2022年11月28日月曜日

とうとう縄文人が土器をばら撒いた証拠を見つける

 Evidence found that Jomon people scattered pottery


In the 3D distribution of pottery in the north slope shell layer of Ariyoshi Kita Shell Midden, I finally found evidence that the Jomon people scattered pottery. This ended my confusion. I presume that it was scattered by "wishing".


有吉北貝塚北斜面貝層土器3D分布で、とうとう縄文人が土器をばら撒いた証拠を見つけました。自分自身の迷いはこれで終わりました。「願掛け」でばら撒いたと推測します。

1 395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)破片分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層 395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)破片分布3Dモデル


接合復元された395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)

紫色立方体…土器破片(全ての土器破片を一律30㎝×30㎝×30㎝で表現)

緑色曲面…貝層中の貝層-土層境界面

白色線…地形断面線(2m間隔)、地形境界

垂直:水平=1:1

395 pottery (Kasori EIII type pottery with perforated collar) Fragment distribution 3D model

North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound

395 pottery (Kasori EIII type pottery with perforated collar) Fragment distribution 3D model

395 restored pottery jointed (Kasori EIII type pottery with perforated collar)

Purple cube: pottery fragment (all pottery fragments are uniformly expressed in 30 cm x 30 cm x 30 cm)

Green curved surface: Shell layer-soil layer interface in the shell layer

White line: terrain cross-section line (2m interval), terrain boundary

vertical:horizontal=1:1


395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)破片分布3Dモデル画像


395土器(加曽利EⅢ式有孔鍔付土器)破片分布3Dモデル動画

2 395土器3D分布の解釈


395土器3D分布の解釈

ア 1は土層に、2は貝層に存在するので、流水の営力で上流から1→2のように分布したことは否定される。

イ 9・10・11は貝層に、12は土層に存在するので、流水営力で9・10・11→12のように分布したことは否定される。なお、12は9・10・11より高度が高い。

ウ 7で土器が破壊され、その破片が重力や流水営力で落下移動したと考えると1・2・3・12などは場所が離れているので、その分布を説明できない。

エ ア・イ・ウから395土器破片分布は、縄文人が土器破片をバラバラの場所に投棄して歩いたと考えざるを得ない。

395土器3D分布は縄文人が廃用土器を破壊してばら撒いて歩いた確実な証拠であると考え、別の考え(※)に迷うことから解放されることになりました。

※「土器がある場所で破壊され、その破片が重力や流水営力で自然拡散して分布した」など。

3 廃用土器の破壊ばら撒き活動の意味

廃用土器の破壊ばら撒き活動の意味は「願掛け」(祈願活動)であったと推測します。奈良平安時代の墨書土器破壊投棄活動や現代に伝わる各地「かわらけ投げ」は縄文人の廃用土器破壊ばら撒き活動にそのルーツを有すると考えます。

不用になった土器はそのまま放置遺棄するのではなく、破壊して投棄することが早期以来縄文人の一般活動様式であるように想像します。いわゆる土器塚はその活動跡と考えます。

一般に破壊ばら撒き活動は土器だけでなく、土偶でも顕著だと言えます。

4 参考 395土器オリジナル分布情報(追記20221129)


395土器の分布(平面図)


2022年11月26日土曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の土器投棄パターン検討

Examination of the pottery dumping pattern of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound

The topography and stratigraphy of the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound was estimated from the shell layer cross-section. Then, the patterns of earthenware fragment dumping were classified into the slope dumping type and the valley bottom sedimentation type. Finally, I deduced the reality of the dumping pattern.

有吉北貝塚北斜面貝層における土器破片出土位置の地形・貝層層位を貝層断面図から推定して、土器破片投棄パターンを斜面投棄型と谷底堆積型に分類して把握し、投棄パターンの実態を推察しました。
1 投棄パターンの分類

投棄パターン分類
斜面地形、斜面貝層から出土する土器破片は斜面上から投棄された土器の一部であると考え、斜面投棄型として分類しました。
低平地形、谷底堆積貝層から出土する土器破片は次の2つの要因によりその場に堆積したものと考え、合わせて谷底堆積型として分類しました。
1 斜面投棄型の土器破片が重力と水流により低平地形、谷底堆積貝層まで落ちてきた(流れてきた)
2 低平地形、谷底堆積貝層の空間で土器が破壊されその場、あるいは水流の影響を受けて下流に堆積した
2 阿玉台式(第2~5群)土器の投棄パターン

