2020年10月31日土曜日

ハマグリ製ヘラ状貝製品の3Dモデル観察 その2

 縄文貝製品学習 24

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期ハマグリ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用して行います。この記事では374図11個体の表面の観察を行います。

1 ハマグリ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)374図11表面 観察記録3Dモデル 

ハマグリ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)374図11表面 観察記録3Dモデル 

縄文中期、L、殻長97.6㎜、殻高79.5㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像、高精細モデル 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.009 processing 22 images


撮影の様子


参考 裏面


実測図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・このハマグリ製ヘラ状貝製品もアリソガイ製ヘラ状貝製品と比べて「使用感」が薄い感じを受けます。

・腹縁部の一部が硬いモノを擦ってエッジになっています。また一部そのエッジが凹んでいます。細長いモノを擦っているのでしょうか?

・閲覧したヘラ状貝製品全8点(アリソガイ製6点、ハマグリ製2点)の第1回目3Dモデル観察が終わりました。まとめを次の記事で行います。


2020年10月29日木曜日

養安寺遺跡の位置と地形

 縄文社会消長分析学習 53

東金市・大網白里市養安寺遺跡の位置と地形を確認して、今後の学習のあり方の参考にしました。

1 養安寺遺跡と学習関連遺跡


養安寺遺跡と学習関連遺跡


養安寺遺跡と学習関連遺跡 2

養安寺遺跡・鉢ヶ谷遺跡が九十九里湾に面し、大膳野南貝塚・六通貝塚・有吉北貝塚・加曽利貝塚が東京湾に面していることがわかる地図になっています。観念的にはあたりまえに判っていることです。しかしその地図を見ると、あらためて、内湾に面した遺跡と外洋に面した遺跡が置かれた地勢環境が大きく異なることに興味が深まります。異なる出自であるようです。集団として別の「流派」に属していたようです。異なるメイン生業が見られます。加曽利EⅡ式頃の土器模様は明らかに異なる印象を受けます。

2 養安寺遺跡付近の地形

養安寺遺跡付近の地形 3Dモデル

数値標高モデル5mメッシュ、デジタル標高地形図千葉市周辺

QGIS(Qgis2threejs Plugin)により作成


養安寺遺跡付近の地形

養安寺遺跡近くの台地面に印旛沼水系と九十九里水系の分水界が通り、この分水界台地面がシカ等の季節移動する獣の通過ルートに近似していると想定できます。またその通過ルートの近くに崖が沢山あり、崖追い落とし猟など狩猟に適した地形が存在しています。

また養安寺遺跡は北幸谷川の河口湾に位置しています。

養安寺遺跡及び鉢ヶ谷遺跡は狩猟適地のすぐそばの狩猟キャンプ地という性格と、九十九里浜水運(銚子方面、茂原-船越経由-養老川-東京湾方面)に関連してその場所に立地したと想像します。(なお、縄文中期には、九十九里水運は砂洲背後の後背水面を内水面として利用できたのではないかと想像します。)

3 参考


3Dモデルの動画

2020年10月28日水曜日

千葉県立中央博物館企画展「ちばの縄文」で思わず興奮

 千葉県立中央博物館で開催されている令和2年度企画展「ちばの縄文 -貝塚からさぐる縄文人のくらし-」(2020.10.10~2020.12.13)を観覧してきました。

1 思わず興奮

企画展といっても展示点数は加曽利貝塚博物館などよりはるかに多く、縄文関連では現時間断面ではおそらく千葉県で最大であり、なおかつ重要性という点でも最高であると感じました。終了までに何度も通うことになりそうです。

最初全体をざっと見まわす中で、東金市鉢ヶ谷出土河童形土偶(中期中空土偶)を見つけて思わず興奮しました。この土偶は長野県茅野市棚畑遺跡など中部高地社会と房総社会を結びつける象徴的な遺物です。いつかどこかで現物を見てみたいと願っていたものです。この1点だけの観覧であったとしても、この企画展に来たかいがあります。


東金市鉢ヶ谷出土河童形土偶(中期中空土偶)

そのほか趣味心を刺激する多くの遺物を観覧して気持ちが高ぶります。

加曽利貝塚博物館で夏に行われた君津市三直貝塚ミニ企画展展示遺物も多数見かけました。

2 思わず声を出して興奮

銚子市余山貝塚出土コハクや現在学習している東金市・大網白里市養安寺遺跡出土の銚子産コハクの展示もあり、興味が刺激されていました。

さらに、主な遺物の3Dモデル撮影の最後に高島多米治旧蔵の頭が平べったい河童のような土偶が珍しいので撮影しました。その際出土遺跡をよく見ると、なんと銚子市余山貝塚出土です。興奮のあまり自分の年齢を忘れて、「ウッ」と声が漏れてしまいました。他の観覧者はいなく、係の女性は遠方でしたので自分をいぶかる人はいなかったと思いますで、その点ではそそうにならなかったと思います。


高島多米治旧蔵銚子市余山貝塚出土土偶

自分の頭の中では次のように情報が繋がりました。

銚子市余山貝塚 河童形のミミズク土偶(後期)、コハク-----東金市・大網白里市養安寺遺跡 コハク、東金市鉢ヶ谷 遺跡河童形中空土偶(中期)-----長野県茅野市棚畑遺跡 国宝土偶「縄文のビーナス」(河童形)、銚子産コハク

銚子産コハクと河童形土偶を指標にして銚子-東金・大網白里という九十九里に面した下総台地と中部高地が連絡している印象はだれも否定できないと思います。


東金市・大網白里市養安寺遺跡出土コハク

銚子市余山貝塚出土コハクは撮影禁止

2020.07.09記事「「縄文のビーナス」と系譜を同じにする千葉県出土土偶

2020.07.15記事「房総における縄文中期土偶の検討課題

3 3Dモデル用撮影

次の遺物について3Dモデル用撮影を行いました。

・小池台遺跡双口土器

・石棒群

・道免き谷津遺跡第1地点漆塗木胎耳飾

・道免き谷津遺跡第3地点漆塗木胎耳飾

・鉢ヶ谷遺跡土偶

・高島多米治旧蔵余山貝塚土偶

・養安寺遺跡コハク

・良文貝塚香炉形顔面土器

この企画展にはあと2~3回訪れ、3Dモデルコレクションを増やしたいと考えています。


2020年10月27日火曜日

堀之内式注口土器(君津市三直貝塚)

