2025年11月26日水曜日

斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

 Artifact Distribution Hypothesis in Sloping Shell Layers: Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope.


I made a note of the artifact distribution hypothesis in sloping shell layers: "Larger artifacts tend to be distributed lower down the slope." While conducting 3D spatial analysis of bones, pottery, and other artifacts in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, I finally arrived at a highly plausible artifact distribution hypothesis.


斜面貝層における遺物分布仮説「大きい遺物ほど斜面下部に分布する」をメモしました。有吉北貝塚北斜面貝層における骨や土器など遺物の3D空間分析作業をする中で、確からしさを強く感じる遺物分布仮説にようやくたどり着きました。

1 斜面貝層における遺物分布仮説 -大きい遺物ほど斜面下部に分布する-

有吉北貝塚北斜面貝層を事例に、次の仮説を設定しました。

1-1 仮説結論

斜面貝層では遺物が斜面上部から投棄され、重力及び葡行現象(クリーピング)で斜面下部に移動する。

斜面傾斜は安息角に近いあるいは同等(35度~40度)であるため、形状の大きい遺物ほど下方への移動量が大きい。

斜面プロセス

・大きな貝殻や大きな遺物ほど斜面表面に露出しやすい

・斜面で露出すると転がりやすく、重力でより下方へ移動しやすい

・結果として斜面下部に大柄の貝殻、大柄の遺物が分級されて堆積する。

1-2 仮説の基礎となる遺物移動原理 葡行現象

●葡行現象

斜面の貝殻・遺物は長期にわたる葡行現象で斜面下方に移動する。

葡行現象は冬季霜柱と動物・人の踏圧等で生じる。

1-2-1 緩慢な移動

冬季霜柱により斜面の垂直方向に貝殻・遺物が上昇する。日中の霜柱融解で貝殻・遺物は鉛直方向に下方移動する。このため貝殻・遺物は斜面下方に移動する。長期にわたる冬季霜柱の影響で貝殻・遺物は緩慢に移動する。

1-2-2 急激な移動

斜面は安息角に近いあるいはそれ以上の急斜面であり、冬季霜柱による微細移動をトリガーとして局所的な小崩壊・滑り(急激な移動)が頻発する。

「持ち上げ → 支えを失う → 安息角を超える → 一気に短い表層すべり」

動物や人の踏圧、強風、豪雨、地震等でも同じ小崩壊・滑り(急激な移動)が発生する。

葡行現象に伴う急激な移動(崩れトリガー)で、遺物は下方へ大きく移動する。

1-2-3 大きな貝殻・遺物の選択的移動

小さい貝殻や遺物は大きい貝殻や遺物の間に紛れ込むので、斜面では大きな貝殻や遺物ほど表面に浮かび上がる。つまり大きな貝殻・大きな遺物ほど表面に露出しやすくなる。そのため葡行現象の影響を受けやすくなる。一方、小さな貝殻や遺物は地表面から沈むので葡行現象の影響を受けにくくなる。従って、大きな貝殻・遺物が選択的に斜面移動する。

2 仮説の検証について

次の3点から仮説検証を行うことにします。

・斜面下部に行くほど本当に貝殻や遺物が大きくなるのか?(サイズ分布の定量的把握)

・貝殻や遺物は投棄後に本当に動いたのか、そもそも堆積時からそうなっていたのではないか?(層序、年代、構造検証)

・投棄後に動いたとして、葡行プロセスが妥当か?(斜面プロセスの妥当性、実験、モデル)

2-1 斜面下部ほど形状の大きいものが分布しているか

この検証は多くのデータを用意できそうです。

貝層断面図資料から貝殻の大きさについて指標となるような資料を用意できそうです。

遺物については、遺物データベースを活用して多くの資料を用意できそうです。

例えば、石鏃(形状小)と石斧(形状大)の分布が違うことについて、近々記事にするよう予定です。

2-2 投棄後に貝殻と遺物が本当に動いたのか

貝層断面資料から貝層堆積の様子を推察できて、その中で貝層移動について確認できると考えます。

斜面下部にハマグリ純貝層が見られる場合が多いですが、これが葡行プロセスによる分級である確認は検討の一つの山場となります。

また、遺物移動については土器接合資料から決定的な情報を得ることができそうです。

2-3 想定する葡行プロセスが妥当であるか

2-3-1 安息角の測定

葡行プロセス妥当性の検討基礎として、安息角の実験的測定が重要です。

ハマグリ、イボキサゴ、(イボキサゴの)破砕貝からなる貝層の安息角、その貝層に土器片等の遺物を混入した場合の安息角を実験的に測定する機会ができれば、仮説検証が進みます。

2-3-2 葡行プロセス検討

想定する葡行プロセスが妥当であるかどうかという検討では、まずは文献調査をメインに行います。さらに、将来実験的検討の機会が生まれることを期待します。

3 仮説に関する課題例

この仮説に関する課題例として、次の事項があります。

この仮説は北斜面貝層に草木が繁茂していない状況を前提にしています。貝殻や遺物投棄がおこなわれていた当時、北斜面貝層が常時草木に覆われていたならば、葡行プロセスは微弱であったに違いありません。貝塚が形成されていた当時、貝塚の草木被覆がどうだったのか、検討する必要があります。斜面には強い塩分が結果的に投下されていたので、草木繁茂が無かったのか、検討を深めることが大切です。


有吉北貝塚北斜面貝層遺物分布


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