2012年12月24日月曜日

無償強力調査ツール パソコン画面上の空中写真実体視法

おそらく地理や地形地質など地域に関わる調査研究者はだれでも行っていると思いますが、お金のかからない、即時情報入手可能な、パソコン画面上における空中写真実体視法を紹介します。

私は偶然この方法を発見し、どうしてもわからなかった事柄が空中写真実体視で氷解したことが何度もあります。
調査したい対象をお持ちの方ならば、今すぐ利用できる無償強力調査ツールです。活用しない手はありません。

2012.12.18記事「覆土秘匿前のトーチカの姿を米軍空中写真で見る」のコメントで、海老川乱歩さんから空中写真実体視の方法について知りたい旨質問がありましたので、私が実行している方法を以下に書きます。
空中写真の専門家等の方とこの方法について話したことはありませんので、もっと効率的、効果的な方法があるかもしれませんので、その点はご容赦ください。

なお、終戦直後撮影の米軍空中写真を対象に話を進めます。

ア 用意するもの
1 面積の大きいパソコンディスプレイ
パソコンディスプレイ上で空中写真を2枚用意して実体視するので、大型のディスプレイがあった方が作業領域が広がり、作業しやすいと思います。
私は真ん中に24インチ、両端に27インチの3枚のディスプレイを使っていて、空中写真実体視は真ん中の24インチディスプレイを利用しています。
空中写真判読そのものはディスプレイは1枚でも全くかまいません。しかし、前後の作業をするスペースが別の画面としてあると重宝です。(心理的ストレスも減少します。)
作業空間が手狭になることを覚悟すれば、小さいディスプレイ1つでも作業を行うことはできます。

(一般論としてパソコンの画面を2画面、3画面にすることをお勧めします。画像を扱う場合や多種資料を扱う場合は、1画面よりも作業効率が数段階アップします。図面を広げたり、多量の資料を扱う仕事を狭い机でする場合と、広い机で行う場合とでは作業効率が大きく異なりますが、デジタル作業でも全く同じです。)

2 2枚の画像を別々に表示できる画像ソフト
画像の切抜ができる機能と2枚の画像を別々の画面で表示し、それぞれを同じ比率で拡大したり、縮小したりできる画像ソフトを用意します。
私は当初フォトショップ使い、最近ではイラストレーターを使っています。

詳しい説明は省きますが、画像の切抜ができるソフトとエクセルだけでも大丈夫だと思います。
エクセルを2画面立ち上げ、それぞれに張り付けた画像(空中写真)を同じ比率で簡単に拡大縮小できるテクニックを見つければ(おそらくすぐ見つかると思います)、シンプルなだけに、もしかしたらフォトショップやイラストレーターより使い勝手がよいかもしれません。

イ デジタル空中写真のゲット法
国土地理院WEBページの「国土変遷アーカイブ 空中写真閲覧」に行き、「空中写真を見る」をクリックします。
http://archive.gsi.go.jp/airphoto/

現在公開されている次の空中写真デジタル画像を閲覧できます。
1936年1月~1945年12月撮影:約 17,000枚
1946年1月~1960年12月撮影:約151,000枚
1961年1月~1970年12月撮影:約160,000枚
1971年1月~1980年12月撮影:約428,000枚
1981年1月~1990年12月撮影:約161,000枚
1991年1月~2000年12月撮影:約 91,000枚
2001年1月~2010年12月撮影:約205,000枚
2011年1月~2011年12月撮影:約 27,000枚

このWEBにおける各種検索機能を使って例えば次のような画面に到達します。
この画面は米軍空中写真(USA-R2769-95)の画面です。

米軍空中写真(USA-R2769-95)の画面

この画面で画像解像度200dpiをクリックします。
クリックすると拡大された空中写真が表示されますが、ctrlキー+マイナスキーあるいはWEB閲覧ソフトの拡大縮小機能を利用して、写真全体が画面に表示されるようにします。

次のような画面にします。

200dpiによる空中写真の画像

この画面になったら、altキー+prtscnキーを押します。この画面だけをパソコンのクリップボードに保存したことになります。
次に何らかの画像ソフトを立ち上げ、新規画面をつくりクリップボードから情報を書き込みます。
(フォトショップでは、ファイル→新規→ok→ctrlキー+Vキー)
次に、画像ソフト上で、書き込んだ情報の本来の空中写真部分を切抜きファイルとして保存します。