 縄文土器学習 488

2020年8月末まで加曽利貝塚博物館で開催されていた「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」で展示されていた3点の注口土器のうち48番堀之内式注口土器を3Dモデルで観察します。

1 縄文後期堀之内式注口土器(君津市三直貝塚)48 観察記録3Dモデル

縄文後期堀之内式注口土器(君津市三直貝塚)48 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 39 images


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 メモ

ア 2つの渦が絡まる文様

2つの渦が絡まる文様が微妙に変形デザインされて描かれています。


2つの渦が絡まる文様

この文様は四角い浅鉢や土製耳飾にも描かれていました。


浅鉢、土製耳飾に描かれた2つの渦が絡まる文様

イ 把手基部に貫通する小孔

2つの把手(上部で連絡)の基部にそれぞれ1つの小孔が貫通しているようです。その機能は判りませんが、その孔に細長い棒を差し込むことによって、土器に4つの小突起をつくり、その小突起にヒモをかけて蓋を縛って固定できるようにしたのではないかと想像します。

ウ 土器表面に散見される小孔

土器表面に貫通しない丸い小孔が各所にあいています。土器完成後につけられたものですが、その意義が判りません。今後類例がないか注意することにします。


2020年10月26日月曜日

東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 52

この記事では東金市・大網白里市養安寺遺跡の中期に絞って、その遺物・遺構を発掘調査報告書からピックアップします。

1 東金市・大網白里市養安寺遺跡の発掘調査報告書と位置


東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書


東金市・大網白里市養安寺遺跡の位置

養安寺遺跡は下総台地と房総丘陵を結ぶ狭窄部に位置し、移動するシカ等の交通の要衝であり、旧石器時代からの狩猟好適地に位置します。

2 東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構


東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・養安寺遺跡のうち縄文中期分だけ抜き出してピックアップしたものです。

・竪穴住居は阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期にはじまり、加曽利E1式期、加曽利EⅡ式期まで続きます。軒数は順次少なくなります。房総の遺跡はほとんどが加曽利EⅡ式期にピークを迎えますから、この遺跡は通常ではありません。

・土器の出土状況は他の遺跡と異なり、異なる様式の土器が一括して出土します。阿玉台式系統、勝坂類似、中峠式近似、大木式が一括出土します。


出土土器

東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用

・斜面貝層から出土する土器は竪穴住居軒数の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式・加曽利Ⅱ式期の分が圧倒的に多くなっています。

・出土石器では黒曜石を最多岩種とする石鏃が多数出土します。石鏃づくりに伴う剥片類も多数出土します。

・同時に骨角歯牙製品が538点と多数多種出土します。


骨角歯牙製品

東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用

・またイノシシ、シカをメインとしタヌキ、ノウサギなどを含む獣骨も多数出土します。

・多数の石鏃、多数の骨角歯牙製品、多数の獣骨の存在から、この遺跡のメイン生業が狩猟であることがわかります。

・狩猟とともに漁労も行われていますが、東京湾の大型貝塚と比べると貝刃などの貝製道具類の数が少なく、漁労はサブ的な生業であったと考えられます。

・人骨は全て貝層から散乱骨として出土しています。

3 発掘調査報告書が指摘する集落と貝層の乖離

発掘調査報告書では集落が房総全体の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式期~加曽利EⅡ式期に向かって衰退する様子を指摘します。しかし、それに反して貝層出土物は通年定住型環状集落に伴う貝層となんら遜色のない内容が示されて、集落規模と貝層出土物量の乖離が指摘されています。

発掘調査報告書ではこの乖離の解釈案を4つ提示しています。

ア 貝層は調査結果の小集落で形成された。

イ 貝層は複数遠方集落構成員によって形成された。(集落は複数遠方集落の共同利用施設であった。期間を棲み分けて、同じ猟場を複数集落が利用するイメージ。)

ウ 貝層は調査で発見できなかった大きな集落で形成された。(集落遺構が失われてしまっているため調査できない、あるいは発掘区域外に集落が存在する。)

エ ア~ウ以外の要因による。

4 感想

・養安寺遺跡が狩猟遺跡であり、同時に複数集落の共同管理施設であった可能性が濃厚であり、特異な遺跡です。

・養安寺遺跡からアリソガイが有吉北貝塚にもたらされているのですが、有吉北貝塚から養安寺遺跡にもたらされた土器などの遺物は見つかっていないようです。

・養安寺遺跡の狩猟に有吉北貝塚の人々は参加していないようです。養安寺遺跡と有吉北貝塚とは交易の関係があるだけのようです。

・養安寺遺跡の人々と有吉北貝塚など東京湾岸貝塚の人々はどうも「流派」が違うようです。土器の文様が異なる様子から「流派」が違う感覚を受けます。

・漁業権とか狩猟権などの土地の権利関係が発達していて、最初に開発した集団がその権利を確立した歴史があるのだと思います。

・養安寺遺跡の隣東金市鉢ヶ谷遺跡から中期前葉五領ヶ台式期の河童形土偶が出土していて、その土偶が長野県茅野市棚畑遺跡出土国宝土偶「縄文のビーナス」と系譜を同じにすることに驚いたことがあります。棚畑遺跡から銚子産コハクが出土しています。中部高地の人々がいち早く九十九里の狩猟好適地に進出して、そこに狩猟権を確立したと考えても、荒唐無稽とは言い切れません。

