1 ゾーン別出土文字
八千代市井戸向遺跡墨書土器の文字を整理して一覧表にしました。
井戸向遺跡ゾーン別墨書土器の文字
参考 ゾーン区分図
1 Ⅰゾーンの出土文字
●冨
冨の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
冨が数的にダントツな出土となっています。
冨は豊かな財産をつくることを祈願した言葉であると考えます。
冨は公共的な冨を増やしたいという願いではなく、個人家族の私有の冨を増やしたいという祈願であると考えます。それは同時に出土している文字として「加□ 家此盛加」、「大家」などがあることから裏付けられます。
白幡前遺跡では個人レベルの祈願語は少なく、ほとんどが組織のミッションに関わる祈願語でした。
しかし、井戸向遺跡Ⅰゾーンでは個人レベルの祈願語が主要なものとなっていて、このゾーンの性格を表現していると考えます。
冨は一般住民が使った祈願語であると考えます。
なお、冨を祈願したということは生活実態が貧しかったことを物語っていると考えます。
白幡前遺跡では大量に出土するハマグリの出土が井戸向遺跡では有りませんから、そうした奢侈にありつくこともない、一般人の貧しい生活がこの祈願語で浮かびあがります。
●万に○
万に○の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
万に○は○(則天文字の星=白星=勝利)と万(全部)の意味だと考えます。全部勝利するという戦勝祈願語であると考えます。
ですからこの文字を墨書したのは将兵であり組織人であり、一般住民ではなかったと考えます。
井戸向遺跡Ⅰゾーンには一般人ととともに将兵(組織人)がいたことになります。銙帯がⅠゾーンから出土していることからも裏付けられます。
井戸向遺跡Ⅰゾーンは将兵(組織人)が一般人を指導監督して白幡前遺跡(軍事兵站・輸送基地)の諸業務をサポートさせていたゾーンだと考えます。
一般人は墨書土器を使っているのですから文字を知らない農民(ブルーカラー)ではなく、ホワイトカラー的仕事をしていたのだと思います。
一言で言えば基地業務というサービス業務に従事する一般人中心の集落が井戸向遺跡Ⅰゾーンであったと考えます。
●生
生の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
一般人を指導監督する将兵の使った祈願語であると考えます。
●仁
仁の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
中国古代孔子が提唱した道徳観念の「仁」が祈願語になったのだと思います。
井戸向遺跡Ⅰゾーンが軍事基地そのものではなく、一般人中心の集落であるために、そこには文化人のような人(※)もいて、この道徳的な祈願語が使われたのだと思います。
※ 墨書土器を使う人は文字を知っているということであり、住民のほとんどが文盲の時代に、それだけで文化人であり、孔子の教えてを知っている人が含まれていても、それ自体は驚くべきことではなかったのかもしれません。
参考 仁の説明例
中国思想史上この仁に深遠な内容が付与されて重要な意味をもつようになったのは春秋時代前後からである。孔子が仁を自己の思想の核心を表現する概念として定立してより,孔子学派では〈人間らしさの極致〉を表徴する最高の徳目となった。仁の内容について孔子自身いろいろに説くが,〈己立たんと欲して人を立てる〉ことと説かれ,〈己の欲せざる所は人に施すことなかれ〉という〈恕〘じよ〙〉の精神をうちに含む愛を基本として,〈人を愛する〉ことと一般化される。
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズ
●×
×の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
災厄防除のまじないの記号であると考えます。×(バツ)を書いて災厄を打ち消す。
●禾
禾の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
禾(カ)は穀類の意味でその収穫増大を願ったか、商業活動での獲得増大を願ったのどちらかだと考えます。
●中
中の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
中(アタリ)は自分の○○という祈願内容が的中してほしいという言葉だと思います。
2 Ⅱゾーンの出土文字
Ⅰゾーンと同じように冨、万に○が出土します。また×もⅠゾーンに出土します。
このような文字出土状況から、ⅡゾーンはⅠゾーンと区別しがたく、文字からだけみると、ゾーンを統合してもよいのかもしれません。
なお、ⅠゾーンとⅡゾーンに寺、Ⅱゾーンに佛という文字が出土します。
Ⅰゾーンには遺物として小金銅仏が出土していますから、この付近に仏寺かそれに類する施設があったのだと思います。その施設と寺、佛という言葉が対応するのだと思います。
なお、一般人中心の集落であることが想定されますので、白幡前遺跡2Aゾーンにあるような周溝を有する立派な寺院がここに存在しない理由が判るような気がします。
3 Ⅲゾーンの出土文字
●入
入の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
入を軍隊入隊(官の軍事組織に入る)祈願として想定しました。
Ⅲゾーンは白幡前遺跡(軍事兵站・輸送基地)に付随する関連施設であると想定し、具体的には兵員養成施設のような場所であったと想像します。
2015.06.14記事「墨書土器代表文字の意味」参照
●鬼
鬼の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
鬼神・悪神からの災厄から逃れる祈願語であると考えます。
4 Ⅳゾーンの出土文字
ゾーンを代表するような多出文字がありません。しかし「山」、「大田」などからこのゾーンが開拓地であることが浮かびあがります。
万に○や生も出土しますから将兵・官人・組織人等が開拓指導者・監督者として存在していたことが想定されます。
なお、開拓現場の肉体労働をする人びとは社会の下層に位置していて、恐らく墨書土器を使う習慣が無かったと考えます。
●山
山の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
山は台地開拓地の意味であり、その開拓が成功するように祈願したものと考えます。
●朝日
朝日の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
朝日は開運祈願語であると考えます。
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あさ‐ひ【朝日・旭】
1 〖名〗
① 朝の太陽。朝方の日。
※古事記(712)下・歌謡「纏向(まきむく)の 日代(ひしろ)の宮は 阿佐比(アサヒ)の 日照る宮 夕日の 日影(かげ)る宮」
※源氏(1001‐14頃)末摘花「あさひさす軒のたるひは解けながらなどかつららのむすぼほるらむ」
② (①から転じて) 運が開けることのたとえ。開運。
※浮世草子・男色大鑑(1687)一「家老職のものとの口論、是非なく城下は闇に立のき、時節の朝(アサ)日を待(まち)ぬ」
『精選版 日本国語大辞典』 小学館
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●豊
豊の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
冨と同様に豊かな財産を願う言葉であると考えます。
●大田
大田の画像事例(出典:千葉県墨書土器データベース 明治大学日本古代学研究所)
水田を拡げたいという開拓祈願語であると考えます。
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