阿玉台式(第2~5群)土器の投棄パターン
土器破片数は12点だけですが、谷頭部における斜面投棄型5点が特徴的です。
3 中峠式(第6群)土器の投棄パターン

中峠式(第6群)土器の投棄パターン
土器破片数は88点でそのうち斜面投棄型が79点を占めます。斜面上部から下方に土器を投げ、その破片が散らばった様子が観察できます。中峠式(第6群)土器投棄パターンから、斜面から投棄された土器破片が谷底低平地に到達するものはわずかであることが推察できます。
4 加曽利EⅠ式(第7・8群)土器の投棄パターン

加曽利EⅠ式(第7・8群)土器の投棄パターン
土器破片数は20点で11点が斜面投棄型、9点が谷底堆積型となります。
5 加曽利EⅡ式(第9群)土器の投棄パターン

加曽利EⅡ式(第9群)土器の投棄パターン
土器破片総数は31点で斜面投棄型18点、谷底堆積型13点です。斜面投棄型は谷頭部と下流左岸(西岸)斜面に集中しています。
6 加曽利EⅡ式(第10・11群)土器の投棄パターン

加曽利EⅡ式(第10・11群)土器の投棄パターン
土器破片総数は445点です。この数値は実際に出土した土器破片数の一部のようです。斜面投棄型120点、谷底堆積型319点となり、谷底堆積型が斜面投棄型の2.7倍になります。中峠式土器の投棄パターンから、斜面に投棄された土器破片のうち谷底低平地にまで到達するものはごく少数であると考えられるので、加曽利EⅡ式(第10・11群)土器は縄文人が谷底部までやってきて、そこで土器を破壊したり、投棄したりすることが多かったと推察できます。
斜面投棄型は主に谷頭部と下流左岸斜面に集中します。谷底堆積型は谷頭部と下流左岸斜面を結ぶ谷底部です。ほとんどの貝層断面図では谷底部で貝層-土層境界面がみられ、それは水流が流れる時の流心線に対応すると考えますが、谷底堆積型はその貝層-土層境界面をまたいで分布することから、水流に起因する分布ではなく、人為的分布(場所を特定した投棄)であるこを推察できます。
土器破片全体の分布パターンはS字状のカーブを成していますが、それは縄文人の動線を示していて、その背後にはS字状動線が生じるような野外祭壇や祭場の分布が存在していたと推測します。
7 加曽利EⅢ式(第12群)土器の投棄パターン

加曽利EⅢ式(第12群)土器の投棄パターン
土器破片数は106で谷底堆積型が64点で斜面投棄型41点を上廻ります。谷底堆積型の分布重心は加曽利EⅡ式(第10・11群)土器より下流に移動します。
8 阿玉台式~加曽利EⅢ式(第2~12群)土器の投棄パターン

阿玉台式~加曽利EⅢ式(第2~12群)土器の投棄パターン
2~7の情報集成図です。この図から「土器投棄パターンからみたゾーン区分」を試みてみました。

有吉北貝塚北斜面貝層 土器投棄パターンからみたゾーン区分
斜面投棄ゾーンは4ゾーンから構成していると考えます。土器投棄量からみて谷頭投棄ゾーンと斜面投棄ゾーン3の2つがメインです。谷底投棄ゾーンは谷頭投棄ゾーンと斜面投棄ゾーン3を連結するように分布します。各ゾーンにはそれぞれ異なった機能が存在していたと推測します。その機能の姿には他の出土遺物情報と土器情報を総合的に分析することで迫りたいと思います。
9 中峠式(第6群)土器投棄パターン 3Dモデル
中峠式(第6群)土器投棄パターン 3Dモデル
有吉北貝塚北斜面貝層
黄色…斜面投棄型 79
赤色…谷底堆積型 8
3D model of Nakabyo style (Group 6) pottery dumping pattern
North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound
Yellow... Slope dump type 49
Red... Valley bottom deposition type 8
10 参考 加曽利EⅡ式(第10・11群)土器投棄パターン 3Dモデル
加曽利EⅡ式(第10・11群)土器投棄パターン 3Dモデル
有吉北貝塚北斜面貝層
黄色…斜面投棄型 120
赤色…谷底堆積型 319
黒色…不明 6
3D model of Kasori EII style (10th and 11th groups) pottery dumping pattern
North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound
Yellow... Slope dump type 120
Red... Valley bottom deposition type 319
Black...Unknown 6
11 参考 加曽利EⅡ式(第10・11群)土器投棄パターン3Dモデルの動画