2020.07.09記事「「縄文のビーナス」と系譜を同じにする千葉県出土土偶

次の記事で養安寺遺跡と有吉北貝塚との対比を行います。

……………………………………………………………………

養安寺遺跡 中期

  • 遺構
    • 竪穴住居 17
      • 阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期 10
      • 加曽利EⅠ式期 5
      • 加曽利EⅡ式期 2
    • 小竪穴・土坑 約80
    • 北側斜面貝層
  • 土器
    • 一括出土
      • 阿玉台式系統
      • 勝坂式類似
      • 中峠式近似
      • 大木式
  • 遺物
    • 土製品
      • 土製装身具
        • 耳飾 1
      • 生産系
        • 土器片錘 34
        • 有孔円盤 30
    • 石製品
      • 大珠 2
        • ヒスイ 1
        • 非ヒスイ 1
      • 琥珀
    • 石器 中期貝層SS009
      • 石鏃 305
        • 黒曜石 133
        • チャート 119
      • 剥片類 2637
        • 黒曜石 1117
        • チャート 1074
        • フォルンヘルス 285
      • 磨製石斧 13
      • 打製石斧 53
      • 磨石 13
      • 敲石類 139
    • 骨角歯牙貝製品
      • 骨角歯牙製品 538
        • 生産 89
          • 刺突具 85
          • 釣針 3
          • 掘具 1
        • 加工 176
          • ヘラ状工具 168
          • 針状工具 8
        • 装飾 119
          • 鹿角製装飾 21
          • 骨製装飾 13
          • 歯牙製装飾 23
          • 管状製品 22
          • 魚類椎骨穿孔品 3
          • 針状製品(髪針) 28
          • 鏃型製品(歯牙) 9
        • 素材・その他 154
          • 加工角 31
          • 加工骨 48
          • 除去吻端 75
      • 貝製品 101
        • 貝輪 4
        • 貝刃 60
          • チョウセンハマグリ製 59
          • カガミガイ製 1
        • その他の貝製装飾品
        • その他の貝製品
    • 動物遺体
      • 哺乳類
        • イノシシ
        • シカ
        • タヌキ
        • ノウサギ
        • イヌ
      • 鳥類
        • キジ科 43%
        • カモ科 34%
        • クイナ科 14%
    • 主要貝種 サンプル
      • チョウセンハマグリ 83.3%
      • ダンベイキサゴ 10.0%
    • 魚類
      • 淡水域
        • フナ属
        • ドジョウ科
        • ギギ科
        • ウナギ属?
      • 内湾域
        • スズキ属
        • クロダイ属
        • ボラ科
        • コチ科
        • ウナギ属?
      • 外洋沿岸~内湾
        • イワシ類
          • マイワシ
          • カタクチイワシ
      • 外洋沿岸域
        • トビエイ
        • サメ
    • 人骨(最小個体数) 18
      • 北斜面貝層 11
        • 大人 6
        • 少年 1
        • 小児 3
        • 乳児1
      • 北西斜面回貝層 7
        • 大人 3
        • 少年 1
        • 小児 2
        • 乳児~幼児 1

2020年10月25日日曜日

メモ 麻ヒモの意義

 昨日NHKTV番組「こころの時代」再放送で正眼寺住職正眼僧堂師家の山川宗玄さんが、袈裟を結ぶヒモの縛った様子を見せて、その形が水引に似ていることを紹介しました。水引とは冠婚葬祭において謹んで相手に差し上げる品をつつむ際に使われるヒモの名称で、独特の結び方をします。そのことから、水引と同じヒモの縛り方で袈裟をまとっている禅僧とは、つまり自分をお釈迦様に捧げた様子を表現していると解釈していました。(番組ではお釈迦様にささげた身であるから、自分の努力だけでは決して通過できない修行上の困難も大きな命と一体になることができるから、通過できることを具体的に話していました。)

以上のTV番組視聴から触発されて次のような想像が浮かびましたので、忘れないうちにメモしておきます。

縄文社会理解の学習として、自分にとっては重要な思考分野になりそうです。

1 文明の香りがする人工物としてのヒモ

縄文土器の縄文とは人工製品としてのヒモ(縄)でつけた跡です。これは、ヒモが縄文人生活の重要アイテムであり、重要アイテムであるからこそ土器文様つくりに使われたと考えます。

ヒモが生活実務での必要品であるだけでなく、精神生活においても重要であったからこそ、縄文人は土器にヒモ跡を残したのだと思います。

ヒモが精神生活で重要であった理由として次のよう事柄を想像します。

1-1 ヒモ製品は貴重で高級

ヒモ製品(糸を撚ったヒモ)を作るためには繊維のとれる植物が多く採れるという好機の到来を待たなければならないし、植物からヒモ製品を作るまでは多大な労力と時間がかかります。このことからヒモ製品は貴重品であり、高級品であったと考えます。

ヒモ製品を使うということは弦をそのまま使うこととは意味が異なり、文明や技術の香りがする活動であったと考えます。

1-2 ヒモ製品は人工の象徴

ヒモ製品の形状とそれを粘土に転がしてつくる縄文模様は規則的な撚り模様です。この模様は自然界にはない縄文人自身がつくった人工模様です。「自分が作った規則的人工模様」は縄文人にとって自然が得意とする規則的模様の類似模様を人工的に作ったという点で、自分自身を意識できる素材であり、人が文明を感じる瞬間であったと想像します。

1-3 ヒモ製品は実務のみならず祭祀で使われた

ヒモ製品は釣り糸とか網とか石器を木の柄に縛り装着するためなど、生業実務の重要な部分で使われました。しかし、それだけでなく祭祀活動やコミュニケーションにおける必須用品として使われたのではないかと想像します。次のような場面で使われたと考えます。

