2015年8月31日月曜日

遺構DBの位置情報を遺物DBにコピーする方法

私のささやかなGIS技術習得 5

遺構DB(例 竪穴住居・掘立柱建物…別データベース)の位置情報を遺物DB(例 千葉県墨書土器・刻書土器データベース)にコピーするためのexcel操作方法をメモしておきます。

次の画面は遺構別位置情報を記載してあるDB例です。

遺構別位置情報を記載してあるDB例(excel) ア
白幡前遺跡1Bゾーン

なお、遺構別位置情報の取得は、現時点では次のような原始的方法しか知りません。
・遺構分布図を正確な位置合わせをしてGISに貼り付ける。
・その貼り付けた遺構分布図を下敷きにして、GIS上で遺構にドットを打ち、遺構番号を記入する。
・GIS上のドットファイルをcsvファイルに書きだす。(csvファイルに遺構番号毎に位置情報が記載されている)

次の画面は緯度、経度欄が空白になっている遺物DB(千葉県墨書土器・刻書土器データベースの一部)です。

緯度、経度欄が空白になっている遺物DB(excel) イ
白幡前遺跡1Bゾーン

この遺物DBexcelファイルに新しいシートを名称sheet1でつくり、そこにアをコピーします。

その後、画面イのD2セルとE2セルに次の式を貼付けます。

D2セルに貼り付ける式
=IF(COUNTIF(Sheet1!A:A,C2)=0,"",VLOOKUP(C2,Sheet1!A:B,2,FALSE))

E2セルに貼り付ける式
=IF(COUNTIF(Sheet1!A:A,C2)=0,"",VLOOKUP(C2,Sheet1!A:C,3,FALSE))

その後D2欄とE2欄の式を列下全部にコピーします。

これにより次のように遺物DBに緯度、経度情報をコピーすることが出来ます。

緯度、経度欄に情報がコピーされた遺物DB(excel)

白幡前遺跡1Bゾーンだけの検討ならば、わざわざこのような式を使わなくてもコピー可能ですが、白幡前遺跡全体あるいは萱田遺跡群全体を対象とする場合、この式は必須になります。

遺物DBに位置情報を加えるとDBの使い勝手が各段に向上します。

各種検討の結果抽出した遺物データベース情報を即座に地図上に展開することが可能となります。

また遺物情報のヒートマップ作成なども可能になります。

遺物情報のヒートマップ作成の例
対象は白幡前遺跡1Bゾーン出土全墨書土器、カーネル密度推定の半径は20m。
ヒートマップ作成はQGISによる。

2015年8月30日日曜日

グラフ分布図の作画

私のささやかなGIS技術習得 4

シリーズ記事表題を「私のささやかなGIS技術開発」から表記のように改めました。

csv結合という便利な機能を知り、それを利用した点データプロットや面データ色分け表示を知りましたが、地図太郎PLUSに更に簡易的なグラフ分布図作成機能があることを知りました。

簡易的なグラフ分布図作成機能もcsv結合を前提とするものです。

次の図左は墨書土器文字「生」出土地点と出土点数を併記したGIS表現です。1日前に到達した、私の表現力成果です。

墨書土器「生」の分布
白幡前遺跡1Bゾーン

csv結合によるグラフ作成機能を利用すると図右のような表現が可能となります。情報をより直感的に表現することが可能となりました。今後大いにこの表現を使いたいと思います。

次の図左は2015.08.29記事「csvデータ結合によるゾーン別分布図の作画」で初めて知った面データ色分け表現です。

「坏類+皿類」の墨書土器率
萱田遺跡群

ところが1日後の本日、さらに、図右のように、墨書土器率を円グラフにしてその分布図作成が、地図太郎PLUSでできることを知りました。

円グラフの大きさは「坏類+皿類」の総数に比例して表現できます。

ゾーンの色分けデータだけでも墨書土器率が直感的にわかるようになったと考えていたのですが、円グラフの方がもっと直感的にわかり、思考を刺激するような表現であることは議論の余地がありません。

地図太郎PLUSにはexcelのようにグラフそのものを作成する本格機能はないようですが、簡易とはいえ円グラフ、棒グラフ等で地理情報をグラフ分布図にする機能は、空間の状況を知りたいという人にとっては大変価値があるものだと感心します。

