大枚7000円で購入した吉田東伍「大日本地名辞書 坂東」と「角川日本地名大辞典 12千葉県」が昨日到着しました。両方とも使われた形跡がない本で、図書館で利用できるであろう本よりよほど新鮮美麗でした。最近のブックオフなどの若者向け古書店が、内容(情報)ではなく、汚れなどの物的条件で値付けするようになってから、少しでも日焼けしているような本は格安になります。書き込みがあるのを承知でWEB購入申込したら、書店から申し訳ないから無料にしますといわれたことすらあります。今回購入した角川の本は箱にかぶさるカバーだけが日焼けしていたのですが、それで格安となったようです。
吉田東伍「大日本地名辞書 坂東」は明治40年冨山房版の縮刷影印本(昭和49年発行)です。
この本に花見川が出ていました。
「元は犢橋村柏井の邊に発する野水の末なるが、近世印旛沼堀割の土功を起こしし時、印旛郡平戸川の低谷より、此川筋へ達する水路を疎開したり。故に其水路は成就せざりしも、横戸に於て一堰を造りて、之に水を貯へ、夏時には之を花見川へも灌くこととなりぬ、横戸堰より検見川村の海濱まで凡二里。」
語源に関わる情報はなく、工事の歴史に関する情報がでていました。こうした記述が後の角川と平凡社の地名辞典の出発点になっていることを確認しました。花見川の語源検討は空白地帯になっている可能性を感じました。
なお、この辞書には花見川流域にかかわる地名としてざっと見ただけで、次の項目が説明されています。
六方野、検見川、花見川、犢橋、柏井(花島)、横戸(印旛沼古堀)、大和田(萱田)、高津、習志野原、三山、(薬円台)、馬加〔マクハリ〕、武石
詳細は省きますが、これらの地名の説明内容には強烈に興味をそそられるものが幾つもあります。趣味の散歩の質を高めるためにこれらの情報を吟味したいと思っています。折に触れこのブログで紹介したいと思います。
「角川日本地名大辞典 12千葉県」は昭和59年発行となっています。花見川の記述は「正式名称は印旛沼放水路という。印旛沼周辺の洪水防止を目的として整備された人工河川。」で始まり、工事の歴史が書いてあります。平凡社地名辞典と同じような記述です。この辞典はアイウエオ順になっているので、他の地名の記述はまだみていませんが、たまたま見た検見川の項目では花見川に関わる記述もあり、役立つ情報源になりそうです。
さて、花見川の語源の話に戻ります。
前の記事で私はハナミのハナは先端の意味だと解釈しました。なぜこのように考えたか、その出所を考えると、柳田國男の「地名の研究」(昭和10年)から情報を拝借していることはすぐに思い出しました。そこで、この本を再度見てみました。そうしたところ、ますます自分が考えた語源解釈が柳田國男の説で説明できる確信を深めました。
柳田の「花」、「鼻」に関する説を一部抜書きしてみます。
「ハナはすなわち塙(はなわ)であって、民居の後ろにのぞんだ高地なるゆえに・・・」
「ハナグリのハナはたぶん突出の意味であろう・・・」
「『落葉集』巻一に、「ハナ山、山の差出たる処を謂ふ、塙に同じ。ハナワ、塙と書けり、山の差出たる処也」とあるのは、あるいは『奥儀抄』によったのかも知れぬが、現今常陸稲敷地方で、高い地所をハナワというのは事実である(茨城県方言集覧)。所によっては花輪と書き、または半縄と書くのも多い。あるいは猪鼻または竹鼻などもあって・・・」
「このハナワなどはアイヌ語だといっても、たいてい誤りはあるまい。アイヌ語のPana-waはPena-waに対する語で、ワは「より」、パナは下、ペナは上である。パナワとはすなわち「下から」という意味である。日当たりがよく、遠見がきいて、水害を避けつつ水流水田を手近に利用しうる地勢だから、人が居住に便としたに相違ない。猪鼻台などのイは、すなわちイナカのイであって、民居ある高地と解せられ得る。」
この柳田の説明から、花見川、花島だけでなく、花見川にかかる亥鼻橋の亥鼻も同源であることが分かります。近くの船橋の花輪(花輪インターチェンジなど)も同源です。
これだけ柳田國男がはっきりと説を唱えているのですから、花見川の語源説明が一般市民が目にする図書や資料に出ていておかしくありません。しかし、私は相当調べたのですが、いままで花見川の語源についての説明をみたことはありません。不思議です。
なお、定本柳田國男集全41巻の総索引をみたところ、花見川、花島など花見川流域に関わる地名は全く出てきませんでした。堀割普請なども全くでてきませんでした。柳田國男と花見川流域とは縁が無いようです。
花見川の語源についてはスケッチができたので、次は彩色するような作業をしてみたいと思います。
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