ア 神様に捧げる奉納物を台や包装布(皮)にヒモ製品で結んでいた。奉納物そのものだけだなく、ヒモ製品を使うことも神様に対する尊崇の表現であった。

イ 吊手土器や小型土器などをヒモ製品で吊り下げたり、土器の蓋をヒモで結び固定したりするなどして、重要な道具を特段に丁寧に使っていた。ヒモ製品を使うことにより道具利用による価値増大を演出した。

ウ 交易品をヒモ製品で結び、交易相手に丁寧な気持ちを表現していた。

2 縄文後晩期の麻ヒモ文化

縄文後晩期の祭祀活動が盛んであった時代では大麻栽培がおこなわれ、大麻繊維から糸が撚られ、糸を撚って麻ヒモがつくられ、麻ヒモの文化があったと想像します。

麻ヒモは生活実務以上に祭祀生活で使われたと推測します。

2-1 麻ヒモで祭具を結び保管する

例えば祭祀道具の石棒は普段どのようにしまわれていたのか考えてみました(想像しました)。

・縄文時代、出土してきたそのままのように土間に石棒がそのまま置かれて保管されていたとはとても考えられません。

・石棒は麻布あるいはなめされたシカ皮などに包まれ、その上から麻ヒモで結ばれていたと想像します。

・麻ヒモによる結び方はそれが袈裟結び(水引の結び方)であったかどうかはわかりませんが、特別な結び方がされていたと考えることが合理的であると思います。現代禅僧が麻ヒモで袈裟を結ぶ時の心理原点と、縄文人が麻ヒモで石棒を結ぶ時の心理原点は同じだと想像します。

祭祀が盛んで祭祀が生活の大半を占めるような社会では祭祀道具に対して丁寧な扱いがあり、麻ヒモが祭祀道具の保管に必須なアイテムであったと考えます。

2-2 麻ヒモで神聖なものを結ぶ

現代神社や社会一般におけるしめ縄(神域や依り代の表現)設置活動と同じような機能をもつ麻ヒモ結び活動が縄文後晩期に盛んであり、太い麻ヒモ(麻縄)や細い麻ヒモが盛んに作られていたと想像します。(現代しめ縄が縄文時代起源であると考えます。)

縄文後晩期における麻ヒモ(麻縄)を撚る道具(紡錘車)が有孔円盤形土製品であり、その素材となる糸を撚る道具が円盤形土器片であると考えます。

有孔円盤形土製品は重たいものが多く、太い麻縄を撚っていて、しめ縄などに使われたのではないかと想像します。(強度のある漁網や釣り糸も作っていたでしょうけれども、メインは祭祀アイテムとしての麻ヒモ(麻縄)を作っていたと妄想します。)

2020.10.16記事「円盤形土器片の使い方


紡錘車(紡輪)

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用


円盤状土器片

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

2020年10月23日金曜日

ハマグリ製ヘラ状貝製品の3Dモデル観察

 縄文貝製品学習 23

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期ハマグリ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用て行います。アリソガイ製ヘラ状貝製品との関連などに興味を持ちつつ観察します。この記事では374図10個体の表面の観察を行います。

1 ハマグリ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)374図10表面 観察記録3Dモデル

ハマグリ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)374図10表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、L、殻長111.2㎜、殻高88.5㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像、高精細モデル

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 23 images


撮影の様子


参考 裏面


実測図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・アリソガイ製ヘラ状貝製品と比べてこのハマグリ製ヘラ状貝製品は使用感が薄い感じを受けます。

・表面は広く削剥部がひろがり、その中で明瞭な部分を色塗りしましたが、その程度はアリソガイ製ヘラ状貝製品と比べると大変軽微です。

・また腹縁部を硬いモノに擦りつけて、エッジになっている部分がありますが、貝の形を変えるほど使い込まれていません。

2020年10月21日水曜日

吊るされて利用されていた小型土器

 縄文土器学習 487

2020年8月末まで加曽利貝塚博物館で開催されていた「ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編」で展示されていた小型土器を3Dモデルで観察します。

1 堀之内式小型土器(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

堀之内式小型土器(君津市三直貝塚) 観察記録3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館 ミニ企画展示「県内縄文遺跡展」-千葉県の縄文時代研究を彩った遺跡たち- 君津市三直貝塚編 

撮影月日:2020.08.28 

ガラス面越し撮影 

ハイパス調整画像 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 46 images


展示の様子


実測図

君津市三直貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 メモ

・実測図には口縁部が点線で描かれていますが、これを指標する構成土器片は展示物に欠損しています。

・手前2つの小穴の対抗位置に小穴が1つ見えますから、復元すると対抗位置に小穴が2つあったと考えられます。この小穴は二方向からヒモを通して、蓋上で結んで、蓋を固定するためのヒモ通し穴であると推察します。

・左右に胴部2カ所に太いヒモを通す大きな穴があり、底-左右の胴をめぐる太いヒモが通じ、この小型土器が横木等から吊り下げられて使われていたことが推定できます。

・現代でいえば宝石箱のような役割の土器であると推測します。

2020年10月20日火曜日

大膳野南貝塚の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 51

この記事では千葉市大膳野南貝塚(中期末葉~後期中葉)の遺物遺構を発掘調査報告書からピックアップして、千葉市内野第1遺跡(後晩期)と比較してみます。

1 千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構


千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

2 千葉市大膳野南貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較



千葉市大膳野南貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較 図解メモ

3 考察

3-1 集落規模と時期

・大膳野南貝塚は加曽利E4式~加曽利B式期の貝塚集落遺跡で堀之内1式期が顕著なピークとなっています。竪穴住居93、土坑264。住居から漆喰炉が多数見つかり、野外漆喰炉も出土しています。