今後の趣味検討で、情報の空間的大局観を知ろうとしたり、あるいは説明しようとするときに大変有効であり、大いに活用したいと考えます。

このようなグラフ分布図作成機能がGIS一般に装備されている機能であるのか、地図太郎PLUS独自の機能であるのか、現段階では判っていません。

2015年8月29日土曜日

csvデータ結合によるゾーン別分布図の作画

私のささやかなGIS技術開発 3

萱田遺跡群の検討では八千代市の旧版都市計画基本図を基図にゾーンの特性を色塗りで表現してきました。

ゾーン別分布図の例

実はこの分布図はGISではなくIllustratorで作成したものです。

25ゾーンの界線(パス)を書いたレイヤを最初につくり、そのレイヤをコピーしてスポイトツールで界線括り毎に色塗りしたものです。

Illustratorの作業は多少の慣れもあり作業はあまり苦になりませんし、図をきれいに仕上げることもできます。

しかし、多数の図をつくっていくうちに、いくら作業が苦にならないからといっても毎回毎回手作業で図をつくることは、いつの間にか非効率になっているのではないかと、気が付きました。

色塗りをソフトに自動でやらせることができるに違いないと思いました。

点情報のプロットを地図太郎PLUSが自動で行うのですから面情報の色塗りもできるに違いないと思い、読んだことのないマニュアルを読んでみました。

次のような方法で可能であることがわかりました。

自分にとっては大きな技術開発になりました。

最初に、地図太郎PLUSで面データのユーザーレイヤーをつくり、25ゾーンの面データをつくりました。

25ゾーンにはuserIDという通し番号が自動で振られます。

このuserIDを含んだ、表現したい情報を含むexcelファイルを作ります。

坏と皿の墨書土器率の項目を含むexcelファイル

このexcelファイルをcsvファイルで書きだします。

次に地図太郎PLUSで面データにこのcsvファイルを結合します。

その後グラフ・色分け機能でcsvファイルの「坏と皿の墨書土器率」を指定すると色分け図作成ウィザードに進むことができます。

地図太郎PLUSで作成したゾーン別分布図

色分け図作成ウィザードでは区分の段階や色などを自由に設定できます。

地図太郎PLUSで作成したゾーン別分布図 2
段階数を変更した例

ユーザーレイヤの面データに、別のcsvファイルを結合することはいつでもできます。また結合するcsvファイルに色分けなどと関わらない項目が含まれていても操作に影響がありません。

地図太郎PLUSが持つ情報(保存するファイル)ではなく、地図太郎PLUSとは離れた情報(保存しない情報)によって色塗りが行われるのです。

これまで、Illustratorで作成した分布図が残すべき、管理すべき情報であるように感じていましたが、excelファイルを原本にでき、図化はある程度自動化できるのですから、寧ろ大切なのはexcelファイルの方であるように気持ちが変化してきました。

情報の管理という点で考えると、Illustratorのレイヤ管理にエネルギーを注ぐのではなく、excelファイル管理の方に重点移行して、地図太郎PLUSで図化した方が効率的で、検討の発展性に寄与すると考えるようになりました。

Illustratorの表現力より地図太郎PLUSによる作業自動化の方が趣味発展にとって大切だと思うようになりました。

なお、csvファイル結合という操作が地図太郎PLUS独自のものなのか、それともGIS一般に通用するようなものなのか、現段階ではわかっていません。

2015年8月28日金曜日

excelファイルを原本とした遺構別分布図の作成

私のささやかなGIS技術開発 2

これまでこのブログでは遺構別分布図つまり竪穴住居や掘立柱建物など別分布図はIllustratorのレイヤーを利用して作成してきました。

ですから分布図をつくる都度ごとにIllustratorのレイヤーを作り遺構を確認しながらプロットしていました。

Illustratorをつかった遺構別分布図の例(上ノ台遺跡)
2015.02.20記事「上ノ台遺跡 滑石模造品工房

しかし情報量が多くなると、1枚1枚新たにプロットする作業は大変非効率的です。

そこで、遺構の緯度・経度情報を1度調べたら、それをexcelファイルに記載することによって、どのような項目のプロットでもGISソフトが自動で行う方法を技術的に確かめ、今後実用化できるようにしました。

