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2021年11月24日水曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能

 Pattern meaning and cursive function of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


The main pattern of the fishing handprint pottery with a face is a fresh birth. Also, the theme of continuation of life is hidden.

The practical function is an incense burner that relieves the suffering of maternity women.

From such patterns and functions, it can be considered that this pottery was used as a tool for praying for safe delivery.


この記事では顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能を検討します。

1 文様の意味

1-1 土器正面文様の意味


土器正面文様の意味

土器正面の文様は女神(母神)が産道口から子神を産む出産の様子を描いていると考えます。産道口の中にある熾火を子神にみたてていて、子神の姿はあくまでも暗示するだけで直接描写していません。

1-2 土器背面文様の基本構造


土器背面文様の基本構造

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)背面文様の基本構造は顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)背面文様基本構造と同じである可能性を仮説します。両方の土器ともに祖母神→母神→子神→孫神という命の継続を表現していると想像します。

1-3 産婆の両手


産婆の両手

出産を介助する産婆の両手とその10本の指爪が表現されています。産婦(母神)の背後から産道口を広げている表現であると考えます。

1-4 土器背面の紐状隆帯の意味

土器背面の太細の紐状隆帯は天井から垂れる紐(産縄)にぶら下がって行う重力式出産の様子を描いていると想像しました。


安産直後を描写した顔面付釣手形土器

2019.03.20記事「顔面付釣手形土器の発掘調査報告書を読む」から引用

2 呪的機能

土器文様のメインは産婆の両手で大きく広がった産道口(=子ども誕生暗示)で、産縄も描き出産そのものがテーマです。

同時に祖母神→母神→子神→孫神という「テーマ 命の継続」が隠されて表現されています。

土器の実用機能は産婦の気持ちを和らげるための香りや覚醒成分を産室に充満させるものです。

このような文様や機能からこの土器は安産祈願の道具として使われたと考えることができます。

中期縄文人にとって祖母→母→娘→孫娘と命が継続することが大きな関心事(生きる目的)であり、その中で出産というイベントがきわめて重要だったに違いありません。その出産における安産祈願最重要ツールがこの土器であったと考えます。

2021年11月23日火曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の実用的側面の考察

 Consideration of practical aspects of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


We considered the practical aspects of the fishing handprint pottery with a face (Gotenba site, Ina city).

This pottery is an incense burner. I thought it was used to relieve the suffering of mothers by volatilizing the scent and arousal components at the place of birth.


3Dモデルを作成した顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)には実用的機能と呪的機能の双方が備わっていると考えます。それぞれについて考察しましたが、この記事では実用的機能について考察しました。

1 土器の実用的機能

1-1 背面の復元

土器背面に球面内面の一部が残存しています。この残存物はもともと小カップが存在していて、その一部であると想像します。


土器背面の復元(想像)

釣手形土器では小カップがついている場合があるので、このように想像しました。


頂部に小カップがついている釣手形土器の事例

1-2 土器内部の煤

発掘調査報告書では「内部は、わずかに煤煙が附着しているのみで、使用による擦痕もしくは付着物はあまり顕著ではない。」「内部の状態は吊手土器にみられるような炭化物の附着は顕著に認められない」と記述されています。この記述から、土器内部でものを燃やした形跡は存在するが、それは顕著ではないということになります。

1-3 土器正面の顕著な油煙附着

発掘調査報告書では「正面の…器面は研磨され、油煙が全面に附着して黒く滑沢を帯びている。」と記述され、確かに正面だけに油煙がついています。ただし、正面の台部には油煙はついていません。また背面にも油煙はついていません。


油煙の附着状況

1-4 実用的機能の推察

1-1小カップの復元、1-2虚弱な燃焼跡、1-3油煙附着からこの土器の実用的機能を次のように推察(想像)しました。


顔面付釣手形土器(御殿場遺跡)の実用的機能(想像)

土器内部に熾火をいれて土器を熱し、小カップに熱を受けると揮発する香草や液体を入れて、香り成分や覚醒成分を竪穴住居に充満させたのだと想像します。その竪穴住居で出産が行われたのだと考えます。

土器正面に一部だけに油煙が附着していることから、次のような状況でこの土器がつかわれたと考えます。


顔面付釣手形土器の利用イメージ(想像)

この土器は天井から吊下げられて利用されたのではなく、炉に埋め込まれて利用されたのだと考えます。炉の親火から熾火を土器内部に移し、じっくりと土器を熱して、香草や液体成分を継続して揮発させて、長時間続く産婦の出産苦しみを緩和させていたのだと想像します。