・内野第1遺跡は堀之内Ⅰ式~安行3b式期の後晩期集落です。竪穴住居125、土坑427。海成貝の貝層はありますが、内陸に存在します。

3-2 生業

・大膳野南貝塚は漁労がメイン生業でイボキサゴ、ハマグリ、シオフキなどの貝類、クロダイ、コチ、イワシなどの魚類を採っています。貝刃やヘラ状貝製品などの貝製道具も出土しています。また狩猟を行いイノシシ、シカなどの獣骨が出土し、イノシシは養育していた可能性の証拠が出土しています。主食としていたと考えられる堅果類調理道具(磨石、石皿、土器など)も出土しています。道具から漁労・狩猟・植物採集の3つが主な生業であると考えることができます。土製小円盤(円盤形土器片)が出土しますから、製糸を行っていたと考えられます。

・一方、内野第1遺跡は道具からみると土器片錘など漁労道具、石鏃など狩猟道具は出土しますが貧弱であり、出土動物遺体の量に見合ったものではありません。魚貝類と獣肉の多くは外部から交易で入手していたと考えられます。有孔円盤形土製品や円盤形土製品が数多く出土しますから植物繊維(おそらく大麻)から糸を撚り、さらにロープ(しめ縄など)も作っていたと考えられます。植物繊維製品は内野第1遺跡の重要な交易用産品であったと考えられます。

3-3 祭祀

・内野第1遺跡は異形台付土器、石棒、土偶、土製耳飾など祭祀に関連した遺物が多数出土することから祭祀センターのようなイメージをもつことが可能な遺跡であり、祭祀というソフトサービス提供により魚貝類や獣肉を得ていた可能性を感じ取ることができます。

・内野第1遺跡の祭祀関連遺物の多さにくらべて、大膳野南貝塚は祭祀関連遺物は貧弱です。土偶も円筒形土偶が極少量出土していて、内野第1遺跡で盛行する山形土偶、ミミズク土偶とは別系統と考えられるものです。後期前葉(極少量の円筒形土偶)と後期中葉以降(多量の山形土偶、ミミズク土偶など)で土偶祭祀がガラリと変わることは大きな着目点になると思います。

3-4 感想

・後期前葉(大膳野南貝塚)と内野第1遺跡(後期中葉以降)の間に大きな不連続があるような印象を受けます。後期前葉は中期文化の継続のような印象を受けます。全うな生業が観察できます。後期中葉以降は全うな遺跡とは見えません。内野第1遺跡はどうやって「食っているのか」はっきりと見えません。

・さらに近隣遺跡検討を続けることにします。

……………………………………………………………………

千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

大膳野南貝塚

  • 遺物 中テン箱720
    • 特殊土器
      • 注口土器
      • ミニチュア土器
      • 蓋形土器
    • 土製品
      • 土製装身具 14
        • 耳飾 4
        • 垂飾 7
        • 腕輪 3
      • 土偶
      • 生産系
        • 土器片錘
        • 土製小円盤
    • 石製品
      • 石棒 25
      • 石製装身具 4
    • 石器 1977
      • 尖頭器 1
      • 石鏃 168
      • 石錐 11
      • 石匙 3
      • クサビ形石器 69
      • スクレイパー類 158
      • 石核 62
      • 剥片類 109
      • 黒曜石剥片類 573
      • 磨製石斧 38
      • 打製石斧 111
      • 礫器 10
      • 磨石 158
      • 凹石 113
      • スタンプ状石器 10
      • 石皿 149
      • 敲石 77
      • 砥石 28
      • 石錘 4
      • 軽石製品 42
    • 骨角貝製品
      • 骨角製装身具 17
      • 鯨骨製骨刀 1
      • 貝製品
        • 貝刃 
          • ハマグリ製貝刃 110
          • カガミガイ製貝刃 46
          • シオフキ製貝刃 3
          • アワビ製貝刃 1
        • ヘラ状貝製品
          • ハマグリ製ヘラ状貝製品 17
        • 舌状貝器
          • ミルクイ製舌状貝器 2
          • ハマグリ製舌状貝器 1
        • 貝製装身具 29
    • 動物遺体
      • 陸獣
        • イノシシ
        • シカ
        • タヌキ
        • アナグマ
        • ノウサギ
        • ニホンオオカミ
        • イヌ
      • 海獣
        • クジラ
        • イルカ
      • 鳥類 12
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • ハマグリ
        • シオフキ
        • アサリ
        • マガキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 魚類 サンプル
      • 4mmメッシュ
        • クロダイ属
        • コチ科
        • サバ属
        • ヒラメ科
      • 2mmメッシュ
        • アジ類
        • サバ属
        • ニシン科
        • キズ属
      • 1mmメッシュ
        • ニシン科
        • サヨリ属
        • カタクチイワシ
        • アジ類
    • 人骨 30
  • 遺構
    • 竪穴住居址 93
      • 中期末葉
        • 加曽利E4式期 3
      • 中期末葉~後期初頭
        • 加曽利E4~称名寺古式期 2
      • 後期初頭
        • 称名寺式期 3
      • 後期初頭~前葉
        • 称名寺新式~堀之内古式期 2
      • 後期前葉
        • 堀之内1式期 47
        • 堀之内2式期 7
      • 後期前葉~中葉
        • 堀之内2式~加曽利B1式期 2
      • 後期中葉
        • 加曽利B1~B2式期 2
      • 時期不明 25
    • 土坑墓 1
    • 土坑 264
    • 屋外漆喰炉 8
    • 小児土器棺 6
    • 単独埋甕 12
    • 埋葬犬骨 2
    • 鹿頭骨列 1
    • 大きな貝層 3
    • 貝層ブロック 160
      • 地点貝層 78
        • 住居内 26
        • 土坑内 52
  • 土器
    • 加曽利E4式
    • 称名寺古式
    • 称名寺式
    • 称名寺新式
    • 堀之内古式
    • 堀之内1式
    • 堀之内2式
    • 加曽利B1式
    • 加曽利B2式

2020年10月18日日曜日

称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)

 縄文土器学習 486

1 称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)