自分レベルでは大きな技術開発です。

次のexcelファイルが遺構別分布図の原本です。

遺構別分布図原本となるexcelファイル

遺構名称、緯度・経度の他分布図を作成したい項目の情報を書きこみます。

緯度・経度は遺構分布図をGISに位置合わせをして貼付け、それを下敷きに遺構をプロットし、そのプロットファイルをCSVファイルで書き出すことによって取得します。

この情報例は白幡前遺跡1Bゾーンを対象に、千葉県墨書土器・刻書土器データベースの情報を遺構別に整理してつくった情報です。

例えば墨書文字「生」が含まれている遺構をプロットしたいときは上記excelファイル原本から「生」関連の情報だけを抜き出して、次のようなCSVファイルを作ります。

プロットに使うCSVファイルの例

このCSVファイルを地図太郎PLUSに「他形式を編集レイヤに読み込み」すると、情報がGIS画面上にプロットされます。

この方法で幾つかの文字のプロットをした例を次に示します。

文字別墨書土器分布の例
この図では文字が小さくて見にくいですが、その文字の出土土器数も表示させています。

次の例は、データベースに記載されている時期をそれぞれプロットしたものです。

時期別墨書土器分布の例

8世紀後半から9世紀前半に分布域が拡大していて、その頃がこのゾーンの墨書土器最盛期であることが良くわかります。(ただし、時期の判明している情報だけを表示しています。)


墨書土器出土遺構の分布

ここに示したような分布図を1枚1枚プロットするのではなく、excelファイルの操作でできるのですから、きわめて効率的です。

この方法を白幡前遺跡の全てのゾーン、萱田遺跡群の全てのゾーンに適用すれば墨書土器について新たな知見が多く発見できると考えます。

さらに墨書土器だけでなく、他の遺構別情報(土器、鉄製品、銙帯、ハマグリ…)も同じく分布図にできますし、遺構そのものの情報(規模・構造等)も分布図にできますし、それらの項目間の重なり具合や関連性も一目瞭然にわかります。

遅ればせながらGIS基本操作の一つを見につけることができました

今後はこの方法を基本に検討を進めたいと思います。

2015年8月27日木曜日

地図太郎PLUSをハブとしたDBの展開

私のささやかなGIS技術開発 1

気が付いてみると、このブログでは現在次のデータベースを活用しています。
・小字データベース(千葉県域作成中 File Maker、excel)(自作)
・墨書土器・刻書土器データベース(全国・千葉県 File Maker)(明治大学日本古代学研究所)
・千葉県埋蔵文化財包蔵地(excel)(千葉県教育委員会)

これ以外にも自分レベルでデータベース化する予定の事象があります。

これらのデータベースを全てGIS上で空間データとして扱い、GISならではの高度な空間分析の対象にしたり、地形データ等との関連を分析したり、データベース間の相関や複合分析を試みる予定です。

上記のデータベースファイルをGISに展開する時、ファイルの操作が複雑になり、油断すると(2週間ほど操作から遠ざかると)操作を思い出せなくなることもありますので、1枚の絵に操作イメージをまとめてみました。

データベースファイルをGISに展開する時の操作イメージ(例 小字データベース)

住所欄のあるデータベースならアドレスマッチングで簡易的に位置情報を与えることができますので、現在このブログでは多用しています。(将来的には正確な位置情報の取得を目指しています。)

簡易的な位置情報(数百メートルの誤差)でも利用の仕方によっては、例えば広域的な情報分析などでは十分に利用できる場合があります。

私の場合、地図太郎PLUSというGISソフトをハブにしています。

地図太郎PLUSをメインに利用して情報加工や表現を行い、必要に応じてデータをコンバートして高度分析機能のあるQGIS、表現力に優れているGoogle earth pro、国土地理院の情報が使える地理院地図などにデータを展開しています。

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2015.08.28 追記
この記事を「私のささやかなGIS技術開発」というシリーズ記事のその1とします。

