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2024年7月16日火曜日

同じ場所で長期に繰り返される儀礼行為

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 10


Ritual acts repeated over a long period of time in the same place


Study 10 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


In “DOGU & SEKIBOU”by Yasuhiro Taniguchi, it is described that the Kasori shell mounds is an object that materializes the social memory of continuing ritual activities. It is important to understand the relationship between the continuation of ritual activities and excavation information (understanding the context). It will be interesting to compare the results of understanding the context of the plateau shell mound (Kasori shell mounds) and the slope shell mound (Ariyoshikita shell mound).


谷口康浩著「土偶と石棒」のなかで、加曽利貝塚が儀礼活動継続の社会的記憶を物象化してものであることが記述されています。儀礼活動継続と発掘情報との関連を把握すること(コンテクストの把握)が大切です。台地上貝塚(加曽利貝塚)と斜面貝塚(有吉北貝塚)のコンテクストの把握結果の比較に興味が湧きます。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(4)記憶と歴史の物象化

・この小節では前半で社会的記憶の物象化が、後半で縄文人の過去遺物に対する想いが述べられています。双方のテーマともにとても重要で興味があります。この記事では社会的記憶の物象化について学習し、次の記事で縄文人の古い物に対する想いを学習します。

・千葉市加曽利貝塚の遺跡形成にかかった時間は「少なくとも中期中葉から晩期中葉まで、およそ2200~2300年間と推定」されるとして、次の指摘をしています。

「貝塚はただの生活廃棄物の堆積ではなく、多くの死者が埋葬された空間でもあり、特別な場所として長い問人々に記憶されていた。長期継続的な遺跡形成からは、そうした社会的記憶を物象化した意味が読み取れる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【考察】

参考 干渉色でみる加曽利貝塚現在地形(3Dモデル)


3Dモデルのテクスチャ画像


加曽利貝塚

「千葉県の歴史 資料編 考古1」(千葉県)から引用・編集

・加曽利貝塚では中期中葉(勝坂・阿玉台式末頃)から北貝塚(環状堤状)の形成がはじまり、後期前葉(堀之内1式期)には南貝塚(馬蹄堤状)の形成が始まっています。最終的には台地面上に8字状の巨大堤状人工景観が現出しました。

・この巨大人工景観は長年の儀礼行為の蓄積で形成されたことは明らかです。著者はこの巨大人工景観から縄文人が自らの記憶(加曽利貝塚で先祖代々儀礼を行ってきた活動)を物象化したという意味を現代人が読み取るべきであると主張しています。

・加曽利貝塚が形成されていた縄文時代にあっては、その人工地形形状だけでなく、貝殻による白さも際立った人工的特徴であったと考えます。

・さらに魚貝類や動物骨等の残滓、あるいは埋葬された人遺体から発する匂い(刺激的異臭)も、その場所の際立った人工的特徴であったと考えます。

・加曽利地域縄文人にあっては、先祖代々続く各種儀礼活動の結果が巨大人工地形、際立った白色世界、鼻をつく異臭世界をもたらしたものであったことは自明であったと考えます。縄文人はそうした環境形成を意識して目指していたと考えます。

・従って、現代人が加曽利貝塚を研究あるいは学習する場合、現代科学で取得できる発掘情報と儀礼活動継続との関連を考察することがきわめて大切です。

・縄文人儀礼活動継続と貝塚発掘特性(遺物出土状況等)との関係を把握することが、すなわち本書の最大キー概念であるコンテクストの把握になると理解します。

【考察2】

・自分は現在有吉北貝塚北斜面貝層の学習を深めています。この貝層はガリー侵食地形を埋める状況で発達しています。加曽利貝塚は台地面上で儀礼継続が巨大人工構造物(8字状堤人工構造物)を形成しました。一方有吉北貝塚北斜面貝層では儀礼継続が巨大ガリー侵食地形埋没を実現しています。

・儀礼活動継続と貝塚発掘特性の関係把握(コンテクストの把握)に関して、加曽利貝塚と有吉北貝塚北斜面貝層で何か違いがあるのかどうか、とても興味が深まります。

・台地面上の儀礼と、斜面の儀礼で何か違いが浮かび上がると、学習が面白くなってきます。

・儀礼そのものに大きな違いはなくとも、儀礼活動の具体には違いを見つけることができると考えます。


有吉北貝塚北斜面貝層のガリー侵食地形と貝層断面図


有吉北貝塚北斜面貝層発掘風景

「千葉県の歴史 資料編 考古1(旧石器・縄文時代)」から引用

【感想】

谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習記事が10回目となりました。とても面白くなってきています。しかし、気が付くとまだ本書の10ページ目付近の学習です。いかに本書が自分にとって有用であり楽しい学習になっているかを物語っています。ページとか学習期間とかは一切気にしないで、とことん本書学習を楽しみ倒したいと思います。著者に感謝です。


2024年7月12日金曜日

儀礼行為と身体との関係

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 9


The relationship between ritual acts and the body


Study 9 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


In the explanation of “Ritual Acts and Context” in “DOGU & SEKIBOU” by Yasuhiro Taniguchi, it is stated that the relationship between ritual acts and the body is an important research perspective. This is a very important point. Inspired by this point, I thought about how to hold the rock slab on display.