「称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)」を作成しましたが、このファイルの大きさが146MBとなりSketchfab投稿(プラス会員は100MBまで)ができませんでした。したがって3Dモデルのwebにおける共有は現状ではできません。


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の様子


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁) 正面(オルソ投影)


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁) 正面の内面(オルソ投影)

2 称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の動画


称名寺式土器の高精細3Dモデル(正面半裁)の動画

参考 3Dモデルの諸元

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 高精細3Dモデル(正面半裁)

撮影場所:加曽利貝塚博物館

撮影月日:2019.12.27

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 93 images

3 感想

・この土器の高精細モデルのファイル大きさが191MBなので、土器を切断して半分にすればファイル大きさは100MB以下になるのではないだろうかと期待したのですが、そうは問屋は下ろしませんでした。頂点やメッシュ部分は確かに半分になるのですが、張り付いている画像が100MBほどあり、これがそのまま残るので、ファイルの大きさの減少は期待したようにはならなかったのです。

・半裁高精細モデル動画は質の高いものができたと満足します。

・この土器の模様をよく観察すると、この土器には正面が存在し、その正面を意識した土器利用の跡(内面上部のリング状おこげ)が観察できます。


土器正面


土器黒変部とおこげの対応


土器外面黒変と土器内面おこげの対応考察

2020年10月17日土曜日

高精細3Dモデルの作成

縄文土器学習 485

これまでSfM-MVSによる3Dモデル作成はほとんど3DF Zephyr Liteにより作成し、各設定におけるプリセットは「デフォルト」で行ってきました。
しかしより精細な3Dモデル作成を目指して、今般試験的に各設定においてプリセット「高精細」を使って3Dモデルを作成してみました。
 
 1 デフォルトモデルと高精細モデルの比較 

デフォルト作成モデルと高精細作成モデルの比較(土器表面) 

デフォルト作成モデルと高精細作成モデルの比較(土器内面) 
・「デフォルト」では表現できなかったより微細な起伏とそれに対応したテクスチャ貼りつけができました。 
・テストに使った称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)加曽利貝塚博物館展示は沈線が深くえぐりこまれている土器で、「デフォルト」3Dモデルでもその様子は十分に満足できるという感想を持っていました。 しかし、今般作成した「高精細」3Dモデルはそれをさらに立体性とテクスチャ復元性で質が高いものとなりました。
 
2 成果と問題点 
成果
ア 高精細なモデル
これまで作成した3Dモデルより、より質の高いSketchfab作成が可能であることを知りました。 
イ 過去モデルの高精細モデル化が可能
これまで作成した3Dモデル全てについて、新たに2番目の高精細モデルを作成することができます。これまでの撮影ストックが大いに生きる可能性が生まれました。
 
問題点と対応 
ウ 作業時間がかかる 
デフォルト作業では合計10分程度の作業が高精細作業では40分程度かかりました。
 
エ Sketchfab投稿ができない 
Sketchfab投稿は会員ランクでファイル大きさ制限があり、自分の場合(プラス会員)の制限は100MBです。この制限により今回のテストファイルはSketchfabに投稿できません。他の人と情報共有できません。 

オ 高精細3Dモデルの動画は作成できる。
高精細3Dモデルの動画は作成でき、YouTubeやTwitter、Facebookに投稿できます。 高精細3Dモデルそのものはファイルが大きくなり、Sketchfab投稿ができなくても、その動画はYouTubeやTwitter、Facebookなどに投稿できますから、土器細部をなめるように観察する動画作成があらたな情報発信の可能性を開きます。 

3 感想 
・対象物の概要を3Dモデルで表現するだけなら「デフォルト」で十分ですが、対象物の精密な観察を目指すならばプリセット「高精細」を使って2つめの3Dモデルを作成することが有効であると確認できました。

2020年10月16日金曜日

アリソガイ(373図18)観察

 縄文貝製品学習 22

千葉県教育委員会の許可で閲覧した有吉北貝塚出土縄文中期アリソガイ製ヘラ状貝製品の観察を3Dモデルを活用しながら行っています。この記事では有吉北貝塚出土アリソガイ製ヘラ状貝製品の最後6点目として373図18を観察します。

1 アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)373図18表面 観察記録3Dモデル

アリソガイ製ヘラ状貝製品(磨貝)(千葉市有吉北貝塚)373図18表面 観察記録3Dモデル

縄文中期、R、殻長126.6㎜、殻高106.4㎜ 

撮影場所:千葉県教育庁森宮分室 

撮影月日:2020.09.18 

許可:千葉県教育委員会許可による撮影・掲載 

ハイパス調整画像

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.008 processing 24 images


撮影の様子


参考 裏面


実測図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察


観察画像メモ

・表面の下部はほぼ全面にわたって削剥部になっています。擦り作業で表面が摩耗しています。

・腹縁部は本来の形から後退しています。腹縁部の端はエッジとなっています。そのエッジはその部分を硬いモノに強く擦って形成されたと推測できます。

・エッジを硬いモノに擦りつけ摩滅させることが腹縁部後退の主因であると推測します。


腹縁部の先端付近の様子

円盤形土器片の使い方

 縄文土器学習 484

2020.10.15記事「千葉市有吉北貝塚の遺物と遺構」で、内野第1遺跡では製糸(繊維製品)が交易に関する主な生業になっていることがわかりましたが、その検討の中で円盤状土器片の役割について合理的空想(?)ができるようになりましたので、メモしておきます。

1 円盤状土器片の使い方(空想)


円盤状土器片を使って大麻繊維から糸素材を作る様子(空想)

大麻線維を微細なレベルで細長く裂いたものの両端を左手でつまみ、輪の下に円盤状土器片を乗せ、右手でクルクルまわします。それにより繊維に撚りが生まれます。円盤状土器片を外せば糸素材が出来上がります。


円盤状土器片

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

3㎝~4㎝程度のものが多く、手で回しやすい大きさです。

2 糸素材を使った糸の作り方(空想)

