花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.145 墨書土器に関する新しい統計指標を考案する
八千代市白幡前遺跡の検討地域を拡大するような視点から八千代市井戸向遺跡の検討を進めています。
この記事から墨書土器の検討に入ります。
墨書土器の詳細データがwebサイト明治大学日本古代学研究所にデータベースとして公開されていますので、その情報を基本に検討することにします。
八千代市井戸向遺跡の検討は上記サイトから入手した「千葉県墨書土器データベース」ファイルを利用します。
井戸向遺跡出土墨書土器データは全部で276件あります。
このデータに記載されている出土遺構の場所を発掘調査報告書の図面と照合してデータをゾーン毎に集計してみました。
1 ゾーン別墨書土器出土件数
次のグラフはゾーン別墨書土器出土件数のグラフです。
ゾーン別墨書土器出土件数グラフ
井戸向遺跡ではⅠゾーンのデータが177件で、他のゾーンの4倍~8倍以上となっています。
白幡前遺跡の最多出土ゾーン1Bよりも多くなっています。
このグラフを分布図にしてみると次のようになります。
ゾーン別墨書土器出土数
2 ゾーン別墨書土器数/竪穴住居跡数
ゾーン別に墨書土器数/竪穴住居跡数を集計してみました。
ゾーン別墨書土器数/竪穴住居跡数
このグラフを分布図にしてみると次のようになります。
ゾーン別墨書土器数/竪穴住居跡数
墨書土器がはやった頃の住宅は、極一部の支配層トップを除いて、官人を含めてほとんど全員が竪穴住居に居住していたと想定してみます。
そうした想定をしてみると、墨書土器数/竪穴住居跡数という数値は、墨書土器を使った階層の人々の竪穴住居1軒あたりの居住人数に比例する指標になる可能性があります。
あるいは竪穴住居に居住する人数を一定と考えると、竪穴住居に居住した人々の転居率(利用回転数)に比例する指標になるかもしれません。
さらには、1人の人間がかかわるプロジェクト(物件)が次々と立ち上がることにより、1人の人間が複数の墨書土器を使ったのかもしれません。
どのように考えるにしても、墨書土器数/竪穴住居跡数という数値は墨書土器を使った階層の人々(官人及び官人に組織されてプロジェクトに従事する人びと)の人数の多さ、あるいは活動の活発さ(入れ替わり立ち替わり活動した異なる個人の延べ人数の多さ)(人々を組織するプロジェクトの開始-終了の期間の短縮性)に比例すると考えます。
ですから墨書土器数/竪穴住居跡数は単純な墨書土器出土数よりはるかに意味のある指標になります。
このブログではとりあえず「墨書土器数/竪穴住居跡数」を「竪穴住居1軒当りの墨書土器出土率」と考え、記載を簡潔にするために単純に墨書土器の「対竪穴住居出土率」(S)と表現することにします。
グラフをみると、井戸向遺跡のⅠゾーンとⅢゾーンの対竪穴住居出土率が4.9、5.0と高く、白幡前遺跡の1Aゾーンの値以上になっています。
白幡前遺跡の1Aゾーンは陸奥国へ向かう将兵の一時逗留地と考えましたが、井戸向遺跡のⅠゾーンも同じような機能の想定をしてよいか、今後検討します。
井戸向遺跡のⅢゾーンは内陸に入り込んでいて津(港湾 志津)から離れていて、おそらく別のニュアンスの機能(組織活動)を考えることができるのではないかと考えます。今後検討します。
井戸向遺跡Ⅱゾーンの対竪穴住居出土率は、白幡前遺跡の1B、2C~2F,3ゾーンと同レベルの水準です。ですから、Ⅱゾーンも組織活動が行われていたと考えることができると思います。
しかし、このゾーンには掘立柱建物がゼロで出土していません。対竪穴住居出土率が高いので、遺跡発掘地域の制約から、たまたま掘立柱建物が見つかっていないのではないかと想像します。
井戸向遺跡Ⅳゾーンの対竪穴住居出土率は0.9で白幡前遺跡2B、2Cゾーンと同水準です。
白幡前遺跡2Bゾーンは寺院と中央貴族接待施設が存在していて、この集落全体の支配機能がある場所です。
ですから支配層が酔にまかせて書いたような人面墨書土器は出土しますが、官人に組織されて労働するものが、その労働の辛さを少しでも軽減したり、活動のやる気を起こすために使った祈願ツールとしての墨書土器は、その出土が少ないです。
白幡前遺跡2Cゾーンは寺院をささえる、いわゆる一般農業集落のように感じられます。このゾーンで墨書土器出土が少ないのは、官人の組織活動がこのゾーンで行われていなかったからだと考えます。
井戸向遺跡Ⅳゾーンは白幡前遺跡2Cゾーンと同じような状況にあったと考えます。
しかし、Ⅳゾーンからは銙帯や三彩陶器托・小壺や燧鉄・燧石が出土していて官人や僧侶の活動が見えてきます。
Ⅳゾーンは地域開発(農業開拓)が行われていた現場であると考えます。
このような状況から、官人に指導監督されていても、開拓の現場で働く階層(ブルーカラー)は墨書土器との関わりは弱く(そもそも字を読めるような階層ではなく)、官人の組織活動(将兵の輸送・軍需物資の集積管理、公文書作成等々のいわばサービス業務)の中で働く階層(ホワイトカラー)は墨書土器との関わりが強かったと考えます。
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