2020年1月31日金曜日

加曽利EⅡ式土器観察 企21 円錐体形土器

縄文土器学習 331

この記事では今年度企画展展示土器「加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企21」について観察します。(注 「企21」はこのブログにおける整理番号です。)

24 R元年度加曽利E式企画展(印旛地域編) 加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企21
24-1 展示状況写真

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企21

24-2 3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企21 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2020.01.07
整理番号:企21
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 49 images

24-3 参考 3Dモデルの土器底面を水平にした時のオルソグラフィック投影

3Dモデルの土器底面を水平にした時のオルソグラフィック投影
(大片をオルソ投影して器形を見るための資料)

24-4 展開写真

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企21
2つのピースの位置関係は任意ですが、沈線の連続性から沈線の波動状況が判明します。

参考 土器小破片展開写真を作成するための近似円錐体設定状況

24-5 観察
器形観察
・円錐体の一部を切り取った器形をしています。キャリパー形ではなく、胴部ふくらみやそれにともなうくびれはありません。
・口唇部は平のようです。
段構成観察
・2本沈線とその間の磨消帯3条で土器が4つのゾーンに段構成されています。
・段を区分する2本沈線磨消帯は中段と下段で波動します。下段の波動は激しいものになります。
文様観察
・最上段は口縁部(口唇部)2列の大きな丸い刺突文です。
・その下3段はくし状道具を使った縦方向の密な沈線列です。
・最下段では2本沈線磨消帯の垂下が1つ観察できます。懸垂磨消帯の存在は加曽利EⅡ式土器の特徴ですから着目できます。
感想
・口縁部刺突文と土器を周廻する波状沈線は連弧文土器の特徴ですから、この土器はほとんど連弧文土器であると感じます。キャリパー形でもないのでなおさらそのように感じます。ただ垂下する磨消帯が観察できるので加曽利EⅡ式土器の仲間として判別されているのだと思います。
・垂下する沈線、垂下する磨消帯がそれほど土器判定に重要であるということは、逆に発想すれば、それが当時の社会変動の特徴的な側面を指標しているからに違いないと想像します。

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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり


加曽利EⅡ式土器観察 企22 連弧文土器との折衷? 

縄文土器学習 330

●加曽利E式土器観察学習方法の微調整
記事の最後に書いたとおり、学習方法を微調整します。

この記事では今年度企画展展示土器「加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企22」について観察します。(注 「企22」はこのブログにおける整理番号です。)

23 R元年度加曽利E式企画展(印旛地域編) 加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企22
23-1 展示状況写真

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企22

23-2 3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企22 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2020.01.07
整理番号:企22
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 51 images

23-3 展開写真

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市中山遺跡)企22

23-4 観察
器形観察
・キャリパー形です。
・胴部くびれとその下のふくらみがわずかに観察できます。
・口唇部がかすかに波状になっていますが、それが意図したものかどうか判断できません。とりあえず平であると概括的に捉えておきます。
・口唇部と口縁部は連続し、口唇部の独立性はゼロです。
段構成観察
・口縁部、頸部、胴部の3段構成です。
・口縁部と頸部、頸部と胴部の区分はいずれも3本沈線・磨消帯の周回により行われています。
文様観察
・口縁部は上半分が無紋、下半分が2列の円形刺突文です。
・頸部は縄文を切って3本沈線が大きく波状を描いて周回します。確認できませんが波状は4単位のようです。
・胴部は3Dモデルにできた部分で、4本の懸垂磨消帯と1本のカーブして垂下する磨消帯が観察できます。カーブして垂下する磨消帯の意味づけを考え付きません。
感想
・口縁部の刺突文と頸部(胴部)の沈線波状文は連弧文土器の特徴です。一方懸垂磨消帯は加曽利EⅡ式土器の特徴です。したがってこの土器は連弧文土器と加曽利EⅡ式土器の折衷土器、ハーフであると素人考えします。
・この土器と同じ趣旨の文様構成土器を既に「17 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.15 2段構成連弧文土器(有吉北貝塚)」として観察しました。

No.15 2段構成連弧文土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用
2020.01.29記事「加曽利EⅡ式土器の観察 その2

