2023年6月1日木曜日

1986年発掘調査原簿を閲覧して出土遺物の3D空間座標を復元する

 Reconstructing the 3D spatial coordinates of excavated artifacts by browsing the original records created during the excavation in 1986


The 3D spatial coordinates of excavated artifacts (early stage pottery) were reconstructed by browsing the artifact distribution map and artifact inventory of the northern slope shell layer of the Ariyoshi Kita Shell Mound (1986 excavation survey). This method enables 3D spatial analysis of artifacts.


有吉北貝塚北斜面貝層(1986年発掘調査)の遺物分布図と遺物台帳を閲覧して、出土遺物(前期土器)の3D空間座標を復元しました。この方法により遺物3D空間分析が可能になります。

1 問題意識

有吉北貝塚発掘調査報告書には中期土器の3D空間座標を復元できるグラフが掲載されています。そのグラフから中期土器の3D空間座標を復元して、3D空間において貝層断面との関係など3D空間分析を行いました。その結果、きわめて有用な情報を得ています。

一方中期土器以外の土器や、土器以外の遺物について、発掘調査報告書では3D空間座標がわかる資料は掲載されていません。しかし、発掘調査報告書原簿(遺物分布図、遺物台帳)を閲覧すれば中期土器以外の土器・遺物について3D空間座標が判ることを知りました。中期土器以外の土器・遺物について3D空間座標が判れば、その3D空間分析により北斜面貝層に関する有用情報が飛躍的に増え、貝塚の発達や利用について新しい考え方や仮説が生まれる可能性もあり得ます。

そこで、今回早期土器(全4点)・前期土器(全24点)を事例として、遺物分布図と遺物台帳を閲覧して、3D空間座標を取得する方法、手順、課題などを確認するテスト作業を実施しました。

2 遺物分布図と遺物台帳の閲覧

北斜面貝層出土の早期土器(全4点)、前期土器(全24点)について、関連する遺物分布図と遺物台帳の閲覧を千葉県教育委員会に申請し、許可を得て、2023年5月29日に閲覧しました。


遺物分布図・遺物台帳閲覧対象土器リスト

閲覧では持参したA3スキャナー・パソコンにより関連紙資料をスキャンしました。


持参したフラットベッド式A3スキャナー(サンワサプライ、PSC-12UF)

遺物分布図は600dpiで、遺物台帳は300dpiでスキャンすることにより十分な解像画像を得ることができました。

遺物分布図はB3紙資料で、スキャンが必要な実測図部分はA3画角に入りますが実測図外に注記があるものもあるため、それらを全部スキャンするために2回スキャンしました。またスキャン毎に画像を確認して画像が求める状況になっているかチェックしました。

3 3D空間座標復元の方法


3D空間座標復元の様子(Ⅲ-75メッシュ出土遺物番号33の前期土器の例)

北斜面貝層から出土した中期土器以外の土器及び土器以外の遺物はすべて出土メッシュと遺物番号が紐づけられています。

Ⅲ-75メッシュ出土遺物番号33の前期土器の場合、Ⅲ-75メッシュ遺物分布図(現場で記録された1/10実測図)から記号33を探し、その場所の座標を読み取ります。座標の読み取りはパソコンの中で、自作Pythonスクリプトで遺物分布図画像(pngファイル)を3点クリックして行います。こうして読み取ったメッシュ内位置座標とメッシュ位置座標からBlender3D空間におけるx,y座標を求めることができます。

遺物台帳には掲載遺物の標高が原則として全て掲載されています。この標高数値からBlender3D空間におけるz座標を求めることができます。

結果として遺物分布図及び遺物台帳からBlender3D空間座標(x,y,z)を求めることが出来ます。


Ⅲ-75メッシュ出土遺物番号33の前期土器をBlender3D空間にプロットした様子

4 メモ

4-1 A3スキャナー持参により遺物分布図・遺物台帳から情報を汲み取ることができることの確認

A3スキャナーとパソコンを持参することにより、閲覧申請した遺物分布図・遺物台帳から3D空間座標に関する情報を確実に汲み取ることができることを確かめ、確認できたことはよかったことです。今後の活動の展望が開けました。

4-2 メッシュ内位置座標読み取りPythonスクリプトの活用

遺物分布図における位置座標読み取りPythonスクリプトは、読み取り作業効率を飛躍的に高めるものです。このスクリプトはChatGPTから教えてもらいました。

2023.05.30記事「遺物分布図から平面座標を取得するPythonスクリプト

……………………………………………………………………

import cv2


# クリック座標を保存するリスト

click_points = []


def onMouse(event, x, y, flags, params):

    if event == cv2.EVENT_LBUTTONDOWN:

        click_points.append((x, y))

        if len(click_points) >= 3:

            # 計算式の値を求める

            x1, y1 = click_points[0]

            x2, y2 = click_points[1]

            x3, y3 = click_points[2]

            result1 = 2 * (y3 - y1) / (y2 - y1)

            result2 = 2 * (x3 - x1) / (x2 - x1)

            print("2*(y3-y1)/(y2-y1):", result1)

            print("2*(x3-x1)/(x2-x1):", result2)


img = cv2.imread('b6i.png')

cv2.namedWindow('keisokuh22', cv2.WINDOW_NORMAL)

cv2.imshow('keisokuh22', img)

cv2.setMouseCallback('keisokuh22', onMouse)

cv2.waitKey(0)

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4-3 早期土器・前期土器3D空間分析について

これから閲覧資料を整理して全ての早期土器・前期土器の3D空間座標を求める作業を行います。そして、その結果に基づいて、早期土器・前期土器が貝層断面とどのような空間関係にあるのか、加曽利EⅡ式土器などの中期土器とどのような空間関係にあるのか分析します。その分析により、早期土器・前期土器がどのような経緯で北斜面貝層にもちこまれたのか考える材料ができれば面白いと思ます。

4-4 各種遺物の3D空間分析について

北斜面貝層出土各種遺物(装飾品(貝製品)、装飾品(骨角歯牙背品)イノシシ頭骨、打製石斧、磨製石斧、石鏃、貝刃、散乱人骨、磨貝、土器片錘、…)は全て出土メッシュと遺物番号が紐づいていますから、資料閲覧(スキャン)という手間をかけさえすれば全て3D空間座標を得ることができます。全ての遺物について3D空間分析が可能なのです。3D空間分析により遺物がどのような経緯でこの貝層にもちこまれたのかなどの情報を得ることができそうです。貴重な考古情報(3D位置情報)が「未発掘」で収蔵庫に1986年から埋もれているのです。


参考 装飾品(貝製品)出土数のメッシュ分布


参考 イノシシ頭骨出土数のメッシュ分布


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