ゾーン区分推定を念頭に遺物検討を行えば、その解釈がより深まると考えます。
逆に遺物検討かゾーン区分推定をより合理的に修正することができます。
集落ゾーン区分とは集落を構成する小集団の生活領域をイメージします。
2016.08.17記事「上谷遺跡 遺構分布図作成」で竪穴住居、掘立柱建物、土坑の分布図ヒートマップを作成しました。
ヒートマップ作成に分布特性の操作性が高まりましたので、これを利用して集落ゾーン区分推定を行います。
1 遺構からみたゾーン区分
1-1 竪穴住居からみたゾーン区分
竪穴住居ヒートマップの赤い部分(竪穴住居が集中している部分)に○を書き、北から順番にA、B、C…をふりました。
上谷遺跡 竪穴住居からみたゾーン区分
竪穴住居の分布が6つの塊として把握できるのですから、この区分自体を集落ゾーンとして推定することも可能だと考えられます。
萱田遺跡群の発掘調査報告書では風景的に竪穴住居が密集している部分によりゾーン区分していますが、ヒートマップを使った区分はその風景的方法から主観性排除を進めたより合理的方法であると考えます。
1-2 掘立柱建物からみたゾーン区分
掘立柱建物ヒートマップの赤い部分(掘立柱建物が集中している部分)に○を書き、北から順番にa、b、c、dをふりました。
上谷遺跡 掘立柱建物からみたゾーン区分
aとbは隣接して、cとdも隣接して分布するという、対分布が集落内に2個所存在するという特異な分布になります。
同時にa・bよりc・dの方が高密集になっています。
このデータを利用して集落ゾーン推定を行う際に、掘立柱建物が集落内でどのような機能をもっていたかという事前想定が大切になります。
このブログでは近隣の船尾白幡遺跡で掘立柱建物が蚕小屋であったことを付きとめていますので、当座の検討ではそのようなイメージを参考として利用するとこととします。
掘立柱建物のメイン機能の一つが養蚕施設およびその関連施設(製糸、機織り、縫製、製品貯蔵)であったと仮説して検討を進め、その仮説真否の検証も行います。
同時に掘立柱建物が蚕小屋であったという例から発想を拡大させて、掘立柱建物が漆器作成施設であった可能性も想定します。
乾漆作業は繊細な作業であり、同時に付加価値の高い作業でもあるので家族が暮らす竪穴住居ではなく、専用作業場としての掘立柱建物で作業していたと考えるほうが合理的です。
掘立柱建物は作業場・生産工場・労働の場、竪穴住居は家族の生活の場、食事や就寝・休息の場と対比させてイメージしておきます。
1-3 土坑からみたゾーン区分
土坑ヒートマップの赤い部分(土坑が集中している部分)に○を書き、北から順番に1、2、3をふりました。
上谷遺跡 土坑からみたゾーン区分
1→2→3の順に土坑の密集性が高まります。
ただし、発掘調査報告書を読むと3付近では掘立柱建物の中穴である可能性の高いものも土坑として分類してあると書かれていますから、割り引いて考える必要があると思います。
土坑の機能にはいろいろあると思われ、今後具体的に検討したいと思います。
しかし、2が掘立柱建物密集域と離れていて竪穴住居密集域と隣接している事実に着目すると、土坑全体の機能は掘立柱建物より竪穴住居により強く関連しているように推察できます。
1-4 遺構ゾーン区分の重ね合わせ
以上の竪穴住居、掘立柱建物、土坑のそれぞれから見たゾーン区分を重ね合わせてみました。
上谷遺跡 遺構ゾーン区分重ね合わせ
この重ね合わせ図から次の対応を観察することができます。
……………………………………………………………………
竪穴住居-掘立柱建物
A-a
B-b
CD-c
EF-d
……………………………………………………………………
竪穴住居-土坑
A-1
CD-2
EF-3
……………………………………………………………………
竪穴住居(居住)と掘立柱建物(生産)の対が4つあり、さらにその4つの対が2つに集合しているという階層構造が観察できます。
1-5 集落内ゾーン推定
以上の検討(観察)から上谷遺跡集落内ゾーンを推定すると次のようになります。
上谷遺跡集落内ゾーン推定図
上谷遺跡は北ゾーンと南ゾーンに大きく2分して捉えることができます。その2分は掘立柱建物の2つの密集と対応しています。
北ゾーンと南ゾーンのそれぞれとも2つの竪穴住居群-掘立柱建物群ユニットから構成されます。
ただし、南ゾーンの竪穴住居群-掘立柱建物群ユニットの場合、竪穴住居群がさらにそれぞれ2つに分割して観察できます。
北ゾーンと比べて南ゾーンの勢力(竪穴住居や掘立柱建物の数量)が大きかったことが明白です。
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