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2016年12月30日金曜日

千葉県小字データベースの活用可能性

1月から私家版千葉県歴史・地名GISデータベースの構築と活用学習をスタートさせます。

この記事ではデータベースの一翼を構成する千葉県小字土器データベースの活用検討例を示して、その活用可能性の「威力」の大きさを確認しておきます。

活用例として轆轤(ロクロ)地名を紹介します。

1 小字「轆轤(ロクロ)」の分布

千葉県小字データベースから次のような轆轤(ロクロ)地名を抽出できました。

千葉県の「轆轤(ロクロ)」小字分布

2 例 旭市横根の小字「六郎木工」

旭市横根付近の大字分布を示します。 横根に小字「六郎木工」が存在します。

千葉県郷名分布図をGISに取り込んだ様子(大字横根付近)

この付近は砂鉄の産地です。

参考 千葉県の砂鉄産地
植野英夫「明治以降の千葉県における砂鉄採取について」(千葉県立現代産業科学館研究報告第18号、2012.03)から引用

砂鉄産地であること、および古代遺跡情報などから、小字六郎木工に関して次のような想定を行うことができました。

旭市横根の小字六郎木工に関する想定

●小字「六郎木工」は台地上製鉄遺跡に海岸で採取した砂鉄を運び揚げる運搬用装置としての轆轤(ロクロ)に由来する可能性が高いと考えます。

現代の機械でいえばクレーンということになりますが、古代では低地と台地面の間の急斜面において、轆轤を使って人力で砂鉄を引っ張り上げたと想定します。

●木工(モツコ)は砂鉄を入れる運搬用具としてのもっこ(むしろなどで作る)を意味すると考えます。

●大字横根と三川の得意な形状は、砂鉄採取地とタタラ製鉄施設を含む古代の特定開発地域を示すと考えます。

●大字横根が海上郡、大字三川が匝瑳郡という邨岡良弼の説は再検討が必要であると考えます。


3 例 長南町蔵持の小字「六郎谷」

長南町大字蔵持と長南(宿)に小字「六郎谷」があります。

轆轤(ロクロ)地名が存在する大字「蔵持」=車持と「長南(宿)」
「千葉県地名変遷総覧(千葉県立中央図書館編)附録千葉県郷名分布図(邨岡良弼著日本地理志料による)のGISプロット

大字蔵持(クラモチ)は古代部民の車持部(クルマモチベ)の車持から転じた名称であると考えます。(角川千葉県地名大辞典による)

この付近は東京湾と太平洋を繋ぐ古代船越の位置にあたります。

長南町蔵持付近の地形

古代船越付近の地形

この付近の地形を分析して、次のような古代船越の運搬手段を想定しました。

古代船越付近の地形断面と運搬手段の想定
地形断面図は10mメッシュを使って、GISソフト地図太郎PLUSの機能を使って作成

A-Bは低平、B-Cは緩傾斜、C-Dは急傾斜、D-Eは低平という地形になっています。

この地形から船越における運搬手段はA-Bは曳舟、B-Cは車、C-Dは轆轤(ロクロ)、D-Eは曳舟であると想定しました。

旭市横根では砂鉄を海岸から台地に引きずり揚げる際に轆轤(ロクロ)を使いましたが、長南町蔵持でも同じく重量物を太平洋側から東京湾側に引きずり揚げるために使ったのだと思います。

なお、急斜面からすこし離れて長南(宿)にも小字六郎谷がありますから、その地名は轆轤(ロクロ)作業に従事する人夫の宿泊場所を表していると考えます。

2016.06.26記事「車持部と轆轤(ロクロ)地名」参照

2016年7月11日月曜日

試用に基づく千葉県小字データベースの改良点

鏡味完二の地名型検討(予察検討)に作成したての千葉県小字データベース(小字数94000)を試用して、データベースとしての問題点を把握し、その改善や改良方向をまとめてみました。

