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2024年4月29日月曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)

 Observation record 3D model of Vessel with handles for suspension and a face (Ina City,Gotenba site) (Photographed in February 2024)


I created a 3D model of the Vessel with handles for suspension and a face on display at the Ina City Souzou-kan. The result was a very harmonious 3D model considering it was shot through a glass surface. I think of it as an vessel that comes close to a pregnant woman during childbirth.


伊那市創造館に展示されている顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の3Dモデルを作成しました。ガラス面越し撮影にしてはとても円満な3Dモデルとなりました。出産時産婦に寄り添う土器であると考えます。

1 顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)

縄文時代中期

撮影場所:伊那市創造館常設展示室

撮影月日:2024.02.21


展示の様子

ガラス面越し撮影

3DF Zephyr v7.517 processing 222 images


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

この土器は2021年11月に最初の3Dモデルを作成しています。

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner

ガラスケースに格納展示されていますが、3面から撮影できるため、ガラスケース越しとは思えないとても円満な3Dモデルを、今回、作成することができました。

この土器に関する感想や考察は過去に多数記事にしています。その過去記事を読み返して、次の過去記事は今の自分がとても興味を深めるものです。

2021.11.23記事「顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の実用的側面の考察

土器背面に小カップ存在を想定し、その小カップに香草等を入れて熱し、産婦出産の苦痛を和らげたという検討(想像)です。


小カップ存在の可能性


小カップの機能


土器の利用方法

顔面は苦痛にあえぐ産婦に香草の匂いをかがせることによって、柔和な顔つきになってほしいという期待が込められていると想像します。

釣手形土器にカップがあることは一般的であると言えます。


顔面付釣手土器(飯田市北田遺跡)縄文時代中期 飯田市美術博物館展示

この土器のカップは香草等を焚くためのもので、人面描写は記号的表現になっていますが、「柔和な顔つき」を表象していると考えます。


2021年11月24日水曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能

 Pattern meaning and cursive function of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


The main pattern of the fishing handprint pottery with a face is a fresh birth. Also, the theme of continuation of life is hidden.

The practical function is an incense burner that relieves the suffering of maternity women.

From such patterns and functions, it can be considered that this pottery was used as a tool for praying for safe delivery.


この記事では顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能を検討します。

1 文様の意味

1-1 土器正面文様の意味


土器正面文様の意味

土器正面の文様は女神(母神)が産道口から子神を産む出産の様子を描いていると考えます。産道口の中にある熾火を子神にみたてていて、子神の姿はあくまでも暗示するだけで直接描写していません。

1-2 土器背面文様の基本構造


土器背面文様の基本構造

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)背面文様の基本構造は顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)背面文様基本構造と同じである可能性を仮説します。両方の土器ともに祖母神→母神→子神→孫神という命の継続を表現していると想像します。

1-3 産婆の両手


産婆の両手

出産を介助する産婆の両手とその10本の指爪が表現されています。産婦(母神)の背後から産道口を広げている表現であると考えます。

1-4 土器背面の紐状隆帯の意味

土器背面の太細の紐状隆帯は天井から垂れる紐(産縄)にぶら下がって行う重力式出産の様子を描いていると想像しました。


安産直後を描写した顔面付釣手形土器

2019.03.20記事「顔面付釣手形土器の発掘調査報告書を読む」から引用

2 呪的機能

土器文様のメインは産婆の両手で大きく広がった産道口(=子ども誕生暗示)で、産縄も描き出産そのものがテーマです。

同時に祖母神→母神→子神→孫神という「テーマ 命の継続」が隠されて表現されています。

土器の実用機能は産婦の気持ちを和らげるための香りや覚醒成分を産室に充満させるものです。

このような文様や機能からこの土器は安産祈願の道具として使われたと考えることができます。

中期縄文人にとって祖母→母→娘→孫娘と命が継続することが大きな関心事(生きる目的)であり、その中で出産というイベントがきわめて重要だったに違いありません。その出産における安産祈願最重要ツールがこの土器であったと考えます。

2021年11月23日火曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の実用的側面の考察

 Consideration of practical aspects of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


We considered the practical aspects of the fishing handprint pottery with a face (Gotenba site, Ina city).