幾つかのささやかな技術的事項について解決したいと考えています。

しばらくその活動に集中的に取り組み、その結果を随時記事にします。

技術開発といっても、GISを利用している歴史考古等の専門家の方からみると、先刻ご承知で、当たり前で、ささいな技術ばかりだと思うのですが、無手勝流の自分にとっては活動を効率化する大切な技術で、できそうでできていない技術のことです。

2015年8月26日水曜日

萱田遺跡群のゾーン別墨書土器率とその異常値

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.194 萱田遺跡群のゾーン別墨書土器率

2015.08.25記事「萱田遺跡群の墨書土器率」で萱田遺跡群全体では、墨書土器は数的には坏類と皿類にほぼ限られ、墨書土器率は1/3程度であることがわかり、メモしました。

この情報をゾーン別に展開してみました。

次の図は竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数を分級色分けして示しています。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数
分級色分けは値の上位8ゾーンを赤、中位9ゾーンを緑、下位8ゾーンを青としています。

「坏類+皿類」は個人利用(所有)の日常生活に使う食器で、裕福と権力のある者が多く所持し、裕福と権力が劣る者は最低限のものしか所持しなかったと考えます。

次の図はゾーン別墨書土器率を示してます。

「坏類+皿類」の墨書土器率
分級色分けは値の上位8ゾーンを赤、中位9ゾーンを緑、下位8ゾーンを青としています。

墨書土器は組織活動の産物であると考えています。

軍事兵站・輸送基地である萱田遺跡群にあって、特定のミッションを持った集団がゾーンを形成して居住していたと考えています。

集団毎に構成員の勤労意欲を向上させるために、官人指導の下に文字による祈願が奨励されたと考えます。

従って、一般論として、墨書土器率が高いということは、その集団において官人による文字の威力を活用した組織活動が盛んであったことを示していると考えます。

一方、墨書土器率が低いということは、その集団において文字の威力を活用した組織活動が盛んでなかった、あるいはあまり必要としていなかったことを示していると考えます。

墨書土器率が高いゾーンは識字率も高く、墨書土器率が低いゾーンは識字率が低かったと想定します。

このような観点から上の2図を比べながら検討してみます。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数(以下A図とします)が高い(赤)あるいは中位(緑)のゾーンの多くは「坏類+皿類」の墨書土器率(以下B図とします)でも値が高く(赤)あるいは中位(緑)になっています。

またA図で下位(青)のゾーンの多くはB図でも下位(青)になっています。

このことから、大局的にはA図とB図は相関していると考えることができます。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数の値が高いということは、とりもなおさずそのゾーンの裕福と権力が優位であり、それはその集団が基地全体の中で枢要な役割を果たしていることをしめしています。そして、基地の中で枢要な役割を果たしている集団は国家中央との結びつきも強く、それだけ官人による文字を利用した組織活動が盛んであったことを示していると考えます。

さて、ここでは以上の大局観と異なるデータを示すゾーン、いわば異常値を示すゾーンについて検討します。

検討 1 権現後遺跡Ⅰゾーン、Ⅲゾーン
A図で権現後遺跡ⅠゾーンとⅢゾーンは高い値(赤)となっていますが、B図では低い値(青)となっていて異常であると考えます。

この理由は権現後遺跡が土器生産団地であることに起因していることから謎が解けると思います。
つまり、生産物(出荷用製品)としての坏や皿が、住民が使う日用品と混ざって出土しているのだと考えます。

北海道遺跡は全般に墨書土器率が低く、その理由はこれまで想定してきた奴婢や俘囚などの奴隷労働の存在と符合しますが、権現後遺跡ⅠゾーンとⅡゾーンはこのような文字を使った組織活動が不用であったのではなく、上記のような土器生産という特殊要因によるものと考えます。

検討 2 井戸向遺跡Ⅱゾーン
A図で井戸向遺跡Ⅱゾーンは低い値(青)となっていますが、B図では高い値(赤)となっていて異常であると考えます。

井戸向遺跡Ⅱゾーンは過去の検討で「竪穴住居(居住用建物)に対して掘立柱建物(業務用建物)が少なく、単位竪穴住居当り墨書土器出土量がある程度多い領域」であり、特殊地区として把握しています。
同時に掘立柱建物がゼロでその不自然さを感じてきています。
2015.06.12記事「墨書土器指標を用いた遺跡評価思考実験」参照