試用により問題点の多くは改善されるか、改善できる目途が立ちました。

1 千葉県小字データベースの問題点

1-1 図書から電子化する際に生じた誤り

図書(角川千葉県地名大辞典)から電子化する際に次のような誤りが生まれました。

試用のなかで判明した誤りは、そのタイプ毎に同様に誤りを全体を対象に検索により見つけ出し、訂正する作業を逐次しています。

大きな誤りはほとんど無くなっています。

・語の誤り例(誤と正が反転する場合もある)

誤   正

エ   工
ー   一
ニ   二
ロ   口
カ   力
,    、
千   干
タ   夕

・その他
レコードの重複
表記とルビのズレ
など

1-2 電子化できない漢字

難字や創作した漢字があり、電子化できないため現在は〓で表示しています。
今後このままの表記〓にするか、類似の漢字で代用するか検討します。

現在47小字の文字の中に〓を当てています。

1-3 図書に内在する誤り

図書では市町村から集まった資料は誤りと考えられるものが含まれていてもそのまま掲載したと断っています。

電子化作業中に誤りと考えられるものがあっても、訂正するべきか否かの基準をつくることが出来なかったので、現在は図書に含まれているもともとの誤りは訂正していません。

今後市町村資料等によって確実に訂正できる誤りは訂正する予定です。

1-4 図書に内在する不都合

ルビが全て欠如している市が2市(船橋市、習志野市)あるほか、ルビが欠如している小字が散見されます。

ルビ欠如小字は船橋市と習志野市で合計1505、その他の市町村で63あります。

ルビ(よみ)による検索は地名に関して大変価値の高い検索であり、今後市町村資料等により船橋市、習志野市はもとより、他市町村についてもできる限り補正(追記)する予定です。

2 千葉県小字データベースの改良方向

大字の位置情報を取得(作成)し、小字レコードにそれを付与することにより、アドレスマッチングという操作をしないでそれと同等のGISプロットが直接できるようにします。

大字の位置情報は現在の「大字町丁目位置参照情報」(国土交通省国土政策局国土情報課)を基本にして、戦後の大幅な大字変更域は古地図(千葉県管内実測全図(1885))等を参考に補正して行う予定です。

参考 千葉県の「大字町丁目位置参照情報」全情報(5507)のGISプロット

情報は国土交通省国土政策局国土情報課からダウンロード



2016年6月30日木曜日

私家版千葉県歴史・地名GISデータベースの構築

私家版千葉県歴史・地名GISデータベースの構築が現実化しつつあります。

これまでこのブログでは主なものとして次のデータベースを使ってきました。

千葉県遺跡データベース
千葉県墨書土器データベース
千葉県小字データベース

これら3つのデータベースを個々別々に使うのではなく、GIS上で連動させて、空間上でこれら3つのデータを同時に閲覧(情報取得)できるようにすれば、これまで気が付かなかったことに気が付くことができると考えます。

そこで、この記事では私家版千葉県歴史・地名GISデータベースの構想を検討してみます。

1 データベースの現状と課題
1-1 千葉県遺跡データベース

ふさの国文化財ナビゲーションサイト(千葉県教育委員会)から遺跡に関する次の情報をダウンロードして利用しています。

遺跡数(不明を除いたデータ)は約19500です。

ダウンロードできる遺跡情報項目

またサイトにはGIS画面が表示されていて、遺跡の位置情報を個別に知ることができます。
ブログ花見川流域を歩く番外編2016.09.06記事「遺跡のGIS用位置情報取得方法(千葉県)」参照

私のパソコン内部ではこのデータベースがほぼ出来ていて位置情報を含むリストがFile Makerファイル(データベースファイル)となっています。

現在は次のような使い方をしています。

知りたい情報(例 奈良・平安時代遺跡を知りたい)をFile Makerで検索します。

その検索結果をcsvファイルで出力します。

そのcsvファイルをGIS(地図太郎PLUS)で開いて図示して利用します。

奈良・平安時代遺跡プロットを利用した例

奈良・平安時代遺跡プロット画面を千葉県全体に広げると次のようになります。

遺跡データベースの利用の仕方は大元のFile Makerファイルで必要な検索をして、その結果をcsv出力して、それをGISに(地図太郎PLUSならば「他形式を編集レイヤーの読み込み→csvファイル(経緯度座標系)」で)インポートすることになります。