糸素材を2本あるいは3本紡錘車で撚って糸そのものを作ったと想像します。

最初に長さの異なる2本あるいは3本の糸素材を紡錘車で撚り、1本の糸素材が途切れた時、新たな糸素材を別の1本あるいは2本の糸素材に水(あるいはより粘性のある液体)をつけながら揃えて一体化して撚りを続けます。糸素材の水分・表面状況によっては水を使わなくても新たな糸素材を撚りに加えていくことができる可能性があります。このようにして、次々に糸素材を加えていけば、紡錘車で長い糸(糸素材2本あるいは3本の撚り糸)を作ることができます。


紡錘車(紡輪)

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

軸(紡茎)は木製のため出土していません。

紡錘車に開いている小孔はそこにヒモを通して紡錘車と軸を硬く結び、軸の回転と紡錘車の回転を一体化させる機能を担っています。宮原俊一「重たい紡錘車 -縄文晩期の有孔円板形土製品について-」(2020、「日々の考古学3」、六一書房)

3 参考 紡錘車の軸受け

紡錘車の軸(紡茎)下端が安定するように軸受けが使われ、それが次の出土物「有孔円板形土器片」であると想像します。


有孔円盤形土器片

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

4 感想

この記事は全て頭のなかで空想した事柄です。これで済んでしまっては学習になりませんから、大麻繊維と土器片と紡錘車(のようなレプリカ)を入手して、実験的にこの空想が成り立つか検証することにします。もし実験的にこの空想が成り立てば、それが証拠となる証明にはなりませんが、円盤形土器片意義学習は確実に前進します。

2020年10月15日木曜日

千葉市有吉北貝塚の遺物と遺構

縄文社会消長分析学習 50

縄文社会消長分析の問題意識を醸成するために、下総台地の中期及び後晩期遺跡をいくつか選び、その相互比較を試みる学習を始めています。

この記事では千葉市有吉北貝塚(中期遺跡)の遺物遺構を発掘調査報告書からピックアップして、千葉市内野第1遺跡(後晩期)と比較してみます。

1 千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構


千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

2 千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較

この図の特徴を青字で書き込むと次の説明メモ図になります。


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較 説明メモ図

3 考察

3-1 集落の規模

・有吉北貝塚は阿玉台式以前から加曽利EⅢ~Ⅳ式期の中期貝塚集落です。竪穴住居168、土坑770.

・内野第1遺跡は堀之内Ⅰ式~安行3b式期の後晩期集落です。竪穴住居125、土坑427.

・集落の規模は「だいたい同じ」です。集落存続期間も双方ともにざっくり1000年と見積もって大きな問題はないと思います。

3-2 生業

ア 漁労の道具と産物

・有吉北貝塚の漁労道具は土器片錘…網漁、貝刃…魚調理、骨角歯牙製品(釣針、刺突具)…釣り・ヤス漁などで、食物残滓としてイボキサゴ、ハマグリ、シオフキなどの貝類、クロダイ、スズキ、カレイなどの大型魚類骨、マイワシ、ハゼ、アジなどの小型魚類骨が出土します。

・内野第1遺跡の漁労道具はきわめて貧弱です。それにも関わらずオキアサリ、ハマグリ、イボキサゴなど海成貝が貝層を形成し、海産魚類骨も出土します。海産貝・魚はすべて交易で船橋方面から搬入されたものです。

イ 狩猟の道具と産物

・有吉北貝塚の狩猟道具は石鏃…弓矢、イヌ…猟犬、磨貝…皮なめし[想定]、骨角歯牙製品(ヘラ状骨製品)…皮なめしなどで、食物残滓としてイノシシ、シカ、タヌキ、ノウサギなど多様な動物骨が出土します。

・内野第1遺跡の狩猟道具は大変貧弱です。それにもかかわらずシカ、イノシシ骨が大量に出土します。この道具-食物残滓の非対称対応から、内野第1遺跡の獣肉のほとんどが交易により入手した搬入品であると考えます。

・有吉北貝塚では皮なめしが行われ皮革製品が作られていたと推察できますが、内野第1遺跡では皮なめしはありません。

ウ 大麻栽培の道具と産物

・有吉北貝塚では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として土製円盤…糸撚りが出土します。

・内野第1遺跡では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として有孔円盤形土製品…糸撚り、円盤形土器片…糸撚りが出土します。円盤形土器片は1本の細長い繊維を円盤にかけて、円盤を回して撚る回転道具、有孔円盤形土製品は複数の糸を1本の糸(ロープ)に撚る装置の中枢回転道具です。

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともに直接証拠はありませんが大麻栽培の蓋然性がたかく、内野第1遺跡は状況から大麻栽培はほぼ確実と想定します。

・有吉北貝塚より内野第1遺跡の方がより高級な糸(ロープ)や繊維製品を生産していたことが道具からわかります。

エ 堅果類と食用植物の採集調理道具

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともにクリ林管理など樹木管理に磨製石斧…樹木枝打ちが使われ、植物栽培や植物採集に打製石斧…根茎掘り・耕耘が使われ、産物の食物化に磨石・石皿・土器…堅果類調理などが使われたと考えます。

3-3 祭祀・装飾

ア 祭祀道具

・有吉北貝塚の祭祀道具は極めて貧弱です。

・内野第1遺跡では異形台付土器、土偶、土版、石棒・石剣など祭祀道具の種類・量が極めて豊かです。

イ 装身具

・有吉北貝塚では石製装飾品、骨角歯牙製品(装飾品)、貝製装飾品がみられ、素材について生業産物との関わりがみられます。

・内野第1遺跡では土製耳飾、玉類がみられます。素材と生業との関わりは見られません。

3-4 感想と問題意識

ア 内野第1遺跡は自給自足していない

・有吉北貝塚では道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができます。漁労・狩猟・大麻栽培・堅果類と食用植物採集。

