2017年9月15日金曜日

西根遺跡 焼骨の意味に関する検討

西根遺跡出土焼骨の意味について様々な可能性を検討することの必要性を感じるようになりましたので、今後の検討方向をメモしておきます。

1 焼骨出土状況
西根遺跡には7か所の土器集中地点がありますが、そのうち5カ所の土器集中地点の土器密集部に対応して焼骨(獣骨)が出土しています。


土器重量と焼骨出土の対応 例
土器重量は密集部(最大分位 赤)のみ表示
 
焼骨の量は全体で1.5㎏で、その特徴は発掘調査報告書で次のように記載されています。
1 短時間に強い熱を受けたと考えられ、色調は灰白色ないし灰黒色を呈し、変形や損傷が著しい。
2 動物相が単純である。(ほとんどがイノシシとシカ)
3 同定可能な遺存体の中に占める頭骨の割合が低い。
4 推定年齢の若い遺存体が相対的に多く同定された。

出土焼骨例 発掘調査報告書から引用

焼骨の意義について、発掘調査報告書ではつぎのように記述しています。
「当時、何らかの必要があって、若齢個体を含むイノシシおよびシカの骨を焼く習慣があった可能性は今後検討する必要がある。」

2 これまでの検討
このブログにおける西根遺跡焼骨検討(見立て)の概要は次のようなものです。
・飾り弓と焼骨が出土していて、かつ若い動物が多く、頭骨が少ない状況から、またイナウと仮説する丸木が出土していることから、イオマンテ類似祭祀が行われ、焼骨は獣肉食の跡であると考える。
(若い動物を飾り弓で射る(送る)祭祀を行い、殺した動物の頭はイナウに飾り、体部は祭祀参加者で食べ、残った骨は焼いて祭祀場中央部(土器密集部)に撒いたと空想しました。)

3 焼骨検討に関する問題意識を深めた学習
最近、焼骨に関する専門的検討文献として「西野雅人・服部智至(2016):横芝光町中台貝塚出土の動物遺体、千葉縄文研究6」を千葉市埋蔵文化財調査センター所長の西野雅人先生からいただき学習する機会を得ました。
この文献では焼骨の事例と用例について幅広く検討が行われていて、特に骨灰に関して縄文時代に活用でき得たものとして、壁や床の補強材・装飾・調湿、低地の地盤改良、肥料、灰汁抜き、獣皮処理(漬け込みで毛が抜けやすくなる)などがあるとしています。

また、次のような現代の利用例を挙げて、こうした参考情報を踏まえて骨灰について検討すべきであることが指摘されています。
骨灰(ハイドロキシアパタイト)の現代の利用例
医療:歯科治療、骨や筋肉の増強・炎症予防、人口骨、男女産み分け
食用:ベーキングパウダー、フルーツの糖度向上
工業・建築:内外装工事(防水・調湿)、研磨剤、陶磁器、重金属吸着
その他:肥料・飼料、酸性土壌中和
「西野雅人・服部智至(2016):横芝光町中台貝塚出土の動物遺体、千葉縄文研究6」から引用

焼骨とは水で洗って発掘した結果であり、焼骨の実体が骨灰であると考えると、この論文の視点つまり骨灰の物質特性に着目する視点から西根遺跡焼骨に関して検討を深める必要があります。

4 西根遺跡焼骨の意味に関する可能性
上記文献学習からインスピレーションを得て、次のような項目について検討を深めることとします。

ア 焼骨(骨灰)が動物の送りであると考える。
アイヌに灰塚があり、モノを燃やした灰も1個所に集め丁寧に送るという習俗があります。この習俗と同じで、イオマンテ類似活動の結果として食した獣の骨を灰になるまで焼いて一カ所に撒き、獣を送ったと考えます。(このブログのこれまでの見立て)

イ 焼骨(骨灰)散布により祭祀場を装飾する。
アとともに、骨灰散布により祭祀場を白く染めるという装飾効果があったかもしれません。

ウ 焼骨(骨灰)散布により祭祀場の地盤を固める。
ア、イととともに一緒にその効果を狙った可能性として、骨灰散布により祭祀場の地盤を固めて祭祀をしやすくした可能性が考えられます。

エ 焼骨がトチの実アク抜き用添加剤であった可能性
ア~イの発想と根本的に異なる焼骨(骨灰)機能の可能性として、トチの実アク抜き用添加剤であったことが考えられます。この思考はこれまで自分が見立てた遺跡意味とは大幅に異なるものです。

この可能性について次のようなイメージを持ちました。
「焼骨はトチの実アク抜き用添加剤」の可能性
●焼骨は大量骨灰の中に含まれていたと考える。
●発掘作業の水洗作業で大量灰は全て失われ、少量の焼骨のみが採取されたと考える。
●焼骨を含む骨灰は加曽利B式土器の中に入れられてトチの実等堅果類のアク抜き剤として使われた。つまり、骨灰はトチの実等を煮沸する時のアク抜き用添加剤であると考える。
骨灰の中に混じる焼骨の生焼け部分から骨髄エキスが出て、トチの実に味付けする効用も考えられる。
●アク抜き煮沸用加曽利B式土器が壊れて廃用になった時、土器底に貯まった(こびり付いた)骨灰は洗い流されることなく西根遺跡に持ち込まれた。
●土器は全て破壊されるので、土器内部の骨灰は土器周辺に飛び散り土器と一緒に堆積したような層相(骨灰が撒かれたような層相)がうまれる。
●トチの実アク抜き作業は集落で行われたので、アク抜き剤としての骨灰(焼骨)も当然ながら集落でつくられた。

この可能性をもし仮説として採用すると、これまでの自分の見立てとは大きく異なるので、自分の作ったストーリーに様々な不都合が生れます。

焼骨の根本意義を祭祀に置くかつまりア、イ、ウで考えるか、それとも主食生産用添加剤として見るかつまりエで考えるか、大きな岐路に立たされてしまいました。

この岐路を越えると、自説の正しさにますます自信を深めるか、自説を放棄する苦しみ(恥ずかしさ)と引き換えに新たな価値を社会に提供できるような仮説を構築できるかのどちらかが待っていると期待します。ワクワク、ドキドキです。

じっくり学習を深めて行くつもりです。

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追記 2017.09.17
「焼骨はトチの実アク抜き用添加剤」の可能性についてワクワク、ドキドキしながら焼骨について検討をはじめたのですが、検討を始めたとたんにその可能性は無くなりました。
2017.09.16記事「西根遺跡 焼骨はどこで焼かれたか」参照

自説の正しさにますます自信を深める結果となりました。
2017.09.17記事「西根遺跡 焼骨出土状況の詳細とその考察」参照

自身の内部で密かに期待した(?)どんでん返しがなくなり、寂しい(?)気持ちもありますが、「添加剤説」が一種の触媒となって自分の思考を刺激し活性化させています。

自説の正しさに自信を深めることができたことは良いことです。

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