インポートした遺跡の情報項目は工夫すればプロット地点に表示させたり、カーソルを合わせれば表示させるなどができます。GIS画面上で一覧表を表示させることも可能です。

大元のFile Makerファイルの検索と出力機能はExcelやAccessとは比べものにならない使い勝手の良さがあり、自分はFile Makerが必須だと考えています。

●課題 1
このデータベースは既に実用していますが、現在最終調整して完成度を向上させています。

●課題 2
「千葉県の歴史」に収録されている銙帯リスト等の各種遺物・遺構リストをこのデータベースの下位に関連付けます。

1-2 千葉県墨書土器データベース

明治大学日本古代学研究所サイトからダウンロードした千葉県墨書土器データベース(本編、補遺1、補遺2)を利用しています。

データ数は次の通りです。
本編 21049
補遺1 1447
補遺2 4847
合計 27343

このファイルはFile Makerファイルです。

次のような多様な項目のデータベースであり、画像が含まれ、レコードは土器(片)単位です。

墨書土器データベースの項目・画面

●課題
このデータベースには位置情報がありません。
しかし遺跡名称が項目にあります。一方ふさの国文化財ナビゲーションの遺跡データベースには遺跡名称と位置データがあります。

ですから同じFile Makerファイルですから遺跡名称でリレーションすれば墨書土器データベースに位置情報を付加することができます。

個々の土器片の場所を示す位置にはなりませんが、広域の検討では有力な位置情報になります。

試行して行った結果から次のような墨書土器分布図を作成しています。

千葉県墨書土器出土分布図

特定墨書文字の出土状況をデータベースから検索して、その結果をExceファイル出力して、それを状況(遺跡別出土数など)に応じて調整して、csv出力してGISにプロットできるように原理的にはできるようになりました。

現在その使い勝手を改善中です。

1-3 千葉県小字データベース

角川千葉県地名大辞典附録小字一覧をこのブログで電子化してFile Makerファイルとしたものです。

小字数は約94000です。

情報項目は次の通りです。

千葉県小字データベース(File Makerファイル)の項目
・小字
・小字よみ
・大字
・大字よみ
・市町村
・市町村よみ
・区
・区よみ
・所在地表記
・備考(旧市町村等)

現在は位置情報がないため、所在地表記を利用したアドレスマッチングで分布図を作成しています。

アドレスマッチングを利用した小字プロットの例

●課題 1
明治年間の大字分布図などの存在を知り、大字の位置情報作成が可能であることが判ってきましたので、今後大字(約2950)の位置情報をデータベースに加えて、いちいちアドレスマッチングにたよらないで空間表示ができるようにするつもりです。

小字の詳細な位置情報作成については、花見川流域近隣地域で試行して、その技術的方法を検討するとともに、小字分布図の収集についても検討を始める予定です。

●課題 2
既に作成してある古代郡郷リスト(と分布図)や荘園リスト等を地名データベースの下に関連付けます。

●課題 3
資料を使った作業の効率化を図るため市町村変遷リスト(分布図)をこのデータベースの下位に関連付けます。


2 遺跡データベースと小字データベースのGIS上での連動方法

遺跡データベースと墨書土器データベースは遺跡名称という共通項目で原理的にリレーションできます。

一方、これら二つのデータベースと小字データベースは共通項目がないので現状ではリレーションできません。

現状ではGIS空間上で視覚的にその関係を確かめることになります。

今後遺跡データベースで遺跡の関連大字を項目化すれば、その大字名称を軸にリレーションできるようにすることが可能です。その技術的方法を今後検討することにします。