加曽利EⅡ式(第10・11群)土器投棄パターン3Dモデルの動画

2022年11月23日水曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 全期土器集成3D分布図作成と考察

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound   3D Distribution Map Creation and Discussion


I created a 3D distribution map of all-stage pottery from the North Slope Shell Layer of the Ariyoshi Kita Shell Mound, compared it by period, and considered the distribution pattern (pottery disposal pattern). After the Kasori EII period, the percentage of pottery discarded at the bottom of the valley increased sharply compared to before that.


有吉北貝塚北斜面貝層の全期土器を集成した3D分布図を作成し、期別比較などを行い、分布パターン(土器投棄パターン)について考察しました。加曽利EⅡ式期以降の土器はそれ以前と比べると谷底部投棄の割合が急増します。

1 貝層-土層境界面の把握

貝層が登場する貝層断面図は11枚ありますが、その全ての断面図で貝層と土層の間に垂直方向の境界面があります。


貝層-土層境界面

この貝層-土層境界面は次のように生成したと考えられます。

・西岸側(左岸側)斜面上から貝が投棄され、斜面貝層が形成する。

・雨が降ると斜面貝層最下部では貝層が水流で下流方向(北方向)に移動する。

・一方東岸側(右岸側)斜面では、雨が降ると土が水流で斜面を下り、斜面最下部では下流方向(北方向)に流れる。

・西岸側の貝層流下と東岸側の土流下が接触すると、その双方ともに虚弱な運動であるため、つまり上流からパワーのある水流が流れてくるような状況ではないため、貝層と土層は混じることは無かった。(上流からパワーのある水流が流れてくれば、貝層と土層は混交し、貝層の間に土層のレンズが、逆に土層の間に貝層のレンズが各所にみられるはずです。)

つまり、貝層-土層境界面の存在は下流方向への流れが大変弱かったことを示しています。

貝層-土層境界面は次のように分布します。


貝層断面図と貝層-土層境界面


貝層-土層境界面

2 土器破片3D分布

2-1 阿玉台式~加曽利EⅠ式 土器破片3D分布


阿玉台式~加曽利EⅠ式 土器破片3D分布

第2群~第8群土器破片119点

土器は全て斜面上から投棄されたように観察できます。貝層-土層境界面近くまで移動した土器破片はあまり多くありません。貝層-土層境界面を越えた土器破片はほとんどありません。

2-2 加曽利EⅡ式~加曽利EⅢ式 土器破片3D分布


加曽利EⅡ式~加曽利EⅢ式 土器破片3D分布

第9群~第12群土器破片581点

注目すべき事象として、谷底に土器破片が集中し、その分布が貝層-土層境界面をまたいでいることです。虚弱とはいえ上流から下流へ向かう水流により貝層や土層が移動しているのですが、その移動経路とは別に集中堆積土器破片が分布しています。この事象から、集中堆積土器破片は水流の力で分布したのではなく、人為的投棄で分布したものと考えます。

また、「阿玉台式~加曽利EⅠ式 土器破片3D分布」における土器破片の斜面部と斜面脚部(谷底)の割合が、斜面上部から土器を投げ捨てた場合の割合を示していると考えると、加曽利EⅡ式~加曽利EⅢ式土器破片3D分布の斜面脚部の割合は異常に大きく、その面からも集中堆積土器破片は斜面投棄由来ではないことが支持できます。

なお、この図でいままで気が付かなかった東岸(右岸)からの斜面投棄も確認できます。

3 メモ

3-1 集中堆積土器の由来

北斜面貝層の土器分布は大局的にみるとS字状をなし、これまで水流の経路に関わるという印象を漫然ともっていました。しかし、貝層-土層境界面と集中堆積土器分布が交差することから、つまり貝層分布(地層分布)と土器分布が交差することから、土器分布は人為的なものであり、水流による影響は弱いことがわかりました。