・連弧文土器と加曽利EⅡ式土器及びその折衷土器が存在することの意味を今後興味を持って学習することにします。
・2つの土器文化の潮流が同一人に影響を与えているということではなく、同一集落に連弧文系の外来系住民と加曽利EⅡ式系在来住民が共存していて、その関係が良好であった証左であると空想します。
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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり
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●加曽利E式土器観察学習方法の微調整
加曽利貝塚博物館のE式土器企画展(昨年度及び今年度)展示土器の学習をしています。主にEⅠ~EⅣという専門家が行った細分判定の根拠を自分なりに確認・追体験する作業を行っています。注口土器や器台を除いて全部で74器あり、それを1記事5土器程度のペースで学習してきました。
ところが清瀬市郷土博物館学芸員内田裕治先生から内田裕治式土器展開写真作成法を授かり、さらにGigaMeshによる超時短土器展開写真作成法を知り、状況が急変しました。
今年度企画展展示土器について土器展開写真作成に手間が全くかからなくなりました。
土器模様を3Dモデルで回して見ていただかなくとも、土器模様全部を平面写真で示すことができるようになりました。観察結果を言葉で説明するもどかしさが急減します。同時に土器模様に関する観察を深めることが可能となりました。
このような技術進歩により、土器1点1点の観察をより深めて行うことが可能となりました。
土器の細分判定を追体験するという目的は変わりませんが、学習方法を土器1点1点についてより深く、詳細に検討する方法に変更することにします。
具体的には1記事につき5土器程度を扱うというテンポを1記事につき1~2土器程度を扱うテンポに変更します。

2020年1月30日木曜日

加曽利EⅡ式土器の観察 その3

縄文土器学習 329

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(平成30年度)と「同(印旛地域編)」(令和元年度 開催中)の展示土器(深鉢等)74点を全部同じ視点で観察しています。
この記事は加曽利EⅡ式土器23点観察の3回目観察です。

20 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.18加曽利EⅡ式1段構成区画文土器(有吉北貝塚)

No.18加曽利EⅡ式1段構成区画文土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・全体の概形はラッパ形に見えます。専門家が口唇部が直立になっている様子を勘案してこの器形をキャリパー形というのかどうか、自分は知りません。キャリパー形という定義があるのかどうかいつか知りたいと思います。
・胴部中央部にふくらみがあり、それによりくびれが生まれています。
・口唇部は平です。口唇部はその下の沈線により独立的にしつらえられています。
段構成観察
・全体を1段であると観察できます。
・本来あるべき口縁部文様帯(矩形区画文や渦巻文など)が欠落しています。
文様観察
・土器全体を立て割る区画文で覆われています。
・区画文の間は懸垂する沈線3本・2列磨消部からなっています。
感想
・懸垂磨消帯があるので加曽利EⅡ式土器に判別されているのだと思います。
・この土器が連弧文土器のなれのはてなのか、通常加曽利EⅡ式土器の零落形なのか、その出自検討を深めたいという興味が湧きだす対象物です。

21 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.19加曽利EⅡ式縦方向沈線文土器(芋ノ谷東遺跡)

No.19加曽利EⅡ式縦方向沈線文土器(芋ノ谷東遺跡)

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部下方にふくらみがあり、わずかなくびれが生まれています。
・口縁部は平で、独立感はほとんどありません。
・口縁部の器厚変化が大きく粗雑につくられた様子が観察できます。
段構成観察
・全体が1つで構成されています。
・口縁部文様帯はありません。
文様観察
・直線状あるいは蛇行する2本一組の沈線が垂下します。土器途中で消えて下部まで続かない沈線もあります。
・磨消部はありません。
感想
・加曽利EⅡ式土器の決め手となる磨消縄文がない土器です。
・粗雑につくられた土器であり、この土器出土遺跡の状況とどのように対応するのか、興味が湧く土器です。

22 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.38加曽利EⅡ式円文楕円形区画文土器(有吉北貝塚北斜面貝層)

No.38加曽利EⅡ式円文楕円形区画文土器(有吉北貝塚北斜面貝層)

実測図
発掘調査報告書から引用
(注 発掘調査報告書における写真処理に誤りがあり、この実測図は縦方向に伸びて歪んでいます。)

