2017年8月18日金曜日

土器を壊すことにより土器を送る 縄文時代西根遺跡と土器塚

土器塚学習に入る前に、西根遺跡で強く仮説している「土器破壊」についてまとめておきます。
西根遺跡も周辺土器塚も土器破壊によって土器を送っていたと考えます。

1 西根遺跡出土土器の割れ方
2017.07.12記事「西根遺跡の土器壊れ方観察」、2017.07.13記事「西根遺跡の土器の壊れ方観察2」で書いたとおり西根遺跡出土土器で観察したものは破片の様子から全て人為的に壊していると結論づけることができます。

観察例

観察例

上記記事では、一部が欠けたりして使えなくなった機能喪失土器(まだバラバラになっていない土器の姿を残している廃用土器)が西根遺跡にもちこまれて、破壊されたと考えて、次のような考察を行いました。

5点の土器は残存度の割りに土器破片が小さく、土器破片に元の姿を想起させるような大判のものがありません。
この壊れ方から、全てほぼ完形に近い土器を人為的に破壊して元の形が思い出せないようにしたものであると考えます。
元の姿に決して戻れないレベルまで壊すことによって、土器送りを行ったものと考えます。
西根遺跡の土器は全てほぼ完形に近い姿で持ち込まれ、祭祀の場で人為的に徹底して壊されたと考えます。
・西根遺跡の土器は残存度の高いものが多いことから、完形に近い姿で持ち込まれたと考えます。
・西根遺跡の土器の壊れ方が進んでいること(細片になっていること)と破片出土状況(破片が散逸していない状況)から自然的要因(流水や地象)による破壊は考える必要がないと考えます。

3つの土器ともに土器の完形姿を残すような大型片はなく、破片の集合から元の形を想起することが困難です。
このように、完形姿に近い土器を出土場所で徹底的に壊した理由は土器が何らかの機能を残して再利用される可能性を完全に排除する意思が働いたからだと考えられます。
土器の残片の中にカーブした部分や輪や凹んだ部分が残れば、モノを入れたり、モノを覆ったりする機能が残ってしまいます。リサイクル品としての機能が残ってしまいます。
それでは土器を完全に送ることができないという心理が働いたのだと思います。
土器を完全に送るため、自分の心と齟齬が生れない丁寧な送りをするために、土器を徹底して壊したのだと考えます。

2 西根遺跡の「土器片大きさと土器密集度の逆相関」
西根遺跡では土器が密集する場所(大型土器が多く、獣骨が分布する祭祀中心地)ほど土器片の大きさが小さくなっています。
2017.06.25記事「西根遺跡に持ち込まれた土器は全て破壊されたか」参照

1m×1mグリッドあたり土器重量と1破片あたり重量

祭祀が熱心に行われた場所ほど土器破壊が熱心だったことがデータとして明らかになりました。

(注 発掘時における土器破壊の可能性
上記データがあまりにもドラスティックなので、発掘現場をしらないため私は重機の影響等の存在を疑い関係者にお伺いしたところ、発掘では重機は使用せず、発掘作業で土器が破壊されたような状況は無いと教えていただきました。)

3 アイヌ「物神の霊送り」と土器破壊の通底性
北原次郎太「アイヌの祭具 イナウの研究」(北海道大学出版会)ではアイヌ儀礼における「物神の霊送り」でつぎのように記述しています。
その他の細々とした道具類も、使用に耐えなくなる、あるいは役割を終えると霊送りを行う。その際、どこかに傷をつけることで、霊魂が抜け出して神界へ戻ることができるという。
アイヌのこのような思考と西根遺跡土器破壊で想定した思考は原始時代に遡る思考という点で通底していると考えます。

4 土器を壊すことにより土器を送る
上記1、2のデータと3の情報から西根遺跡の土器は全て現場で破壊されたものと考えます。
土器塚も同じ状況であると想定して土器塚学習を始めます。

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5 参考 西根遺跡発掘調査報告書における土器破壊記述
西根遺跡発掘調査報告書ではつぎのような記述があります。
「ただし、打ち欠いて廃棄している例が若干みられ、…」

次の2つの理由からこのような控えめな記述になったと考えます。
1 現場発掘担当者、土器復元担当者、報告書執筆担当者が異なることによる
現場発掘担当者、土器復元担当者、報告書執筆担当者が同一人であれば土器が全て人為的に破壊された可能性を感じると思います。
2 流水営力イメージの誤解
報告書執筆担当者が縄文時代後期の戸神川地形環境(海の河口部)についての情報を所持していれば、流水営力による土器破壊や移動は極めて限定されることから、土器の人為的破壊に意識が向いたと考えます。
発掘関係者は現在戸神川の流水を誤ってそのままイメージしてしまうととともに、その流水営力についてもあまりにも過大に想像してしまったのだと考えます。

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