集中堆積している土器は上流で投棄されて、流れて来て堆積したものはすくなく、ほとんどのものはその場で投棄されたことが想定できます。

3-2 294土器の分布原理

3D分布情報が整備されるにつれて、同一土器破片(例294土器)の分布原理に関して、自分の考えが次のようにダイナミックに変転しています。情報整備の大切さを痛感するとともに、一歩ずつ学習が進んでいる(認識が深まっている)ことは学習冥利につきます。

北斜面貝層の土器分布原理の見立て(作業仮説)

●縄文人が各所に撒いて歩いた。→●谷頭急斜面から投棄した。→●谷頭急斜面および下流斜面の2ヶ所からの投棄した。→●複数斜面からの投棄と複数谷底での投棄が組み合わされた。(結局、最初の「縄文人が各所にばら撒いて歩いた。」と同じです。)


294土器の3D分布

4 参考 有吉北貝塚北斜面貝層 全期土器破片3D分布モデル

有吉北貝塚北斜面貝層 全期土器破片3D分布モデル

阿玉台式~加曽利EⅢ式土器破片700点

土器破片1つを30㎝×30㎝×30㎝の立方体で表現

曲面は貝層-土層境界面

断面線は2mピッチ

水平:垂直=1:1

North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound  3D Distribution Model of Full-Stage Pottery Fragments

Otamadai-style to Kasori EIII-style pottery fragments 700 pieces

Express one piece of pottery in a 30cm x 30cm x 30cm cube

The curved surface is the interface between the shell layer and the soil layer.

Cross-section line is 2m pitch

horizontal: vertical = 1:1



2022年11月20日日曜日

3Dグリッドによる分析の可能性

 Possibility of analysis by 3D grid


I set up a 3D grid on the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound, and decided to try and examine the possibility of analyzing pottery, topography, and shell layer information in 3D space.


有吉北貝塚北斜面貝層の期別土器破片出土情報は3D座標を備えています。従って、3Dグリッドを設定すれば期別土器破片、地形、貝層を3Dグリッド毎のデータに変換することにより、それらを組み合わせた3D空間分析が可能になります。そこで発掘調査平面グリッド(2m×2m)に対応する3DグリッドをBlender3D空間に置いて、その様子を観察してみました。

1 3Dグリッド(2m×2m×2m)配置の様子


加曽利EⅡ式(第10・11群)土器3D分布(部分)


加曽利EⅡ式(第10・11群)土器3D分布に3Dグリッド(2m×2m×2m)を6つ置いた様子


加曽利EⅡ式(第10・11群)土器3D分布に3Dグリッド(2m×2m×2m)を6つ置いた様子 地形と貝層断面図も表示

2 感想

2-1 グリッドの大きさ

2つの期別土器破片分布の関係を分析する時、2m×2m×2mグリッドでは大きすぎて、期別土器の実際の出土層位の違い(出土高度の違い)がグリッドの違いとして反映されることはほとんどないような印象を受けます。2m×2m×2mグリッドで分析しても、平面グリッド(2m×2m)で分析した結果とあまり違わない結果しか得られないような印象を受けます。これまでの3D空間観察に基づくと、0.5m×0.5m×0.5m程度の大きさのグリッドが3D分布分析には適切であるような感じを持ちます。

もし0.5m×0.5m×0.5mグリッドを設定するとすれば、グリッド数は2m×2m×2mグリッドの64倍になり、作業労力が増大します。その作業ハードルを乗り越えるためには、それだけの価値があると事前に判っている必要があります。。

参考

発掘調査平面グリッド(2m×2m)のグリッド数・・・330

3Dグリッド(2m×2m×2m)のグリッド数・・・1980

3Dグリッド(0.5m×0.5m×0.5m)のグリッド数・・・31680

2-2 3Dグリッドを使って分析した結果の表現

3Dグリッドを使って分析した結果を3D分布図に表現する場合、その方法を開発する必要があります。次の絵は2×3×4で並んだ24個の3Dグリッドについて、分析結果で得られた値を球の大きさで表現した例(ダミー)です。