This pottery is an incense burner. I thought it was used to relieve the suffering of mothers by volatilizing the scent and arousal components at the place of birth.


3Dモデルを作成した顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)には実用的機能と呪的機能の双方が備わっていると考えます。それぞれについて考察しましたが、この記事では実用的機能について考察しました。

1 土器の実用的機能

1-1 背面の復元

土器背面に球面内面の一部が残存しています。この残存物はもともと小カップが存在していて、その一部であると想像します。


土器背面の復元(想像)

釣手形土器では小カップがついている場合があるので、このように想像しました。


頂部に小カップがついている釣手形土器の事例

1-2 土器内部の煤

発掘調査報告書では「内部は、わずかに煤煙が附着しているのみで、使用による擦痕もしくは付着物はあまり顕著ではない。」「内部の状態は吊手土器にみられるような炭化物の附着は顕著に認められない」と記述されています。この記述から、土器内部でものを燃やした形跡は存在するが、それは顕著ではないということになります。

1-3 土器正面の顕著な油煙附着

発掘調査報告書では「正面の…器面は研磨され、油煙が全面に附着して黒く滑沢を帯びている。」と記述され、確かに正面だけに油煙がついています。ただし、正面の台部には油煙はついていません。また背面にも油煙はついていません。


油煙の附着状況

1-4 実用的機能の推察

1-1小カップの復元、1-2虚弱な燃焼跡、1-3油煙附着からこの土器の実用的機能を次のように推察(想像)しました。


顔面付釣手形土器(御殿場遺跡)の実用的機能(想像)

土器内部に熾火をいれて土器を熱し、小カップに熱を受けると揮発する香草や液体を入れて、香り成分や覚醒成分を竪穴住居に充満させたのだと想像します。その竪穴住居で出産が行われたのだと考えます。

土器正面に一部だけに油煙が附着していることから、次のような状況でこの土器がつかわれたと考えます。


顔面付釣手形土器の利用イメージ(想像)

この土器は天井から吊下げられて利用されたのではなく、炉に埋め込まれて利用されたのだと考えます。炉の親火から熾火を土器内部に移し、じっくりと土器を熱して、香草や液体成分を継続して揮発させて、長時間続く産婦の出産苦しみを緩和させていたのだと想像します。

2 感想

・土器の名称(形式)は釣手形となっていますが、この個体に吊って利用できるような強度がある取付部分は見当たりません。また吊った痕跡もないようです。

・油煙分布から炉に埋めて利用した蓋然性は高いと考えます。

・土器内部でモノを燃やした跡が存在するがそれが虚弱であることから、土器内部に入れられたのは熾火(炎がおさまり、薪の芯が真っ赤になったもの。長時間火力が持続する)であると考えます。

・背面に小カップを復元する(想像する)ことによって、この土器の基本機能は、小カップに入れた香りや覚醒成分を熱で揮発させる香炉であると考えました。

・この土器の文様が出産に関わるものであることから、この土器(香炉)は出産現場で産婦の長時間にわたる苦しみを香りや覚醒成分によって緩和させるものであると考えました。

・この土器の文様の意味とこの土器の呪的機能は次の記事で考察します。

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顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner


2021年11月19日金曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の3Dモデル作成

 3D model creation of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi)

We have created a 3D model of the observation record of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) exhibited at the Ina-City Souzou-kan. When I increased the number of photos, I got a high quality 3D model. In the next article, we will compare it with a deep pot-shaped pottery with a face handle.