・一方内野第1遺跡の道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができません。生業は大麻栽培・堅果類と食用植物採集です。大麻栽培による高級ロープや繊維製品作成が行われ、それを交易品としていたことは考えられます。

・内野第1遺跡の交易収支がどのようにバランスをとっていたのか次のケースのうちどれかだと思います。

ケース 1

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 2

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、同時に祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 3

・祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。(高級ロープや付加価値の高い繊維製品は祭具(しめ縄、神官が使う幣、神官の衣服等)として祭祀サービスの中で使われた。)

・内野第1遺跡から土製耳飾が大量出土する様子などから、内野第1遺跡は広域圏に対して祭祀サービス提供を一つの「生業」とする「祭祀都市」みたいなイメージを持ちます。

イ 大麻栽培の意義について

・製糸に使った原料植物を大麻と決めつけていますが、その証拠を見つける必要があります。

・異形台付土器は大麻の薬用成分抽出吸引装置のミニチュア(イコン、アイコン)であると以前から想定しています。

2020.07.27記事「異形台付土器の展開写真作成と考察・学習仮説」など多数

・大麻薬用成分吸引を伴う祭祀盛行が後晩期社会をむしばみ衰退の重要な要因となったと仮説しています。この仮説検証に取り組む必要性があります。

……………………………………………………………………

千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

 有吉北貝塚

  • 遺物
    • 特殊土器
      • ミニチュア土器 17
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系
        • 耳飾 18
      • 生産系
        • 土器片錘 5354
        • 土製円盤 63
    • 石製品 92
      • 石棒 5
      • 装飾品 23
      • 石製円盤 1
    • 石器 26726
      • 尖頭器 1
      • 石鏃 1088
      • 石錐 23
      • 削器 47
      • 異形石器 10
      • 剥離痕を持つ剥片 538
      • 楔形石器 581
      • 楔形石器の形成に伴って作出された剥片 1022
      • 石核・原石416
      • 剥片類 9033
      • 磨製石斧 310
      • 打製石斧 833
      • 礫器 29
      • 磨石 364
      • 石皿 439
      • 砥石・叩石・台石 21
      • 軽石製品 255
      • 礫 9398
      • 極小礫 1490
      • 土質ブロック 113
      • 基盤石塊 45
      • 炉石 41
    • 骨角貝製品
      • 骨角歯牙製品 259
        • 装飾品
        • 釣針
        • 刺突具(骨針)
        • ヘラ状製品
        • 刃器状加工品
        • 加工品
        • その他
      • 貝製品
        • 貝刃 
          • ハマグリ製貝刃 459
          • カガミガイ製貝刃 44
        • 磨貝
          • アリソガイ製磨貝 24
          • ハマグリ製磨貝 11
        • 装飾品他 51
    • 動物遺体
      • 陸獣
        • イノシシ 2484
        • シカ 921
        • タヌキ 587
        • ノウサギ 455
        • キツネ 61
        • サル 59
        • カワウソ 6
        • アナグマ 9
        • テン 18
        • イタチ 4
        • ムササビ 12
        • リス類 2
        • イヌ 266
        • ネズミ類 244
        • モグラ類 120
      • 海獣
        • クジラ類 37
        • イルカ類 26
        • アシカ 4
      • 鳥類
        • キジ 281
        • ガン・カモ類 207
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • ハマグリ
        • シオフキ
        • アサリ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 大型魚類遺体
      • クロダイ
      • マダイ
      • スズキ
      • カレイ
      • コチ
      • エイ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • マイワシ
      • ハゼ
      • アジ
      • カレイ
      • サヨリ
    • 人骨
      • 埋葬人骨 14
      • 散乱人骨 4
  • 遺構
    • 住居跡 168
    • 土壙 770
      • 小竪穴含む
    • 埋設土器 2
    • ピット群 1
    • 斜面貝層 5
  • 土器
    • 第1群 阿玉台式以前の各型式
    • 第2群 阿玉台Ⅰ式
    • 第3群 阿玉台Ⅱ式
    • 第4群 阿玉台Ⅲ式
    • 第5群 阿玉台Ⅳ式
    • 第6群 中峠式
    • 第7群 頸部無紋帯成立以前の加曽利EⅠ式
    • 第8群 頸部無紋帯正立以後の加曽利E1式
    • 第9群 胴部磨削懸垂文成立以前の加曽利EⅡ式
    • 第10群 胴部磨消懸垂文成立以後の加曽利EⅡ式で、
      連弧文土器が盛行する段階
    • 第11群 連弧文土器が衰退し、キャリパー形土器が
      盛行する段階の加曽利EⅡ式
    • 第12群 加曽利EⅢ~Ⅳ式

2020年10月13日火曜日

印旛郡市文化財センターの最新資料展観覧

 印旛郡市文化財センターで開催されている令和2年度企画展「最新出土考古資料展」を観覧してきました。


令和2年度企画展「最新出土考古資料展」ポストカード

次の4遺跡遺物が展示されています。

墨古沢遺跡(酒々井町)…旧石器遺物

多古田低地遺跡(匝瑳市)…縄文後晩期遺物

畑ヶ田遺跡群Ⅰ(成田市)…古墳時代遺物

花戸原遺跡(柏市)…奈良時代遺物

多古田低地遺跡出土遺物の遺物がメインの企画展示になっています。多数の出土土器展示はガラス面など遮るものがない「生」展示であり、見ごたえ感があります。


多古田低地遺跡出土土器

墨古沢遺跡の旧石器遺物も興味深い旧石器が展示されています。


墨古沢遺跡の旧石器

コンパクトな空間の中に興味深い遺物が濃縮展示されていて、滞在制限時間1時間はあっという間に過ぎました。

これから自宅で行う撮影写真整理が楽しみです。

A4判8ページリーフレットが用意されていて、遺跡の概説を知ることができます。


企画展レーフレット

なお、この企画展観覧は事前予約制です。