通常ではない姿があり、十分にその特性を把握しきれていないゾーンです。

その通常ではないゾーンの墨書土器率が他のゾーンより高くなっています。

いろいろ調べているうちに、重大なヒントを得ることができました。

このゾーンから次の墨書土器が出土しているのです。

寺・寺杯(D105)
千葉県墨書土器・刻書土器データベースから引用

佛(D88)
千葉県墨書土器・刻書土器データベースから引用

このゾーンに小さな寺院施設があった可能性が浮かび上がります。

寺院施設があるゾーンでは墨書土器率が高くなることが、白幡前遺跡2Aゾーンで確かめられています。

また、遺構分布図を仔細にみると、ⅡゾーンとⅢゾーンは元来一体のゾーンである可能性が見て取れます。

今後詳細検討が必要ですが、Ⅱゾーンは単独で評価すべきゾーンではなくⅢゾーンと一体のゾーンとして捉え直し、かつ寺院施設の存在を想定することが大切であると考えます。

そのような想定をすれば、Ⅱゾーンの墨書土器率が高いことは異常ではなく、正常な事象として難なく説明できます。

仮にⅡゾーンとⅢゾーンを合体して考えると、A図では値7.2(中位…緑)、B図では値41.6(上位…赤)になります。

A図とB図比較による井戸向遺跡Ⅱゾーンの異常値から、寺院施設存在可能性という仮説とⅡゾーンⅢゾーンが一体不可分であるという仮説を持つことができ、思考を深めることができました。

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2015.07.15記事「萱田遺跡群検討の第2ラウンドに入ります」で萱田遺跡群検討の第2ラウンドに入りましたが、この記事で第2ラウンドを終了することにします。

4遺跡の発掘調査報告書が充実しているため、自分なりに検討を深めることができました。

萱田遺跡群については、今後必要に応じて補遺記事を書くことにし、このブログは別遺跡の検討に移行します。

2015年8月25日火曜日

萱田遺跡群の墨書土器率

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.193 萱田遺跡群の墨書土器率

萱田遺跡群について器種別に墨書土器数を求め、器種別土器数を比較して、墨書土器率を計算してみました。

萱田遺跡群の墨書土器率

器種別墨書土器数をグラフにすると次のようになります。

萱田遺跡群 器種別墨書土器数

墨書土器は坏類と皿類に偏在しています。
坏類と皿類で98%を占めます。

一方、器種別土器数は次のようなグラフになります。

萱田遺跡群の器種別出土土器数

この二つの情報から器種別墨書土器率は次のようになります。

萱田遺跡群 器種別墨書土器率

坏類36.0%、皿類31.1%となります。

これらの情報から、墨書土器として使われる器種は坏類と皿類にほとんど限られると考えても差し支えない状況があると考えます。

その背景に坏類と皿類が個人利用(所有)の器種であり、他の器種は建物単位に供えられた器種であるという事情があるものと考えます。

なお、皿類は坏類出土数の13%程度しかありません。

皿類は坏類と比べて食器としての汎用性に難点がありますが、食物のプレゼンテーションでは坏類より優れています。

従って、皿類は坏類の所持を前提にして第2のマイ食器として使われたのではないかと想像します。

食器としては坏類より皿類の方が高級品(贅沢品)の部類に入っていたのではないかと考えます。
裕福さと権力がある個人から順番に、坏類に加えて皿類も所持したのではないかと想像します。

(近隣出土地において、坏類と皿類の墨書文字筆跡が類似した(同一人筆跡の可能性が高い)例が多数見つかれば、この仮説の確からしさが増します。)