伊那市創造館に展示されている顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。

1 顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル 

縄文時代中期

撮影場所:伊那市創造館 

撮影月日:2021.11.08

4面ガラス張りショーケース越しに撮影 


展示の様子

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 381 images

Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Ina-City Souzou-kan

Shooting date: 2021.11.08

Taken through a 4-sided glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 381 images


3Dモデルの動画

2 感想

・この土器の観察記録3Dモデル作成は2回目ですが、今回の3Dモデルは利用写真を増やしたので質の高いモデルとなりました。

・3面からの撮影が可能であり、残る1面からの撮影は出来ない環境ですが、写真枚数が多いため満遍なく結像できました。


381カメラの配置状況

・この顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)と顔面把手付大深鉢(伊那市月見松遺跡)や顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)との比較を次の記事で行います。顔面付釣手形土器と顔面把手付深鉢形土器の間には、土器基本機能の違いにもかかわらず、利用上(祭祀上)の意義に関して強い共通性があるように考えます。

2019年12月8日日曜日

顔面付釣手形土器(伊那市富県御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル

縄文土器学習 280

顔面付釣手形土器(伊那市富県御殿場遺跡)の観察記録3Dモデルを作ることができました。この土器こそ3Dモデル作成の意義が大です。この土器の現物を観察したことのない人にその立体形状を伝えることができる有力な資料となります。
4面ガラス張りショーケースに入っていて、ガラス面反射光のためこれまで満足な3Dモデルができなかった対象物です。しかし、3DF Zephyr Liteのマスカレード機能を利用したところ満足のいく3Dモデルを作ることができました。自分の縄文土器学習における技術的画期を通過することができました。

顔面付釣手形土器(伊那市富県御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル
撮影場所:伊那市創造館
撮影月日:2019.09.12
4面ガラス張りショーケース越しに撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 55 images(Masquerade機能利用)

撮影写真例 1

撮影写真例 2

Masquerade機能の設定作業状況
対象物だけ範囲指定し、それ以外空間の3D作成計算は一切行わないため、ガラス面反射の影響排除が強力にできます。55枚写真についての作業が必要となります。

参考 カメラ配置

感想
この土器の考察は次のブログ記事を参照してください。
ブログ花見川流域を歩く2019.03.20記事「顔面付釣手形土器の発掘調査報告書を読む
2019.03.24記事「顔面付釣手形土器と吉田敦彦「縄文の神話」

天井から吊るされた産婦が行う座産において、介助者(産婆?夫?)の両手10本の指が産道を拡げている様子と出産直後の産婦のほほえみが苦痛と幸福感の対照を表現しています。
釣手型土器の機能として産道が焼かれる仕組みになっていて、この土器観察の様子を 神話学者吉田敦彦は「日本の神話イザナミは火の神カグツチを生み出し、その火によって陰部を焼かれ致命傷を負った。イザナミはその前後に国土の島と金属・粘土・水・穀物などの神を生んだ。」ことと思考を関連付けています。

2019年3月24日日曜日

顔面付釣手形土器と吉田敦彦「縄文の神話」

縄文土器学習 74 顔面付釣手形土器 5

1 吉田敦彦著「縄文の神話」と顔面付釣手形土器
なかば朦朧としながらWEB世界をさまよっていると、顔面付釣手形土器の記述に突き当たりました。それを手繰っていくと、吉田敦彦著「縄文の神話」にたどりつきました。
早速古書店から吉田敦彦著「縄文の神話」を取り寄せました。

吉田敦彦著「縄文の神話」
青土社 1987

長野県伊那市御殿場遺跡出土の顔面付釣手形土器に投影して著者の「縄文の神話」論主要部分が開陳されています。

顔面付釣手形土器に投影して著者「縄文の神話」論主部が記述されているページ

著者の論を超要約すると次のようになります。
・この土器は腹が大きく膨れた女体であり、女神像であるように見える。
・胎内に子の燃える火神を宿し、その火に身体を焼かれる母神と想像する。
・日本の神話イザナミは火の神カグツチを生み出し、その火によって陰部を焼かれ致命傷を負った。イザナミはその前後に国土の島と金属・粘土・水・穀物などの神を生んだ。
・イザナミと似た女神神話はメラネシアやポリネシアから南アメリカにかけて分布している。
・日本の神話はアメリカ大陸原住民の神話と著しい類似が見られ、このタイプの神話が日本に流入した時期がきわめて古いことを示唆する。
・身体から火や食物を出すために犠牲となる女神信仰が、わが国では5500年くらい前に始まる縄文中期まで遡ると想定できる。
・当時の人々は土偶・顔面把手付土器・釣手土器によってこの母神を表し、それを使った儀礼により女神の恩恵と犠牲をさまざまな形で表現していたと想像できる。