切り抜いた空中写真

これで、200dpiのデジタル空中写真を1枚ゲットしたことになります。
続いて、この空中写真の左右いずれか隣の空中写真についても同じ操作を繰り返します。

隣り合わせの2枚の空中写真の重なる部分が実体視可能な範囲です。

ウ デジタル空中写真の実体視法
空中写真の実体視を行っている時のパソコンディスプレイ画面です。
空中写真の実体視を行っている画面

この画面で、右の画面は右目、左の画面は左目で見ます。
確実にそうするために、最初は、画面中央で視線が交錯しないように、衝立になるような物(紙など)を障害物として鼻の先に持つことも有効です。
左右の目で見た画像で同じ特徴地物や模様に着目して、それが重なるように目を動かします(眼球運動)。
左右の同じ特徴地物や模様が重なった瞬間に実体視が成立します。
その時、凹凸が眼前に、印象上は突如広がりますので、実体視できているかいないかわからないという状況はありません。比喩ではなく、字義通りの意味で次元の異なった映像に変化します。

実体視がなかなかできない時は、一方の空中写真画面をマウスで左右どちらかに少し動かして実体視しやすくするような工夫も必要です。
疲労している時はなかなか実体視できないこともあります。
一度実体視ができれば自転車運転、水泳のようにいつもできるようなります。
早い人で5分くらい、遅い人でも15分くらい試行錯誤すればできるようになると思います。

書店に「目を良くする」というキャッチフレーズでカラー刷り模様の立体視専門の本がいくつも出ています。
このような本を立ち読みして立体視の練習をすれば、空中写真の実体視も同じことですから、コツがはやくつかめるかもしれません。

写真を左右入れ違えると、谷が凸、尾根が凹の反転した実体視になります。

エ 実体視における拡大縮小、判読結果の記入
画面上で2枚の写真を同じ割合で拡大・縮小して、それに合わせて画像の配置を実体視できるように変えれば、より詳細の凹凸、あるいはより広域の凹凸がわかります。
これは印画紙印刷空中写真ではできないことです。
実体視しながら、一方の写真に判読した結果をマウスを使って線等で記入することも工夫次第でできます。

オ 超精密作業は印画紙印刷空中写真を購入して自分でスキャンする
国土地理院のWEBサイトから入手できる空中写真の画像解像度は200dpiが限界ですから超精密な作業はできませんが、一般的には空中写真を購入しないで、WEB画面から情報を入手して、それで事足りることが多いと思います。
今回の戦争遺跡予備調査ではWEBからゲットしたデジタル空中写真では拡大していくと画像が荒くなり、自分の望む結果が得られないので、印画紙印刷写真を国土地理院から購入しました。
スキャンは自分の持っているスキャナーの最高画像解像度である1200dpiでスキャンしました。
1枚スキャンするのに10分かかりました。
こうして作成したデジタル空中写真を64倍に拡大して実体視し、トーチカ本体の姿を見つけました。
空中写真を64倍に拡大するという行為は使った画像ソフト(イラストレーター)の画像拡大機能の最大値を使ったものであり、自分にとっては初めての極限に挑戦するような行為でした。
空中写真を64倍に拡大すると1枚だけではぼんやりした画像ですが、実体視すると詳細なところまで物の形状、凹凸がはっきり認識できます。

カ 余談
このようにして空中写真を実体視して、自分自身はトーチカの3D形状がよくわかるのですが、それを他の人に生き生きと伝える方法が見つかりません。
今回、トーチカの形状を簡単な線画で表現しています。
作業労力配分上そこまでしかできません。
本当は微細な影等を書き込んだ3Dスケッチを作成したいのです。しかし、それはかなりの労力と(私が未習得の)テクニックが必要となります。
自分が実体視したその立体感覚そのものをデジタル情報として切り取り、そのまま他人に提示できるような方法が見つからないものか、思案している今日この頃です。
要するに、2枚の空中写真から対象物のデジタルモデルを瞬間的に作成する方法の出現を希望しているのです。

2 件のコメント:

  1. 海老川乱歩です。

    「空中写真実体視の方法」のご指導ありがとうございました。

    何か「スゴイツール」でも使用して合成写真を作成するのかと
    思っていましたので、正直拍子抜けしました。(すいません)
    左の画像は左目で見て、右の画像は右目で見るのは簡単かと思いましたが、
    やってみると普段は両目で1点を見ていますので難しいですね。
    ちょっと訓練が必要なようです。
    クーラーさんのおっしゃるとおり、衝立を鼻の所に持って来れば、
    できそうな気がします。できるまでがんばります。

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  2. 海老川乱歩さん
    拍子抜けさせて失礼しました。

    2枚の写真から地物のデジタルモデルを作成する技術(写真測量技術)の講習会を今年の秋に受けてきましたので、それも参考になると思いますので、追って記事にします。

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