2018年7月7日土曜日

縄文時代野外調理場

縄文時代野外調理場の可能性のある場所について大膳野南貝塚後期集落を対象に思考した結果をメモしておきます。
2018.07.05記事「縄文時代の煮炊き調理場所はどこか」で竪穴住居の炉で調理が行われていたことを確認しました。しかし、調理といっても簡易な調理しかイメージできないこともわかりました。少なくとも大型土器を使った調理は炉の構造からして不可能です。強い火力も屋内では制限されていたと考えざるをえません。小林達雄の言うように天候が許せば縄文人は野外でのびのびと料理をして食事をとっていたと考えることもできそうです。
このような検討から、縄文人が野外で調理をするとすればそれはどこであるか予察してみました。
野外調理場であるならば、そこから焼土がでているにちがいないという考えから、焼土を指標に遺構を検索して検討してみました。

1 屋外漆喰炉
大膳野南貝塚後期集落では、覆土に多量の白色~灰褐色粘質土を含有する土坑状の掘り込みが、住居外から8基検出され、いずれも焼土堆積を伴っていて屋外漆喰炉として報告されています。屋外漆喰炉は野外における共同調理の場であり、それは共同の食事場であることを意味していると考えられます。
屋外漆喰炉の最大の特徴は埋甕を伴うことです。埋甕は炉内の大型土器固定具であると想定できます。この固定具を設置することにより屋内炉では不可能である大型土器を使った調理が可能となります。また屋外ですから強い火力を実現することもできます。
なお、炉の面積が広く同時に複数の小型土器を使った調理も可能であったと考えられますが、炉の中央に埋甕があることから屋外漆喰炉の主要機能は大型土器による多量食材の同時調理であると推察できます。この推察から日常の食事はその屋外漆喰炉に集まる複数家族が一つの土器で調理してそれを分け合って食べていたとする共同調理・共同食事のイメージも検討俎上に上げてよいと思います。竪穴住居毎(家族毎)の食事ではなく、集団の食事が行われていた可能性が濃くなります。このイメージが正しければ、食事はいつも野外(屋外漆喰炉)になり、屋内炉の調理機能は虚弱なものでよいことになり、実際に出土する屋内炉と一致します。小林達雄の説「屋内炉の意義は象徴性・聖性」「食事は野外」とも整合します。

埋甕(=大型土器固定具)を利用した調理イメージ 大膳野南貝塚発掘調査報告書から引用・編集・加筆

屋外漆喰炉の分布
漆喰貝層有竪穴住居住人の野外調理場を見つけることができました。
漆喰貝層無竪穴住居住人の野外調理場は別に見つかると予想します。

2 竪穴住居
覆土層から焼土が検出される竪穴住居は93軒中21軒です。

覆土層から焼土が出土する竪穴住居
しかし、後世の削平で住居壁が無くなっていて覆土層が存在しない竪穴住居が沢山あります。その後世削平の影響を除くため住居壁が一部でも残存する竪穴住居について焼土の有無を集計しました。

住居壁がある竪穴住居の焼土の有無
ほぼ半数の竪穴住居に焼土が認められます。この情報から竪穴住居が廃絶すると少なくても半数の竪穴住居では焼土がつくられて可能性を推察できます。
竪穴住居の焼土では4軒については環状焼土とよばれる祭祀に関わる焼土が出土しています。それ以外の竪穴住居焼土例を次に示します。

J47竪穴住居焼土粒出土の様子
焼土粒が出土する土層が竪穴住居全体に広がり、その上を貝層がまるで蓋をするように堆積しています。この竪穴住居から獣骨(イノシシ等)が出土しています。
焼土が出土する多くの竪穴住居では焼土が下層あるいは中層層、貝層が上層というパターンがみられます。
焼土の存在とそれを蓋する貝層の存在は全体として竪穴住居廃絶祭祀として捉えることができると考えます。ここで焼土の存在を調理の跡であると捉えると次のような想定が可能になります。「竪穴住居廃絶後のある期間調理を伴う祭祀が行われた。その調理を伴う祭祀は長期間に及ぶので竪穴住居敷地全部に焼土粒が堆積するほどであった。」つまり廃絶祭祀における調理を伴う祭祀とは、事実上日常の食事行為に他ならなかったと考えます。
そしてある期間の後、その場を貝層で埋めて(蓋して)廃絶祭祀を区切ったのだと考えます。
焼土を伴う竪穴住居の数は多いので、竪穴住居祉が縄文人の野外調理場、野外食事場の一つであったと考えることが出来そうです。

3 土坑
後期集落土坑264のうち14から焼土粒が出土します。ほとんどが焼土粒が微量の出土であり、調理の場として使ったとしてもその意義は大きくないように感じられますが、416号土坑だけその様相が異なります。土坑内にピットがあり表面に焼土粒を含む黒褐色土が観察できますが、そのピットを大型土坑を固定するための受け口(装置)と考えると、大型土坑を調理具とした炉である可能性が生れます。隣接するより古い土坑からも焼土粒が出土しています。
現在の知識ではこの土坑が野外調理の場であると断定できませんが、漆喰貝層無竪穴住居住民の大型土器調理用の野外炉である可能性があるので記録しておきます。

416号土坑 焼土粒出土の様子

416号土坑の想像

参考 416号土坑

焼土記載のないピット付土坑はかなりの数があるので、焼土が見つからなくても漆喰貝層無竪穴住居住人の野外調理場であるという特別の理屈が生れれば、野外調理場(野外炉)が多数発見できる可能性もあります。
地面に土器を埋めて、その周りで火を焚いて調理した場合、調理が終われば燃えた土を掘り返して(つまり焼土を回りにどけて)土器を取り出します。つまり調理終了後の焼土は土坑脇すぐですが土坑外に移動します。このような事情から焼土を指標にすると漆喰貝層無竪穴住居住民の大型土器用野外調理場を見つけることが困難なのかもしれません。


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