谷口康浩著「土偶と石棒」の「儀礼行為とコンテクスト」説明の中で、儀礼行為と身体との関係が重要な研究視角になることが述べられています。とても重要な指摘です。この指摘に触発されて、展示岩版の握り方思考を楽しむことができました。著者に感謝です。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(3)儀礼行為とコンテクスト

「また、儀礼行為と身体との関係も重要な研究視角となる。厳格な形式に則った身ぶりや所作、特定の者だけに許される振る舞い、舞踏や歌謡のような演劇的要素、抜歯や入れ墨のような苦痛を伴った身体加工など、さまざまな形で儀礼は身体や動作と結びっいている。断食や人身供犠も身体を用いた究極の儀礼といえる。

義礼と身体動作が強く結びつくのは、厳格な修練によつて心身を統合してはじめて超越的存在に近づくことができると信じられているからであろう。

身体や身ぶりが社会性・歴史性を帯びていることは、社会学者のM.モースやP.ブルデユが論じたとおりである(モース1976、ブルデュ1988)。儀礼における身体動作には特にそうした性質が凝縮していたことであろう。こうした議論を援用し、特定の身体技法や身ぶりの型を考古資料から復元することが、儀礼研究の一つのアプローチとなる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【本書のこの記述に触発されて楽しんだ思考】

本書のこの記述に触発されて、次の思考を楽しみました。

2024.07.06記事「岩版(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル


岩版を使った祈り(超想像)

なお、この思考は次の情報に立脚しています。

岩版に親指置き場があることから、また、縄文渦巻きについて知識を蓄積していることから、さらに唐堀遺跡から結婚関連シンボル(木柱、耳飾り)が出土していることから、

2024.07.01記事「耳飾り5点(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル

2024.06.30記事「彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル

このように思考を楽しみました。

この思考は本書谷口康浩著「土偶と石棒」を読んでいなければ決して生まれなかったと考えられます。著者に感謝します。

【苦痛を伴った身体変工の存在を疑っている事例】

webや図書からそのような身体変工を確認したことはありませんが、石棒装飾から、縄文後晩期にはペニスに身体変工していたと想像しています。とても苦痛を伴うものだったと考えます。

石棒の先端部に装飾のあるものがかなりあります。


先端部に装飾のある石棒(これまでに作成した3Dモデル画面)

空想ですが、このような身体変工が縄文時代に存在していたのかもしれません。

メキシコのウシュマル遺跡(マヤ文明)ではペニスに身体変工した石像を見たことが(説明を受けたことが)あります。


傷のついたペニスを出した石像(ウシュマル遺跡)


ウシュマル遺跡全景

【苦痛を伴う身体変工の意義】

抜歯、イレズミなどの苦痛を伴う身体変工、断食や人身供犠など身体を用いた究極の儀礼(究極の苦痛)の意義について、人類に備わった本能的心理特性である「幸福否定」(心理療法家笠原敏雄先生提唱)という概念で捉えられるのではないだろうかと以前から思考を深めています。

2021.10.03記事「メモ」ブログ「学習 幸福否定」


2024年6月23日日曜日

「儀礼行為とコンテクスト」の学習

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 7


Learning about “Ritual Actions and Contexts”


Study 7 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


I am deepening my understanding of the term “context” in “DOGU & SEKIBOU” which is the central concept of Yasuhiro Taniguchi's book. Context is explained as the physical circumstances of a ritual act. However, to understand a ritual act from its physical circumstances, advanced knowledge of rituals and interpretations (hypotheses) are required.