坏と皿(高台皿)の例
千葉県の歴史資料編古代別冊出土文字資料集成から引用

オオタカ

久しぶりにオオタカの飛翔をみました。

花見川堀割部や鷹之台カンツリー倶楽部及びその周辺の農地でネズミやモグラなどの小動物を獲り終り、別の場所に移動する時の様子のようでした。

オオタカの飛翔

オオタカ
上記写真拡大

オオタカ

オオタカ

オオタカを見た付近の風景
鉄塔は花見川対岸(西岸)に位置します。撮影地点は花見川東岸です。

まだ薄暗く、手振れもあり鮮明な写真にはなりませんが、久しぶりなので紹介しました。オオタカを見て、なにか安堵感を感じました。

弁天橋から上流

畑の空

2015年8月24日月曜日

萱田遺跡群の土器器種別変動係数

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.192 萱田遺跡群の土器器種別変動係数

2015.08.22記事「萱田遺跡群出土土器の器種内訳」で次のような予想を立てました。
……………………………………………………………………
甕類は飲料水を蓄え、またカマドでの調理道具であり、生活に不可欠であり、生活レベルの高低に関わらず竪穴住居ごとに基本セットが必ず常備されていたと考えます。また大型であるため予備品を備えることも少なかったと考えます。
一方他の器種は生活レベルの高低によって所持されたりされなかったり、予備品の所持があったりなかったりする製品であったと考えます。
ですから、生活レベルの低い遺跡(北海道遺跡)では全体の土器数が少ないため、竪穴住居毎に必ず装備される甕類の割合が他遺跡と比べて最も高くなった(31.0%)と考えます。
……………………………………………………………………
甕類は不可欠用品であるとともに個人単位ではなく建物単位で備えるものですから、分布のばらつきが少ないと考えたのです。

器種別統計をゾーン別に編集して、そのデータからこの予想の確からしさを次に検討しました。

次の表は器種別竪穴住居1軒あたり出土数の変動係数を示しています。

器種別竪穴住居1軒あたり出土数の変動係数(表)

変動係数は標準偏差/平均値でもとめた係数です。

平均値が小さくなるにしたがって標準偏差も小さくなりますから、標準偏差/平均値を求めることによって標準偏差を相対化して比較可能にしたのです。

この結果をグラフ化すると次のようになります。

器種別竪穴住居1軒あたり出土数の変動係数(グラフ)

甕類の変動係数が最も低いことが確認できます。

変動係数が大きくなるに従って竪穴住居1軒あたり出土数のばらつきが大きくなることを示しています。

この情報から上記予想が確からしいことを統計的に確認しました。

甕類が他の土器器種と比べると、ゾーン別竪穴住居1軒あたり出土数のばらつきが最も小さいということは、竪穴住居1軒あたり出土土器数が増えれば、つまり個人利用の坏類や高級品・高機能品に位置する皿類、鉢類、蓋、甑、壺、椀類が増えれば甕類の割合が減少し、逆に竪穴住居1軒あたり出土土器数が減れば、つまり坏類、皿類…等が減れば甕類の割合が増加することになります。

このことからゾーン別の甕類の割合はその数値が大きければ、そのゾーンは土器数とその器種構成が貧弱であり、逆に数値が小さければ土器数と器種構成が豊かであることを示しています。

従って、甕類の割合がゾーン毎の経済的豊かさとか権力関係における優劣を示す指標になると考えます。

次の図はゾーン別に甕類以外土器の割合を示したものです。

甕類以外土器の割合

白幡前遺跡2Aゾーンを除いて、一般論として次のように考えます。
甕類以外土器の割合が高いゾーン(赤色)は経済的に豊かであり、権力関係の中で優位なポジションにあったと考えます。
甕類以外土器の割合が低いゾーン(青色)は経済的に貧しく、権力関係の中で劣位なポジションにあったと考えます。
この結果はこれまでの他の指標による検討と概略符合します。

白幡前遺跡2Aゾーンは甕類以外土器の割合が中位のゾーン(緑色)になっていますが、このゾーンには寺院や中央貴族接待施設が存在しています。
このゾーンは、生活実体の跡が弱く(土器や金属器の出土数が少ない)、「甕類以外土器の割合」という指標を使って経済的豊かさや権力関係を見立てることはできません。