顔面付釣手形土器の存在を主要な根拠の一つとして、かつグローバルな神話分布にもとづき、イザナミ神話が縄文中期にさかのぼることを述べています。
まことに雄大で魅力的な大仮説です。

2 感想
・「縄文の神話」著者は考古学者ではなく神話学者ですが、顔面付釣手形土器を出産や女陰と関連付けてみていることは自分の観察と通じますので、自分にとっては心強く感じます。
・自分の観察では顔面付釣手形土器には妊婦の具体的出産ノウハウ(紐にぶら下がって出産する方法や介助の様子など)が描かれていると考えられ、妻の安産祈願が主目的の造形物であると考えました。
・顔面付釣手形土器による安産祈願とイザナミ神話(の祖形)が通底していて、出産(安産)祈願と母神信仰が一体であったと考えることも可能であると考えます。そのように考えるとこの土器の意義は誠に大きなものになります。
・吉田敦彦著「縄文の神話」を知ったことにより自分の考古歴史趣味活動の視野奥行が深くなるに違いないと感じます。

2019年3月20日水曜日

顔面付釣手形土器の発掘調査報告書を読む

縄文土器学習 68 顔面付釣手形土器 4

偶然観覧した伊那市創造館所蔵顔面付釣手形土器(国重要文化財、伊那市富県御殿場遺跡出土 縄文中期 4700年前竪穴住居跡)の印象が強かったので、割込みでその学習をしています。
顔面付釣手形土器の子細な観察は終わりましたが、発掘調査報告書における記述を読み学習を深めます。

1 発掘調査報告書の入手
全国遺跡報告総覧」(奈良文化財研究所)で「顔面付釣手形土器」で検索すると発掘調査報告書がすぐに見つかり、pdfをダウンロードできました。全国遺跡報告総覧の抜群の威力に感心します。このサイトに掲載されている長野県の発掘調査報告書数は2673に及びます。

顔面付釣手形土器出土に関わる発掘調査報告書の検索画面
伊那市教育委員会 1967 『「伊那路」第11巻1号 別刷り:御殿場遺跡緊急発掘調査慨報』伊那市教育委員会

発掘調査報告書掲載の出土状況写真

なお発掘調査報告書ではこの土器を「人面付香炉形土器」と呼んでいます。

2 発掘調査報告書における人面付香炉形土器の記述(要点)

人面付香炉形土器の記述(御殿場遺跡緊急発掘調査慨報)
1 顔面ははるかかなたから幸あれと呼び掛けていて、勝坂式最末期の特徴。
2 正面は煤煙で黒色化、背面は黒色化なし。火焔崇拝という呪術性とかかわる造形。釣手土器の照明用とは異なり、外部一面から焔をかけられた。
3 正面窓を支える掌(同時に紐を通す実用的用途)。
4 背後には蛇身装飾。
5 内部はわずかに煤煙付着。  
6 正面は平板柔和で神聖感満る。背面は立体的、粗剛怪奇で呪術感満る。正面中心の崇拝。
7 勝坂終末期につくられ、加曽利E初頭期に伝世された可能性。
8 呪術的要素のない竪穴住居から出土している。
9 同じ場所から出土した木炭のC14年代測定結果は4160年±100年。

詳しい専門的分析はとても参考になります。
勝坂式土器と加曽利E式土器が登場し最近の加曽利E式土器学習との関わりが生れ、興味が深まります。
特に正面が火焔を受けていて、背面はそれがないというこの土器の使われ方の指摘はこの土器の意義を考える上で重要であると考えました。

ただし、私が思考した出産女性、安産、出産介助行為、産道、吊るし紐といった概念はまったく登場しません。

3 考察
顔面付釣手形土器の意義に関する私の思考はこれまでに次の2点の図にまとめています。

顔面付釣手形土器の解釈(作業仮説)

