2014年11月5日水曜日

遺跡規模別にみた石器構成

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.2旧石器時代の移動路>3.2.12旧石器時代遺跡と地形 事例検討その6 遺跡規模別にみた石器構成

草刈遺跡東部の後期旧石器時代に関する調査報告書である「千原台ニュータウンⅩ-市原市草刈遺跡(東部地区旧石器時代)-」(平成15年、財団法人千葉県文化財センター)掲載情報を使って、遺物集中地点と地形との関係を分析しています。

この記事では遺物集中地点を規模別に見た時の出土石器種類を検討します。

1 遺物集中地点の規模区分
2014.11.04記事「旧石器時代遺跡と地形 事例検討その5 遺物集中地点の規模区分」の結果をまとめると次の図で表すことができます。

遺物集中地点の規模区分

2 遺物集中地点の出土石器種類
2-1 全遺物集中地点の種類別出土石器数
報告書掲載の全遺物集中地点98箇所の種類別出土石器数を次に示します。

なお、遺物集中地点以外に合計61の単独出土石器があります。
この記事では単独出土石器は扱いません。
別の記事で遺物集中地点出土石器(施設に関わる遺物)と単独出土石器(活動に関わる遺物)の比較を行います。

遺物集中地区における礫の顕著な出土がありますが、礫の分析も別に行います。

全遺物集中地点の出土石器数

剥片が2645で全体の60.1%を占めます。次いで砕片1028(23.3%)、使用痕ある剥片175(4.0%)、石核153(3.5%)、ナイフ形石器100(2.3%)、石刃92(2.1%)、加工痕ある剥片71(1.6%)と続きます。
剥片をメインとした出土状況で、出土石器種類の多様性がありません。これは、この遺跡の特殊性であると考えます。
草刈遺跡のある台地は、定住的要素を含む安定した生活を営む場ではなく、狩場以外の何物でもない場所であり、狩のためだけに訪れたグループの臨時生活の跡が遺跡として現代に伝わったものと考えます。

報告書に掲載されている石器スケッチの例を次に示します。

剥片の例

使用痕ある剥片の例

加工痕ある剥片の例

剥片の数が突出し、また使用痕のある剥片、加工痕のある剥片の数も多いことから草刈遺跡では生活の上で使ったメインの石器は剥片であると考えることができます。

生活の中で狩が占める割合がほとんどであったと考えると、剥片は仕留めた獣の大分け解体後の部位ごとの解体に使われるとともに、干し肉作成、骨製品作成、獣皮の原始的なめし作業と製品作成等に使われたと考えます。

剥片、使用痕のある剥片、加工痕のある剥片の大きさは2-4cm程度のものが多く、指先でつまんで裂く、削るなどの場面で利用する道具だと思われます。現代風に考えれば切れ味のよい小型カッターナイフのように使ったのだと思います。

ナイフ形石器の例

草刈遺跡から出土する主な石器のなかでは最も殺傷力があると考えられるのがナイフ形石器です。この石器を棒の先に装着して槍として使い、崖から落として瀕死の状態にある獣に最後のとどめを刺す道具に使ったものと考えます。

ナイフ形石器の大きさが4-5cm程度であり、現代人が考えると小さく感じますが、石材入手の困難さ、石器製作に係る手間、損耗のしやすさ(大型の槍をつくればすぐ折れてしまい、石器作成経済が成り立たない)等からこのサイズが当時の最適条件を満たしていたものと考えます。
この石器で大型草食獣を狩ったのだと思います。

石刃の例
獲物解体作業における大分けなどに使われたと考えます。

砕片が石器作成時に発生したクズであると考えると、それが遺物集中地点にあるということは、その地点で石器作成が行われたことの一つの証拠になると考えます。

2-2 遺物集中地点(規模A)の1地点あたり平均出土石器数
遺物集中地点(規模A)の1地点あたり平均出土石器数は次の通りです。

遺物集中地点(規模A)の1地点あたり平均出土石器数

石器種類を見ると、上位から剥片156.5(58.1%)、砕片85.8(31.9%)、使用痕のある剥片7.2(2.7%)、石核4.8(1.8%)、ナイフ形石器4.4(1.6%)、加工痕ある剥片2.8(1.0%)となります。
規模Aの遺物集中地点では砕片が多量に出土するので、石器作成作業が行われていたと考えます。
狩の時の臨時キャンプがあった場所と考えられます。
男女子どもを含めグループ全員が利用する臨時生活拠点があった場所が遺物集中地区(規模A)に対応すると考えます。

