2014年2月28日金曜日

鈴木哲雄著「中世関東の内海世界」 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 18

私が花見川流域の地勢の歴史的意味を考える上で大きなヒントを得た図書の一つとして、鈴木哲雄著「中世関東の内海世界」を紹介します。

1 鈴木哲雄著「中世関東の内海世界」の諸元、内容、目次
【諸元】
書名:中世関東の内海世界、岩田選書「地域の中世」2
著者:鈴木哲雄
発行所:岩田書院
発行日:平成17年(2005年)10
体裁:A5判、251

【内容】
本図書は、利根川=江戸内海(うちうみ)地域と鬼怒川=香取内海(うちうみ)地域の二つの内海世界の歴史風景に視点をおいて、中世関東の地域構造を考察した歴史専門書です。

【主要目次】
序 地域の区分
Ⅰ 中世の利根川下流域
Ⅱ 中世の香取内海世界
Ⅲ 中世香取社と内海世界
結 二つの内海世界を結ぶ道

鈴木哲雄著「中世関東の内海世界」

2 この図書の特徴
この図書では、古代から中世にかけての関東の地勢を利根川=江戸内海地域と鬼怒川=香取内海地域の2大ブロックに区分し、その交流、交通に焦点を当てて歴史的事象を検討しています。

この図書では二つの内海世界の交通場所として、太日川-大堀川-手賀沼筋(茜津-於賦筋)が特に着目検討されています。花見川筋についての言及は特段ありません。

しかし、関東地方を利根川=江戸内海地域と鬼怒川=香取内海地域の2大ブロックに区分し、その交流、交通を考えるという発想の枠組みそのものは花見川筋の地勢や歴史的意義を考える際に必須のものです。

従って、この図書は花見川筋になんら言及していないにも関わらず、花見川筋の地勢上の位置や古代~中世の交通について考える際の参考図書として意義の大きなものです。

私はこの図書等から強い刺激を受け、花見川筋の地勢を江戸内海地域と香取内海地域の2大ブロックの接点として捉え、花見川地峡という概念で表現しました。

そして、花見川地峡に古代~中世に東海道水運支路が存在していたという仮説を持ちました。
2013.06.24記事「平安時代の東海道と花見川地峡」参照

このブログで連載したシリーズ記事「花見川地峡の自然史と交通の記憶」を次のサイトにまとめています。
サイト「花見川地峡の自然史と交通の記憶」参照



2014年2月27日木曜日

千葉県印旛郡誌 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 17

戦前期の郡制では、現在の花見川流域は千葉郡に入ります。しかし、印旛沼水系のつながりから、花見川流域の事象は隣接する印旛郡の事象と深く関連しますので、千葉県印旛郡誌を紹介します。

1 千葉県印旛郡誌の諸元、内容、目次等
【諸元】
書名:千葉県印旛郡誌
編輯者:千葉県印旛郡役所
発行日:大正2年(1913年)731
体裁(印影本):A5判、上巻621頁、下巻969

【内容】
本図書は、「県教育品及地方資料展覧会」の開催を機に、印旛郡役所が主導して印旛郡各町村に町村誌を作成させ、それを総合統括して郡誌として編纂したものです。

郡誌(巻1)と町村誌(巻25)から構成されています。

明治後期(明治42年頃)年間の印旛郡の姿を記述しています。

序文ではこの図書を、地方自治のための適切な計画を立てるために活用するとともに、教化民育に資すると書いています。

【主要目次】
● 巻1(総論)
1章 位置幅員誌
2章 地勢土質地目段別誌
3章 水系誌
4章 気候誌
5章 生物誌
6章 鉱物誌
7章 沿革誌
8章 史蹟誌
9章 翰譜誌
10章 戸口誌
11章 人情風俗習慣誌
12章 方言訛語
13章 俚諺童話童謡俚謡
14章 社寺誌
15章 教育誌
16章 衛生誌
17章 警察誌
18章 名邑誌
19章 兵事誌附日本赤十字社員愛国婦人会員
20章 経済誌
21章 交通運輸誌
22章 生業及生産物
● 巻2(印東編上)
1 川上村誌
2 彌富村誌
3 旭村誌
4 千代田村誌
5 志津村誌
6 阿蘇村誌
7 臼井町誌
8 内郷村誌
● 巻3(印東編下)
9 佐倉町誌
10 根郷村誌
11 和田村誌
12 酒々井町誌
13 八街村誌
14 富里村誌
15 公津村誌
● 巻4(印西編)
16 六合村誌
17 宗像村誌
18 船穂村誌
19 白井村誌
20 谷清村誌
21 大杜村誌
22 永治村誌
23 木下町誌
24 本郷村誌
25 埜原村誌
26 布鎌村誌
● 巻5(埴生編)
27 安食町誌
28 豊住村誌
29 久住村誌
30 八生村誌
31 中郷村誌
32 成田町誌
33 遠山村誌