安産直後を描写した顔面付釣手形土器

発掘調査報告書記述から、上記の私の思考(作業仮説)主要点について変更すべきであると指摘されるような情報を汲み取ることはできませんでした。

素人の私からみて、52年前とはいえ、この土器造形から出産女性、安産、出産介助行為、産道、吊るし紐といったイメージが湧き出さない発掘専門家の思考営為が信じられません。

あるいは、私の現在の思考営為が極端に異端であり、それを本人が気が付かないだけかもしれません。

2019年3月18日月曜日

安産直後を描写した顔面付釣手形土器

縄文土器学習 67 顔面付釣手形土器 3

伊那市創造館所蔵顔面付釣手形土器(国重要文化財、伊那市富県御殿場遺跡出土 縄文中期 4700年前竪穴住居跡)の学習をしています。
顔面付釣手形土器の写真をさらに子細に観察した結果をまとめました。

1 顔面付釣手形土器の3Dモデル
展示館における顔面付釣手形土器ショーケースは3方から写真撮影可能であり、36枚の写真を撮りました。

36枚の写真 一部

36枚の写真(トリミング) 一部

大いに期待して3DF Zephyr liteにより3Dモデル化作業しましたが、見事に失敗しました。満足のゆくモデルが作成できませんでした。
ガラスケースの反射が大きな障害となっているようです。ガラスケースに入った土器の3Dモデル作成はガラス面反射がほとんど無いたまたまの条件の時以外は無理のようです。

ただ、36枚の写真を観察すると、数枚程度の写真を観察する場合と較べて比較にならないほどの有益情報を汲みだすことができます。
結果として3Dモデルが出来なくとも、3Dモデル作成用の写真撮影はとてもよい学習習慣になると考えます。

2 顔面付釣手形土器が描写する出産直後の様子

安産直後を描写した顔面付釣手形土器
住居の上から紐で妊婦を吊るして、重力を利用して出産した直後の様子がこの土器に表現されています。
aは天井に紐を掛ける道具であり、それが妊婦の尻付近にあるのですから、掛け具はもう天井に架かっていません。
bはメインの紐です。この紐が妊婦の体重を支えていました。既にこの紐に力はかかっていませんから、縮んでいて妊婦の背中あたりにあります。
cは脇下紐とメイン紐を繋ぐ紐縛り具です。単なる紐の結び目ではなく、妊婦の背中付近で安全に紐を繋ぐ道具が存在していたと考えられます。
dは脇下紐(背中)です。
eは足紐です。足を持ち上げ開いた状態にする機能があったと考えます。青点線で示したように、この紐はa掛け具とd脇下紐(背中)に結ばれています。足(空洞部分)の下でこの紐が飛び出している部分があります。これは紐が足のももに喰い込まないような添え具の存在を表現してるものと想像します。
fは脇下紐(胸)です。土器は出産直後の様子を表現していますから、この脇下紐がだらりと垂れ下がっています。

3 感想
・出産直後つまり安産直後様子を示していますから、顔面は出産女性が喜びのため息をついている様子であると考えます。出産中の苦しみを表現していると考えたことは間違いでした。
・安産直後の女性の喜びのため息と弛緩した吊るし紐が、命誕生の喜び(安産)を表現しています。
・まさにこの土器は安産のイコン(アイコン)です。安産祈願祭具です。
・この土器は縄文中期出産に関わる道具や方法を示している貴重な資料であると考えます。
・縄文人の最大の関心事は生命の誕生、人の死、食料確保の3点であるような気がしてきました。祭祀と呼べるものは恐らくこの3点に収れんするのではないかと空想します。

2019年3月17日日曜日

顔面付釣手形土器の解釈

縄文土器学習 66 顔面付釣手形土器 2

伊那市創造館所蔵顔面付釣手形土器(国重要文化財、伊那市富県御殿場遺跡出土 縄文中期 4700年前竪穴住居跡)の学習をしています。
顔面付釣手形土器の写真を多数眺めているうちに徐々にこの土器の特徴がわかり、「実感」が湧いてきました。その「実感」を作業仮説としてまとめておきます。