3D分布図例


3D分布図例

Blender3D空間で、この3D分布図を見る場合、動かすことによって分布状態はよくわかります。しかし静止画像として切り取ると分布の様子を直観的に理解することが困難になる場合があります。平面分布図にはこのような不都合は生じません。3D空間で行った分析結果を表現する場合、それを何らかの2次元画像に変換することは必須となり、一手間増えることを覚悟しなければならないようです。

2-3 3Dグリッドに関する試行

北斜面貝層の一部小領域について3Dグリッドを設定して期別土器破片、地形、貝層などをデータ化し、そのデータに基づいて各種空間分析を試行して、3Dグリッドによる空間分析の可能性について検討することにします。


2022年11月19日土曜日

新しい「ヤルコト」の発見

 Discovery of new "activities"


All of a sudden, I came up with three ways to use the relic distribution map. Overlay analysis, multivariate analysis and Blender automatic plotting of the results. I would like to enjoy it as an intellectual play.


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物出土分布図(2m×2mグリッド平面図)を多数作成して眺めているなかで、突然のことですが、その分布図活用方策に関する「ヤルコト」(=興味、楽しさ)が3つ浮かびました。

1つ目はそのオーバーレイ分析であり、2つ目は統計分析(多変量解析)であり、3つ目はそれら分析結果をBlender空間に自動的にプロットするBlenderPythonスクリプトの作成です。

1 オーバーレイ分析

考古学的な証拠となる分析ではなく、北斜面貝層の空間特性を自分自身が知るための作業です。知的遊びです。

例えば、土器片錘とハマグリ貝刃の分布図をそれぞれ出土数で分級して、オーバーレイすると次のような分級(組合わせが)生まれ、その分布図ができます。その分級や分布図の意味を考えるなかで、北斜面貝層空間のより詳しい解釈やイメージが生まれる可能性があります。


土器片錘分布図とハマグリ貝刃分布図


オーバーレイ分析の一例

2 多変量解析

この分析も考古学的な証拠となるような分析ではなく、北斜面貝層の空間特性に関する秘かなる作業仮説を構築するための作業です。高級な知的遊びです。

例えば、これまでに作成した多数変量を用いて主成分分析して、北斜面貝層の利用に関する縄文人意識空間構造を想定的に把握するなどです。


多変量解析例のイメージ

3 分析結果のBlender自動プロットシステム

オーバーレイ分析や多変量解析で生まれた分布図情報を、Blender空間にオブジェクトとして自動的にプロットするためのBlenderPythonスクリプトを作成します。


分析結果自動プロットシステム


2022年11月18日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 器台はどこに?

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound  Where is the pedestal?


The excavation survey report photo collection shows the excavation of the pedestal. But there is no description. The pedestal excavated as a ritual implement tells us that the northern slope shell layer is a ritual space.


発掘調査報告書写真図版集には器台出土が写っています。しかし記載は一切ありません。祭具としての器台出土は北斜面貝層が祭祀的空間であることを物語っています。

1 器台出土の状況写真


器台出土の状況写真 キャプション Ⅱ-52 P層

(発掘調査報告書掲載写真をPhotoshopニューラル機能によりカラー化)

この写真は天井部があらかた欠損した器台が出土した様子であることに間違いないと考えます。(写真右上の土器破片状のものがもしかしたら天井部に該当するかもしれないと気になります。)

しかし、この写真以外に器台に関する記載は発掘調査報告書中に皆無です。

発掘調査報告書全3冊を何度も隈なく捜索しましたが、器台に関する情報・記載は見つかりませんでした。

この写真以外の情報は発掘調査報告書にはありませんが、器台が北斜面貝層Ⅱ-52グリッドのP層から出土したことは事実であるとして、以下の考察をメモします。

2 器台出土位置及び層位


器台出土位置


器台出土層位

これまでの検討で器台は加曽利EⅡ式(第10・11群)土器であると考えられます。


第2断面貝層時期区分

3 参考 加曽利EⅡ式器台例


千葉市中野僧御堂遺跡出土器台

加曽利貝塚博物館2018年度企画展「あれもE・・・」展示

4 器台出土の意義

4-1 貝層から器台が出土することは珍しい

器台用途について興味をもって学習したことがありますが、その自分の限られた学習範囲では、器台出土場所は竪穴住居や竪穴住居周辺であり、貝層から出土した例はこれまで知りません。器台が祭祀道具であることは確実ですが、その祭祀とは屋内祭祀をイメージしていましたので、器台出土場所が竪穴住居やその周辺であることは当然であると理解していました。しかし、北斜面貝層から器台が出土したことは貝層と祭祀の関係を示唆する事象として珍しいのではないだろうかと考えます。