千葉県印旛郡誌
写真は影印本の上下巻(昭和50年、崙書房発行)

【参考】
印旛郡の位置

印旛郡の位置
「角川日本地名大辞典12千葉県」掲載図による

2 この図書の特徴
 この図書は行政機関(郡役所)が下部機関(町村)に命令して町村誌を作成させ、それをまとめた官製地誌です。それだけに情報が網羅的かつ詳細に整備されていて、明治時代の人々の土地に対する認識をストレートに知ることができます。

同時に、この図書は印旛沼流域を対象にした流域地誌であり、印旛沼水系が育んだ印旛沼流域の風土について、明治年間の姿を知ることができます。明治年間の姿を知ることはそれより以前の近世の姿を知ることにも通じます。

また、明治年間の印旛沼流域の風土を知ることにより、現在の情報と照らし合わせると、現在は失われた風土の側面を知ることができます。

私は、この図書を地名検討で利用しました。


2014年2月26日水曜日

千葉県千葉郡誌 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 16

1 千葉県千葉郡誌の諸元、内容、目次等
【諸元】
書名:千葉県千葉郡誌
編纂兼発行者:千葉県千葉郡教育会
発行日:大正15年(1926年)211
体裁:A5判、1077

【内容】
千葉県千葉郡教育会が御大典記念事業(大正天皇即位記念事業)として郡誌を企画編集発行したものです。

千葉郡を対象とした地誌であり、18章からなり、古代から大正10年(1921年)の千葉郡千葉市分離までを一段落として、別にその後の情報を補遺で収録しています。

序文(千葉県内務部長)には次のような記述があります。
「惟フニ自治ノ効果ヲ収メ教化ノ実績ヲ挙ケルニハ先ツ其ノ郷土ニ於ケル山川風土ノ状勢ヲ知リ民情風俗ノ推移ヲ察知シ之ニヨリテ愛郷心ヲ涵養スルコトカ根本ノ要諦デアル、本書ハ此ノ点に付キ絶好ノ資料ヲ提供スルモノテ為政者ハ之ヲ基礎トシテ地方ノ開発自治ノ振興ヲ図ルコトカ出来、教育者ハ之ニ依ツテ適当ナル施設ヲ講シ薫化ノ実ヲ挙ケルノ資料ヲ得、一般家庭亦又之ニ依リテ各種ノ方面ニ裨補スルトコロ多カルヘシト思フ。」

[ずいぶん上から目線の記述ではありますが、この図書の目的が端的に述べられていて、良いか悪いかは別に、当時の社会状況の中で、この図書の社会における位置づけは明確だったと思います。
それに引き替え、最近の大著の千葉県地誌の目的は明確とは言えないと考えています。
2013.06.12記事「花見川流域地誌のイメージ」参照]

【主要目次】
1章 土地
2章 沿革
3章 郡の行政及財政
4章 産業
5章 教育
6章 兵事
7章 衛生
8章 警察
9章 交通運輸
10章 官衛公署並特殊団体
11章 神社
12章 寺院
13章 人物
14章 風俗言語
15章 名勝旧跡及墓碑
16章 詩歌文章
17章 余録
18章 補遺

千葉県千葉郡誌
写真は影印本(昭和47年、崙書房発行)

【参考】
千葉郡の位置 大正10年(1920年)

千葉郡の位置
「角川日本地名大辞典12千葉県」掲載図による

2 この図書の特徴
90年程前に、人々が千葉郡に関して、どのような情報について興味を持っていたかということを知る上で興味が尽きない図書です。

情報が限られていた時代にあって、この図書は百科事典としての役割があったものと推察します。

この図書が対象とする千葉郡に現在の花見川流域がすっぽりと入るので、花見川流域の地物事象が過去において、人々にどのように認識されていたか知る上で参考となる資料です。

私はこの図書から、戦後埋め立てられ失われた長沼がどのように認識されいてたか知ることができました。
2012.03.22記事「長沼の既往記述」参照

この外、私は、花見川流域やその周辺の神社、地名、名勝旧跡などについて、現代の情報を補足するための調べ事に、この図書を利用しています。



2014年2月25日火曜日

千葉県地名変遷総覧 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 15

花見川流域や千葉県北部の地名検討における専門的基礎資料として千葉県地名変遷総覧を紹介します。

1 千葉県地名変遷総覧の諸元、内容、目次
【諸元】
書名:千葉県地名変遷総覧 第2
編者:千葉県立中央図書館
発行者:千葉県郷土資料刊行会
発行日:昭和47510日、絶版
体裁:B5判、272
附録:千葉県郷名分布図

【内容】
邨岡良弼(むらおか りょうすけ)著『日本地理志料』を用い、他に千葉県報、県内各郡誌などより地名を採録しています。郷名を主項目に『日本地理志料』所収の大字名の昭和45年現在までの変遷過程を示したもの。地名が掲載されている古い資料を探すことができます。(千葉県立図書館ホームページによる)