2-3 遺物集中地点(規模B)の1地点あたり平均出土石器数
遺物集中地点(規模B)の1地点あたり平均出土石器数は次の通りです。

遺物集中地点(規模B)の1地点あたり平均出土石器数

石器種類を見ると、上位から剥片34.4(62.2%)、砕片8.9(16.0%)、石核3.5(6.3%)、石刃3.1(5.5%)、使用痕のある剥片1.4(2.6%)、ナイフ形石器1.1(1.9%)、加工痕ある剥片1.1(190%)となります。
規模Aと比べて砕片の出土量が1/10に減じます。これは遺物集中地点の規模が小さくなると、つまり旧石器時代の生活施設が小さくなると石器作成が減り臨時キャンプ的性格から狩現場施設的要素が強まるということです。
規模A~Eの中で石刃の1遺跡あたり出土量が一番多くなっていますが、1つの遺物集中地区で多量に石刃を出土するところがあるためです。

2-4 遺物集中地点(規模C)の1地点あたり平均出土石器数
遺物集中地点(規模C)の1地点あたり平均出土石器数は次の通りです。

遺物集中地点(規模C)の1地点あたり平均出土石器数

石器種類を見ると、上位から剥片16.5(68.6%)、使用痕のある剥片2.1(8.7%)、砕片1.3(5.4%)、石核1.3(5.4%)、加工痕ある剥片0.8(3.5%)、ナイフ形石器0.5(1.9%)となります。
砕片の数が少ないので石器作成はほとんど行われなかった施設に対応する遺物集中地点であると考えます。狩が終わった後の解体-肉・骨・皮製品作成に関わる石器である剥片がメインであり、その石器を手にしていた人が利用した現場施設に対応する地点です。

2-5 遺物集中地点(規模D)の1地点あたり平均出土石器数
遺物集中地点(規模D)の1地点あたり平均出土石器数は次の通りです。

遺物集中地点(規模D)の1地点あたり平均出土石器数

石器種類を見ると、上位から剥片16.5(68.6%)、使用痕のある剥片2.1(8.7%)、砕片1.3(5.4%)、石核1.3(5.4%)、加工痕ある剥片0.8(3.5%)、ナイフ形石器0.5(1.9%)となります。
砕片の数が少ないので石器作成はほとんど行われなかった施設に対応する遺物集中地点であると考えます。狩が終わった後の解体-肉・骨・皮製品作成に関わる石器である剥片がメインであり、その石器を手にしていた人が利用した現場施設に対応する地点です

2-5 遺物集中地点(規模E)の1地点あたり平均出土石器数
遺物集中地点(規模E)の1地点あたり平均出土石器数は次の通りです。

遺物集中地点(規模E)の1地点あたり平均出土石器数

石器種類を見ると、上位から剥片3.3(67.1%)、使用痕のある剥片0.5(10.6%)、石核0.3(5.8%)、ナイフ形石器0.3(5.3%)となります。
砕片が出土しないので石器作成が行われなかった施設に対応する遺物集中地点であると考えます。狩が終わった後の解体-肉・骨・皮製品作成に関わる石器である剥片がメインであり、その石器を手にしていた人が利用した現場施設に対応する地点です

遺物集中地点の規模が小さくなるに従って、砕片の出土量が減ることがわかり、石器作成作業が行われたのは規模の大きい遺物集中地点であることがわかりました。

また、剥片の出土量が多く、殺傷力のある石器の出土量が少ないことから、草刈遺跡では獲物を獲得するために使う石器より獲得した獲物を解体して製品にするまでの工程に使う石器がメインであることがわかりました。

これは、獲物を狩る方法は直接槍で獲物を殺傷する方法ではなく、動物を自滅させる方法が採られていたことを示していると考えられます。動物を追いたてて崖から落とし、そこで最後のとどめを刺していたという仮説を支持する情報となっています。


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