4-2 廃棄ではない可能性

写真を見ると器台は天井こそ欠損していますが、それ以外は丸々残存しているようです。つまり斜面の上から投棄されて破片になったものではなく、完形品がそのままこの場所付近に持ち込まれたと考えることができます。

4-3 北斜面貝層で祭祀が行われた1つの証拠としての器台

完形品が持ち込まれたことから、この器台は廃棄されたものではなく、祭祀のための実用道具としてこの場に持ち込まれたと考えることができます。

この器台を使ってこの場所で祭祀が執行された可能性が濃厚です。この場所でこの器台を使って祭祀が行われた傍証として同じⅡ-52グリッドからイタボガキ製貝輪と磨製石斧が出土し、隣の(2m離れた)Ⅱ-53グリッドからイノシシ顎骨出土をあげることができます。


イタボガキ製貝輪と磨製石斧 Ⅱ-52グリッド

(発掘調査報告書掲載写真をPhotoshopニューラル機能によりカラー化)


イノシシ顎骨 Ⅱ-53グリッド

(発掘調査報告書掲載写真をPhotoshopニューラル機能によりカラー化)

器台、イタボガキ製貝輪、磨製石斧、イノシシ顎骨などが密集して出土した状況から、つぎのような活動を想像することができます。

この器台のあった場所付近にはイナウで構成される木製祭壇があり、その木製祭壇にはイノシシ頭骨が飾られ、また宝物としてのイタボガキ製貝輪や宝刀としての磨製石斧が飾られ、その祭壇の前に器台が据えられ、祭祀が執行されたと想像します。

・器台の用途学説学習は今後進めたいと思います。(過去の器台観察では、器台は香り発生材料を火であぶる装置のようだと想像しています。)


有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ上下顎骨分布の意味

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound Significance of Wild Boar Skull Distribution


I thought about the significance of the boar skull excavated from the northern slope shell layer of the Ariyoshi Kita Shell Mound. In addition to the meaning of eating a wild boar, I thought that it also meant that it was decorated on the altar of an outdoor festival site like the bear head of the Ainu bear festival.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土するイノシシ上下顎骨の意味について考えてみました。イノシシを食べたという意味以外に、野外祭場の祭壇にアイヌ熊祭りの熊頭のように飾られた意味もあると考えました。

1 イノシシ上下顎骨とシカ上下顎骨の出土特性

北斜面貝層における動物自然骨分布情報はイノシシ上下顎骨以外はシカ上下顎骨が発掘調査報告書に掲載されています。そこでシカとの比較を行いイノシシ上下顎骨分布の特徴を検討しました。


有吉北貝塚 イノシシとシカの骨数


有吉北貝塚 イノシシとシカの骨数

有吉北貝塚全体でみるとイノシシ骨数の方がシカ骨数より多くなっています。

上下顎骨(頭骨)とその他の骨の割合について、発掘調査報告書ではイノシシについて、頭骨の数に比して四肢骨が少ないと記述しています。四肢骨はイヌの餌にしたので、頭骨とくらべて残る割合が少ないのだと想像します。イノシシの上下顎骨の全体に占める割合は6.7%になります。

一方、シカの上下顎骨の全体に占める割合はわずか2.0%です。西野雅人先生によればこの傾向が共通する他の遺跡もあり、シカ頭骨は食材価値が低く、一方イノシシ頭骨は煮込み料理においてスープをとるなどで価値高い食材であることに起因しているとのことです。そのためシカ頭骨は集落搬入前に廃棄されたと考えられています。(西野雅人「縄文人とシカとのかかわり」)

2 北斜面貝層におけるイノシシ上下顎骨とシカ上下顎骨の分布


北斜面貝層 イノシシとシカの上下顎骨分布

イノシシとシカの上下顎骨の分布を比較して眺めると、シカ上下顎骨は主に斜面部に分布し、イノシシ上下顎骨は水路部に分布しているが確認できます。この分布の違いから、シカ上下顎骨は斜面上から投棄(廃棄)されたと推測できます。一方、イノシシ上下顎骨は水路部に直接持ち込まれ、利用されたことを推測できます。