器形観察
・キャリパー形です。(キャリパー度?は低いです。)
・土器中央部がふくらみくびれています。(くびれ度?は低いです。)
・深い沈線により口縁部から口唇部が明瞭に独立しています。
・口唇部は平です。
段構成観察
・口縁部と胴部の2段構成となっています。
文様観察
・口縁部円文は渦巻文の退化形であると考えられます。
・懸垂磨消帯が配置されていて、わずかにくびれたなめらかな器形形状のみばえをよくしています。
・口縁部と胴部の縄文の向きが異なり、口縁部の文様上の意義が強調されています。
感想
・キャリパー形、口縁部文様帯と渦巻文退化形円文、懸垂磨消帯などにより加曽利EⅡ式土器として判別されていると考えます。
・この土器個体の出自や利用については過去に検討し、多数の記事を書きました。
2019.03.08記事「加曽利EⅡ式円文楕円形区画文土器の観察
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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり

GigaMeshによる縄文土器展開写真の効率的作成

縄文土器学習 328

webの中を放浪していたとき、「文化財の壺」という冊子を知り、最新数冊を購入しました。何気なくパラパラとページをめくっていると、奈良文化財研究所の金田明大さんという方が「縄文土器の展開図を描く-開いてみました」(文化財の壺VOL.7)という論説を書いていて、展開図作成ソフトのGigaMesh(https://gigamesh.eu/?page=home)(フリーソフト)を紹介していました。
先日、清瀬市郷土博物館の内田裕治先生から内田裕治式土器展開写真作成法を伝授していただいたばかりであり、興味がありますので早速ダウンロードしていじくってみました。
2020.01.20記事「内田裕治式土器展開写真の作成

尖石縄文考古館で撮影した抽象文土器観察記録3Dモデルを例にしてYouTubeのGigaMesh特設チャンネルの動画チュートリアルを参考にしました。

作業例にした抽象文土器

3DF Zephyr Liteで作成した抽象文土器観察記録3Dモデル

動画が英語ですから苦労しましたが見様見真似の操作を繰り返しているうちに、なんと数時間で次の展開写真作成まで到達することができました。

GigaMeshによる縄文土器展開写真 その1

GigaMeshによる縄文土器展開写真 その2

GigaMeshの操作方法がいったんわかってしまえば、その操作はきわめて簡略です。習熟すれば数分でできる操作です。
3DモデルがあればGigaMeshを使うことにより土器展開写真がほんの数分でできるという信じがたい効率化が実現することになりました。
3Dモデル作成時間も数分に短縮できたのですから自分でもアレヨアレヨと時短がすすんでいる状況に驚くばかりです。
ブログ花見川流域を歩く番外編2020.01.10記事「3Dモデル作成時間カウント
一目で全体像を観察できない縄文土器文様の学習にGigaMeshはきわめて強力なツールになります。
GigaMeshを紹介していただいた奈良文化財研究所金田明大さんと小冊子「文化財の壺」を発行されている皆様に大感謝です。

2020年1月29日水曜日

加曽利EⅡ式土器の観察 その2

縄文土器学習 327

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(平成30年度)と「同(印旛地域編)」(令和元年度 開催中)の展示土器(深鉢等)74点を全部同じ視点で観察しています。
この記事は加曽利EⅡ式土器23点観察の2回目観察です。

14 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.11加曽利EⅡ式渦巻文付区画文土器(芳賀輪遺跡)

No.11加曽利EⅡ式渦巻文付区画文土器(芳賀輪遺跡)

器形観察
・キャリパー形をしています。
・胴部下部が欠落しているため、胴部中央部のふくらみの有無は確認できません。
・三角の突起が4組存在し、その位置に口縁部渦巻文が対応しています。
・三角の突起を取り除くと口唇部は平になります。
段構成観察
・口縁部で隆帯で区画文を形成して口縁部と胴部を2段階に分けています。
文様構成
・口縁部は渦巻文と区画文が隆帯でつくられています。
・口縁部縄文模様と胴部縄文模様は90度の角度をなし、口縁部模様が強調されています。
・胴部には懸垂磨消帯が配置されています。3本沈線が垂下し、両側2本の沈線の間が磨り消され、真ん中の沈線は磨消部に取り残されます。磨消が弱く元の縄文の跡がところどころ残っています。
感想
・キャリパー形であることと口縁部渦巻文および懸垂磨消帯の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。

15 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.13加曽利EⅡ式渦巻文楕円形区画文土器(荒屋敷貝塚)