【主要目次】(下総国、千葉郡のみ細目次展開)
●安房国
●上総国
●下総国
・千葉郡(千葉郡)
123千葉
124池田
125糟○[難字のためこのブログでは表現不能、二字でカソリと読む]
126三枝
127山梨
128物部
129余戸
130駅家 茜津
131山家
132草田
・葛飾郡(東葛飾郡)
・相馬郡(東葛飾郡)
・印旛郡(印旛郡)
・埴生郡(印旛郡)
・香取郡(香取郡)
・匝瑳郡(匝瑳郡)
・海上郡(海上郡)

千葉県地名変遷総覧

千葉県地名変遷総覧附録 千葉県郷名分布図


2 この図書の特徴
この図書は邨岡良弼著『日本地理志料』(明治35年~36年出版)が行った古代郷名と現代地名の比定結果をベースに、地名の変遷を千葉県立中央図書館が収集した資料にもとづいてまとめた資料です。

千葉県立中央図書館が実施した調査であり、資料調査は徹底しているような印象を受けます。

現在、邨岡良弼著『日本地理志料』の古代郷名と現代地名の比定結果は多くの間違いがあり、信用できるものとして考えられていませんが、より正確な比定表(比定図)が無かった時期には、次善の策として利用せざるを得なかったものと考えます。

このように、現在ではこの図書の内容をそのまま利用することはできませんが、その限界を踏まえれば、過去の史料に出てくる地名の変遷に関する有用な情報を汲み取ることも可能な資料です。

附録の千葉県郷名分布図は、邨岡良弼著『日本地理志料』を図化したものですから、その誤りが露骨に表現されていて、今では地名検討の誤謬を示す材料としての価値を有します。(シンプルな意味での地名検討には使えないということです。)



2014年2月24日月曜日

「角川日本地名大辞典 12 千葉県」 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 14

花見川流域や千葉県北部の地名検討における基礎資料として「角川日本地名大辞典 12 千葉県」を紹介します。

1 「角川日本地名大辞典 12 千葉県」の諸元、目次
【諸元】
書名:角川日本地名大辞典 12 千葉県
編者:「角川日本地名大辞典」編纂委員会 竹内理三
執筆者・協力者:120
発行:角川書店
発行日:昭和5938
体裁:A5判、1558

【主要目次】
●総説
●地名編
●地誌編
●資料編
・小字一覧
・国郡沿革表
・藩県沿革表
・市町村沿革表
・参考地図
・千葉県参考図書目録

「角川日本地名大辞典 12 千葉県」と「8 茨城県」
印旛沼や香取の海に関わる地名を検討しようとすると、県境に囚われていては正常な思考が阻害されることに気がつきました。地名の検討では、千葉県のみならず茨城県の地名も一緒に検討するつもりです。

2 この図書の特徴
2-1 有力な参考情報源
地名について網羅的に記述している図書ですから、基礎資料として有力な参考情報源であることは間違いありません。

地名そのものの説明では、これだけ地名を網羅している類似書はないと思います。

この図書は、吉田東伍著「大日本地名辞書 坂東」以降初めて本格的に編まれた地名辞典です。

地名を冠した関連書として「郷土歴史大辞典 千葉県の地名」(平凡社)がありますが、こちらの方は地名そのものの説明や解説は無く、地名に関わる土地を対象にして、その歴史について関連資料を詳細に引用しながら記述しています。

2-2 地名説明の鵜呑みは危険
なお、この図書は吉田東伍一人で諸作された「大日本地名辞書 坂東」と異なり、120名の共同著作物です。

従って、個々の地名記述は、土地に対する問題意識を持って、その解明に向かうというような姿勢で書かれたものではありません。

この図書をつくった仕事のレベルは、割り当てられた地名について、自分が持っている知識でそれなりに解釈して、原稿用紙に空白だけはつくらないでその職責を果たそうというレベルのように感じます。

ですから、この図書の地名解釈情報は、それが無いことを想像すると、ありがたいと言えますが、だからといって特段に有用であり、価値が高いものであるとは限りません。

逆に、執筆者は意図していないとしても、その説明記述が偏見や誤った情報を世の中に垂れ流し、人々を惑わしてしまう場合もあります。

例 横戸について

例 柏井について

要は、この図書の地名解説は、そのまま鵜呑みにして利用するのは危険であり、絶えず疑いの眼で検証対象にしなければならないといういうことです。

2-3 資料編の小字一覧は貴重な情報
資料編の小字一覧はこの図書以外に掲載されている図書はなく、また千葉県等の自治体でも整備されていないため、唯一の情報源として大きな価値があります。

小字の読みも出ていて重宝です。

私はこの小字一覧をGISにプロットして地名検討を行う予定です。


なお、角川日本地名大辞典は全国DVD版が刊行されていますが、その中に小字一覧は含まれていないので、小字一覧は図書(紙)から自分で電子化して使うしかありません。