谷口康浩著「土偶と石棒」の中心概念ともいえる「行為とコンテクスト」の用語コンテクストの理解を深めています。コンテクストとは儀礼行為の物的状況と説明されています。しかし、物的状況から儀礼行為を喝破するには高度な儀礼知識と解釈(仮説)が必要です。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(3)儀礼行為とコンテクスト

・この小節では儀礼考古学の4つの方法の中で著者が最も重視する「モノ・行為・コンテクストによる方法」のうち「行為とコンテクスト」について説明しています。

・著者は儀礼行為の再現性・反復性は考古学研究の重要な手がかりになるとして、石棒と石皿を対にした性交穏喩表現の儀礼行為などのパターンや形式を捉えて、同一石棒文化を共有する社会・集団を識別して、その時間的・空間的広がりを明らかにできると述べています。

「遺構・遺物に形跡をとどめる行為的側面についても、研究手続きを検討する方法論の深化が必要である。儀礼祭祀の一般的特徴として、形式を整えておこなう反復性と再現性をもった行為や所作がある。儀礼行為の再現性・反復性は、考古学研究においても重要な手がかりとなる。

再び石棒を例にいうと、石棒に残る人為的痕跡の観察、ならびに遺跡での出土状況やコンテクストの検討から、多くの事例に共通する現象上のパターンを抽出することができる(谷口2012b・2015)。石棒と石皿を対にして用いる性交の隠喩表現とみられる儀礼行為や、住居内で石棒を火にかけ破砕する行為などが確認されている。石棒が最終的に放棄されるまでの行為の流れや遺跡形成過程を検討し、儀礼行為のパターンや形式を捉えることにより、同一の石棒文化と儀礼祭祀を共有する社会・集団を識別し、時間的・空間的な広がりを明らかにすることが可能である。行為に着目したこうした研究手続きは、石棒の研究にかぎらず儀礼祭祀の考古学の基本的な研究法となり得る。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・次いで、著者は「「コンテクスト」とは、遺跡の中に残された儀礼行為の物的状況を指すが、それはある儀礼の場面が瞬間的に埋没した状況を必ずしも意味しない。」として、「コンテクストの解釈よりも前に、まずタフォノミーの研究をおこなう必要がある。」と述べて、タフォノミー研究の重要性に触れています。タフォノミー研究は、自分が現在作業している有吉北貝塚北斜面貝層の遺物3D分布見える化にも大いに関連するので、改めて検討することにします。

・さらに著者は儀礼行為と身体との関係も重要な研究視角になると述べて、その重要性と、それが儀礼研究の一つのアプローチになることを述べています。儀礼行為と身体との関係はイレズミなどの学習を過去に行ったことがあり、とても興味があるので、改めて検討することにします。

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【用語「コンテクスト」に関する感想】

1 用語「コンテクスト」が使われる異なる文脈

・この小節では「「コンテクスト」とは、遺跡の中に残された儀礼行為の物的状況を指す」と定義されています。また「遺跡での出土状況やコンテクストの検討から、多くの事例に共通する現象上のパターンを抽出することができる」ともかかれています。コンテクストという方法概念(ツール)を使えば現象研究が進むという文脈のようの感じます。

・一方、8ページでは研究手順として、コンテクスト解釈が目的のように書かれています。

「本書でもっとも重視するのはこのうちエ)の方法である。宗教や信仰には、意識的側面・行為的側面・物質的側面がある。先史時代の人々の意識的側面を考古資料から直接復元することは困難だが、考古資料の分析から行為的側面と物質的側面を把握することは可能である。

①多くの事例に共通する現象上のパターンから、

②儀礼的行為の型と認定できるものを捉え、

③その行為の背景にあつた観念形態を読み取り、

④遺跡に残されたコンテクストを解釈していく、

という研究手順が、筆者の基本的な接近法である。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・この二つのコンテクスト用語法が異なるように感じます。

・「コンテクスト」という用語(概念)が指す対象に、通常能力で扱えるものから、解釈能力(仮説設定能力)が必要なものまで、階層性があるのかもしれません。学習をさらに進めることにします。

2 コンテクスト解釈の困難さと魅力

・本書55ページには「コンテクスト」のより詳しい定義がかかれています。

「「コンテクスト」とは一般に出土状況を指すが、それは遺物・遺構の表面的な分布ではなく、遺跡に残るモノ・行為・空間の関係であり、ある行為の状況をとどめる資料群全体の機能的関係・脈絡として理解すべきである。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・石棒の形態的分析だけでは大いに限界があり、儀礼行為を知るためには「コンテクスト」検討が必須であるという著者の言い分はよく理解でき、大切です。

・「ある行為の状況をとどめる資料群全体の機能的関係・脈絡として理解する」とさらりと書かれた活動は、物的状況から儀礼行為を喝破するという活動であり、それには高度な儀礼知識と解釈(仮説)が必要です。とても困難な活動であり、それだけに魅力的活動であるのだと思います。


石棒展示(千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」2020.10)

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