2 感想

・土器の名称(形式)は釣手形となっていますが、この個体に吊って利用できるような強度がある取付部分は見当たりません。また吊った痕跡もないようです。

・油煙分布から炉に埋めて利用した蓋然性は高いと考えます。

・土器内部でモノを燃やした跡が存在するがそれが虚弱であることから、土器内部に入れられたのは熾火(炎がおさまり、薪の芯が真っ赤になったもの。長時間火力が持続する)であると考えます。

・背面に小カップを復元する(想像する)ことによって、この土器の基本機能は、小カップに入れた香りや覚醒成分を熱で揮発させる香炉であると考えました。

・この土器の文様が出産に関わるものであることから、この土器(香炉)は出産現場で産婦の長時間にわたる苦しみを香りや覚醒成分によって緩和させるものであると考えました。

・この土器の文様の意味とこの土器の呪的機能は次の記事で考察します。

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顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner


2021年11月19日金曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の3Dモデル作成

 3D model creation of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi)

We have created a 3D model of the observation record of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) exhibited at the Ina-City Souzou-kan. When I increased the number of photos, I got a high quality 3D model. In the next article, we will compare it with a deep pot-shaped pottery with a face handle.

伊那市創造館に展示されている顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。

1 顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル 

縄文時代中期

撮影場所:伊那市創造館 

撮影月日:2021.11.08

4面ガラス張りショーケース越しに撮影 


展示の様子

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 381 images

Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Ina-City Souzou-kan

Shooting date: 2021.11.08

Taken through a 4-sided glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 381 images


3Dモデルの動画

2 感想

・この土器の観察記録3Dモデル作成は2回目ですが、今回の3Dモデルは利用写真を増やしたので質の高いモデルとなりました。

・3面からの撮影が可能であり、残る1面からの撮影は出来ない環境ですが、写真枚数が多いため満遍なく結像できました。


381カメラの配置状況

・この顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)と顔面把手付大深鉢(伊那市月見松遺跡)や顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)との比較を次の記事で行います。顔面付釣手形土器と顔面把手付深鉢形土器の間には、土器基本機能の違いにもかかわらず、利用上(祭祀上)の意義に関して強い共通性があるように考えます。

2019年12月16日月曜日

唐草文Ⅱ期深鉢(埋甕)(伊那市御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル

縄文土器学習 287

伊那市創造館展示の唐草文Ⅱ期深鉢(埋甕)(伊那市御殿場遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。

唐草文Ⅱ期深鉢(埋甕)(伊那市御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル
撮影場所:伊那市創造館
撮影月日:2019.09.12
3面ガラス張りショーケース越しに撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 34 images(Masquerade機能利用)

展示風景

観察と感想
1 口縁部の渦巻と波線 
口縁部が「縄」のような隆線で4つに区分され、それぞれの区分の中に2つの区画が作られています。2つの区画の間には渦巻とそれから伸びる波線が沈線で書かれています。

口縁部の渦巻と波線
渦巻と波線から湧泉とそれにより生じる細流をイメージしました。
もし湧泉と細流ならば、それが2つの区画の間を流れていることから、2つの区画は人間活動領域を表現していると推察できるかもしれません。
伊那谷に見られる解析された段丘や扇状地の様子を描写しているようにも感じられます。
渦巻はすべて右巻きです。

2 胴部の渦巻と4本線
胴部に沈線で渦巻とそれから垂下する4本(3~5本)の直線が2段にわたって描かれています。このセットが口縁部区画に対応して8つ(1つは撮影不能)存在しています。上の渦巻は右巻き、下の渦巻は左巻きで統一されています。
また、この渦巻直線2段セットの間に沈線で波線が描かれています。

渦巻直線2段セット+波線の様子
渦巻は湧泉であり、直線はそれから生じる川の流れであるとイメージしました。段丘崖下の湧泉の水が集まって川の流れを形成している様子を想像してしまいます。波線は段丘面にある浅い谷の流れかもしれません。

3 「土器正面」という意識
胴部に書かれている8つ(1つは観察不能)の渦巻直線2段セットの上部渦巻が2カ所で頸部・胴部区画線をわざと上書きしています。この上書きは土器正面を確定させる意識的行為であると考えます。

土器正面がC面である様子
BとCの間の上書きが激しく、CとDの間の上書きが少ないことから、C面が正面であると考えます。
また、C→D→A→Bという順番が存在していて、その順番が何らかの活動に使われていたと考えます。

土器の模様から浮かんだ上記イメージが妥当なものであるのかどうか、さらに学習を進めて、評価できるようにしたいと思います。