、なんとしてでもコレクションして手元に置きたいと思います。一方レプリカはつまらないと思います。それならフォトグラメトリーで3Dモデルをつくり、手元に置き、収集したいと考えたのが3年程前です。この3Dモデル作成趣味と類似の趣味が、まさに今日、切手で生まれたようです。

自分の心の奥底にはおそらく世界の考古遺物を直接収集して手元に置きたいという願望があるのだとおもいます。しかし、それを実行することは最初から不可能であり、意識に上ることはありません。ところが現物ではなく対象を切手に移動すると、その収集はいくらでも可能であり、保管場所の心配もありません。世界の遺物を手元において自己満足することができます。切手を軸にして考古学習・考古趣味活動を加速することが可能になります。


2021年7月20日火曜日

砂層が水成層であることを知ることの画期的意義

 縄文社会消長分析学習 115

有吉北貝塚北斜面貝層の砂層起源について学習しています。

1 砂層が水成層である証拠(材料)

ア 層相区分線から水成層であると見える。(断面図観察)

少なくとも崩落物には見られない区分線です。崩落物ならその堆積物が作る地形斜面は安息角による角度となり、もっと急なものになるはずです。層相区分線も必ずもっと急になります。他の断面でも砂層の層相区分線は水平に近いものばかりです。


断面図例

イ 砂層の層相が水成層であるように観察できる(写真観察)

崩落層とするならば砂層ではなくローム中心の土層がメインとなるはずです。台地斜面に下総層群露頭はありません。しかし砂層と土層が混じることのない純粋砂層として存在していることは、それだけで砂層が水成であることを物語っています。

砂層は写真でみると締まっています。マッシブです。混ざりものがないように見えます。要するに粒径が揃っていて流水の流速変化により粒径選別されて沈降した結果のように見えます。


砂層の写真 例

ウ 砂層上限高度が右岸リッジ標高を越えない

砂層上限高度が右岸リッジ標高とほぼ同じであり、砂層が箱形地形に充満した懸濁流起源であることを強く支持しています。


砂層上限高度と右岸リッジ標高との関係

ア、イ、ウから、ガリー侵食谷頭から流れでた懸濁流は沈砂池で砂だけを沈降させ、水とより細かい懸濁物だけが流出するモデルと同じように、砂層を堆積させたと考えることができます。

2 砂層が水成であることの画期的意義

ア 砂層の起源がガリー侵食によることを証明できる

砂層が水成であると考えると、谷頭部でのガリー侵食が発生し、その侵食された物質(下総層群やローム層・表土など)が濁流となって流下し、箱形地形下半部で砂だけ沈降させたと考えることができます。

つまり、ガリー侵食の実在を物質的に証明できます。また砂層の存在様子から、ガリー侵食が突然発生したことも証明できます。


北斜面貝層 貝層形成直前の様子

イ ガリー侵食が混貝土層の形成を機に治まった(止んだ)ことを理解できる

砂層と混貝土層がインターフィンガーして混じり合い、同時異相になっているように観察できるところが多く見られます。つまり砂層形成と混貝土層形成(貝塚の開始)がオーバーラップしていた時期が存在すると考えられます。


砂層と混貝土層が同時異相のように見える断面

砂層の上部に土層が乗る断面が多く、砂層形成後、その発達が止んだ時期の存在を確認できます。ガリー侵食が治まり(止まり)砂層が時々水没したり侵食されたりすることが完全になくなったので、その結果斜面上部からの崩落土が堆積するようになり土層が出来たと考えられます。

砂層(及び土層)の上には全ての断面で混貝土層が乗ります。

以上の情報から、ガリー侵食の停止(砂層発達の停止)と混貝土層の形成が軌を一にしていることが判明しました。

次のような因果関係を有力な仮説として持つことができます。

●突然ガリー侵食がはじまり集落立地上の危機が発生する。

●集落では、貝をばら撒くなど(混貝土層を形成するなど)の幾つかの(現代から見ると防災工学的意義のある)施策を実施する。

●結果としてガリー侵食は治まる。その現場は箱形地形を貝層(混貝土層、混土貝層、純貝層)でほぼ完全に充填した北斜面貝層として残置する。

3 感想

砂層を斜面上部からの崩落物と誤認識している限り、北斜面貝層がガリー侵食防止工事遺跡であるという物事の本質を見抜くことは困難だと感じます。

北斜面貝層がガリー侵食防止工事遺跡であると判れば、何故ガリー侵食が発生したのかという次の大学習テーマに進むことができます。気候変動、人口急増、自然破壊などをキーワードとする縄文社会消長学習に進める可能性も生まれます。

さらには北斜面貝層形成終了とともに集落消滅したことの意味にもせまることが可能になります。