1 顔面付釣手形土器の特徴

顔面付釣手形土器の特徴

1 顔面が正面であると考えられる。
2 顔面は女性を想起させる。耳飾りがある。背後は頭で結髪している模様と考えられる。
3 顔面下に谷状模様をはさんで大きな穴のあるかすかに内湾した平面がある。
4 平面の両側には5つのくぼみがあり、背後から平面に伸びる5つの指状アーチと対応している。
5 指状アーチが指であり、くぼみが爪であるとすれば、両手がこの平面をつかんでいるように見える。  
6 平面には穴の回りをめぐる沈線が描かれている。
7 背後には2つの小穴が開き、その周りを隆帯が巡る。
8 背後中央部上下に太い紐が折り重なっている。
9 背後中央部上に欠けている内湾部分が付いている。背中背後に何かを背負っているように見える。

2 顔面付釣手形土器の解釈(作業仮説)

顔面付釣手形土器の解釈(作業仮説)

1 顔面は出産時の苦しむ妊婦の顔である。
2 正面の大きな穴は産道である。穴をめぐる沈線は女性器外陰部を描写している。
3 外陰部を両側から出産介助者が両手で広げている様子が描写されている。
4 背後2つの小穴は妊婦の足を表現していて、紐で足を広げている様子が描写されている。
5 小穴には草木の束などを差し込んでリアルな足(もも)を表現していたかもしれない。  
6 背後の折り重なる紐は、幾重にも束ねた紐を表現している。
7 背後欠けた内湾部分は妊婦の足や体につけた紐をまとめて縛った瘤を表現している。
8 この土器は、妊婦を紐でつるし重力を利用する出産場面で、介助者が両手で産道を開いている場面も表現している。妊婦の両手はつるし紐を握っていると想像できる。
9 この土器は安産のイコン(アイコン)である。安産祈願祭具である。

3 感想
・自分が予期していなかった方向に思考が進みわれながら驚いています。
・展示館展示パネル以外の専門的知識所持がゼロですから、今後この土器に関する既存知識を吸収することにします。
・この土器に関する知識が増えた時、この記事作業仮説がたとえトンチンカンなものであったとしても、このような思考をした体験は学習上血肉になると考えます。

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追記 2019.03.18
顔面を「出産に苦しむ妊婦の顔」と書きましたが、もだえ苦しんでいる様子ではなく安らかに出産の瞬間を食いしばっていて、声を出している様子が読み取れます。出産瞬間の理想的な妊婦の顔を表現しているのだと思います。
追記 2019.03.20
2019.03.18記事「安産直後を描写した顔面付釣手形土器」に書いた通り、顔面は「出産女性が喜びのため息をついている様子である」と考えます。出産中の苦しみを表現していると考えたことは間違いでした。

2019年3月16日土曜日

顔面付釣手形土器の観覧

縄文土器学習 65 顔面付釣手形土器 1

偶然のラッキーチャンスが生まれ、伊那市創造館で顔面付釣手形土器(国重要文化財)を観覧しました。
土器学習に意識が向かっていると土器に関する偶然が増えます。

顔面付釣手形土器
伊那市富県の御殿場遺跡から出土 縄文中期 4700年前の竪穴住居跡。

顔面付釣手形土器
ひもを通す小型のアーチが左右5個ずつつけられています。
小型のアーチが縄文人の手の太い指のように感じました。

顔面付釣手形土器
内部で火を灯した灯火具という説が有力で、非日常の祭具と考えられています。

顔面付釣手形土器
背面には複雑な模様が貼り付けられています。欠けていますが凹面のようなものも背負っています。

説明パネル

ガラス張りショーケースに入ったこの土器をじっくり観察しましたが、「実感が湧きません」。
多方向から写真をとりましたので3Dモデルができるかどうか試してみます。
3Dモデルあるいは多数写真を見ながら空想をめぐらし、この土器に関して自分の中になにかしらの「実感」を湧かせたいと思います。その実感がトンチンカンなものでも、後日役立つにちがいありません。