No.13加曽利EⅡ式渦巻文楕円形区画文土器(荒屋敷貝塚)

器形観察
・口縁部の内湾度合いが弱く、キャリパー形としては少し虚弱です。
・胴部中央部が少し膨らみ、器形全体がくびれています。
・口縁部は平です。
・口縁部と口唇部の間に太い沈線が巡り、口唇部が独立しています。
段構成観察
・口縁部と胴部の2段構成です。
文様観察
・渦巻文と楕円区画文が交互に配置されているようです。
・胴部には2本沈線に囲まれた磨消部が多数垂下します。
・口縁部縄文と胴部縄文の方向が同じで、類例のなかでは少数派です。
感想
・キャリパー形であることと口縁部渦巻文および懸垂磨消帯の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。

16 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.14加曽利EⅡ式渦巻文楕円形区画文土器(有吉北貝塚)

No.14加曽利EⅡ式渦巻文楕円形区画文土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部中央部膨らみが虚弱ですがみられ器形全体がわずかにくびれています。
・口縁部はすこし波打っていますが本来平につくろうとしたものであると推察します。
・口縁部と口唇部の間に太い沈線が巡り、口唇部が独立しています。
段構成観察
・口縁部と胴部の2段構成です。
文様観察
・渦巻文と楕円区画文が交互に配置されているようです。
・胴部には2本沈線に囲まれた磨消部が多数垂下します。
・口縁部縄文の方向が2種ありますから、口縁部模様のつけ方に意識が強かったことがうかがわれます。
感想
・キャリパー形であることと口縁部渦巻文および懸垂磨消帯の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。

17 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.15 2段構成連弧文土器(有吉北貝塚)

No.15 2段構成連弧文土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部中央もわずかにふくらみ、くびれも虚弱ですが観察できます。
・口唇部は平です。
段構成観察
・同下部の2-3本沈線周回によって上下模様構成が区分される2段構成になっています。
文様観察
・口唇部には交互刺突文がめぐります。
・上段中央には沈線波形(連弧文)が描かれます。
・下段には逆U字状の沈線が描かれ、沈線と沈線の狭い部分は磨り消されています。(磨消が弱く元の縄文が少し残ります。)つまりこの土器は懸垂磨消帯を持っています。
感想
・懸垂磨消帯をもつことからこの土器は加曽利EⅡ式土器の影響を強く受けているといえる連弧文土器であると考えます。

18 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.16 2段構成連弧文土器(荒屋敷貝塚)

No.16 2段構成連弧文土器(荒屋敷貝塚)

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部中央がふくらみくびれた形状になっています。
・口唇部は平のようです。
段構成観察
・胴部くびれ部に交互刺突文と沈線がめぐり上下を明瞭に区分している2段構成になっています。
文様観察
・口唇部には交互刺突文と沈線がめぐり、口唇部が独立しています。
・上段には連弧と垂下文が沈線と磨消部で描かれます。
・下段には唐草文風の渦巻や棘が沈線と磨消部で描かれています。
感想
・磨消という技法を使っているので、模様は異なりますが、加曽利EⅡ式土器との深い関係が暗示されます。

19 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.17加曽利EⅡ式台付土器(有吉北貝塚)

No.17加曽利EⅡ式台付土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・口縁部形状がラッパ形になっていて、キャリパー形ではありません。
・胴部中央がふくらみ器形全体にくびれが生まれています。
・底部に3つの出っ張りがあります。出っ張りはまるみを帯びています。
段構成観察
・胴部をめぐる沈線・隆帯が4筋ありますから、5段構成であると考えます。
文様観察
・口唇部とその下の縄文との間の処理があいまいで、口唇部のつくりが虚弱です。
・胴部をめぐる沈線・隆帯には刺突文が伴います。
・垂下する模様はありません。
・磨消はありません。
・区画文はありません。
・渦巻文はありません。
・土器の割れ目が口縁部ではほとんど鉛直方向で、他の土器とくらべて異様です。
感想
・加曽利EⅡ式土器の特徴を全く保持していない範疇外土器です。
・層位的に加曽利EⅡ式土器と一緒に出土した土器ですが、外部との交流の証拠として興味が深まります。
・昨年の検討ではこの土器は大陸竜山文化の三足土器の影響を受けたものではないかと思考しました。
2019.02.23記事「加曽利EⅡ式台付土器が三足土器であることの感想
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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり




2020年1月28日火曜日

清瀬市郷土博物館観覧と縄文土器3Dモデル作成

縄文土器学習 326

清瀬市郷土博物館を訪問して学芸員内田裕治先生に内田裕治式土器展開写真の作成技法を教えていただきました。
2020.01.20記事「内田裕治式土器展開写真の作成
当日、同館の縄文出土物コーナーを観覧させていただきました。

縄文出土物のメインショーケース (張り合わせ写真)
清瀬市郷土博物館では昨年11月に企画展「柳瀬川縄文ロマン展」を開催し話題を呼びましたが、そのホームページ版をwebで公開していて、展示土器に対する興味も深まります。
柳瀬川縄文ロマン展」2019年11月2日~24日開催縄文土器編ホームページ公開版

中央に展示されている勝坂式有孔鍔付土器はホームページ公開版でも登場します。
主な展示土器と石棒については3Dモデル作成用撮影も行い、3Dモデルを作成しました。

作成した清瀬市郷土博物館展示土器等
掲載ページhttps://sketchfab.com/arakiminoru/models

感想
清瀬市と千葉市は直線距離で60㎞ほど離れていますが縄文中期の土器の様相が大きく異なることを実感できました。一言でいえば千葉と比べて勝坂式の影響が濃厚だということだと思います。
私がとくに興味を持っているのは清瀬市出土土器で4単位の把手・文様がついているもので、4つの模様が全て少しずつ異なるものがあるという事象です。上記ホームページ公開版では起承転結などとして区分されています。
この区分は尖石縄文考古館や伊那市創造館で見た土器ではより顕著でした。春夏秋冬が表現されているように感じたものもありました。
ところが房総の土器では4単位文様が異なる事象は大変希薄です。対向する文様が異なること自体が珍しいことだと思います。
一方は土器文様に個人情念を投影しようとしていて、一方は土器文様から個人情念をできるだけ排除しようとしているように感得できます。
一方は土器文様で多様な物語を語り、一方は土器文様にある特定の集団表象を表現しようとしているように感得できます。


勝坂式有孔鍔付土器(清瀬市野塩前原遺跡) 観察記録3Dモデル 
撮影場所:清瀬市郷土博物館 
撮影月日:2020.01.17 
ガラス面越し撮影 
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 64 images

ちば市政だより 2020 Chiba 2

全戸配布された「ちば市政だより 2020 Chiba 2」表紙に実物大土版写真が掲載されていて、思わず目を止めました。

「ちば市政だより 2020 Chiba 2」表紙
ページをくくると文化財特集ページがあり、次の「埋蔵文化財調査センターで公開している文化財」記事で表紙土版が説明されていました。

「埋蔵文化財調査センターで公開している文化財」記事
このほか遺跡発表会記事もあります。

遺跡発表会記事

土版現物は近々千葉市埋蔵文化財調査センターにでかけ観覧したいと思います。

なんともひょうきんでインパクトのある土版です。

加曽利EⅡ式土器の観察 その1

縄文土器学習 325

加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」(平成30年度)と「同(印旛地域編)」(令和元年度 開催中)の展示土器(深鉢等)74点を全部同じ視点で観察しています。この記事から加曽利EⅡ式土器23点を5回に分けて観察します。

9 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.6加曽利EⅡ式渦巻文区画文土器(有吉北貝塚)

No.6加曽利EⅡ式渦巻文区画文土器(有吉北貝塚)

参考 渦巻文の3D画像

器形観察
・頸部から口縁部にかけてキャリパー形をしています。
・胴中央部が膨らみ器形全体がくびれた形状をしています。
・口唇部は平ですが3Dモデル作成作業で小把手あるいは小隆起装飾が付いていた跡が観察できました。
段構成観察
・口縁部と胴部が沈線で区画される2段構成です。
文様観察
・口縁部上部に渦巻文につながる太い隆起線が巡り、口唇部に溝が生まれたような形状となり、口唇部を独立させています。
・口縁部は渦巻文と長矩形区画文で構成され区画文内部の縄文方向は胴部縄文方向と逆になっています。
・胴部には2本沈線とその間が磨り消された垂下する磨消文が縄文を区画しています。
・口縁部上部の渦巻文につながる太い隆起線を3Dモデルでよく観察すると、蛇が自分の尾を噛む「ウロボロス」モチーフのように観察でき興味を引きます。
2019.02.16記事「「蛇が尾を噛む」モチーフか? No.6土器渦巻文
感想
・キャリパー形と磨消縄文の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されていると考えます。
・口縁部文様パターンが全周するとどのように変化するのか観察していません。

