2023年6月12日月曜日

日本学術会議公開シンポ「最終氷期以降の日本列島の…」の聴講と感想

 Attending and Impressions of the Public Symposium of the Science Council of Japan “The Japanese Archipelago after the Last Glacial…”


I attended the Science Council of Japan Public Symposium "Climate/environmental changes in the Japanese archipelago and human response after the last ice age" (2023.06.11) via zoom. It was a very interesting talk, and I made a note of my impressions.

日本学術会議公開シンポジウム「最終氷期以降の日本列島の気候・環境変動と人類の応答」(2023.06.11)をzoomで聴講しました。とても興味深い話しばかりであり、その感想をメモしました。

1 シンポジウム概要


シンポジウム概要

Twitterでその開催を知り、聴講を応募し、2023.06.11にzoomで聴講しました。9先生からそれぞれ20分の話しがありました。webサイト(事務局島根大学)には説明趣旨及び9先生の講演資料が掲載されダウンロード出来るようになっています。

2 講演内容と感想

2-1 開会挨拶・説明趣旨 斎藤文紀(日本学術会議連携会員、島根大学エスチュアリー研究センター長・特任教授)


シンポジウムが対象とする12.9万年前以降(資料)

2-2 「過去15万年間の気候変動」 阿部彩子(日本学術会議連携会員、東京大学大気海洋研究所・教授)

地球の気候を変動させる日射量変化などの外的な力に基づく気候モデルと氷床力学モデルを組み合わせて、シミュレーションにより、更新世と完新世の氷期と間氷期の繰返しを再現した研究と理解しました。ヤンガードリアス期の存在を気候の自励的振動であると解釈する研究はとても興味深いものです。なぜヤンガードリアス期という寒冷イベントが存在したのか、常日頃疑問としていたことを理解できるかもしれないという糸口を見つけることができました。


退氷期中の気候変化のシミュレーション(講演資料)

2-3 「現生人類がたどってきた道」 海部陽介(日本学術会議連携会員、東京大学総合研究博物館・教授)

次の3点についての講演です。

・最終氷期前半のアジアの人類

・ホモ・サピエンス(=私たち)の進化

・ホモ・サピエンスのアジア進出

ブルーバックス「図解 人類の進化」(斎藤成也、海部陽介、他)という本を最近読んでいますので、講演の理解が深まり、興味も深まります。


10万年前頃の世界(講演資料)

2-4 「アイスエイジから現在までの海水準:ヒトは歩いて海峡を渡れたか?」 横山祐典(東京大学大気海洋研究所教授)

LGM(最終氷期最盛期)頃の海水準変動を検討していて、海峡が閉塞した日本海の表層塩分の低下や、11000年前の対馬暖流流入による東シナ海有機物流入など、ホットな最新情報の話しが興味深いものでした。


白熱するかつての海水準の議論(講演資料)

2-5 「最終氷期における日本周辺の海洋環境」 郭 新宇  (愛媛大学沿岸環境科学研究センター長・教授)

最終氷期の黒潮が琉球列島の内側に入り込んでいた様子をシミュレーションで明らかにした研究の紹介です。


現代と最終氷期の黒潮の様子(講演資料)

2-6 「年縞から見た「暴れる気候」と人間の歴史」 中川 毅  (立命館大学古気候学研究センター長・教授)

年縞分析から気候変動が激しい時期と穏やかな時期が弁別出来て、気候変動が激しい時期は人類の農業開始や定住にふさわしい時期でないことがわかり、それを「暴れる気候」と表現しています。これまでの温暖-寒冷弁別では農業開始や定住開始を説明できないとしています。

とても説得力ある説明で、腑に落ちる説明です。年縞分析という地道な作業の大成果だと感じました。このシンポジウムで私が最も面白かった講演です。


「おだやかな時代」の到来(講演資料)

2-7 「日本列島の現生人類文化の出現、定着、変化」 出穂雅実(東京都立大学人文社会学部・准教授)

上部旧石器時代の人類の拡散過程での日本列島の様子を詳しく説明しています。その後期に沿岸ルートでアメリカ大陸に進出した際、その本源地が北海道であったかもしれないという示唆は、私ははじめて聞いた話しで、とても興味を深めました。北東アジアという観点でみると上部旧石器時代後期では北海道が重要な地理的キーポイントであったということです。


研究の枠組みと意義(講演資料)

2-8 「古代ゲノムから見た日本列島の現生人類」 太田博樹(東京大学大学院理学系研究科・教授)

日本列島に進出した後期旧石器時代人のゲノムを伊川津縄文人(2500年前)ゲノムから推察して、ユーラシア南ルート人のゲノムであり、北回り人のゲノムはほとんど含まれていないことを結論として得た研究成果の話しです。とても興味深い話しです。


東ユーラシア大陸の人類集団史の概略(講演資料)

2-9 「樹木年輪から見た年から十年単位の気候変動」講演資料 中塚 武  (名古屋大学大学院環境学研究科・教授)

樹木年輪を用いた古気候復元とそれによる歴史事象解釈の講演です。古気候変動と歴史事象がぴたりと一致する様子はとても小気味いい話しです。昔は年輪幅を指標としていましたが、今は年輪酸素同位体比という指標を使います。この指標から数十年単位の降水量振幅変化を知ることができ、その様子と歴史事象がよく対応します。予想できない水害や冷害が頻発する時期になると生活・生産破壊が生まれ、難民が生まれ、人の移動が活発化し、それが集落数増、戦争増として記録されるとしています。

弥生~古墳時代まで遡って社会の様子をみるデータとして利用できるそうです。


作業仮説(講演資料)

2-10 「縄文・弥生社会の環境構築」 松本直子(岡山大学文学部教授)

縄文・弥生社会で人が環境に働きかけて環境を構築してきた様子を総合的に説明する話しでした。


縄文社会の環境構築(講演資料)

2-11 討論

討論はなく、講演者毎に質問に答えるコーナーとなりました。

アイヌは北回り人系のゲノムではないかという質問がありましたが、太田博樹先生の回答では今後の課題みたいな答えであり、すっきりせず、興味(疑問)が深まりました。

3 感想

どの講演も面白く、興味深いものばかりで、シンポジウムはアッという間に終わってしまいました。これらの中で、自分の学習参考として最も注目したのは次の講演です。

●「年縞から見た「暴れる気候」と人間の歴史」中川 毅

関連して次の講演も注目しました。

●「樹木年輪から見た年から十年単位の気候変動」中塚 武

次の講演は自分の知りたい事柄の情報が多く、特段に面白いものでした。

●「日本列島の現生人類文化の出現、定着、変化」出穂雅実

また、次の講演内容はシミュレーション研究の面白さや有用性がよく理解できて、強い刺激を受けました。

●「過去15万年間の気候変動」阿部彩子

いつか自分の学習活動でもシミュレーション分析のマネゴトを行い、楽しみたくなりました。


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