3 装飾品分布とイノシシ上下顎骨分布相関の意味


装飾品(貝製品)分布

イノシシ上下顎骨分布は装飾品(貝製品)分布と相関しています。また、装飾品(骨角歯牙製品)分布とも相関します。装飾品(貝製品)のなかには集落リーダーが着装するイモガイ製腰飾もあります。

装飾品分布とイノシシ上下顎骨分布が相関する場所は、野外祭場であり、装飾品を飾る祭壇が存在し、祭祀に合わせてイノシシ食があったと想像します。野外祭場で野外イノシシ食が継続的に行われ、それによりこの空間付近にイノシシ上下顎骨が残ったと考えます。

4 イノシシ上下顎骨の食材以外の意義

イノシシ頭骨は調理される前に祭場を飾る重要なアイテムであった可能性を想像します。また、調理で利用された後の骨は恒久的な祭場装飾物として利用されていた可能があると思います。調理でイノシシ頭を利用した後、上下顎骨をイヌの餌にしたならば、これほどの数がまとまって出土することは無かったと推測します。

調理前イノシシ頭が祭場で飾られる様子は、アイヌ熊祭りにおける熊頭の飾りをイノシシ頭に読み替えて、その一端を想像できるような気がします。


有吉北貝塚出土イノシシ上顎骨

発掘調査報告書から引用


アイヌ熊祭における熊頭の飾り

「アイヌ芸術 第二巻木工編」(金田一京助、杉山寿栄男 昭和17年)から引用


アイヌ熊祭のイナウ祭壇(部分)

「アイヌ芸術 第二巻木工編」(金田一京助、杉山寿栄男 昭和17年)から引用


2022年11月15日火曜日

おゆみ野歴史愛好会で話題提供

 Lecture at the Oyumino History Enthusiasts Association


On November 15, 2022, I gave a lecture at the Oyumino History Enthusiasts Association. I talked about my experience enjoying 3D technology and archeology learning. It was a meaningful learning exchange that stimulated each other.


2022年11月15日おゆみ野歴史愛好会で話題提供させていただきました。考古専門家でもなんでもない市民高齢者が有吉北貝塚のおひざ元でその貝塚について話し出したので、皆さま最初は怪訝な顔つきだったと思います。しかし、話内容は「考古学習を楽しむ」ということで、私自身がいかに楽しんでいるかという話ですから、皆さまの怪訝な顔つきは徐々に柔和な顔つきになりました。私も少し安心しました。

話題提供コンテンツの考古的意義はさておき、3D技術を使った考古学習が楽しく、それに熱中している者がいるということは伝えることができたと思います。

話題提供は次のような順番で、パワーポイントを利用して行いました。

1 3D技術の習得と趣味活動の楽しみ

1-1 フォトグラメトリ

1-2 3DCG

2 3D技術を使った有吉北貝塚学習の楽しみ

2-1 有吉北貝塚と北斜面貝層

2-2 北斜面貝層地形の地学的検討

2-3 土器分布の検討

2-4 貝層分布と時期の検討

2-5 斜面投棄パターンの分類


パワーポイント表紙

素人が分析したとはいえ、出典情報はすべて発掘調査報告書掲載詳細情報ですから、一般論とか考え方とかではないので、皆様には興味を持っていただいたと思います。また分析は3D技術をつかったオリジナルですから新鮮な印象を持っていただけたようです。

ただ、質疑応答でわかったのですが、このおゆみ野歴史愛好会では「いやというほど」考古専門家講演会を開催して来ているとのことです。会員の皆様は有吉北貝塚や大膳野南貝塚について詳しい知識を持っています。そして手元には過去講演会の詳しい資料を用意して、ちらちら見ています。そうした場の雰囲気を知るにつれ、私から冷や汗がでます。

なお、写真がきれいだなどの好意的お言葉をいただきました。

色々な質疑応答を行い、皆さまとの学習交流は意義のあるものになったと思います。自分にとっても価値の大きなものとなりました。皆さまの博識に大いなる刺激を受けました。

配布資料「3D技術を習得しながら考古学習を楽しむ~有吉北貝塚の自分流学習~」(6ページ)


2022年11月13日日曜日

有吉北貝塚の中期集落終末期(加曽利EⅢ式期)の不思議

 The Mystery of the Late Ariyoshi Kita Shell Mound Village Final Stage (Kasori EIII Period)


Mystery deepened by studying the shell layer on the north slope of Ariyoshi Kita Shell Mound.