10 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.7加曽利EⅡ式渦巻文4把手土器(有吉北貝塚) 

No.7加曽利EⅡ式渦巻文4把手土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・土器上部はキャリパー形をしています。
・大部分欠落していますが、胴部中央は膨らんでいます。
・4つの把手が2つずつ口唇部で連結して対になっています。連結する把手は口唇部を含めて太い沈線でつながっています。
・把手を除くと口唇部は平に仕上げられています。
段構成観察
・文様は口縁部と胴部の2段で構成されています。
文様観察
・把手に沈線で逆S字状渦巻文が施されています。
・口縁部には隆帯と沈線によって渦巻文及び円形区画文が巡ります。
・胴部には磨消懸垂帯を持ちます。
感想
・キャリパー形であることと磨消懸垂帯を持つことから加曽利EⅡ式土器として判別されていると考えます。
・口縁部文様パターンが全周するとどのように変化するのか観察していません。
・連結する把手の間に連続する太い沈線は単なる見かけ上の修飾ではなく、機能を有するものとして直観できます。屈撓性を有する板状のものを差し込んだような印象を受けます。

11 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.8加曽利EⅡ式4小突起波状口縁土器(有吉北貝塚) 

No.8加曽利EⅡ式4小突起波状口縁土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部中央が膨らんでいて、器形全体でくびれています。
・口縁部に小突起が4単位付きます。
・小突起を取り除くと口縁部は平になります。
段構成観察
・口縁部と胴部の2段構成です。
文様観察
・小突起の下口縁部には渦巻文と円形文が対応して配置されています。
・口縁部には水滴~葉っぱ形の区画文が配置されています。
・胴部には懸垂磨消帯が8単位ほぼ均等に配置されています。
感想
・キャリパー形であることと口縁部渦巻文および懸垂磨消帯の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。

12 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.9加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器(有吉北貝塚) 

No.9加曽利EⅡ式連結渦巻文対向土器(有吉北貝塚)

実測図
発掘調査報告書から引用

器形観察
・キャリパー形です。
・胴部中央がふくらんでいて、器形全体がくびれています。
・口縁部は平です。
・口縁部と口唇部の間に深い沈線が巡り、口唇部が独立しています。
段構成観察
・口縁部と胴部の2段構成です。
文様観察
・口縁部は隆帯と沈線による渦巻文を連結する文様を対向する2カ所に配置し、その間は円形区画文とそれを挟む楕円形区画文の部分と長楕円形区画文が対向しています。
・胴部には12単位の懸垂磨消帯がほぼ等間隔に配置されています。

対向する口縁部文様が異なる様子 長楕円形区画文

対向する口縁部文様が異なる様子 円形区画文とそれを挟む楕円形区画文

感想
・キャリパー形であることと口縁部渦巻文および懸垂磨消帯の存在から加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。
・底部が遺存しない状況で出土していていることから、この土器の最後の用途が底部を必要としないものであったかもしれないと着目しています。

13 H30年度加曽利E式企画展(千葉市内編) No.10加曽利EⅡ式区画文土器(上谷津第2遺跡) 

No.10加曽利EⅡ式区画文土器(上谷津第2遺跡)

器形観察
・キャリパー形をしています。
・胴部中央がふくらんでいて、器形全体がくびれています。
・口縁部は平です。
・口縁部と口唇部の間に深い沈線が巡り、口唇部が独立しています。
段構成観察
・沈線で口縁部と胴部が区画される2段構成です。
文様
・口縁部に沈線で区画される楕円形区画文が配置されています。
・渦巻文は観察できません。
・胴部に懸垂磨消帯が配置されています。
・口縁部と胴部の縄文の向きが逆になっています。
感想
・キャリパー形であることと懸垂磨消帯の存在などから加曽利EⅡ式土器として判別されているものと考えます。

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参考 加曽利E式土器観察の視点

加曽利貝塚博物館の加曽利E式土器細分基準

加曽利E式土器の移り変わり