2015年8月23日日曜日

萱田遺跡群ゾーン別土器数

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.191 萱田遺跡群ゾーン別土器数

萱田遺跡群についてゾーン別に竪穴住居1軒あたり出土土器数の統計を作りました。

萱田遺跡群 ゾーン別竪穴住居1軒あたり出土土器数

この統計を分布図に表現してみます。

竪穴住居1軒あたり出土土器数

出土土器数の区分は上位8位まで赤、上位9位から17位まで緑、上位18位から25位まで青としました。

この分布図は以前作った金属製品出土数分布図と似ています。

参考 竪穴住居10軒あたり金属製品出土数
2015.08.05記事「萱田遺跡群の鉄製武器とそれ以外の金属製品の分布」参照

金属製品と土器の分布図で、井戸向遺跡、北海道遺跡、権現後遺跡では赤色のゾーンが同じになっています。

白幡前遺跡では金属製品は5ゾーンが赤色でしたが、土器は2ゾーンで少なくなっています。

金属製品の分布については次のように検討しました。「基地主要ゾーンの所有が多く、裕福と権力のあるものから順に金属製品を所持できる社会の仕組みがあったと考える。」「白幡前遺跡2Aゾーンは政治支配の拠点であり、寺院も存在する。このゾーンは現場生産活動に最も離れた場所であるから、金属製品出土が少ない。」

こうした金属製品の検討はほぼそのまま土器についてもいえると考えます。

土器も裕福と権力のあるものがより多く所持していたという一般傾向があると考えます。

また白幡前遺跡2Aゾーンの土器出土が少ない理由も金属製品と同じ理由であったと考えます。

2Aゾーンに存在した竪穴住居は寺院や中央貴族接待施設の活動をサポートする機能がメインであり、その竪穴住居に家族が定住していなかった可能性を感じます。

つまり、中央貴族が逗留する時はその世話のために竪穴住居を使うけれど、そうでない時は最低限の管理人しか居住していなかった可能性を感じます。

金属製品や土器の出土が少ないのは、竪穴住居における生活実体が少なかったからだと考えます 。

白幡前遺跡全体で金属製品は特段に多いのに、土器は金属製品のように飛びぬけて多くはない理由は次のように考えます。

金属製品と比べて土器は入手が容易であるため、その所持がステータスを証明するようなものとしたは迫力不足によるものであると考えます。
白幡前遺跡では必要な土器は既に飽和していて、さらに土器をより多数所持したいという状況は存在しなかったのだと思います。

2015年8月22日土曜日

萱田遺跡群出土土器の器種内訳

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.190 萱田遺跡群出土土器の器種内訳

萱田遺跡群出土土器検討のウォーミングアップとして、遺跡別器種別に出土土器数を求めてみました。

萱田遺跡群器種別出土土器数
各遺跡発掘調査報告書から集計

器種の判定(分類名称の与え方)は各遺跡発掘調査報告書毎に微妙に異なりますので、また最初は器種の大局分類で遺跡を概括的見てみたいので、このブログでは全体の統計資料は次のように括ってつくりました。
●坏類…坏、高台付坏、高坏
●甕類…甕、広口甕、台付甕
●皿類…皿、高台付皿、小型皿、耳皿、盤、段皿、高台付盤
●甑
●鉢類…鉢、片口鉢
●蓋
●瓶類…瓶子、長頸瓶、淨瓶、平瓶、手付小瓶
●壺類…壺、長頸壺、小形壺、把手付堝、広口壺
●椀類…椀、高台付埦、埦、盌
●その他…水注、羽釜、不明

萱田遺跡群全体の器種別出土土器数をグラフにすると次のようになります。

萱田遺跡群の器種別出土土器数

器種別には坏類が最も出土数が多く次いで甕類となります。

坏類は個人別に利用(所有)される食器と考えます。
墨書土器の大半は坏類になっています。

甕類は飲料水・料理用水・その他の生活用水の保存機能と調理機能を有していて、竪穴住居単位に備えられていたと考えます。

皿類は食器として利用されたと考えます。

甑は甕類・蓋と併用して蒸し器として使ったと考えます。

次に遺跡別に器種別出土土器数グラフをつくってみました。

白幡前遺跡の器種別出土土器数

井戸向遺跡の器種別出土土器数

北海道遺跡の器種別出土土器数

権現後遺跡の器種別出土土器数

上記グラフでは遺跡毎の器種別違いを見つけることはできるのですが、あまり明瞭ではありません

そこで、器種別割合を比較する表とグラフをつくってみました。

萱田遺跡群出土土器の器種別割合(%)