Although the number of pit dwellings decreased sharply at the end of the Ariyoshi Kita Shell Mound (Kasori EIII period), the volume of discarded shell layers was almost the same as in EII. At the same time, clam shell layers were formed. Clams also get bigger. The relationship between resources and population is strange.


有吉北貝塚北斜面貝層の学習をする中で、深まった不思議がありますのでメモします。

有吉北貝塚終末期(加曽利EⅢ式期)に竪穴住居数は急減するのに、投棄貝層体積は前の期である加曽利EⅡ式期とほとんど同じで、かつハマグリ純貝層が形成されます。ハマグリの大きさもEⅠやEⅡより大きくなっています。資源と人口の関係考察の重要情報になると、おそらく思います。

1 貝層形成時期の把握

貝層が観察される全ての貝層断面について、時期別土器破片3D分布情報と対照して層位の時期区分を行いました。時期区分はEⅢ(土器群12)、EⅡ(土器群10・11)、S(土器群2~9)の3区分です。


貝層時期区分結果 断面2の例


時期区分検討の様子 断面2の純貝層がEⅢであると推定した根拠 (Blender3D空間) 第2断面付近の加曽利EⅢ土器破片分布

時期区分検討の様子 断面2の純貝層がEⅢであると推定した根拠 (Blen


der3D空間) 加曽利EⅢ土器破片は純貝層より下位に位置している。


時期区分検討の様子 断面2の純貝層がEⅢであると推定した根拠 (Blender3D空間) 加曽利EⅢ土器破片は純貝層より下位に位置している。

この検討により、北斜面貝層にみられるハマグリ主体純貝層は加曽利EⅢ式期に形成されたことがわかりました。


加曽利E式期に形成されたハマグリ主体純貝層

2 貝層の時期別体積

断面別に検討した貝層形成時期情報を貝層断面別体積情報に投影すると次のようになります。


断面別時期別貝層体積

この時期別貝層体積を集計して竪穴住居数と対照させると次のようになります。


時期別竪穴住居数と貝層体積の関係

このグラフに撚り、竪穴住居軒数当り(人口当り)貝層体積を考えると、S→EⅡ→EⅢと時間が経過するたびに貝投棄量が急増します。EⅢ期の竪穴住居軒数当り(人口当り)貝層体積は信じられないほどの貝収量を得ていたことが判ります。そして収穫した貝がハマグリが多く、それを純貝層で残しています。

3 竪穴住居数と貝の大きさ

次に発掘調査報告書に掲載されている貝大きさグラフと竪穴住居数グラフを対応させたグラフをつくりました。


竪穴住居数と貝の大きさ

このグラフから、竪穴住居数がピークとなった加曽利EⅠ式期のハマグリ大きさが最も小さく、EⅡ→EⅢと大きくなります。発掘調査報告書では人口減による採集圧が弱まったことと資源管理が行われた2つの要因によりハマグリの大きさが回復した旨分析されています。

4 考察

ハマグリ大きさ情報と時期別貝層体積グラフ統合して考えると、次のような事象を想定できます。

●想定できる事象…広域地域で、加曽利EⅠ式→加曽利EⅡ式→加曽利EⅢ式と竪穴住居数が減少した(人口が減少した)。その結果、内湾・干潟広域で採集圧が弱まりハマグリの大きさが大きくなった。加曽利EⅢ式になると近隣集落の多くが消滅して最後まで残存した有吉北貝塚集落の人々は人口は急減して見る影もないが、貝採集は競争相手がいない「取りたい放題」であった。その結果、小人数で莫大なハマグリを採集し、それを純貝層として残した。

このような想定を行うと加曽利EⅡ式→加曽利EⅢ式へ人口が急減した主な要因が食料資源にかかわらないことになります。社会維持や発展の最大原動力である食料の確保はできるのに、人口急減が生じています。人口急減について、外部要因(感染症など)も考える必要がありそうです