遺跡別出土土器の器種割合

坏類の割合は4つの遺跡であまり変わらないのに(57.7%~61.8%)、甕類の割合は4つの遺跡でかなりの差があります(24.3%~31.0%)、皿類も差が大きくなっています(5.1%~11.1%)。

詳細はゾーン別検討によって器種割合の一定さ(坏類)や変化(甕類、皿類)の様子を検討します。

現時点ではつぎのように予想を立てています。

甕類は飲料水を蓄え、またカマドでの調理道具であり、生活に不可欠であり、生活レベルの高低に関わらず竪穴住居ごとに基本セットが必ず常備されていたと考えます。また大型であるため予備品を備えることも少なかったと考えます。
一方他の器種は生活レベルの高低によって所持されたりされなかったり、予備品の所持があったりなかったりする製品であったと考えます。

ですから、生活レベルの低い遺跡(北海道遺跡)では全体の土器数が少ないため、竪穴住居毎に必ず装備される甕類の割合が他遺跡と比べて最も高くなった(31.0%)と考えます。

2015年8月21日金曜日

萱田遺跡群の出土土器検討着手

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.189 萱田遺跡群の出土土器検討着手

8月9日以降墨書土器閲覧の感想と地名データベース活用効果検討の記事を連載したため、萱田遺跡群検討が中断してしまいました。

今日から萱田遺跡群検討の最後のテーマである出土土器の検討を始めます。

各遺跡発掘調査報告書から遺構別出土土器情報をexcelでデータベース化して検討します。

出土土器検討の趣旨は、発掘情報を統計的処理してそのゾーン別特徴を把握することによって、各ゾーンの特性を浮き彫りにしようとすることにあります。

遺跡の特性、ゾーンの特性をリアルにイメージできるようにすることによって、私が考えている東海道水運支路仮説を支持する有用情報が増えると考えています。

私にとって満足すべき結果が、これからの作業で予定調和的に訪れるという保証は目星がついているわけではありませんが、とにもかくにも検討に入ります。

この記事では遺跡別出土土器数を紹介します。

次のグラフは萱田遺跡群の遺跡別出土土器数です。

萱田遺跡群の出土土器数
各遺跡発掘調査報告書から集計
出土土器の内次の器種は集計から除外
集計除外器種…カマド、瓦塔、紡錘具(土器リサイクル品)、陽物

白幡前遺跡が他の遺跡の3倍あります。
白幡前遺跡以外の遺跡の出土数は近似しています。

この結果を竪穴住居数で除して分析してみます。

出土土器は食器・調理容器・飲食物保存容器等として使われた基本的な生活用具です。
(出土土器の器種の検討は改めて行います。)

ですから出土土器数を竪穴住居数(≒ある期間の人口数)で割ると、「人口あたり土器数」つまり「食器等の基本的な生活用具の豊富さ」をイメージすることができると思います。

萱田遺跡群の竪穴住居数は次の通りです。

萱田遺跡群の竪穴住居数

竪穴住居1軒あたりの出土土器数は次の通りとなります。

竪穴住居1軒あたりの出土土器数

白幡前遺跡→井戸向遺跡→北海道遺跡と竪穴住居1軒あたり出土土器数が減少しますが、この傾向はこれまでこのブログで検討してきて得た遺跡間の権力構造や豊かさのイメージと一致します。
このような傾向がゾーン別器種別にみるともっと際立った傾向が表れるのか、表れないのか、興味が湧きます。

また、権現後遺跡が特段に多いことは、この遺跡が土器生産団地であるという要因のよるものであることが推察できます。
権現後遺跡で作成されていた土器の器種がどんなものか、器種種別出土数や別の指標から判るか、判らないのか興味が湧きます。

今後、整理した土器情報を使って、次のような点について検討を深めるつもりです。

●土器数の情報を遺跡ゾーン別に集計して、そこから情報を引き出す。
●器種別検討をゾーン別に行い、遺跡間やゾーン間の特性の違いを検討する。
●器種別出土数と墨書土器との関係を分析する。

参考 萱田遺跡群の位置

萱田遺跡群の位置